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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第1章〜最強への道〜
29/201

必死の抵抗

 この世界には最強を謳われる七体の魔物がいるそうだ。その七体の魔物を総じて"七災の怪物"と言う。その魔物達はたった一体で世界を滅ぼせる力を持つと言われ、その荒唐無稽な存在ゆえに物語でのみその名を耳にする。


 その力は神をも凌駕し、人類では遠く及ばない叡智を宿す。正真正銘、真の竜王。

 "神滅竜 ラギウス・ヘカートツヴェイン"


 世界樹を超え、島をも飲み込む圧倒的な巨躯と、一度でも触れれば助からないといわれる世界最強の毒を持つ。巨大という言葉ではおさまらない世界規模の蛇。

 "世界蛇 ヨルムンガンド"


 世界最硬の絶対防御を有し、地上において敵無しと言われており、地震をも引き起こす力を持つ、大陸の王者。

 "陸王竜 ベヘモス"


 世界の半分以上を占める海において絶対的な地位を持ち、その力はまさに絶大。海の生物を全て支配下に置く、大海の帝王。

 "海帝竜 リヴァイアサン"


 世界最強と言われる(ドラゴン)達と肩を並べ、その力は神をも凌ぐ。孤高にして誇り高き神殺しの狼。

 "神殺狼 フェンリル"


 かつて神が創造したとされ、地上を焼き尽くす為だけに生み出された怪物。神の創りし破壊の獣。

 "神獣 ヴァジュラ"


 ある日、突然変異個体として生まれ落ち、本来竜種の中で最弱とされる飛龍種の限界を突破。あらん限りの残虐を尽くす、最凶最悪の竜。

 "凶竜 ジャバウォック"


 この七体がありとあらゆる生物の頂点に君臨し、世界の均衡を保っている。


 この怪物たちにナワバリなどはなく、普段は自由気ままに世界中を闊歩(かっぽ)している。故に、鉢合わせする事もしばしばあり、殺し合いにはならないが、小競り合いが起きる事も稀にある。その場合、大概が環境に大きな変化をもたらす為、天変地異が起きたと、大騒ぎになるのが通例だ。しかし、ことを起こした怪物達を目撃した者は、誰一人としておらず、自然災害として話が片付く。


