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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第1章〜最強への道〜
23/201

戦闘

「ふぅ……これで何体目だ?  随分倒したな」


 そう言って血の付着した刀を振り払って鞘に戻し、カレン(オレ)は小さく息を吐いた。


 現在森へ入って約二時間、これまで数十体以上の魔物を斬り伏せ、いつの間にやらかなり奥まで来ている。


 ここの魔物はラギウスが言った通り、他とは比べ物にならないぐらい強い。


 フルール村近くの森の魔物は紙のようにスパスパ斬れたが、このムエルト大森海に生息する魔物達は、肉が硬く断ちにくい。中には首を刎ねても襲いかかってくるものまでいて、少し焦りを覚えた。まったくとんでもない生命力だ。


 オレは更に森の奥へと歩を進める。


 森の中は何処も似たような景色で、岩や樹には苔がびっしりと生えており、どこか神秘的な雰囲気が漂っていた。手付かずの森というのはこういうものなのだろう。まさにファンタジーの世界に出てくる森だ。


 そんな森の中を彷徨い続ける。


 同じような景色故に目印になるようなものは無い。その為、今自分が歩いている現在位置が不明、右か左か、どちらに行けば良いのかも分からない。つまり、完全に迷子である。


 かといって焦ったりはしない。いざとなればラギウスに迎えに来てもらえば良い話だからな、オレは別段気にしていない。


 とにかく視界に入った所を赴くままに歩いていると、本日何体目か分からない魔物が目の前に現れた。


「初めて見るな……特徴からして、裂口獣(ギドラ)か? 思っていたより大きいな」


 オレの目の前に現れた魔物は裂口獣(ギドラ)といい、体長約四メートル。全身を赤茶色の毛で覆い、顔はどことなくアリクイに似ている。目は小さく真っ黒、細長い口は裂けているかのように目の後ろまで続いており、そこには小さな牙がずらりと並んでいる。首は少し長めで、胴体は少しずっしりとしており、そこから六本の脚が生えている。その足からは長い鉤爪がのびていて、尻尾は団子のような毛玉がちょんと付いており、そこだけ見ればどこか微笑ましい。


 裂口獣(ギドラ)はオレをみるや否や、その細長い口を開き、まるで機械音のような声を発して、突っ込んできた。


「ギイィィィィィ!!」


「どうも感に触る鳴き声だな」


 裂口獣(ギドラ)はその細長い口を開き、獲物に噛み付こうとする。

 オレは大きく開いた口を避け、脚に力を入れると、一気に裂口獣(ギドラ)に接近した。すると裂口獣(ギドラ)は近づいてきた獲物(オレ)に、六本の脚のうち、前にある二本の脚を頭上に上げると、その大きな鉤爪をオレにめがけて上から振り下ろした。


