最強への道 その1
最近書く時間がなくて、話が進みません。
出来ることなら月に10話は進めたいところです!
さぁ!と言うわけで 第三十話どうぞ!!
ジャバウォック襲撃事件の後、オレとエスタロッサはラギウスの背に乗って、拠点へと戻った。
拠点へと戻ったオレはそれから一週間療養する事になった。
傷は完全に癒えたのだが、今迄蓄積されたダメージや疲労が一気に吹き出し、倒れ込んでしまったのだ。どうやらジャバウォックとの戦いが引き金になったようだ。
まったく、特殊能力というのも万能では無いらしい。
まぁ、そんなこんなで療養してから一週間が過ぎた。オレは現在、拠点近くの湖のほとりで胡座をかきながら魔力コントロールの修行をしている。ちなみに療養中もコレと魔法の修行だけはしていた。
ラギウスと紅姫からは、ダメージや疲労が抜けないから休んでおけと何度も言われたが、どうも何かしていないと落ち着かない。二人には無理を言って鍛錬を続行した。
この一週間の魔法の修行で新たな魔法を覚えた。と言っても会得した魔法は三つだけだが。
まず防御魔法〈魔力硬化〉、コレは体内の魔力を一箇所に集め、その部位に纏わせる事で発動する魔法だ。
効果は、魔力を纏わせた部位が硬化するというもので、コレは使用する魔力量によって強度が変わる。つまりこの魔法は魔力が多ければ多いほど絶大な効果を発揮するというわけだ。
次に会得した魔法は飛行魔法〈天翔〉、コレを会得するのは骨が折れた。なんたってこの魔法は緻密な魔力コントロールが必要だ。魔力の制御が上手くないオレは苦労した。
発動条件は割愛する。説明が面倒な上、難しい。
効果は単純、空を自由自在に飛ぶ事ができる。昨日試しにこの魔法を使ってみたが、なかなか楽しめた。それと、もうラギウスに迎えに来てもらう手間も無くなった。
最後に会得した魔法は回復魔法〈光生〉、コレも発動条件は割愛する。
効果は、回復魔法の名の通り傷を癒す魔法だ。ただ、この魔法で毒や麻痺などの状態異常は治せない。それと、欠損した部位も元に戻せない。
これより上位の魔法であれば、状態異常や欠損した部位を戻すことも出来るが、今のオレではまだ出来そうにない。会得するには時間がかかる。
今更ながらオレの特殊能力【再生】はすごいな、腕が引き千切れようが、腹に大穴が開こうが元に戻っちまうんだからな。
じゃあなんで回復魔法を会得したんだ? 特殊能力【再生】があるから必要ないんじゃないか? て思うかもしれないが。コレを会得したのはオレ自身のためじゃない。どちらかと言うとエスタロッサのためだ。
いくら竜のエスタロッサといえど、相手によっては重症ないしは致命傷を受けることもあるだろう。そうなった時、エスタロッサはオレのように特殊能力【再生】がある訳ではない。つまり自身で治癒が出来ないのだ。だから、オレはこの魔法を会得したのだ。
さて、魔法のことはコレぐらいにしよう。今日はそろそろ鈍った体をほぐす為に森に入る。
紅姫はまだ早いんじゃないかと言っているが、正直オレは限界だ。とにかく体を動かしたい。それに試したいことも色々ある。
オレはゆっくりと目を開けると、小さく息を吐く。
「ふぅ……さて、そろそろ行くか!」
『本当に行くのかお前様? やはり、もう少し体を休めた方が良いのではないかのう』
「いや、これ以上は体が鈍っちまう。ていうかもう鈍ってる。体を動かして勘を取り戻したい」
『む〜! ラギウス殿!』
止めようとしても、断固行くと言って聞かないオレに、紅姫は助けを求めるようにラギウスに声をかける。
オレのすぐ側で寝そべって様子を見ていたラギウスが首を持ち上げる。
ラギウスは数秒間オレを見つめ、口を開いた。
「ダメージや疲労も回復したようだし、問題無いだろう」
『ラギウス殿?!』
「ただし!……分かっているな、カレン?」
オレは腕を組むと、確認をするようにその先を話す。
「むやみやたらに周辺を消し飛ばさない。無理をせず、ダメだと思ったら即撤退する。だろ?」
「うむ、分かっているなら良い」
ラギウスからの了解を得たオレに、紅姫が行かせまいとあれよこれよと言い募るが、それをなんとか説得する。それでも紅姫は『むむ! 仕方ないのう』と納得いかないようだったが。
まったく紅姫は輪をかけて心配性だな。まぁ、あんな事があったんだし仕方ない事だろうがな。
オレは膝に手をつき立ち上がると、顔をラギウスの隣に向ける。そこには尾をブンブンと振って、今や遅しと待機するエスタロッサの姿があった。
あいつ、完全に「待て」を言われた犬だな。竜なんだからもっと堂々としてろよ!
