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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第1章〜最強への道〜
26/201

紅姫

予定ではあと5話で第1章が終了する、予定です!!

ですが、終わる気配がありません!


では第26話どうぞ!

 翌日の朝、カレンはラギウスのもとで魔法の訓練をしていた。


 内容は主に出力調整だ。魔法を発動する際の魔力量を調節することで、効果範囲や威力を調整することが出来る。理由は言わずもがな。

 カレンはこう言った緻密な魔力コントロールを特に苦手としていて、魔法を発動する際、魔力を込めすぎてしまう傾向にある。だがら、森の一部を吹き飛ばしたりなど、大規模破壊をしてしまうのだ。


 今回の訓練は、いつまで経っても魔法が上手くならないカレンを見かねたラギウスが「カレン、今日は魔法の訓練をする。 このままでは遠からず森が無くなってしまう」と言ってきたので、仕方なく訓練する事になった。確かに、既にカレンのせいで拠点周辺の環境はガラッと変わってしまった。というより地形が変わってしまった。


 これ以上は流石にまずい。生態系が変わる。流石のカレンも危機感を覚えた。


 そんなこんなで、カレンは真面目に訓練に打ち込んでいる。


 ついでに言うと、特殊能力(スキル)の訓練もしている。


 特殊能力(スキル)って魔力を必要としないから、訓練のしようがないんじゃない? とか思うかもしれないが、特殊能力(スキル)も訓練を積めば、なんやかんやで出力調整出来るんだそうだ。つまり【威圧】で周りのやつらが死ぬこともなくなる。もうあんな悲しい事件は起こしたくないと切実に願う。


 訓練を開始して三時間が経過。


 ほんの少しはマシになっただろうか、(むし)ろそう思いたい。


「……ラギウス少し休憩しないか? こうじっとしてると結構疲れるんだよ」


「そうだな、少し休息を取るがいい」


 カレンは訓練の為に発動していた特殊能力(スキル)【威圧】を解除する。すると張り詰めた空気が和らぎ、いつも通り無機質な声が頭に直接響く。


特殊能力(スキル)【威圧】を解除』


「……」


 カレンは以前から気になっていた事がある。


 この頭に直接聴こえる"声"は一体何なのか、カレンはラギウスに質問をする。


「なぁラギウス、前から気になってたんだが。この頭に直接響く声は何なんだ?」


「すまないが、ワシも詳しくは知らん。というより考えたこともない」


「そうか……」


 ラギウスでも知らないとなると、ますます気になる。


「カレン、そろそろ訓練を再開するぞ」


「おい、まだ休憩を始めて三分だぞ。全然休めてねぇぞ?!」


「いいから始めるぞ」


 カレンの異議に対して有無を言わせず、訓練が再開される。ラギウスの奴、許すまじ。


 それから訓練は日が沈むまで続いた。ラギウス曰く少しはマシになったそうだ。逆にこれだけやってマシになってなかったら、心折れちまうよ。


 訓練が終わる際、ラギウスから「カレンよ、お前は魔力コントロールが超が付くほど下手だ。だがら毎日三十分、今日やった訓練をしておけ。そうすればそのうち上手くなる」と言う、お言葉を頂いた。


 今日から毎日、魔力コントロールの訓練をする事になった。今後人間のいる場所に行くことになるだろうし、魔力コントロールはしっかりしとかないと大惨事になりかねない。それを危惧しての事なのだろう。


 実際、これに関してはカレンも危機感を感じている為、やるのはやぶさかではない。

 カレンは「分かったよ」と一言頷く。


 外が完全に暗くなると、カレンは小屋に戻り、魔物の毛皮で作ったベッドに倒れこむ。


 カレンは仰向けになって歪な造りの天井を見つめ、あの"声"について考える。


 あの感情の無い無機質な声は、特殊能力(スキル)を使用、解除する際にのみ聴こえる。


 まるで意思を持たない誰かがカレンの中で生きているように。


 (……ん? オレの中で生きてる? まさか!)


