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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第1章〜最強への道〜
3/201

夜のお散歩

大幅変更しました。

第三話どうぞ!!

 ご機嫌ようカスども。夏憐改め、カレンだ。

 意味がわからないと思うだろうが、要は千石夏憐は死んだのだからいつまでも夏憐では締まりが悪いだろうと思って"カレン"としている。

 オレ自身、名前そのものまで変えるつもりはない。この名前自体は気に入っているからな。


 さて、引越し祝いに来たお隣さんを祭りにご招待した後、今は周辺のご挨拶にうかがっている。

 夜分遅くに申し訳ない気持ちでいっぱいだが、近所付き合いは重要だと聞いている。

 こればっかりは今後の付き合いも兼ねて行かざるをえん。


 さてさて、話は変わるが。この肉体、非常に満足している。

 負った傷はすぐに治るし、疲れない。夜でも鮮明に見渡せるし、あと単純に強い。魔物を殴ったら豆腐みたいに簡単に弾け飛ぶ。結構笑えるぞ。

 存外、爽快感を味わえてゲームをしているようだ。中毒症状を起こしそうで、強いて言うならその点だけが不安だ。今の所はな。


 雑考は取り敢えずこの辺にして、今しがた三十七体目に挨拶を終えた。

 オレの歩いて来た跡は赤い花の川と化し、同じくオレ自身も赤い花が満開だ。要は血だらけって事なんだが、ベタベタして気持ち悪い。


 ご挨拶のために行動を開始して早一時間といったところか。かなり静かになっただろう。

 真面目な話をするならもう少し運動をしていたいというのが本音だが、派手にし過ぎたのか、周囲に生物の気配を感じない。

 残念だ。せっかく自由に動ける肉体を手に入れたのだからもっと遊びたかったというのに。


「付き合いの悪い連中だな……」


 そんな理不尽極まりない愚痴を吐きつつ、オレは近くの川まで行き、腰まで浸かって頭から水を浴びる。そのついでに着ていた服の血も出来るだけ洗い落とす。

 その際、今更ながら自分の着ている服について疑問が浮かんだ。当たり前のようにこの服を着てるが、あまりにきれい過ぎるのだ。

 破れもなく、ほつれすらない。


「頑丈、と言ってしまえばそこまでだが…….素材がいいのか? もしかして魔物の皮とかか?」


 まじまじと見つめながら真剣に考察した末、服ごときに悩む事ないか、とあっさり思考を切った。


 川から上がり指を鳴らす。すると、頭の先から指先に至るまで一瞬にして乾く。ついでに服も。


 服を着直し、帰路につく。

 昼間も見て思ったが、とにかく木が巨大だ。幹の太さが十メートル以上あるかもしれない。

 それが見渡す限りどこまでも続いている。


 道中、さぞアホ面を晒して周囲を見渡していたオレはふと訝しむ顔を作った。


「消えてる……」


 消えているのは道中散々殴り殺した魔物でも、今日寝るはずの家でもなく、オレの記憶。

 正確には前のオレ、千石夏憐の記憶が一部消えているのだ。


「まぁいい。元々使い道のない記憶だ。無くなったところで害はない」


 しかし、オレはふと考える。

 カレンを構成しているのは今の肉体はもちろん、記憶という情報が主であり、その記憶あってのカレンという人格である。

 中でも千石夏憐としての記憶は、夏憐がカレンであるための重要かつ根本的なものなのではないだろうか。

 この千石夏憐の記憶を失ってしまえば、それは最早カレンとは呼べないのではないだろうか。


 脚を動かしつつ、オレは顎に手を添え、眉を顰めた。


 正直、それは困る。オレはオレのままがいいし、このまま記憶が消えて人格まで消えてしまうのは望んでいない。寧ろ、ふざけるなというのが本音だ。だが、記憶の消失を止める手立ては今のところないのも事実、このまま身を任せる他ない。


 しかし、そう悲観的になる事でもないのもまた事実。さっきも言ったようにこの千石夏憐の記憶自体は最早要らないものだ。消えること自体は手放しで喜ぶところと言ってもいい。

 問題なのは、その記憶という情報の消失と共に人格が変わってしまうかもしれないという事だ。


 いや、例え千石夏憐の記憶が全て消えたとしてもオレという人格は残るだろう。

 そもそも、この肉体に魂だかなんだかわからん何かが定着した時点から、今現在までの記憶がすでにこの脳みその中に詰まっている。例え千石夏憐の記憶が消えたとしても、この世界に来てからのオレの記憶がある限り、オレの人格は消えん。


