Aブロック第十八試合 リチャード
「そ、そんな……」
「………」
「アイツやるな……!」
「ス、特殊能力持ち!?」
呆気に取られる群衆の中、アレンの小さな呟きが伝播する。
観客は騒めきたち、口々にそんな、まさか、と動揺を零す。
石畳の舞台の上には選手が二人。一方は相手を見下ろし、もう一方は地面に額を擦り付けていた。
それは、圧倒的力量差による明確な差。強いか、弱いか、それだけの光景。
「デュフ……デュフフフフフフっ! 何度やっても同じこと。貴殿は我が完璧なるこの肉体に傷一つつける事叶わん!」
光に反射した丸メガネを人差し指で押し上げ、静かな碧い眼で相手を見下ろす。
「………!」
(冗談じゃねぇ、シャレになんねぇぐらい強ぇぞコイツ!!)
リチャード・ロー。ヘラクレス症候群というこの学園都市を含めた王国全土でも希少な症状を持つ彼は、密かに優勝候補として囁かれていた。
その類稀なる超人的な動体視力と、戦闘能力の高さ、そして、上級魔法が使用可能という、学生としてはオーバー過ぎる性能を持っており、仮に優勝は出来ずとも上位に食い込むのは確実と言われていた。
そして今日、これまでのSクラスの試合がそれに拍車をかけ、決定づけた。彼は上位入賞は確実だと。
Sクラスの六人中二人は負けたものの、その試合内容は凄絶の一言だったと言える。高い戦闘能力と思い切りの良さが――一部を除いて――誰が見ても優秀だと、強いと、そう感じる試合内容だった。特に、勝利した四人は圧勝とも言える勝ち方だったのが強い衝撃を与え"Sクラスは強い"と印象づけた。
故に、密かに優勝候補として上がっていたリチャードが無名の選手に負けるはずがないと、圧勝すると誰もが思い、確信していた。
しかし、試合開始から五分。群衆の予想は大きく砕かれ、予測していた光景とは真逆の光景を目の当たりにする。
優勝候補のリチャード・ローが膝をつき、無名の選手がそれを見下ろす。
大番狂せだ。
◇◇◇◇◇
「んじゃ、ちょっくら行ってくるぜ」
「行ってらっしゃーい!」
「足下掬われんなよ!」
ジュドーとヘンディが大きく手を振り、シャナとテレーゼが苦笑いで見送る。
ここまでわかった事は、事はそう上手く運ばないということ。ヘンディの言う、足元を掬われるなという――おそらく本人は軽く言った――言葉は全員に当てはまる、胸に刻むべき忠告だ。
リュウガから「舐めてかかるなよ」と重ねて忠告をされ、ふと相手選手の名前を思い出す。
無名の選手だ。これと言った情報もなければ噂も聞かない。わかるのは相手選手が戦魔戦騎学校の生徒という事だけである。
(レオナルドほど強いとは思いたくはないな……)
今のところ、レオナルドはSクラスを除けばエミリアの従姉妹のアルテミスと並び、飛び抜けた実力を持っている。自身の相手選手がレオナルドやアルテミス並みの実力があるとは思いたくないが、可能性としては捨てきれない。何より、不気味なほど情報が無いという点がリチャードの不安を煽る。
(楽勝とか思ってた昨日の俺をぶん殴ってやりてぇ!)
