最強への道 その2
最近主人公 カレン のイメージ画像をツイッターで投稿しましたが、白黒で色を塗っていません!!
私、アナログなやり方でしか絵を描けないので……
ちなみにイメージとしては、髪は黒、瞳は黄金色、肌の色は普通に人間と同じです!
とにかく第31話どうぞっ!!
雲一つない青い空、爛々と輝く太陽が、今日も大森海を眩しく照らす。
そんな絵に描いたような天気のいい日、オレたちはどこにいるかというと、勿論暗くジメジメとした森の中だ。ちなみに絶賛戦闘中だったりする。
「ふっ!!」
「クギャッ!!」
刀を鞘から抜き放ち、オレに喰らい付こうとした魔物、餓食獣を斬り上げる。
宙空で斬られた餓食獣は短い悲鳴を上げ、一回転して頭から地面に落ちると、そのままピクリとも動かなくなる。
その直後、刀を振り切って無防備になったオレの背後に別の魔物、鎌爪獣が回り込みむ。後ろからオレをその鎌のような爪で引き裂こうと、巨大な爪を振り上げる。
しかし、横から赤い超高温の炎が鎌爪獣を飲み込み、黒い炭へと変える。
取り敢えずこれで全部倒したな。
炎が飛来した方向に顔を向けると、そこには緋色の鱗に包まれた美しい子竜の姿があった。
「良くやった、エスタロッタ」
緋色の子竜、エスタロッタはふんっ! と鼻を鳴らし、「それほどでも!!」と言わんばかりの態度だ。
このお調子者が!
エスタロッサは生まれて間もないが、その成長速度は眼を見張るものがある。
前日苦戦していた魔物は、次の日になれば難なく倒せるほどだ。
流石は竜王種、末恐ろしいものを感じる。
オレは腰に手を当て、これからの事を言葉に出して整理する。
「あれから一週間、ここでエスタロッサの相手になるやつは数える程。オレの肩慣らしも終わったことだし、そろそろ深層に行くか?」
正直なところまだ不安だ。オレ自身は問題ないが、エスタロッサが気がかりだ。
中層と深層では魔物の強さが桁違いだ。油断すれば一瞬であの世行きとなる。そんな所にこのお調子者を連れて行くのが酷く不安だ。
かといって、深層で経験を積ませるのが一番効率が良いのも事実、生物というのは死に直面した時が一番限界を突破しやすい。やはりここは危険を冒して行くべきだ。もし、危ないと感じたら、すぐに撤収すればいい。
「よし……取り敢えず少し休息をとって、そのあと深層に行くぞ」
「ギャウッ!!」
『うむ』
ん? 紅姫のやつやけにあっさりと了承したな、いつもなら反対するはずだが?
『なんだ、反対しないのか? お前らしくない』
『反対したところで、お前様が儂の言う事を聞くとは思えん。いつもみたく全力で説得に来るのが目に見えとるわい』
『なるほど。まぁ、お前の言う通りだ。反対されたら全力で説得してたよ』
『じゃろうな。じゃがこれだけは言わせて貰うぞお前様よ、エスタロッサに無理をさせてはならんぞ、よいな?』
『分かってるよ』
それから小一時間ほど休息をとったオレたちは、深層域へとむかった。
この大森海の森はとにかく樹々が巨大で、枝の数も膨大、それにつられて葉も凄まじい程密集している。それ故、森の中は薄暗く視界が悪い。
そんな大森海の中でも深層域以降は更に暗く、正直視界が悪いレベルではない、光源はほぼ無いに等しい。
しかし、そんな事はオレやエスタロッサには関係なく、気にする必要もない。
オレとエスタロッサは種族特性で[夜目]というものがある。これは、真っ暗な所でも昼間のように物がはっきりと見える、言わば夜行性の目である。それに〈魔力感知〉や〈熱感知〉があるので魔物の位置は容易に特定できる。
そんな深層に入り、歩きつづける事数分。ようやく〈魔力感知〉で魔物を捕捉する。
『お前様よ、ここから五十メートル先に四体、三百メートル程先に一体じゃ』
『分かった』
オレとエスタロッサは取り敢えず、四体いる魔物の方へと向かった。
魔物に近づくとオレとエスタロッサは腰を低くし、茂みから様子を伺う。
「あれは、炎吹狼か?」
『うむ、確かお前様が一番最初に戦った魔物じゃったのう』
そうだ、この世界で目覚めて最初に戦った魔物が炎吹狼だ。あの時は武器なんてものが無かったから、木の棒で作った槍で戦ったっけ。今思えばあり得ないな、無謀を通り越してただの気違いだ。
「まぁ、とにかく狩るか」
オレが立ち上がろうと脚に力を入れた直後、炎吹狼の耳がピクピクと動き、四体同時に首を動かして、此方に顔を向けた。
「「?!」」
『……』
炎吹狼たちはオレとエスタロッサを発見するやいなや、口を大きく開き、爛々と光る火球を一斉に撃ち放った。
そんな光景にオレは小さく呟く。
「容赦ねぇ……」
ドゴォォォォン!!
