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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第1章〜最強への道〜
27/201

小さな竜

ラギウスの出番が少なくなり、影が徐々に薄くなってきている気がします。

出番を増やしてやりたいですが、今はまだその時ではありません。ごめんよラギウス!!


それとカレン、お前は一体どこまで強くなるつもりだ……




という事で第27話どうぞ!

「まったく、次から次へと……お前は自重という言葉を知らんのか?」


 明朝、オレは昨晩のことをラギウスに説明した。紅姫のこと、卵が孵化(ふか)したこと、新たな特殊能力(スキル)が発現したことなどだ。


 その説明の返答がこれだった。


(自重? そんなの今更だろ。もうこうなったら行くところまで行くしかないだろ。

 だってもう特殊能力(スキル)三つ目だし、魔力値も五十万超えてるし、自重なんてしたところでもう手遅れだ。

 まぁ、それは置いといて。今はこの子竜の事が先だろう。別に自重という言葉から逃げているわけではない)


 カレンは視線を足元に向ける。そこには、緋色に輝く美しい鱗に包まれた、小さな(ドラゴン)がいた。言わずもがな、昨日の夜、孵化したばかりの(ドラゴン)だ。


 子竜はカレンの視線に気づき、顔をこちらへ向けると、首を傾げる。


「ピー!」


 子竜は可愛らしい声で鳴くと、カレンの脚に体をすり寄せる。微笑ましく思ったカレンは子竜の頭を優しく撫でてやる。


(これはなんというか、甘えているのか?)


『のう、お前様』


「うおっ?!」


 突然紅姫に話しかけられたカレンは、驚いて体をビクつかせる。


『いきなり話しかけるな!  ビックリすんだろうが!!』


『そんなことを言われてものう。儂はお前様の中で生きておるのじゃ、どんなに気を付けても、いきなり話しかける事になると思うのじゃが?』


『………それもそうだな』


 オレが紅姫と話していると、ラギウスが〈念話〉をオレに繋げ、話しかける。


『カレン』


『なんだラギウス?』


『この子竜、名を付けたのか?』


『いやまだだ。なかなかいい名前が思いつかなくてな、今考え中だ』


 ラギウスは子竜に視線を向ける。すると、子竜は怯えたようにカレンの後ろへ隠れた。

 巨大な黒竜に睨まれれば当然といえば当然の行動である。ラギウスは睨んでるつもりは無いのだろうが。


 子竜は小刻みに震えている。どうやら相当ラギウスが怖いらしい。 


(おいラギウス、じっと見つめるのやめてやれ、こんなに震えて、可哀想だろう)


 ラギウスは視線をカレンに戻すと、少し愉快そうな声音でで話しかける。


『随分懐いているな。お前のことを親と思っているようだぞ』


『ああ、刷り込み現象ってやつだな』


『確か、孵化して最初に見たものを親と認識する事じゃったの。まぁ、これはあくまでも、典型的な例じゃがの』


『まぁ、そんな事はどうでもいい。ラギウス、この子竜も成長すればお前と同じように話せるようになるのか?』


『うむ、大体一年から二年で言葉を理解し、話せるようになる。

 成長すれば魔法なども教えてやると良いだろう』


 オレは腕を組み「……そうか」と小さく呟く。どうやらラギウスだけが特別で話せるわけでわなさそうだ。


 他の魔物も言語を理解すれば意思疎通ができるという事らしい。ただそれは、生まれたばかりの子どもに限った事で、成長しきった個体の魔物は、言語を理解するのは難しいそうだ。


(一年から二年経てば話せるようになるなるようだし、やはり名は必要だろう。先程ラギウスに名前は考え中と答えたが、その実、全く考えていなかった。仕方ない真面目に考えてやるか)


 子竜の名前を考えるにしても、なかなか思いつかないカレンはラギウスと紅姫に相談する。


『この子竜、なんて名前が良いと思う?』


『やはりここは特徴を基準に考えると良いのではないかのう』


『○○竜と二つ名があった方が、竜の格も上がる、それも一緒に考えた方が良いぞ』


(紅姫、そんな事はオレも分かってんだよ。ラギウス、いいこと教えてくれたけど、オレはそんな事は聞いてねぇよ。

 それとラギウス、オレは竜の表情は分からねぇが、お前今絶対ドヤ顔だろ。なんかムカつくからやめろ!