魔力値という点ではSクラスは頭一つ抜き出ている自負はある。しかし、これまでの試合を見る限り、魔力値が他の選手より抜きん出ているからと言って勝てるわけではないと思い知らされた。正直、シャナが負けたとき、現実は厳しいと内心嘆いて、そして、がっかりした。
強くなったと天狗になっていた鼻っぱしらをへし折られ、自分達も学生の域を出ないと痛感した。
不安を誤魔化すように両頬を叩き、気合を入れる。既に緊張しすぎて心臓が飛び出しそうな勢いで鼓動を刻んでいた。
リチャードは軽く手を振ってその場を後に、待機場までやってくる。武器は勿論大剣。身の丈ほどある鉄の塊と言っても差し支えない大きさだ。仰々しく、そして頼り甲斐のある馴染んだ重み。
普通の剣だと軽すぎて木の枝を振り回しているようで寧ろ扱いづらい。少し重みがあるぐらいが丁度良い。
『選手入場!!』
入場の合図がかかる。
大きく息を吸い込み、肺を新鮮な空気が満たす。けれど、やはり緊張は解れない。それどころか不安は募る一方だ。
リチャードは意を決して一歩踏み出した。
重い。半年前の路地裏の一件の時もそうだったが、こんなにも足が重いのはとにかく違和感だ。まるで自分の体じゃないような錯覚を覚える。
ゲートを潜れば視界いっぱいに人、人、人の大歓声。
体を電気が走ったみたいに音が打ちつける。こんな中で戦って本来の実力が発揮出来きるのか疑問に思ってしまう。
『入場して参りました、イーストゲートからは魔法騎士学園の怪力自慢! ヘラクレス症候群という希少な性質を持って生まれたにも関わらず、常に引きこもりの異邦人。ご紹介しましょう、リチャード・ロー!!』
「なぁ、毎回毎回変な紹介の仕方するのやめてくんない!」
『対するウエストゲートからは戦魔戦騎学校から頭のおかしい人! グルグルと目が回る牛乳ビンのようなメガネはキャラ作りか! これ以上は情報が無いので紹介のしようがありません! 頭のおかしい人、ジョルト・ローバー!』
「デュフフっ……解せぬ!」
両者所定の位置につく。かたや見下ろし、かたや見上げる。
ジョルト・ローバー。身長は百六十センチ半ば。センター分けにした赤茶色の髪と一般的な碧眼で、目元だけ何故かキリッとしていて無駄に渋い。
小太りな体型と頭に巻いたバンダナ、牛乳瓶メガネが特徴的な普通の男。強者特有の覇気のようなものはまるで感じられず、それが逆に不気味さを醸し出していた。
武器は所持しておらず、おそらく拳や脚を使って戦う拳士だろうと推測する。
時折メガネを掛け直し、「デュフフフっ」と笑う様が少し気持ち悪い。
これはキャラを作っているのか、それとも素の姿なのか。どちらにしろ、こういった試合でなければ近寄りにくい類の人種だ。というか、自分からは決して近寄りたくない。
それはそうと目を凝らして観察する。強そうには見えない。魔力値もそれほど高いわけではなさそうで、立ち姿も芯が無い。端的に言って、自分と比べると素人と言っても差し支えない立ち姿だ。
訓練は受けているのだろうが、日が浅そうに見える。
というのがリチャードの見解だ。
(付け焼き刃感が否めないが……油断禁物ってやつだな)
見た目で判断すると痛い目を見る。ここまでの試合内容でそれは脳に深く焼きついている。
仮にも代表選手に選ばれるぐらいなのだから、何かしら強みのようなものを持っているのは間違いないだろう。
(様子見をしつつ、全力で叩き潰す。時間をかけるのは良くないな、多分……)
何か嫌な予感を感じながらも、リチャードはスイッチを切り替える。それを察してか、ジョルトが意味深に口角を上げた。おそらくジョルトもスイッチを切り替えたのだろう。
「デュフフフっ……」
どうやら相手は自信があるらしい。その証拠に、メガネの奥からこちらを覗く眼光はギラついていた。
身近な人間で例えるなら、相手を完膚なきまでに叩き潰す前のエミリアと同じ目をしている。リチャードからすれば苦手な目だ。
「準備はいいか?」
「ああ、いつでも良いぜ!」
肩を回し、軽く柔軟をして体をほぐす。
「愚問」
メガネを掛け直す。すると、メガネが光に反射して怪しい雰囲気を醸し出す。
「よし!」
確認をとったシェイバは腕を天高く掲げた。
「Aブロック、第十八回戦――始めッ!!」
勢いよく振り下ろされたシェイバの手。文字通り戦いの火蓋が切って落とされたその瞬間、リチャードが地を蹴り、背負っていた大剣に手を掛ける。
『リチャード選手、先制攻撃! 相手が動くより速く目の前で大剣を振り下ろす!!』
『思い切ったね。しかし、様子見かな? 先制攻撃にしてはどうも雑に感じる』
大質量の大剣が振り下ろされる。
刃は潰してあるとはいえ、これだけ大質量の鉄の塊をまともに受けるとなると人間の骨は簡単に砕ける。ましてやヘラクレス症候群という大きなアドバンテージを持っているリチャードが振り下ろせば、その破壊力は計り知れない。が、ジョルトは避けなかった。避けるどころか、驚くべきことに正面から受けに行った。
『ジョルト選手、剛腕の一撃を受け止めたー! 見た目にそぐわない美しい真剣白刃取りぃ!』
(マジか、コイツ……!)