火球は吸い寄せられるかのようにオレとエスタロッサに直撃し、爆発を起こす。
直撃した周囲の植物は赤い炎で燃え盛り、森に光が灯る。黒く焦げた木々は黒煙を撒き散らし、遥か上空へと昇る。
しかし、そんな中、炎吹狼たちは、まるで何事も無かったかのように悠然と佇む影を見つける。
言わなくても分かると思うが、勿論オレとエスタロッサだ。
「残念、オレにはお前らの攻撃は効かなねぇよ!」
「グルルルッ!」
火吹狼たちは怯んだように後ろへと下がり、威嚇のための唸り声を上げる。
「「「「ガルルルッ!」」」」
「まだ、戦意は残ってるのか、なら……」
オレは一瞬だけ特殊能力【威圧】を発動。炎吹狼たちは目の前にいる敵が自分たちでは到底かなわない化け物だと気付き、一目散に逃げていった。
「キャンッ!」
「クウゥン!」
「キャウンッ!」
「キャンッ!!」
炎吹狼たちが逃げ去ったのを見送ったオレは、満足そうに笑顔を浮かべる。
「この特殊能力も少しずつコントロール出来るようになってきたな、最初は使えないと思っていたが、なかなかどうして、役に立つ!」
最近ではよく使うようになった特殊能力【威圧】。最初こそ頭の中で、「発動」と唱えなければその効果を発揮できなかったが。今では息をするように発動できる。
『うむ、このまま行けば半年程で完璧にコントロール出来るようになるじゃろうな。まったくお前様の成長速度は異常じゃわい。くふふふ!』
「エスタロッサも大概だと思うがな……それにしても、新しい特殊能力もえげつないな。これに関して言えば強力すぎだ」
先程、炎吹狼たちの火球の直撃を受けたオレが無傷だったのはなにも〈魔力障壁〉を張ったからではない。
炎吹狼の火球を防いだのは魔法ではなく新たに発現した特殊能力の力だ。
特殊能力【下位魔力無効】、この特殊能力は、自身の魔力値の四十パーセント以下の魔力攻撃の一切を無効化するというもの。
ちなみにもう一つ特殊能力が発現している。
特殊能力【下位物理無効】、この特殊能力は先程説明した【下位魔力無効】の物理攻撃バージョンで効果条件は同じだ。
この二つの特殊能力は強力だ。しかし、この特殊能力はあまり使えないだろう。というのも、この特殊能力で防げるのは自身の魔力値の四十パーセント以下、この大森海の魔物の魔力値はオレの魔力値の四十パーセントを超えるものが殆どだ。故にこの大森海においてこの特殊能力はあまり使えないのだ。
それにこの二つの特殊能力は、ある意味では成長の妨げになる。説明は割愛。
まぁ、そんなこんなでオレの特殊能力がこれで五つになった。紅姫がオレのことを異常というのも納得できる。ラギウスも驚いて目ん玉ひん剥いていたからな、思い出すと笑えてくる。
「さて、そろそろ次の……」
オレが次の魔物の所へ向かおうとしたその瞬間、凄まじい速度で接近する気配を感知する。
『お前様』
「ああ、お出ましだ」
その直後、前方に重さを感じさせない軽やかな着地をする魔物が現れる。
「シュロロロロッ!」
漆黒の鎧に身を包んだ、神速の皇。
「神速黒皇」
『お前様、あの神速黒皇は今迄のやつとは別格じゃぞ!!』
「分かってる! エスタロッサ、お前は下がってろ!」
「ギャンッ!」
エスタロッサは勢いよく頷くと一目散に後ろへと退がって行った。
エスタロッサが後ろへ退がるのを確認したオレは、視線を前に戻して臨戦態勢に入ると、特殊能力【再生】と【紅姫】を発動する。
神速黒皇相手に出し惜しみしていると文字通り一瞬であの世行きだ。ここは特殊能力をフル活用する。
『お前様、あやつの魔力量はお前様より上じゃ! 油断するでないぞ!』
『ああ、舐めるつもりなんぞ、一欠片もねぇよ!』
そう言って刀の柄に手を添える。
すると神速黒皇も反応して構えを取る。
「っ?!」
(コイツ?!)
今迄何度か神速黒皇と戦ってきたが、ちゃんとした構えを取ったのはこの個体が初めてだ。
強い。
間違いなくこの神速黒皇は強い。
緊張が走り、頬を汗が伝う。
「ふぅ……」
「シュロロロロッ……」
頬を伝った汗が雫となり、そして
ピチョンッ
両者、ほぼ同時に駆け出す。
オレは脚に溜めていた魔力を解放して、地面を一気に蹴る。その直後、蹴った地面はまるで爆発したかのように抉れ、弾け飛ぶ。
一方神速黒皇は音も無く静かに突貫する。ただし超高速で。
神速黒皇が接近すると同時に、オレは刀を鞘から抜き放つ。
神速黒皇もまた、オレが接近すると同時に、手から肘にかけて付いた淡い緑色の刃を振り切る。
「ふっ!!」
「ギシャァァァンッ!!」
ガギンッ!!