 そうくるだろうと予想していたオレは、振り下ろされる鉤爪を刀で受け流し、そのまま振り下ろされた脚を二本まとめて斬り落とす。


「ギイィィィィィィィィィィィ!!」


「脚が六本あるんだ、もっと上手く使え!」


 腕を切り落とされた裂口獣(ギドラ)は、切断された腕から血を吹き出しながら地面をのたうち回り、次の瞬間には怒りの形相でオレを睨んだ。


「なんだ、怒ってんのか?  先に襲いかかって来たのはお前のほうだろう。自業自得だ」


 オレは立ち上がった裂口獣(ギドラ)に距離を詰めると、その細長い口を切り落とし、次の瞬間には痛みを感じさせる間も無く首を跳ね飛ばした。


「ふぅ……」


 オレは刀に付着した血を振り払うと、鞘へと納め、裂口獣(ギドラ)の死体に視線を落とした。


「オレを喰おうと思って襲ったんだろうが……今回は運が無かったと思ってくれ」


 オレが移動を開始しようとすると、左の樹の間から一匹の魔物が姿を現した。


「シュルルルル!」


「血の匂いにつられてやって来たか、しかも一匹だけじゃないな……他にも五、六匹か、こっちに向かってくるな」


 今見える範囲では一匹しか確認できないが、最近覚えた〈魔力感知〉の魔法を周囲に展開している事により、見えない魔物までどこにいるか把握できる。


 オレは目の前の魔物を見ると、愉快そうに笑う。


「……死呑獣(アルー)か、こいつも初めて見るな」


 アルーは全長約三.五メートル程あり体は細長く、頭は蛇と蛙を足したような顔をしている。鼻の上には長さ二十センチの突起があり、目はそのまま蛙のようだ。

 口はかなり大きく、牙が数本内側に向かって生えている。


 子供のオレなら容易く丸呑みできるだろう。


 脚は前にある二本だけで指は少し長いのが二本、短いのが一本ある、全身が赤紫色で鱗などが無く、何かテカテカした液体に身を包んでいた。


「見た感じ、ヌルヌルしてそうだな……」


 オレが観察していると、死呑獣(アルー)は近くにある裂口獣(ギドラ)の死体に近づくと、口を大きく開き、死体を丸呑みし始めた。


「そういえば、コイツは死体しか食べないんだっけか?」


 丸呑みし終えた死呑獣(アルー)の腹は妊婦のように大きく膨れ上がる。

 死呑獣(アルー)は死体を食べた事でお腹がいっぱいになり、オレに興味を示さず、膨れた腹を引きずるように森の奥へと消えていった。

 これから数日かけてお腹の中を消化する。その間はエネルギーの消費を防ぐため、ピクリとも動かなくなる。

 死呑獣(アルー)は獲物を食べた後は、完全に無防備な状態になる。故に、安全なところを探して、そこで消化するのだ。


 死呑獣(アルー)が森の奥へ消えると、オレは気配のする後ろへ視線を向けた。すると、タイミングよく五匹の魔物が物陰から出てくる。


小鬼(ゴブリン)か……」


 五匹の小鬼(ゴブリン)が醜悪な顔で威嚇する中、オレは顎に手を添えて少し考事をし始める。


 そろそろ覚えたばかりの攻撃魔法の試し打ちがしたいな。でも他にも試したいことはあるし、どうしようか……。


「「グギャァァ!」」


「ギャオォ!!」


「ナギャァ!」


「ギャオ!」


 考え事をしているオレに、小鬼(ゴブリン)は棍棒を振りかざし、何の躊躇もなく突っ込んできた。

 構える動作もしないオレは、無防備であり格好の獲物だ。

 頭の悪い小鬼(ゴブリン)たちが襲いかかってくるのも無理はない。


 しかし、人が考え事をしている時に周りで騒がれるのは、多少イラつく。


 五匹の小鬼(ゴブリン)が次々と攻撃を仕掛けてくるが、オレはそれを足捌きだけで全て避けきる。これぐらい造作もない。


 当たらない事に業を煮やした一匹の小鬼(ゴブリン)が、手に持った棍棒を投げ捨て、飛び付こうとする。そこへ――


「ギャッ!!」


 ――がら空きの胴体に回し蹴りを叩き込む。


 バキッ! ボキッ! という嫌な音が鳴り、吹っ飛んだ小鬼(ゴブリン)は背後の木に体を叩きつけられ、その場で息絶えた。おそらく折れた骨が内臓に刺さったのだろう。


「人が考え事している時は静かにしろ! ボケ!」


 そう言ってオレは残りの小鬼(ゴブリン)を全て素手で倒した。


 回し蹴り、アッパー、踵落(かかとお)とし、腹パン。全て一撃で沈めた。


 小鬼(ゴブリン)を倒したオレは、()()()()()に視線を向ける。


「クオォォォォン!」


 視線の先に現れたのは、これまた初めて見る魔物だった。


鎌爪獣(リーパー)、か……」


 鎌爪獣(リーパー)は見た目二足歩行の亀で、高さ二メートル程だ。太い両腕にはまるで鎌のような大きな爪が二本備わっており、淡い青色をしている。瞳は黄緑色で、目の上には捻れた小さな角がある。甲羅には棘があり、尾の先には爪と同じように、鎌のようなものが付いている。