「………擬似人格?!」


 カレンは目を見開く。まさに目から鱗が出た気分だ。もし本当に擬似人格というなら会話が出来るかもしれない。

 今更ながら、何故気づかなかったのか、何故今まで話し掛けなかったのか。


 カレンは苦笑いを浮かべた。


 カレンはガバッ! と起き上がると、物は試しに擬似人格に話しかける。


『おい、お前はオレの声が聴こえるか? お前は何だ?』


 すると、一拍おいて無機質な声が頭に響き、カレンの質問に答えた。


『私はあなたの中に存在する擬似人格です。根源の一部とも言います』


 返事が返ってきた事に驚きを覚えつつ、カレンは話を続ける。ていうか普通に会話できんじゃん。


『根源?』


『"根源"とは言わば、魂のようなものです』


『なるほど、つまりお前はオレの魂の一部を元に作られた存在、という事か?』


『はい、大体それであってます』


 どうやらこの擬似人格にはちゃんと魂が有り、カレンの中で生きているようだ。


 (オレの魂の一部を元に作られた存在という事は、こいつはオレの兄弟も同然という事か。いや声からして女か?  声が中性的すぎてどっちか分かんねぇ)


『お前はオレの魂の一部を元に生まれた存在だと言ったな。という事は、お前はオレの兄弟姉妹みたいなものか? それとも全くの別物か?』


『その件に関しましては、ご自由にお捉えください』


(なるほど、同意もしなければ否定もしない。どっちでもいいという事か。なら――)


『分かった、なら好きにさせてもらう。……そうだな、今日からお前はオレの相棒(パートナー)というのはどうだ?』


相棒(パートナー)、ですか?』


 唐突過ぎる提案に、擬似人格も戸惑いを見せる。


『ああ、そうだ。それと、相棒(パートナー)のお前をいつまでも『お前』と呼ぶのはこっちとしてもあまり良い気分じゃねぇ。記念にオレから名前をプレゼントしよう』


『……名前、私に名前……』


 顔が無いし、声が一定の波長だがら感情が読めないが。なんとなく喜んでいる気がするし、困惑しているような気もする。


 カレンは腕を組んで瞳を閉じると、擬似人格さんの名前を考える。


 (一人称は"私"だし女かな? 女でいいよな? 声もそれっぽいし。女の名前……………ダメだ良いのが思いつかん。声しか聴こえねぇから特徴とか分かんねんだよなぁ。

 そうだ、オレの一部ってんならオレの特徴とかから考えれば良いんじゃね! オレの特徴、悪魔、黄金の瞳、黒髪、黄金色の魔力と紅色の魔力、魔力、紅、女、姫………)


 自分の中で考えがまとまると、呟くようにその名を口にする。


『……紅姫』


『………』


『お前の名は、『紅姫』だ!』


『『紅姫』……私の、名前』


 その瞬間、擬似人格にカレンの力が流れ込み、進化が始まった。


 擬似人格の魂、いや『心』が創り変えられていくと同時に、温かい気持ちが湧き上がる。おそらく紅姫の心がカレンに流れてきているのだろう。


 そして数分後、進化が終わり頭に美しいく、どこか幼い元気な女の子の、それもずっと流暢になった声が響く。


『今日より儂の名は『紅姫』じゃ、よろしくの、お前様!』


「うおっ!」


(驚いた。名をやっただけでここまで変わるとは……それに、何でこんな話し方なんだ? さっきまで普通に話してただろ?)