なんだか見ていて残念な姿に、オレは溜息をつく。
「はぁ……行くぞエスタロッサ」
「ギャウ!」
最近溜息が多くなった気がする。
オレは一度小屋に戻り、立て掛けてある刀を手に持つ。
刀を持ったオレは拠点を出発、森へ向かった。
青々と生い茂る深い森。巨大な樹々、森は以前となんら変わらないように見えた。だが歩く事数分、オレは森の様子に怪訝な表情になり、異変に気付いく。
「魔物いなくね?」
『じゃのう』
「ギャウ!」
いない。とにかく魔物がいない。
気配を感じない、〈魔力感知〉にも〈熱感知〉にも引っかからない。完全にすっからかん状態だ。
「どうなってんだ?」
『うむ、おそらくじゃが、以前ラギウス殿とジャバウォックが対立した時、尋常ではない殺気が放たれたからのう。もしやそれの影響かも知れぬぞ』
「……嘘ん」
オレは苦笑いを浮かべ、ここ最近の出来事を思い出す。
確かにこの一週間森が静かだった、それどころか湖の魚まで居なくなっていた。
つまり、魔物を含めた動物たちは、二体の竜王の放つ殺気に恐れ、どこか遠くに逃げてしまったということだ。
オレは目元を手で覆い、二体の竜を思い浮かべ、疲れ切ったように呟く。
「原因アイツらかよ……」
『まぁ、こればかりは仕方ないわい』
「そうか? いや、そうだな仕方ないか」
こればっかりは仕方ないと納得するほかなさそうだな。
実際ラギウスが来なければ今頃オレは死んでいたわけだし。
「これじゃ肩慣らしが出来ねぇな……」
今日は拠点から半径十キロ圏内で、未だ眠ったままの体を起こそうと思っていたのだが、魔物がいないのでは何も出来ない。拠点で魔物が戻って来るのを待つと言う選択肢もあるが、迷いなくその案を破棄する。
おそらくだが、逃げた魔物たちは当分の間ここには寄り付かないだろう。
竜王二体の本気の殺気だ、これで戻って来るとしたら余程知性が低いか、あるいはかなり強力な魔物ぐらいだ。
オレは顎に手を添えると、これからどうするか少し考える。
「さて、どうしたもんか……」
『この辺りで魔物がいるとすれば、深層域から奥じゃのう』
「出来れば行きたくはないな。こんな鈍った体で神速黒皇に出会ってみろ、文字通り一瞬であの世だ。それに、今回はエスタロッサに経験を積ませたい。だから強力な魔物が蔓延る深層域は正直きついだろう」
深層域は今オレたちがいる中層域とは段違いの力を持つ魔物がウジャウジャと生息している。そんな中に、オレは兎も角として、エスタロッサは連れて行けない。ましてやオレは病み上がりだ、守り切れる自信がない。
しかし、深層域より奥にしか魔物がいないのも事実。このままでは時間の無駄だ。腹をくくるしかないだろう。
オレが思い悩んでいると、紅姫から提案が上がる。
『お前様よ、深層域が危険じゃというなら、その境目はどうかのう?』
『境目?』
『うむ、お前様の言う深層域はその領域のほぼ中心あたりの事じゃろう? なら深層の入り口、つまり深層と中層の境界線辺りなら、それほど強い魔物もおらんのではないかのう?』
オレは紅姫の提案を聞いて目を見開く。
確かに紅姫の言うことは正しい。この森は奥へ行けば行くほど魔物が強くなっていく傾向にある。なら深層と中層の境目には、深層域の中心にいる魔物より弱い魔物がいるはずだ。
これは行くしかないか。
「正直、神速黒皇と鉢合わせするリスクが高いが、行ってみる価値はあるな」
『決まりじゃの』
取り敢えず行き先が決まったオレ達は、深層と中層の境を目指し、歩き出した。
それから無言で歩いていると、その途中耐えきれなくなったのか、紅姫がオレに質問してきた。
『それにしてもお前様よ、神速黒皇に対し過剰すぎる警戒をしておるではないか。まぁ、あの速度じゃし当然なのじゃろうが』
『神速黒皇は間違いなく深層域最強の魔物だ、警戒して当然だろう』
『確かにその通りなのじゃが。それでもお前様の神速黒皇に対する警戒っぷりは異常じゃぞ?』
『そりゃそうだろう、オレは毎回神速黒皇に負けてんだからよ』
『む? お前様は出会う度に神速黒皇を倒しておるではないか。何故負けていると?』
『オレが神速黒皇を倒せているのはあくまで特殊能力のおかげだ。これが無けりゃオレはとっくに死んでんだよ』
オレがいつも神速黒皇と出くわした時、必ず初撃はオレが食らう。しかも急所にだ。つまり、特殊能力【再生】がなければオレは神速黒皇に殺されているということになる。だから、これを勝ったといえないのだ。