様子見とはいえ、真正面から受け止められた事に少なくない動揺を見せるリチャード。だが、すぐにその動揺は引っ込めた。
顔にすぐ出るのは悪い癖だ。
「こ、これは、なかなか……!!」
『リチャード選手は筋肉量が常人の四倍から八倍と言われていて、それに伴い力も相当なものなのだが、まさかそれを受け止めるとは……この試合、なかなか面白いことになりそうだね』
『リチャード選手押し込む。しかーし、ジョルト選手、負けじと押し返す!!』
押し返す、とは言うものの、やはり膂力の差は圧倒的だった。
リチャードが少しずつジョルトを押し始め、体は沈み始める。
「くっ……のォ、これしき……!!」
(なんだ、思ったより弱いな。こんなもんなのか? それにしては何か違和感が……)
ジョルトが膝をつき、とうとう大剣の刃が肩に付く。
特に反撃してくる気配は無く、リチャードは更に腕に力を込めた。しかし、ここで妙な感覚に襲われる。ジョルトの肩に刃がくっ付いたあたりから手応えが軽くなったのだ。
(なんだこりゃ、急に軽くなりやがった……?)
決して力が抜けるとか、吸われているとか、そういう類のものではなく、ただ軽くなったという不思議な感覚。
どう考えても普通ではない。
リチャードは大剣を引っ込め、後ろへと大きく後退する。
『リチャード選手どうしたことか?! 攻撃の手を止めて退がったぞ!』
『ふむ、彼にしかわからない、何かがあったのかもしれないね』
有利にことを運んでいたリチャードが突然後退したことにより、会場が騒めく。あのまま押し切れば勝てたとか、何故そこで後退するんだとか、四方八方からヤジが飛ぶ。
ジュドーも意外とばかりに身を乗り出し、目を白黒させる。
「なんだ? リチャードの奴、剣引っ込めやがったぞ」
「どう見ても押してたように見えたけど、どうしたのかな?」
「嫌な予感」
「その発言が嫌な予感ですわね」
「魔法かい?」
当然、相手が使ったかどうかの問い。しかし、リュウガは否定するように首を横に振る。
「いや、魔力を使った感じじゃない。となると、もしかしたら……」
後退したリチャードは相手を見据えながら、手を握っては開きを繰り返し、大剣を振って自身に異常がないか確かめる。
(いつも通り、寧ろ調子はいい方だ……なら、問題があるとするなら、やっぱりアイツか)
ジョルトは膝に手をつき、重々しく立ち上がる。
リチャードからは大剣を押し付けられた形だったため、さしたるダメージは無いはずだ。
重々しく立ち上がるのは何も身体的ダメージによるものではなく、おそらく体が重いためそうせざるを得ないからだろう。
リチャードは目を細めた。見るからに運動不足なその肥満体型と、何かしらの武術すら学んでいないだろう素人の動き。先の攻撃を受け止められたのは少し驚いたが、そもそも様子見の攻撃ゆえ、素人でも目で追える速度での振り下ろしだった。寧ろ避けられたり、受け止められるのは想定内だ。
(……何を隠してる)
リチャードはますます警戒心を強くした。
「君はどう思うんだい?」
Sクラスやクラリス達から離れた観戦席。
ここまで静かに観戦していたところ、メタトロンから不意に問いかけがふってくる。
要領の得ない問いかけにヴェイド(カレン)は、「なんのことだ?」と、とぼけてみせる。勿論、問いかけの意味は理解していた。ただ、目の前に集中している為に生返事をしたに過ぎない。