 オレは内心で小さく舌打ちをする。コイツらに聞いたオレがバカだった。自分で考えよう)


『ちっ!』


『お、おおいお前様、今舌打ちしたじゃろ!?』


『なぜワシらは舌打ちされたのだ?!』


(あっ、やべ、心の声が漏れちまった。自重しないとなぁ)


 カレンはギャンギャン騒ぐ二人を横に置いといて、一人子竜の名前を考える


(もうコイツらには頼らねぇ……。特徴は……四本の角、黄金の瞳、緋色、確かスカーレッドだったか?……赤、テスタロッサ。おお! テスタロッサ、いいね! これを少しもじって……エスタロッサ。よし、名前は決定だな。あとは二つ名だったか? 確かラギウスは"神滅竜"だったな。ならこんな感じのを考えれば良いわけか。緋色の鱗か、花びらみたいだな……花びら、桜、緋桜……)


 少し思案すると、頭の中で整理がつく。


「………よし、決めた」


『む? 名が決まったのかの?』


『ああ、なんとかな』


『で、どのような名だ?』


 カレンは視線を子竜向け、目線を合わせるように跪くと、頭を撫でながら名を口にする。


「お前の名は……」






 ーー緋桜竜(ひおうりゅう) エスタロッサ。





 途端、子竜が光り輝き、進化が始まる。


 炎のような緋色の魔力が、渦巻きながらエスタロッサに集約されていく。みるみる内に体が創り変えられ、ものの数分で、進化が終わる。


 緋桜竜(ひおうりゅう)エスタロッサの身体は全体的に一回り大きくなり、筋肉質になっている。以前は滑らかだった鱗や甲殻は、少しゴツゴツした感じになっており、可愛いからカッコ可愛いに変わっている。


『ほう、随分と様変わりしたのう』


 紅姫が感心したように呟く。


「ああ、前よりずっと綺麗になった」


「うむ、それに魔力も以前とは比べ物にならなぬ程だ」


 確かに、魔力が桁違いに上がっている。これは前とは別物だな。


 エスタロッサは気分を良くしたのか、フンッ! と鼻を鳴らす。ドヤ顔で。


 ちょっとイラッときたカレンは、エスタロッサの頭にチョップを叩き込む。


「その顔ムカつくからやめろ!」


「ギャンッ!!」


 頭にチョップをくらったエスタロッサはまるで犬のような悲鳴を上げると前脚で器用に頭を抑え、涙目にオレを見上げる。


『お前様、いきなり何をしとるんじゃ! 可哀想じゃぞ。名をもらった時の高揚感ぐらいゆっくり味あわせてやらんか!』


『いやだって、あのドヤ顔なんかムカついたから』


「カレン、お前も人の事は言えんかったぞ」


 ラギウスの指摘にカレンは顔を逸らす。


(やべ、超恥ずかしんですけど。そう言えばオレも名前を貰った直後は、湧き上がる力に興奮してたなぁ。あれ? オレってエスタロッサの事言えないんじゃ……)


「……」


 カレンは過去の自分に顔を赤面させていると、紅姫がこの後のことを尋ねる。


『お前様よ、名付けも終わったし、今日はこれからどうするのかのう?』


『えっ? あ、そ、そうだな……折角だしエスタロッサを連れて森に行くか』


 オレの提案にラギウスが頷き、同時に注意をする。


「それは構わないが、深層域には行かない方が良い。お前一人なら良いが、エスタロッサを連れて行くとなると、対応が違ってくるだろうからな」


(その指摘は最もだな。ここは大人しくラギウスの言うことを聞いた方が良さそうだ。エスタロッサはオレの息子の様なものだ、死なせたいわけじゃない)


「ああ、そうするとしよう。今日は浅いところでエスタロッサの様子見をする」


『うむ、では決まりじゃの。では、今から行くのかの?』


「いや、森に入るのは昼からにしよう。取り敢えずは腹ごしらえだ。それと、オレは少し仮眠を取る」


 カレンは昼まで体を休ませるため、小屋に戻り仮眠をする事にした。別に二度寝したかったとかそう言うわけではない。断じてない。ただ万全の状態で行きたいだけだ。と自分に言い聞かせて。