 ちなみに、一体でも欠けると世界の均衡が崩れ、大変なことになるそうだ。

 どうなるかは想像に任せる。


 と、いう説明を紅姫から聞いたオレは、内心天を仰ぐ。なんたって、たった一体で世界に影響を及ぼす怪物と対峙しているのだから無理もないだろう。ていうか察してくれ。


 ラギウスの奴、実はすごい(ドラゴン)だったんだな。


 気を取直し、カレンはジャバウォックに刀を構える。

 今も傷口からは血がドクドクと流れ、油断すると意識が飛びそうになる。骨が折れた所も、少し身体を動かすだけで鈍痛が走る。その度に顔が歪み、脂汗が滴り落ちる。


 状況はかなり最悪。この場においてオレの勝利はただ生き残ること。だが、目の前の怪物が相手ではそれすら難しい。


 何度も言うようだが、状況は最悪、まさに絶体絶命だ、本当に……


「……どうしよう」


 はっきり言って、重傷を負ったこの身体では、最早まともに戦えないだろう。


 だが、オレはこの世界で生きる事を選んだ、ならこんな所で死ぬわけにはいかないのだ。


 絶対に生き残ってやる。


 カレンはこれ以上ないという程に脳をフル回転させる。


 まず、どうにかしなくてはならないのは、なんと言っても折れた骨と右脇腹の大きな風穴だ。


 この傷はどう言う訳か、オレの特殊能力(スキル)【再生】が効力を発揮せず、治らない。まぁ、原因はまず間違いなくジャバウォックの特殊能力(スキル)だろうが。

 問題はこれがいったい()()()()()()かと言う事だ。

 もしこれがずっと続くのであれば、間違いなくその時点でオレは積みだ。

 だが、これが時間制限有りだとすれば僅かな希望が見えてくる。なんせ効力が切れるまで時間稼ぎをすればいい、そうすれば効力が切れた後、【再生】で傷を癒す事が出来る。


「……確率は二分の一。まぁ、どっちにしろ戦わなきゃ死んじまうし、いっちょおっ始めるか!」


 柄を持つ手に力を入れる。


『紅姫、今からもう一度アイツと殺り合う、補助の方は頼んだぞ!』


『分かった、任せよお前様!!』


 特殊能力(スキル)【紅姫】により脳の情報処理能力が向上、これで少しでも相手の動きを先読みできれば随分違ってくるだろう。


「さて、生きる為にいっちょ暴れるかっ!」


 ジャバウォックへと駆け出し、距離を詰める。


 ジャバウォックは迫ってくる羽虫に、漆黒の槍を放つ。

 轟っ! と言う風切り音を鳴らし、どんな硬い盾も貫く、漆黒の槍が、凄まじい速度で迫る。


 カレンはそれを身を低くする事で、ギリギリで躱す。すると、放たれたジャバウォックの尾は瞬時に元の長さに戻り、再び放たれる。


『お前様来るぞっ!!』


「ちっ!!」


 これもなんとか刀を盾にしながら躱す、が。


『お前様、三撃目じゃ!!』


「くそっ!!」


 さらに放たれた攻撃に、左肩を掠める。ただし、掠めるといっても肉を抉り取られるほどだ。


「ちっ! インターバルが短い! これじゃ攻め切れねぇ!!」


 漆黒の槍による超速の連続攻撃に、カレンは成すすべなく徐々に傷を増やしていった。


「くっ! やっぱり傷が治らねぇ!」


 体は既にボロボロだ、まずあの鬱陶しい尻尾をどうにかしねぇと。


 カレンがジャバウォックへの対処を考えていると、叫び声にも似た紅姫の声が頭に響く。


『お前様下じゃっ!!』


 紅姫が警告を発した直後、オレの足元の地面が爆ぜる。途端、その命を奪わんと漆黒の槍が姿を現した。


「っ!! このクソッタレ!!」


 オレが上体を後ろへ|逸らすと、目の前を漆黒の槍が通過する。そのままバク転をして、一度ジャバウォックから距離を取る。特殊能力(スキル)【紅姫】が無ければ、今頃頭を貫かれてお陀仏だ。

 今回躱す事が出来たのは奇跡だ、正直次が来れば避けれるか分からない。


『無事かお前様?!』


『ああ、なんとかな。お前のおかげだ紅姫』


『流石は世界最強の一角じゃわい、手も足も出ん』


『まったくだ』


 それにしてもジャバウォックのやつが遊んでくれていて良かった。もし本気で殺しに来てたら、オレは今頃死んでいるはずだ。


 特殊能力(スキル)【紅姫】による思考加速で会話時間がゼロコンマ数秒で出来るとはいえ、紅姫と普通に会話できている事が何よりの証拠だ。

 ジャバウォックならそのゼロコンマ数秒でオレを殺す事なんざ、わけないだろうからな。


『お前様、分かってはおると思うが、なにもジャバウォックとの戦いに勝つ必要はない。傷を癒し、なんとか撤退する事が勝利条件じゃ!』


『ああ、分かって……』


 オレは途中で言葉を切った。何故なら目の前のジャバウォックの行動に戦慄を覚えたからだ。


「おいおい、嘘だろ?!」


 カレンは顔を引き攣らせ、心臓の鼓動がはやくなる。背中には嫌な汗が流れ、身体中の血が逆流するような怖気が、全身を駆け巡る。


 ジャバウォックは四肢を開き、衝撃に耐えられる態勢となっていた。


 カレンはその態勢を二度見た事がある。一つは蒼双鎧竜(トリケラスドラゴン)の時、もう一つは少し前のエスタロッサだ。


竜砲撃(ブレス)じゃっ! お前様、逃げよっ!!』


 その態勢は(ドラゴン)最強の攻撃手段、竜砲撃(ブレス)を放つ構えだ。

 しかも、今回は世界最強クラスの竜砲撃(ブレス)。まともに食らえば、ただでは済まない。


 ジャバウォックは竜砲撃(ブレス)を放つ為に魔力を集約するという事はしない、何故ならそんな事をしなくてもジャバウォックは魔力の塊のような存在。溜める必要などない。


 エネルギーチャージは一瞬。


 ジャバウォックは口を大きく開く。そして、エスタロッサとは比べ物にならない、超高威力の竜砲撃(ブレス)がカレンに向けて放たれる。


 轟っ!!