「どうして有利に見えた彼が後退したのか、だよ」
前を向いたまま、ヴェイドに問いかける。
舞台の上ではジョルトに接近したリチャードが大剣を振り回し、それをジョルトが必死に避け続ける。
剣速はかなり遅い。様子見によるためだろう。
「オレより良い眼を持っているのにわざわざ質問してくるなんざ、今まで話し相手がいなかったんだな。可哀想に」
時折ジョルトも拳や蹴りを繰り出すが、そのあまりに雑な動きに軌道を読まれてしまう。簡単に避けられ去なされ、逆に反撃とばかりに倍の手数で応戦される。
胴体めがけて弧を描く大剣を〈魔力硬化〉した両腕で受け止め、反撃。そして、リチャードがさらに手数を増やし、縦横無尽に斬撃を繰り出す。
「ねぇ、なんでそんなに冷たいの。ボク君に何かした?」
大剣は全てジョルトの腕に阻まれ、状況は進まず。
しかし、ド派手な戦いっぷりに歓声だけが大きくなってゆく。
誰も違和感に気づかない。
「違うわよ。恥ずかしがってるのよ。お子ちゃまね!」
「うぜぇ……」
リチャードの手が止まる。流石に異常を感じたためだろう。
あれだけ攻撃を繰り出したにも関わらず、ジョルトに疲労の色や攻撃を受け止めた腕に痛みを感じているそぶりがないのだ。
いくら〈魔力硬化〉しているとはいえ、リチャードの腕力は並外れている。加えて魔力を併用しての攻撃だ。今頃骨が砕けてもおかしくはないはずなのだ。そのはずなのに、ジョルトはいまだ健在。無傷なのである。
「はぁ……ガキ共に期待はしてなかったんだが――流石にがっかりだな」
元よりカレンはSクラスに期待していない。
というのも、自身があまり鍛えることが出来なかったのと、スタートラインにつけたのがエミリアぐらいだったからだ。
もっというなら、そもそもエミリア達Sクラスの生徒達に興味が無い。
しかし、予想以上に想定以下だったために、少なくない失望を抱いてしまったのだ。
「上位に食い込めるのは今の所三人が良いところか。我ながら笑えないな」
「厳しいわね。何がそんなに気に入らないの?」
「気に入らないんじゃなくて、興味が無いんだよ」
「貴方、なんていうか乾いてるわね〜」
「ほっとけ!」
「それにしても、これは失敗だな」とため息混じりに付け足す。
「なんの事だい?」
「仕事だよ、仕事。今回Sクラスを請け負ったのはガルフォードを通しての王国からの依頼だ。ざっくり言うなら"戦力が欲しいから強いのを育ててくれ"て言う内容のな」
「なるほど、それで失敗か……確かにボク達基準で見ると弱いかもだけど。人間基準で見ると十分じゃないのかい?」
ジョルトから仕掛けた。でっぷりとした腹を揺らし、息を切らしながら辿々しい足取りでリチャードへと近づく。
しかし、はいそうですかと接近を許すリチャードではない。
「継続を言い渡されたなら断るまでだ。これ以上は時間の無駄だ……」
右足を大きく踏み込む。すると、足元の石畳が砕け舞台に亀裂が入る。そして、大剣を握った手を緩め、踏み込んだ右足を軸に体を回転させ、遠心力のついた斬撃を放つ。
タイミングはこれ以上ないほど的確。
大剣による大回転斬りは吸い込まれるようにジョルトの右脇腹へと吸い込まれ、直撃する。だが、ジョルトは少しよろめく程度で大したダメージが入った様子はなく。何事もなかったかのように前進を再開する。
(なんだどうなってんだ、コイツ……!?)