 それから数時間後。昼になると、カレンとエスタロッサは魔物の肉や森から獲ってきた果実を食ってお腹を満たした。もちろんカレンは肉を焼いて、エスタロッサは生で食べた。


「よし、腹も膨れたし、行くぞエスタロッサ!」


「ギャウッ!」


 オレの呼びかけに、エスタロッサは進化したと際に少し低くなった声で返事をする。


「カレン、エスタロッサに無理はさせるなよ」


「ああ、分かってる」


 カレンは肩越しに手を振るとエスタロッサを連れて森へと入って行った。


 カレンはエスタロッサがどれほど強いか楽しみであった。なんと言っても炎系最強の魔物で、しかも竜王種だ。期待が弾むのも無理はない。

 だが、エスタロッサはまだ生まれて間もない。無理はさせないと言うのは念頭に入れておく。


「エスタロッサ、あまり無理はするなよ」


 エスタロッサは頷くと「ギャウ!」と返事をする。返事はしているが、言葉は理解しているのか疑問だ。何故か無性に心配になってくる。


 カレンは苦笑いを浮かべると視線を前に戻し、紅姫に話しかける。


『紅姫』


『なんじゃお前様よ』


『お前、オレの中から魔法を行使する事は可能か?』


『うむ、それぐらいなら容易いじゃわい。ただ、魔力はお前様のものを貰うが良いのかの?』


『ああ、それで構わねぇ。紅姫は探知魔法で周囲の警戒をしてくれ。オレは集中してエスタロッサの様子を見ていたい』


『うむ、承知した』


 そう言って紅姫は探知魔法〈魔力感知〉と〈熱感知〉を発動し、周囲の警戒を始めた。


 すると、すぐに紅姫から報告が上がる。


『お前様、ここより数百メートル先に魔物が三体おるが、どうするかの?』


『三体か、ならこのまま行くとしよう』


『うむ、では少し右に進路をとると良いぞ』


 カレンは紅姫の指示に従い、斜め右に進んだ。同時に、なんだかカーナビみたいだ、と思たりもした。


 それから数十分後、カレンとエスタロッサは魔物と遭遇する。


 目の前に現れたのは、大きく肥え太り、肌は不健康な淡い緑色。顔は醜悪で、口からはヨダレがダラダラと流れ出ている。そんな人型の魔物、巨鬼(トロール)だった。


 巨鬼(トロール)達はカレンとエスタロッサの存在に気づくと、低い雄叫びを上げる。


「オォォォォォォ!!」


 巨鬼(トロール)達は近くの樹の枝をへし折ると、それを武器にカレン達に向かって駆け出した。


 カレンはエスタロッサに顔を向けると顎をしゃくって、戦う様に促す。お手並み拝見である。


「行け、エスタロッサ。あの程度なら余裕だろう?」


「ギャウッ!!」


 自身満々に返事をすると、エスタロッサはカレンの前へ出る。


 そして、脚を広げ踏ん張る体勢に入ると、口を大きく広げる。その様子に酷く皆覚えのあるカレンは笑顔のまま固まる。


(ん? エスタロッサ、お前何してんだ?)


 エスタロッサは体内の魔力を集約し始める。心臓を中心に血管の様な緋い光が全身を走り、広げた口の奥には、これまた緋い炎の光が爛々と輝く。


(おい! エスタロッサ、お前いきなりそんなもんぶっ放すつもりか!!)


 カレンは表情を引き攣らせ、エスタロッサを見つめる。これは流石に不味いと思ったカレンは、声をかけて制止しようとする。


 だが、時すでに遅し、エスタロッサの魔力の充填が終わる。

 

 エスタロッサは体内に溜め込んだ莫大なエネルギーを前方の巨鬼(トロール)に向けて解放する。


 途端、緋い閃光が走る。


 ドゴォォォォォンッ!!


 凄まじい衝撃波と共に放たれた超高熱の熱線に、巨鬼(トロール)達は文字通り消し飛び、前方の大地は余りの熱さに、所々マグマの様にドロドロと融解していた。

 熱風が吹き荒れ、周りの樹々は燃え尽き、もくもくと黒煙が上がる。


(流石竜王種、蒼双鎧竜(トリケラスドラゴン)のブレス並みの威力だ。いや、この現状を見る限りエスタロッサの方が上かも知れない。まだ孵化して間もねぇって言うのに末恐ろしいものを感じる……それよりも)


 カレンは油の差していない機械の様な動きでエスタロッサに顔を向ける。


 エスタロッサは鼻をフンッ! と鳴らし「どうだ、すごいでしょう!」とでも言わんばかりに自慢げだ。


 カレンはジト目でエスタロッサを睨みつける。一方でエスタロッサはカレンのことをキラキラとした目で見つめていた。


『……褒めて欲しそうじゃのう』


『………』


 カレンはニッコリと笑顔を浮かべると、エスタロッサの頭を撫で――



 スパンッ!!



 ーーなかった。


 エスタロッサは「えっ? 何で?!」みたいな顔でカレンを見上げる。


 カレンは荒れ果てた大地を指差して、エスタロッサを怒鳴りつける。


「バカかお前は! やり過ぎだっ!!」


「クウゥン…」


 褒めらたいその一心で張り切ったエスタロッサは、(ドラゴン)最強の切り札である竜砲撃(ブレス)を初っ端にぶっ放した。

 その凄まじい威力にカレンが感心して褒めてくれると思っていた様だが、結果はその逆、カレンのお怒りを受けてしまった。


 褒められる筈が逆に怒られる。エスタロッサは項垂れ、意気消沈する。


 エスタロッサを叱るカレンに、紅姫がぼそっと小さく呟く。


『…….お前様も人の事は言えんだろうに』


『何か言ったか?』


『いいや、何も』


 やってしまったのは仕方ない。今回はエスタロッサの強さを見るために来たのだ。ある意味でこの無残な大地の状況は、エスタロッサの強さを表したと言えるだろう。


 カレンは少し叱り過ぎたと思い、少しの逡巡の後エスタロッサの頭を優しく撫でる。


「……すまない、少し怒り過ぎた」


「ギャウ」


 エスタロッサ 「構わない」とばかりに返事をする。


 その直後、








「クロロロロロ……」


 何の前触れもなく、巨大な影が恐怖を引き連れて現れる。

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