 オレは鎌爪獣(リーパー)に向かって、手を突き出した。


「ちょうどいい、お前で魔法の試し打ちをしてやろう」


 鎌爪獣(リーパー)は両腕を広げると、オレに向かって駆け出した。


 見た目は二足歩行の亀だが、意外にも動きが早い。


「クオォォォォン!!」


 オレは不敵な笑みを浮かべると、頭の中で魔法の術式を構築した。

 術式を組み上げていくごとに、まるで歯車が噛み合っていくのような感覚を覚える。


 全ての歯車が噛み合い、動き出す。術式が完成した。


 術式を構築し終えると、オレは魔力を充填する。オーロラのような黄金の光が全身を包み込む。その光景はなんと美しいことか。


 悪魔なのに何故か神々しい。矛盾を感じるなぁ。


 オレは鎌爪獣(リーパー)に向かって、口元を吊り上げ、小さくつぶやく。


「足が速いのを自慢したいなら、オレとじゃなくて兎と駆けっこでもしてろ。ウスノロ!」


 そして今まさに、その巨大な鎌をオレに振り落とそうとする鎌爪獣(リーパー)に向かって、オレは、それを放った。






「〈拡散魔導衝撃波(ゼルエル)〉」






 その瞬間、まるで空間が爆ぜたような衝撃が、凄まじい轟音と共に前方へと放たれ、視界全てが消し飛んだ。


 体の芯にずっしりと響く轟音は大地は抉り、全てを破壊する。


 土煙が空高く舞い上がり、太陽を覆う。


「………」


 土煙が少しづつ晴れていくと、そこには、先程までオレの視界にあった森が綺麗さっぱり無くなり、まるで荒野のようになっていた。


 その光景に頬を引きつらせ、苦笑いを浮かべる。


 ヤバくね、コレ。


「ちょっとしか魔力を込めてねぇのに……なんつう威力だ!」



 〈拡散魔導衝撃波(ゼルエル)〉――魔力をなんやかんやで音へと変換し、大気に強烈な衝撃を与える事で広範囲に渡ってその威力を伝える、超広範囲型殲滅魔法。


 カレンは知らない。今カレンが使ったこの魔法は、魔導師たちが百人以上集まり、それこそ莫大な魔力を必要として発動する大魔法だという事を。

 カレンは知らない。この魔法が人間達の間では伝説級の魔法だということを。


 閑話休題


 オレは発動した魔法のあまりの威力に、心の中でため息をつく。オレが会得している攻撃魔法はコレを入れて合計五つ。その内の一つが早くも使用禁止レベルだ。他の四つも、もしかして……。


「どんどん人間離れしていくな………元から人間じゃねぇけど」


 オレは手に視線を落しながら呟く。


「……こいつも、使いどころを考えねぇとなぁ」


 すると、ラギウスから〈念話〉が繋がった。


『カレン、先程大きな揺れを感じたが、何かあったのか?』


『あ〜、魔法の試し打ちをしただけだ、心配ない』


『そうか、ならいい……ただ、あまり派手にし過ぎると強力な魔物を呼び寄せる、用心しろ』


 それだけ言うとラギウスは〈念話〉を切った。


 大きな揺れを感じ、わざわざ〈念話〉してくるラギウスは随分心配性な奴だ。


 お父さんか、アイツは!


 オレはそんなラギウスに対して自然と笑みがこぼれる。


 心配性な(ドラゴン)、どこかシュールだ。


 まぁ、そんな事より……


「……あいつ、フラグ立てやがった」


 そんなオレの小さな呟きが、森の中に溶けて消えていった。

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