リチャードは後ろへ大きく後退し、〈魔力感知〉〈熱感知〉を使い異変を探る。
手足や口の動き、肉体の変化、何から何まで些細な動きまでその目で追った。
「おやおや、何故逃げるのだ、リチャード・ロー氏。我はまだ何もしていないのだが?」
(クソっ、余裕かよ! マジでダメージ無しみたいだな。何が起きてんだ?!)
会場から徐々に音が消えてゆく。
攻めているはずのリチャードが徐々に後退し、猛攻を受けているはずのジョルトが涼しげな顔で前進しているからだ。
見るからに異常。明らかに異常。歓声はいつしか不安の騒めきへと変わっていた。
「あのバカ。頭で考え過ぎだ。だから肝心な事にも気づかないんだよ!」
「仕方ないじゃないか、攻撃が通用しないんだから。それに、ボクから見ても相性最悪だと思うよ」
「運が無かったわね」
「ちッ……!」
脚を組み直し、大きく舌打ちを鳴らす。相変わらずそこにある眉間に皺が更に深さを増し、舞台上のリチャードを見下ろす。
最早期待すらしていないカレンだが、それでも一応は自分の育てた弟子である。ここからどう戦うか、興味だけは示す。
「あーあ……こりゃ負けたかなー」
「まだ負けは確定していないのだよ」
「だが、ジョルトとかいう相手選手の謎を解かない限り、負けは確実だぞ」
「謎か……マヤ達はその謎について解けたの?」
「う〜ん、なんとなくかなぁ」
マヤは腕を組んでちょっぴり自信なさげに苦笑いした。ラフロイグとロッズは確実とは言えないが、ほぼコレだろうという答えは持っているような様子だ。
「ファナはどう? どうしてあのジョルトとかいう奴にリチャードの攻撃が通用しないか、わかる?」
「……さっぱりね。私、こういうのに疎いから」
とは言うものの、うっすらと、本当にうっすらとだが、答えは浮かび上がっていた。
素直に言ってしまおうかと迷ったが、思えば自分は孤児院の先生だ。マヤ達のように戦いに身を置いた戦闘のプロではない。
直感的に思いついた程度の答えなど、的外れな可能性の方が高い。そう思うと躊躇いが生じた。
『リチャード選手、ここに来て魔法だ! 会心の一手となりうるのか!』
『だが、相手選手は当然待ってはくれないようだね。魔法は術式構築に時間がかかる』
『ジョルト選手、魔法を撃たせまいと地を蹴った――と、どうした事か、今まで見せたこともない動き、いや速度! 一瞬にしてリチャード選手との距離を潰した!!』
文字通り目にも留まらぬ速さ。爆発的な速度でリチャードの入り込んだ。
予想外の動きに動揺が走り、反応が遅れる。刹那とも言えるその遅れは、リチャードに致命的な結果をもたらす。
ジョルトは拳を突き出した。なんの変哲もないただの右ストレート。しかし――
『ジョルト選手の右ィ!! 深々とリチャード選手の腹筋に穿たれる!』
――リチャードの腹部へと着弾したその途端、見た目そぐわぬ衝撃が腹を突き抜け、空気の波となって会場に伝播する。
「ごはッッッ?!!!」
ぶっ飛んだ。体も意識も。
舞台の端までゴムボールのように激しく転がり、意識は何度も繰り返しブラックアウトする。
肺の空気と共に艶やかな鮮血が飛び散り、ジョルトとの間に赤い一本の線を描いた。
目から、鼻から、そして口飛び散ったそれは、ジョルトの攻撃の凄まじさを物語った。
舞台から落ちまいと、上下もわからず大剣を下に突き立てた。すると、硬い感触が大剣を伝わり、なんとか上手く受け身が取れたのだと認識する。
「ほう……耐えたか!」
メガネを掛け直し、感嘆とも取れる呟きを零す。
(なんだ今の……〈魔力硬化〉してもこれかよッ!! 師匠の腹パン並みじゃねぇか!)




