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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第1章〜最強への道〜
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特殊能力

 数十分前、この世界での名を貰い、全身に駆け巡る高揚感から落ち着きを取り戻したカレンは、今は大人しく地面に胡座(あぐら)をかいて座っていた。


「落ち着いたか?」


「ああ、もう大丈夫だ」


 あやふやな存在だったカレンは、この世界での名を貰う事で世界との繋がりが強くなり、魔力は先ほどとは比べ物にならないほど大きくなっていた。

 湧き上がる力に興奮するのも無理ないだろう。


 カレンは今後の予定について聞こうと、ラギウスに話しかけようとした。その時、無機質な声が頭に響く。


特殊能力(スキル)再生(さいせい)】を獲得。続いて特殊能力(スキル)威圧(いあつ)】を獲得』


「うおっ?! な、なんだ?!」


 突如、頭に直接聞こえた知らない声に驚き、カレンはラギウスに確認をとる。


「ラギウス、今〈念話〉でオレに話しかけたか?」


「いや、話しかけてはいない。何か聞こえたのか?」


「なんか特殊能力(スキル)を獲得がどうたら……」


特殊能力(スキル)が発現したのか?!」


 ラギウスの驚き様にカレンは体をビクッと跳ね上げ、目を白黒させる。

 そんなカレンにラギウスは興味津々とばかりに顔を近づけてじっと見つめた。


「で、何という特殊能力(スキル)が発現したのだ?」


「確か、【再生】と【威圧】だったかな?」


 ラギウスは僅かに目を見開き、更に興味深そうにカレンを見つめる。


「まさか、いきなり特殊能力(スキル)が発現するとは……しかも二つも!」


「おい、さっきから特殊能力(スキル)って何なんだ?  そんなに凄いもんなのか?」


「うむ、特殊能力(スキル)と言うのはそう簡単に発現するものではない。それこそ生涯発現しないまま人生を終える者が殆どだ。

 人間の世界では、特殊能力(スキル)は一つ持っているだけでもその者の名は有名になる。二つ持っていれば英雄扱いされ、他国にまでその名が知れ渡る事もある」


 どうやら特殊能力(スキル)と言うのは、相当貴重なものらしい。ていうか、二つ持ってれば英雄扱いって、オレもう二つも発現しちまったぞ。


「で、結局特殊能力(スキル)って何だ、魔法とどう違う?」


「そのままの意味だ、特殊能力(スキル)とは、その者に備わっている能力を指す。まぁ、特性とでも言えば分かりやすいか。

 魔法との違いは、魔法というのは魔力を消費して発動するのに対して、特殊能力(スキル)は魔力を一切必要とせず、術式も存在しない。先も言ったように特殊能力(スキル)とは、その者に元から備わっている能力だからだ。とは言え、中には魔力を使用する事で能力が向上する特殊能力(スキル)もあるにはある……」


 ラギウスは続けて話す。


「魔法は誰でも会得出来る。それこそ魔法術式さえ覚えれば、例え魔物であっても使う事が出来る。だが、特殊能力(スキル)は違う。特殊能力(スキル)を会得、発現させるには特定の条件と強い感情のうねり、そしてその者の経験が必要だ。

 他にも細々とした内容はあるが、魔法と特殊能力(スキル)の違いを大雑把に言えばこんなところだ」


 つまり、術式を構築し魔力を消費して発動するのが魔法で、魔力を消費せず術式を必要としないのが特殊能力(スキル)ということなのだろう。

 しかし魔力を必要としないとは、特殊能力(スキル)とは便利ものである。


 ちなみに、なんとなくだが【再生】と【威圧】が発現した理由も分かった。


 まず【再生】だが。これは、初めてこの世界に来た時、魔物と対峙し傷だらけになり、絶体絶命になったその際の死にたくないという強い思いが、【再生】という特殊能力(スキル)で発現したのだろうと推測出来る。


 次に【威圧】だが。これはどう考えても、村で激怒したことが原因だろう。

 さらに示威行為として、魔力を解放したのも後を押したのだろう。おそらくその行動が【威圧】という形で特殊能力(スキル)になったに違いない。


 特殊能力(スキル)が発現するのに必要なもの、特定の条件、感情そして経験。カレン個人としては、特に重要だと思われるのが感情だろうと思う。理由として根拠など無いので、何となく、という領域を出ない。


 そういえば、魔法は術式を頭の中で構築する事で、魔力を消費して発動出来るのだが、特殊能力(スキル)はどうなのだろうか。ふとそんな事が頭に浮かんだ。


特殊能力(スキル)ってどうやって発動するんだ? 魔力や術式は必要ないって言ってたよな?)