刀と緑刃がぶつかり合い、火花を散らす。
神速の皇と悪魔の、凄絶な戦いの幕が、切って落とされた。
刀を正面から受け止められたオレは、押し切ろうと脚に力を入れる。その直後、神速黒皇はふっと力を抜いてオレをいなし、ガラ空きになった顔面に強烈な回し蹴りを放り込む。
「うおっ!!」
空気を押し除けて迫りくる黒脚に対し、オレは咄嗟に〈魔力硬化〉を発動する。
神速黒皇の蹴りは、吸い込まれるようにオレの顔面に直撃する。
「がっ!!!」
強烈な蹴りを受け、体が宙に浮き、宙空で体が回転する。そして、回転に伴い、頭が下に来たのを見計らうと、神速黒皇は緑刃をオレの頭めがけて突き放つ。
緑刃が頭を貫こうとした瞬間、オレは宙空で体を捻り、間一髪のところで緑刃を躱す。
暗い暗黒の中にあっても、淡い光を放つ緑刃が頬を掠め、頭を横切ると、オレは宙空で逆さ状態のまま、刀を神速黒皇の首目掛けて横に一閃。
「せりゃっ!!」
「シュロッ!!」
しかし、刀は神速黒皇を捉えることなく空を切る。
危険を察知した神速黒皇は、刀が首に当たる直前に高速で後ろへ後退したのだ。
オレは地面に着地すると、油断無く刀を構える。
ここまでゼロコンマ数秒の戦いの中、速すぎる神速黒皇の動きに、オレは舌打ちする。
「ちっ! 相変わらず厄介なスピードだ!」
今回も初撃を貰ってしまった。あの蹴りは〈魔力硬化〉を発動したにも関わらずかなり効いた。
見事に顎を撃ち抜き、脳を揺らされ、一瞬意識が飛んでいた。
もし〈魔力硬化〉をしていなければ、オレの頭は弾け飛んでいただろう。それほど強烈な一撃だった。
しかもこの神速黒皇、従来の神速黒皇と違い、的確に急所だけを狙ってくる。
今迄の神速黒皇はただ攻撃をするだけだったが、この個体は違う。
先程の回し蹴りも、ただオレの顔を蹴るのではなく、的確に急所である顎を撃ち抜いた。それに加え頭への刺突、しかも丁度体の中心を捉えていた。
つまりは、この個体は戦い慣れている。言うなれば歴戦の神速黒皇だ。
オレは口元を吊り上げ、闘志を漲らせる。
「こいつは良いのと巡り会えたな! 勉強になる!」
オレは刀の切っ先を相手に向けた状態で、頭の高さに構える。
神速黒皇は片手を地面に付け、身を低くすると、もう片方の手を後ろへ隠す。
「シュロロロロッ!」
神速黒皇は地面を蹴ると、一瞬でオレの背後へ回り込み、首を引き裂こうと鋭い鉤爪を振るう。
オレは瞬時に屈むと、空を切った神速黒皇の腕の、関節目掛けて刀を斬り上げる。
だが、神速黒皇はそれを読んでいたかのように緑刃を盾に刀を滑らせ、上へといなす。
刀をいなされたオレは、すぐさま刀を引き戻すように斬り下ろした。
神速黒皇は振り下ろされた刀を緑刃で受け止める。
「ふっ!!」
「シュロロロロ」
刀と緑刃が激しい剣戟を繰り返し、火花を散らす。
そして剣戟の末、オレは神速黒皇の緑刃を弾き返す。
「でりゃっ!!」
オレは脚に魔力を集中し〈魔力硬化〉を発動。神速黒皇の顔面に飛び膝蹴りを放つ。
しかし、神速黒皇は状態を反らす事でそれを躱すと、逆に宙空で無防備なオレの腹に深々と緑刃を突き刺す。
「っ!!」
「ギシャァァァンッ!!!」
神速黒皇は雄叫びをあげると緑刃を素早く引っこ抜き、片手を地面に付ける。そして、その場で身をよじりオレの頬に蹴りを叩き込む。
「ぐっ!!」
とてつもない衝撃が走り抜け、視界が激しく揺れる。
蹴り飛ばされたオレは激しく地面を転がり、その勢いのまま無理矢理体勢を立て直した。
「ちっ! やっぱ一筋縄じゃいかねぇか!」
緑刃で刺されて出来た傷から血が滲み出る。しかし、特殊能力【再生】の効果で既に塞がりつつあり、あと数秒で血も止まる。
「………」
強い、そして戦いが上手い。
先程、緑刃を弾き飛ばされ隙を作ったのも、おそらくわざとだ。どうやらオレはまんまと隙に引っかかったらしい。
これが技と駆け引き。まさか魔物から教わるとわな。
オレは刀を鞘に戻し、抜刀術の構えを取る。
すると神速黒皇が両腕を交差させる。
その直後、オレは信じられないものを見る。
「っ!! 嘘だろ?!」
神速黒皇の腕に風が集まり、そして纏わりつくように緑刃へと集約される。
「ギシャァァァンッ!!」
神速黒皇からは魔力を使用した反応は見られない。
つまり、それは――
「特殊能力、だと?!」
オレはその光景に戦慄が走り、驚愕に目を見開くのだった。