 カレンは苦笑いを浮かべ、紅姫に返事をする。


『ああ、よろしくな紅姫』


『うむ、それと喜べお前様、特殊能力(スキル)【紅姫】が発現したぞ』


特殊能力(スキル)【紅姫】?  何で紅姫が特殊能力(スキル)として出てくるんだ? どんな能力なんだ?』


 何故か擬似人格が紅姫へと進化したと同時に、新しい特殊能力(スキル)が発現した。これで三つ目だ。

 しかも特殊能力(スキル)名は【紅姫】と、先程名付けた名前と同じだ。


 カレンは困惑した表情になり、首を傾げる。


特殊能力(スキル)【紅姫】の能力は"思考加速"じゃ。

 この特殊能力(スキル)において儂がお前様を補助する役割をになっておる、おそらく特殊能力(スキル)名が儂の名になっておるのもそれ故じゃろう』


『そうか……つまり、この特殊能力(スキル)を使用した場合、紅姫がオレの相談役的なものになってくれるってことか?』


『まぁ大体あっとるの』


『ところで、"思考加速"って要はどんな能力なんだ?』


『簡単に説明すれば、短時間で常人の千倍の速度で思考することができる能力じゃ』


(なかなか便利な特殊能力(スキル)のようだ。それにしても短時間で常人の千倍か、ピンとこないな。そういえば、村でラギウスと〈念話〉した時、かなり長く話をしていたが、実際にはほんの数秒しか経っていなかったな。もしかして思考加速のお陰だったりするのか? となると、ラギウスのやつも思考加速の特殊能力(スキル)を持っていそうだな)


 カレンが一人で考えに耽っていると、紅姫から声がかかる。


『ところでお前様よ』


『なんだ?』


『儂の名をどうして『紅姫』にしたのじゃ? 何か理由があるのかのう?』


『お前はオレの中にいるわけだし、知っているかもしれないが。オレには魔力が二種類あってな。一つがの黄金の魔力、もう一つが紅色の魔力。お前はオレの一部だからな、『紅姫』の名前はカレンの魔力の色から取ったんだ』


『くふー!! お前様の愛を感じるのぉ!』


(愛? 何言ってんだこいつ。というか以前と人格変わりすぎじゃね?!  以前のお淑やかな感じはどへ行った?!

 ここで否定すると面倒くさそうだし、同意しといてやるか。どっちにしろ面倒な事この上なさそうだが)


『ああそう、そうだな、愛だな(棒読み)』


『おおっ これはもう、相思相愛というやつじゃのう! お前様!』


 やべぇ、やっちまった! 選択を間違った! 取り返しがつかなくなる気がしてきた。なんとか誤解を解かなければ。


『ちょ、ちょっと待て。あくまでもお前は相棒(パートナー)で、友人のようなものだ。だからこれは友情愛だ!』


『なんじゃ乙女みたいに恥ずかしがるとは、初々しいのう! 可愛いのうお前様!!  じゃが、儂はそんなお前様も愛しておるぞ。じゃから心配しなくても良い ! 儂は生涯の伴侶(パートナー)じゃからのう!』


 あっ……もう、だめだ。こいつには何を言ってももう遅い。まさか相棒(パートナー)伴侶(パートナー)と捉えるとは。


 紅姫は完全に自分の世界に入ってしまい、一人で『きゃっ』とか『お前様の愛で胸が一杯じゃ』とか『強く抱きしめてたもー!!』とか『くふー!』とか『儂らはもう夫婦(めおと)じゃのう!』とか言って暴走している。完全に手がつけられない状態だ。

 それにしても随分と感情が読みやすくなった。


 ただ少し残念な感じが否めないが。


 カレンが内心で溜息をついていると、ようやく自分の世界から戻って来た紅姫が、真面目な声音で話しかけてきた。


『のうお前様』


 カレンは若干疲れ切った声で返事をする。


『何だ? もうお腹一杯なんだけど』


『そこの卵、孵化しそうじゃぞ』


『なにっ!!』


 カレンはバッ! と視線を卵に向けた。


 卵は小刻みに揺れていだが、徐々に大きく揺れだし、そして、罅が入った。


 紅姫に続いて卵の孵化。今日一日で展開が早過ぎる。頼むから休ましてくれっ! と頭を抱えたくなる。


「っ!! う、生まれる!」


 カレンは急いで卵に駆け寄り、ワクワクする気持ちを抑え、じっと見守った。

 次第に卵の罅は大きくなり、殻が下に落ちていく。


 パキッ! パキッ! パキパキッ!


 カレンの心臓の鼓動が早くなる。


 そして――







「ピーッ!」


 ――小さな(あか)(ドラゴン)が生まれた。

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