 分からないことはラギウス先生に聞くべし。


「なぁ、ラギウス。特殊能力(スキル)ってどうすれば発動出来るんだ?」


「なに簡単なことだ。頭の中で特殊能力(スキル)を選び、『発動』と唱えればよい」


「それだけでいいのか?」


 怪訝な顔のカレンに、ラギウスは無言で頷く。


 半信半疑ながらも、ものは試しにやってみることにする。


(怪我はしてないから【再生】は発動しても意味ないな。よし、取り敢えず『【威圧】発動』)


 すると、また頭に無機質な声が響いた。


特殊能力(スキル)【威圧】を発動』


 その瞬間、オレを中心に半径三十メートル圏内に重く、びりびりとした空気が漂う。


 その範囲にいた動物達は、カレンの【威圧】に当てられ、その殆どが逃げ出した。しかし、それはごく少数であり、特殊能力(スキル)の効果範囲にいた殆どの動物は失神、もしくは()()()()()()()()


 オレは努めて冷静な態度でラギウスに問いかける。冷静といっても実は頭の中はプチ混乱中だったりするのだが。


「おい、ラギウス」


「何だ?」


「【威圧】で動物が失神、ていうか死んでるやつもいるんだが……」


「動物達が失神もしくは死亡している理由として、それは単純にお前と動物達との力の差だ」


 言っている意味が分からないと、カレンは首を傾げ、怪訝な表情をラギウスに向ける。


「早い話が、お前の【威圧】に当てられた動物が強烈なショックで失神、死亡したのだ」


「はい?」


(え? 威圧って威嚇みたいなもんじゃないのか、何でそんなことになるんだ?!)


「意味が分からん!」


「先程言っただろう、単純な力の差だと」


「その力の差って?」


「ここでの"力"とは"魔力"のことだ。この世界において魔力の大きさは、そのままその者の強さを表す。と言っても、これはあくまで目安なのだがな……それでも大体の力量を図ることはできる。

 今回この様な事態が起きたのは、お前の魔力と動物達との魔力の差があまりに大きい為だ」


「なんだそりゃあ?!」


 魔力の差が大き過ぎるから、ショック死って……


(一回解除しておくか、特殊能力(スキル)ってどうやってオフにするんだ?  取り敢えず『【威圧】解除』!)


特殊能力(スキル)【威圧】を解除』


 頭の中でそう唱えると、またも無機質な声が響き、周りの張り詰めたような空気が嘘のように和らいだ。

 どうやら解除出来たらしい。


 それにしても魔力の差か……


「なるほど、理由は分かった。 ところでオレの魔力ってどれくらいの大きさなんだ? というか分かるか?」


「うむ、〈魔力感知(まりょくかんち)〉という魔法を使用すれば分かる」


「じゃあ、教えてくれ。じゃないと【威圧】が使えん」


「では、この世界には魔力の大きさを数値として表す魔力値というものがある、それで教えよう。

 まず、動物達の平均魔力値が百〜三百、それに対しカレン、お前の魔力値は約五十九万だ」


 予想の遥か上をいく数値に、カレンは驚愕に目を見開いた。


(なんだそのフ○ーザ様以上の数値は! 力の差があるとは言っていたが、これは予想外だ!)