『なるほど、そういうことじゃったか。じゃがお前様よ、お前様がしておるのは殺し合いじゃ。その殺し合いにおいて勝者は最後まで立っていた者じゃ。じゃからこの場合、お前様を仕留めきれなかった神速黒皇が敗者で、殺されても尚生きておるお前様が勝者ではないのかのう』
『……そうだな、お前の言っていることは正しいよ。ただ、これは、オレの我儘なんだ』
そう、これはオレの我儘だ。ただの子供の、下らないプライドだ。
「……そろそろ着く頃だ、気を引き締めろ」
『うむ!』
「ギャウ!」
目的地に近づき、再度気を引き締めるよう促す。
オレと紅姫は〈魔力感知〉と〈熱感知〉を発動し、エスタロッサは臭いや音で周囲の警戒をする。
ちなみに、ありとあらゆる生物の上位種にくる竜は感覚器官がかなり発達している。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、そのどれもが人間の比では無い。
故に竜には探知魔法は必要としないのだ。
閑話休題
さて、目的の深層と中層の境目来たオレ達はさっそく魔物を発見する。
「どうやらここには影響がないようだな。それに〈魔力感知〉の反応からして丁度いい強さだ」
『うむ、来て良かったのう』
「ギャウ!」
さっそくオレ達は〈魔力感知〉に反応する方へ歩を進める。
その先には四体の魔物がいた。
『巨鬼じゃのう』
「ああ、これはオレが行かしてもらう。エスタロッサはここで待っていてくれ」
エスタロッサは小さく「ガウッ!」と鳴いて、コクリと頷く。
オレはエスタロッサの頭を撫でると、巨鬼の前に出た。
巨鬼はオレの存在に気付くと、腹の底から響く低い雄叫びを上げる。
「ヴォォォォォ!」
「ヴォォォォォ!!」
「ヴォォォォォ!!!」
「ヴォォォォォ!!!!」
オレは口元を吊り上げ、巨鬼に向かって言い放つ。
「悪いがオレの肩慣らしに付き合ってもらう。恨まないでくれよ!」
『お前様、ほどほどにするんじゃぞ』
『分かってる、よっと!』
オレは刀に手を添えると巨鬼達に向かって駆け出した。
巨鬼たちは近づいてきたオレを迎撃しようと、大木のような太い腕を振り下ろす。
大砲の弾のような拳が視界を覆うと同時に、その攻撃を体を捻ることで回避したオレは、巨鬼懐に入り込んで、その大きくでた腹を跳躍しながら斬り上げる。
「ギャオォォォォォ!!」
腹を深く切り裂かれた巨鬼は、中身を撒き散らしながら絶叫をあげると、数歩ほど後退さったのち、倒れて絶命する。
「まずは一匹!」
巨鬼を切り裂いた際に、空中に躍り出たオレに、別の巨鬼が拳を固めて殴りかかる。
空中で無防備なオレは、特殊能力【威圧】をほんの一瞬だけ発動。巨鬼は瞬間的に感じた恐ろしい気配にピタリと動きを止める。
「殺し合い時に動きを止めるのは、死を意味するぞ」
オレは動きの止まった巨鬼の腕に降り立つと、脚に魔力を込めて〈魔力硬化〉を発動。鋼以上の硬度まで固める。そして、無防備な巨鬼顔面を容赦なく蹴り上げる。
「おらぁっ!!」
「ブフォッ!!」
顔面を蹴り上げられた巨鬼は、顔が天を仰ぎ、砕けた歯が舞い散る。顎を蹴られ、脳を揺らされた巨鬼を足場に、オレは対角線上にいる別の巨鬼へと跳び、すれ違いざまに首に刀を一閃する。
頭を失った巨鬼は、血を吹き出しながら膝から崩れ落ちる。
「二匹目!」
「ヴォォォォォ!!!!」
背を向けるオレに、後ろから別の巨鬼が、巨大な木の棍棒を持って、大上段から振り下ろす。
「このウスノロッ!」
オレは振り下ろされる棍棒を刀で八つに切り裂く。
「ヴォッ?!」
棍棒を斬られたことに驚き、後退する巨鬼に、お返しとばかりに大上段に構えた刀を右肩へと叩き落とし、両断。
「オ……オォォ!!」
「三匹目!」
最後の巨鬼へと視線を向けると、今まさにオレに駆け出した所だった。
オレは刀を鞘にしまうと、抜刀術の構えを取る。
「四匹目……」
「ヴォォォォォ!!」
巨鬼は拳を振り上げ、そして――
ヒュンッ!!
「ッ!!」
ドサッ!!
――銀の光が走る。
胴体をキレイに両断された巨鬼は、体がズレ、痛みを感じることもなく、息絶える。
最後の巨鬼を仕留めたオレは息を吐く。
「ふぅ……まっ、こんなものか」
『うむ、流石じゃのう!』
「ギャウッ!!」
オレは苦笑いを浮かべると、腰に手を当てる。
「よしっ! この調子でどんどん行くか!」
『うむ!』
「ギャオウッ!!」
それからオレ達は、日が沈むまで魔物と戦い続けるのだった。