 現時点では"この女"の記憶の方が圧倒的に多いが、だからといって"この女"の人格が前に出て来ていないのがその証拠だ。


 そこまで考えて、オレは現実に引き戻される。

 いつのまにか家に着いていた。


「考えるのはやめだ。成るように成るだろう」


 オレはドアを開けようと取っ手に手を掛けた、その途端、むせ返る血の匂いが漂い、不快な気分にさせられる。

 匂いに釣られて振り返ると、そこには先ほど血祭りに挙げた火狼の死骸が転がっていた。数にして五頭。

 二頭は跡形もなく消してしまったので無い。


「しまった、忘れてた……」


 流石にこのまま放置しておくと肉が腐って異臭を放つ。しかもこの森は高温多湿だ。早く肉が腐るだろう。


「そう成ると、さっき殴り殺した他の魔物も焼却処分しないとな」


 オレはため息をはき、右手で頭をかくと、取り敢えず目の前の死骸を一箇所に集めた。

 そして、周辺から木の枝や枯れ葉を取ってくるついでに、家に近い所に放置していた死骸も集めてくる。遠くにある死骸は取りに行くのが面倒だから放置する。というか、せっかく餌を用意したのに全部燃やしてしまっては獲物は食らいつかない。ある程度は残しておく。

 家に近い死骸は言わなくてもわかると思うが、腐ったら臭うから焼却処分する。朝目覚めてすぐに腐敗臭なんて嗅ぎたくもない。


 そうして山積みにした死骸に木の枝や枯れ葉を満遍なく放り投げ、火をつける。


 手の指で銃の形を作ると、それを死骸に向ける。

 そして、体内にあるエネルギーを指先に集め、どんぐりサイズの火の玉を放つ。

 火の玉は死骸の山に着弾すると、あっという間に大火となり、オレの額からは矢継ぎに汗が滲む。


 魔物の死骸約二十体分だ。脂もそれなりにのっている魔物も数頭いたためによく燃える。

 当分は消えないかもしれない。


 オレはその場に座り込み、静かに火を見つめる。


「………」


 乾いた音を立て、煙に混じって生臭い獣臭がする。火をつける前よりはましだが、やはり肉食の魔物が殆どだからだろうか、アンモニアにも似た臭いだ。


 眉を顰め、舌打ちを鳴らす。

 そして、木の枝、というよりは薪なんだが、それを大量に焚べ、炎の勢いを増す。

 出来るだけ早く焼却したいのだが、量が量なだけに全て焼き切るまで多少の時間がかかりそうだ。


 さて、ゴミが焼き切れるまで時間もある。その間に少し整理しよう。


 まず、オレが当たり前のようにやっている、指から火を出したり、光線ぶっ放したり、家作ったり、水を浮かせたりと、なんだかわけわからん不思議現象がある。アレはいわゆる"魔法"というものだ。

 "魔力を具現化する方法"とか"魔力を操る方法"とか、まぁ色々な言われ方をするんだが、要は体内エネルギーを使ったなんでもありな力、そんな認識でいい。

 補足だが、なんでもありとは言ったが、出来ないこともある。例えば死者蘇生とか、時空間移動とかな。あとは知らん。


 ちなみに、魔法は脳内で術式を組む事で魔力を形にするんだが、これが存外面倒だ。

 術式を組む事で色々な効果を得る事ができる魔法だが、なにぶん複雑な術式も存在する。端折る事も可能ではあるが、それだと効果が薄くなる上、暴発する可能性も孕むことになる。故に、基本的に魔法を使用する際は必ず術式を構築する必要がある。

 普段の日常生活に用いるのであれば、この面倒な術式構築など些事だ。しかし、いざ戦闘方面ともなれば話は別である。


 戦いとはゼロコンマ数秒で生死が決まるのだ。

 長ったらしい術式なんて組んでたら対処に遅れるし、隙が出来て気付いたら真っ二つなんて事も十分あり得る。

 そんな状況下で術式を組んで魔法なんて殺してくださいといっているようなものだ。


 故に、魔法は戦闘に不向きである。と、少なくとも"この女"は考えたようだ。

 結果、術式を組むのではなく、純粋なエネルギーを手足に纏ったり、放射したりする方が遥かに簡単という、脳筋極まりない結論に至るんだが、これがなかなかどうして理にかなっている。但し、一つ注意すべき問題がある。それは、燃費がクソ程悪い、という点だ。

 消費率は術式を組む魔法と比べておおよそ三倍から四倍。あと先考えずに使ってたらあっという間にすっからかんになってしまう。

 しかし"この女"、その燃費の悪さを緻密なエネルギー操作で改善したようで、消費率を大幅に低下させている。

 脳筋に思えてなかなか繊細だ。


 言い忘れていたが、魔法とは体内エネルギーを消費する事で使用することの出来る力で、その際に使われるエネルギーを"魔力"と言う。

 他にも"気"とか"オーラ"とか"波動"とか"闘気"とか、そういう言い方もする。

 ちなみに、オレは"気"と呼ぶ事にした。他の呼び方はどうにも厨二臭くて言えん。脳みそが痒くなる。


 一応どんな呼び方、言い方でも通用するようだ。というか、種族によって言い方が違うらしい。現時点でこの記憶をどこまで信用できるかによるが。


 種族についてはかなりの数が存在する。

 大きく分けてしまえばそうでもないが、細分化するとややこしいぐらいに多い。特に、魔物まで含めると頭おかしくなりそうだ。

 とりあえず省くところは省くとしてだ。まずは"人間"。コレはごく普通の種族で、地球に存在した人間と大差は無い。強いて差があるとするなら、地球産の人間よりずっと強いという点だろうか。