 発射と同時に、ビリビリと大気が揺れ、その衝撃波だけで周りの樹々が吹き飛んでいく。


 カレンは避けようと必死に足を動かすが、竜砲撃(ブレス)の範囲が広すぎて避け切れない。それに加え、深手を負ったこの体では最早(もはや)回避は不可能だった。


 まるで、悪魔を裁く断罪の光の如く、白く光る無属性の魔力の塊が、カレンに迫る。そして――


「……まずった」


 ドゴォォォォォォォォォォンッ!!


 ――断罪の光は容赦なくカレンを飲み込んだ。


 断罪の光は、カレンの遙か後方にあった六千メートル級の山を軽く吹き飛ばし、空に漂う雲をかき消す。


 白い光が天を貫くその光景は、まさに裁きの光りの瞬間。


 その断罪の光の直撃を受けたカレンは、ジャバウォックの直線上に煙を上げて大の字で倒れていた。


「…ゴフッ!」


 ブレスが直撃する瞬間、カレンは〈魔力障壁〉に持てる魔力を総動員して発動、そのおかげで辛うじて命を繋いだ。ついでに言うと、右脇腹の風穴は焼けて塞がった。


『不味い、魔力が……底を、尽き……かけてる。……体も、動かねぇ』


『お前様っ!!』


 悲鳴混じりの紅姫の声が響く。今にも泣きそうな声だ。


『だ、大丈……夫だ……』


 カレンは紅姫を、安心させようと笑って見せるが、それが逆に、紅姫の不安を煽ってしまう。


『……か』


 ブレスの直撃を受け、動かなくなったカレンに、ジャバウォックはとどめを刺そうと伸縮自在の尻尾を標的に向ける。


『……誰か』


 ジャバウォックは狙いを定めると「クロロロロロッ!!」と低い唸り声を上げ、止めの漆黒の槍を放つ。


『誰か! 助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 紅姫の叫びがカレンの頭に響く。


 そして――






「グラァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」


 ――大森海全域に轟く、竜の雄叫びが上がる。


 その雄叫びにジャバウォックはピタリと動きを止め、視線を上に向ける。


 視線の先には、巨大な翼をはためかせ、ゆっくりと降下する、夜を体現したかのような黒竜。


「……ラ、ラギウス」


『ラギウス殿!!』


 ラギウスはカレンのそばに降り立つと、一瞬だけカレンと目を合わせ、ジャバウォックに視線を向ける。


「グルルルルルッ!!」


 ラギウスは今まで聞いたこともない低い唸り声を上げ、ジャバウォックを威嚇する。


 ラギウスの本気の殺気がジャバウォックに向けられる。


 どうやら相当お怒りのようだ。


「クロロロロロッ!!」


 だが、流石は世界最強の一角、ラギウスの殺気を浴びても、怯むどころか臨戦態勢に入る。同じく世界最強クラスの二体だ、当然か。


 両者は睨み合い、一触即発といった感じだ。


 もしこのままこの二体が戦闘を繰り広げれば、大森海は確実に消え失せるだろう。当然それに巻き込まれればオレの命はそこまでだ。


 巻き込まれて死ぬなんざごめんだ。


 カレンはなけなしの魔力を使ってラギウスに〈念話〉を繋げようとする。しかし、カレンは魔法を発動しなかった。


 何故なら、カレンが魔法を発動する前に、ジャバウォックが飛び去って行ったからだ。


 先程まで張り詰めていた空気が嘘だったかのように霧散する。


(ジャバウォックの奴、随分あっさりと引き退ったな。ラギウスが何かしたのか?)