「じゃ、じゃあ人間の平均的な魔力値はいくらだ?」


「平民で二百〜五百、訓練を受けた兵士で七百〜千、鍛えに鍛えた精鋭で一万〜二万と言ったところか……ちなみに村にいた兵士達の平均魔力値が二万、一番強いもので九万五千だ、人間の世界で魔力値が九万五千だと、かなりの強者に位置する。王国だとおそらく五本の指に入るはずだ」


 オレは顔を盛大に引きつらせた。確かに村での兵士達と戦った時、弱いとは思った。しかし、まさかここまで差があるとは思ってもみなかった。


 オプナーの奴で王国で五本の指に入るほど、じゃあオレって一体。


「ちなみに聞くが、どれくらいの差があればショック死するんだ?」


「自身の魔力値の十パーセント以下の者でショック死、三十パーセント以下で混乱、五十パーセント以下で恐慌状態、九十パーセント以下で恐怖だな」


 オレは引き攣った笑みを浮かべる。


「……これじゃあ【威圧】は使えないな」


 完全に宝の持ち腐れだ。本当にここぞという時にしか使えない。もし人の多くいる街で【威圧】を発動すれば、街には屍の山が築かれるだろう。それだけは笑い事にならない。


 そう考えると【再生】は便利だ。腕が喰われようが、足が吹き飛ぼうが、発動している限り、元どおり再生する。


(と言いつつ、【再生】も場合によっては目立つし、使いどきは重要だな)


 とにかく、特殊能力(スキル)は強力過ぎて使い勝手が悪い。そう思ったカレンは、ラギウスから魔法を学ぶ事にした。

 魔法なら無為に人を傷つける事もなく、自分で制御出来る。といっても、これは魔法を使う者の技量次第だ。


「ラギウス、魔法をいくつか教えてくれないか?  出来れば、探知系、防御系、移動系の魔法がいいんだが」


「うむ、よかろう。もとより魔法は教えるつもりだ」


「そうか、助かる……ところで魔法っていくつあるんだ?」


「魔法は固有魔法も合わせて、全部で約四百程度だ。しかし、それはあくまで数百年前の時点であって、今はもう少し増えているかもしれん」


「思ったより多いな……ラギウスはいくつ使えるんだ?」


「ワシが使える魔法の数は二百二十七個だ」


 二百二十七。つまり、四百ある魔法の半分を扱えると言うことである。成る程、世界最強の一体と豪語するわけだ、流石に凄まじいものだ。


 だが、そんな数の魔法を覚え切れる自信は、カレンにはない。ここはある程度、必要な魔法のみを絞って、地道に覚える他なさそうである。


「そんじゃ早速、基本的な魔法から教えてくれないか? 出来るだけ簡単なやつ」


「その前にカレン、お前は体内を流れる魔力を感じ取る事は出来るか?」


 オレは何の事かと首を傾げ、さっぱり分からん、と言う表情をラギウスに向ける。


「ふむ、分からんか……カレン、魔法を会得するにあたって、まず己の中の魔力を知る事から始めよ。でなければ一生かかっても魔法は会得できん」


「マジかよ……分かった。で、どうすれば自分の中の魔力を感じ取れるようになる?」


 村で魔法を教えてもらい、〈身体強化〉の魔法は使えるが、あれに関しては殆ど感覚でやっている為、魔力その物を正確に感じ取れていると言えば嘘になる。

 つまりどう言うことかと言うと、魔法は使えるが、魔力って何? という状態なのだ。


 カレンの問いかけに、ラギウスは前脚を目の前に差し出す。


「ワシの脚に触れよ」


 怪訝な表情になりながらも、カレンは言われた通りラギウスの脚に触れる。

 すると、触れた箇所から何やら不思議なものが流れてくる感覚に気づく。


「……?」


「感じたか。今お前の手を伝って体内に流れているもの、それが"魔力"だ。

 カレン、お前は村で〈身体強化〉の魔法を使っていたが、魔力その物を感じ取れていない為に、本来発揮される効力の半分しか力を出せていなかった」


「マジか……」


「とにかく、まずは己の中の魔力を正確に感じ取れるようになる事、その次が()()()()を知る事だ。では、早速始めて行くか」


 それから数ヶ月。カレンはラギウスから魔法についてのアレコレを教わり、特訓の日々を送るのだった。


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