 白人種、黒人種、黄色人種、褐色人種、赤色人種の五種があるようで、この点も地球とほぼ同じだ。

 体格や顔立ちに差があるようだが、ここは説明不要だろう。


 次に"妖精"だ。

 妖精とは超自然的な存在で、変幻自在な力を持つとされている、なんてよく言われるが、それは一部の"精霊"やそれに近い種に限った話しで、実際はエルフやドワーフ、グレムリンなんかの実体を持つ妖精が殆どだ。

 ゴブリンも一応昔は妖精の一種だったんだが、あまりにも醜悪すぎる習性と生態なため、魔物認定されている。


 あと、エルフやドワーフにも人間のように種類があるんだが、それを説明しだすと長くなるので今回はここで終わっておく。


 続いて"獣人"。

 獣人は人間と獣を足して二で割った姿をしている。俗に言うケモ耳と尻尾付きの人間という認識でいい。そこに獣特有の嗅覚の良さや聴覚の良さ、身体能力の高さが合わさった感じだ。

 基本的にはこれで大体の説明がつく。

 ちなみに、獣人の中でも兎型と狐型の女は特に人気だったらしい。理由は聞くな。


 あと"魔族"。オレはここに含まれる。

 魔族は人種のなかでも上位種にあたり、動体視力や気の量は他種族と比べても高水準だ。おまけに妖精達と同様に寿命も長い。半不老不死もいるぐらいだ。この辺りは素直にありがたい。

 わかっていると思うが、魔族という呼び方は総称だ。魔族という種の中には"吸血鬼"や"竜人"なんかがいる。

 ちなみに、オレは"悪魔"という種で、世界三大種族という最上位種族の一つだ。勝ち組万歳。


 他にも"神族"やら"竜族"やらがいるんだが、これも説明するとなると本当に長くなる。


 今日はこの辺にしよう。そろそろ薪を焚べるのも飽きてきた。取ってきた薪自体ももう終わりが近づいている。

 死骸の山も八割がた焼き切れ、一部は灰となっていた。


 残りの薪を全て焚べ、燃え上がる炎をただじっと見つめる。


「明日はどうするか……」


 ずっとこのままというのは現実的ではない。

 こんな森の中で生涯暮らすなんざ、それはそれで有りかもしれないが、今は論外だ。

 かといって何か明確な目的もなくただほっつき歩くのも違う気がする。


「目的……目的か……」


 思えば、自由になったらしたい事が沢山あったはずなのに、今はどうしてだかやりたい事とか、目的とか、そういったものがない。

 気力が無い、とは言わないが、どうにも未だ現実味が無いのが原因だろう。


 当然、頭ではこれが現実だと理解はしている。

 しかし、心のどこか、オレでさえ気づかない深層心理で、夢じゃないのかと疑っているのかもしれない。


「とにもかくにも、まずは人間界に行くか。その後のことはその時考えればいい……」


 あとのことは未来の自分に全て丸投だ。


 いつのまにか煙だけがたちのぼる死骸の山を見やり、もうこの場に用はなくなったと立ち上がる。

 僅かに森の匂いと混じって獣臭いにおいが漂うが、長時間燃やし続けた結果、死骸自体はほぼ炭とかしている。

 数分も経てばこの臭いも消えるだろう。許容範囲だ。


 踵を返し、オレは扉の取手に手を掛けた。

 扉は軋むような音をたてながらも滑らかに開く。そして室内に入ると、一応閂で扉を施錠し、窓を少し開ける。

 枯れ葉や小枝で作った簡易的なベットに体を投げ出し、仰向けに大の字となった。その時、枕を作り忘れたのに気付いたが、今更作るのも面倒なので、まぁいいかと諦めた。


「ふぅ……」


 思っているより疲れているのかもしれない。はしゃぎすぎた。

 僅かに体に倦怠感を感じる。いよいよ瞼も重たくなりそうだ。


 オレは大の字になりながら手を水溜りに向け、指を手招きするように動かす。すると、一口ぐらいの水の塊が引っ張られるように宙を泳いでオレの元までやってくる。

 体を少し起こし、宙に浮いた手で水を包むように口へと持ってゆく。

 冷やしていた水はすっかりぬるくなっていた。

 喉は潤ったが美味くない。冷やしてから飲むんだった。


「………寝よう」


 オレは重くなりかけた瞼を閉じ、何年振りともわからない深い眠りについた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] オレは~、オレが~というように オレ という単語を使いすぎてくどいです。 登場人物の区別が必要ないときは、主語を省略して読みやすくすればいいと思います。
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