 急に引き退ったジャバウォックに訝しむオレに、ラギウスが振り向き安否を確認する。


「カレン無事か?」


「いや、この姿を見て無事に見えるか? ボロボロだっつんだよ、正直生きてるのが不思議なくらい」


「うむ、そうか。だがボロボロと言う割には元気そうではないか」


 確かに()()()()()、だが少し前までは本当にボロボロだった。なんなら死にかけてた。


 実はジャバウォックがいなくなった途端にオレの特殊能力(スキル)【再生】が効力を取り戻した。今も徐々に回復に向かいつつある。


「それより助かった、礼を言う」


『ラギウス殿、儂からも礼を言う。感謝する!』


「礼を言うならワシではなく、エスタロッサに言ってやるがよい」


 ラギウスが後ろに顔を向ける。すると、茂みの奥から緋色の子竜が姿を現した。言わずもがなエスタロッサである。


 エスタロッサは心配そうにオレに近づき「クウゥン」と鳴いて、オレの頬に顔を擦りつける。

 なんだか犬みたいだなぁ。


「エスタロッサ、無事で良かった。それと、ラギウスを連れてきてくれたんだな、ありがとう」


 そう言ってオレはエスタロッサの頭を優しく撫でる。


「ギャウっ!!」


 それから程なくして、オレは特殊能力(スキル)の効果で身体を完全に癒した。念のため、体の何処かに異常がないか確かめる。が、幸いにも何処にも異常は見当たらなかった。


『完全に癒えたのう…….はぁ、本当に一時はどうなる事かと思ったわい』


「ああ、正直もうダメかと思ったが、なかなかどうして、きっちり生きてる!」


『まったく、悪運が強いのう』


「そうだな……」


 オレは癒えた身体の調子を確認する為に、その場で軽く柔軟運動をする。

 すると、そんなオレに、ラギウスがいつになく真剣に話しかける。


「どうだカレン、世界の頂点と戦った気分は?」


 オレは動きを止め、ラギウスに返答する。


「最悪に決まってんだろ! ったく……自分(テメェ)がどれだけ思い上がってたか思い知らされたよ」


『お前様……』


「その通りだな。お前にはいい気付け薬になっただろう」


「……ああ、いい勉強になった」


 あれ程、桁違いの存在を知れただけでも僥倖だ。それに、今までに無かった具体的な目標も出来たし、ラギウスの言う通り本当にいい刺激になった。次は絶対負けねぇ。


「カレン、お前は余りにも物を知らなさすぎる。単純に強くなるのも良いが、同時に知識も蓄えよ。少しの情報不足で死に直結する場合もある。この世界で生きるのであれば、情報や知識は必要不可欠だ」


『ラギウス殿の言う通りじゃぞお前様。"知識は力"じゃ。情報や知識というのは持っていて損はせん。その状況に応じた知識を持っておれさえすれば、自ずと対処は可能じゃ。生き残れる確率も上がるじゃろう』


「……確かに、一理あるな」


 特殊能力(スキル)【再生】を封じた能力、戦闘スタイル、性格、鱗や甲殻の硬度、魔力値、今思えばどれもこれも情報が不足していたが故の結果だった気がする。

 もし今回、前もって"凶竜 ジャバウォック"の情報を持っていたら、こんな無様は晒さなかったかも知れない。

 もしかしたらもっと別の方法をとっていた可能性もある。……多分。


 なるほど、確かにラギウスや紅姫の言う通りだな……知識は力、か。


「分かった、なら三ヶ月だ! 三ヶ月で持てる知識を全て教えてくれ!」


 カレンは座った状態で片膝を立て、指を三本立てると、ラギウスを見上げながらそう言った。


 オレは半年、この森で暮らしているが、未だ知らない事が多い。この大森海のこと、魔物のこと、そしてこの世界のこと。


 今回のような事が二度と起きないよう情報が欲しい、それも大量にだ。一から全ての知識を蓄えるとなると、シャレにならない情報量になる。となると、全てを憶えるには最低でも三ヶ月が必要だと思うわけだ。


 まぁ、実際はやってみない事には分からないが。


「よかろう、ワシの持てる全ての知識をお前に託そう。

 よいなカレン、死ぬ気で憶えよ!」


『儂も協力するぞ!』


「ギャウ!」


「ああ、頼んだ」


 さて、森の探索、魔物との戦闘、魔法の訓練の他に、お勉強会が追加された。

 オレは自然とニヤけてしまう。知識を得るとはある意味力を手に入れるのと同義だ、これほど愉快な事はない。


 どうやらオレはまだまだ強くなれるらしい。


「ははっ! そんじゃ、いっちょおっ始じめるかか!」


 さぁ、ここからが本当の、最強への道の第一歩だ。

大変遅くなりましたが、以前誤字報告して頂いた方ありがとうございます。

これからも間違ったところなど出てくるかも知れませんが、その時はまたお願いします!!

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