対話
久々の友人との会話も切り上げ、早々に自身の縄張りであるムエルト大森海に戻って来たマグダウェルは、目の前に広がる光景に唖然とする。
緑生い茂る大地は白一色の氷界と化し、生きとし生けるものは全て死に絶えていた。
ゆっくりと流れる生物の楽園は、今は時の止まった世界へと変わり果て、色の無い無惨な景色をただ伝えるばかりだ。数百年もの間この地を統治し、見守ってきたマグダウェルの心境は哀しみと怒りに打ち震える。
「やってくれたわね、シリウスッ!」
髪が白熱化し、握る拳に火が爛々と灯る。静寂の世界に乾いた音が鳴り響き、マグダウェルは人の姿から竜の姿へと変身する。
途端、抑えていた熱が一気に放出され、周囲の氷があっという間に溶けてゆく。
マイナスの世界はマグダウェルの持つ力によって通常の気候へと戻る。だが、溶けた氷の下から現れるのは、死に絶えた草木と動物達。いくらマグダウェルの力で環境を元に戻しても、死んだもの迄は元には戻らない。こうなってしまった以上、元の環境に戻るまでに数百年から数千年という長い時間がかかるであろう。
マグダウェルは首を回し、遠くからこちらを観ているであろう人物を睨みつける。
「ただじゃおかないわよ、アナスタシアァ!」
アナスタシアがシリウスを動かさなければこうなる事はなかった。故に矛先はアナスタシアに向いた。
怒りが熱と魔力となって溢れ、口腔内や鱗と甲殻の間が光る。体温の上昇に連なるように外気の温度も急激に上昇し、マグダウェルを中心に熱風が吹き荒れた。
大気中の水分が完全に蒸発し、乾いた空気中の酸素に火が点火。花火のように弾ける。
地面は燃え盛り、煮え滾る。最後には溶けて、灼熱の溶岩地帯と化す。まさに地獄絵図であった。
「私の箱庭をよくも……!!」
大きく開けた顎門に莫大な魔力が集まってゆく。赤く、熱く、輝く星が煌めく。
その時、遠くの空に巨大な紫色の雷霆が昇り、続いて山のような水の塊が落ちる。轟く爆音と地響きがマグダウェルの元まで伝わり、その激しさを物語る。
怒りに燃えていた思考に水がかかり、僅かながらの冷静さが戻る。
充填していた魔力を散らし、視線を正面から外す。
「あれは、イザヨイとロロン」
そういえばこのムエルト大森海にはカレン配下の魔物が五体いた事を思い出す。今見えた紫色の雷は"紫電龍 イザヨイ"のもの。巨大な水の塊は"真盾 ロロン・ベリル"の攻撃でまず間違いない。あれだけ大規模な魔力攻撃を行使していることから、相手はかなりの強敵であると考えられる。おそらくタイミング的にもシリウスの線が濃厚だ。
イザヨイとロロンは強い。いや、この二体に限らず、カレン配下の魔物は誰も彼もが強い。が、シリウスには遠く及ばない。"第二覚醒者"と"第三覚醒者"とでは大きな差がある。ましてや相手は竜王。経験値の差で負けは必至だ。
「そこね、シリウス!」
距離にして数百キロ。マグダウェルにとっては大した距離ではない。
翼を広げ、腰を落として地面を蹴り上げる。そのタイミングで翼を力強くはためかせ、一気に超高高度まで上昇する。
すると、マグダウェルは翼をたたんでしまう。当然、マグダウェルの体は重力に従って落下を始める。だがその直後、翼の左右に朱い火の玉が四つ出来上がり。次の瞬間には爆音を鳴らして強烈な勢いで炎が噴射される。
噴射された炎は圧倒的熱量と推進力を生み出し、通常の飛行速度を遥かに超える。
通過した後は雪が舞い上がり、氷は悉く溶けて消え去る。
そして、あっという間に数百キロの距離をつぶし、イザヨイ達の元に辿り着く。
しかし、着いた頃には無惨な光景が広がっていた。
ロロンは氷塊に深々とめり込み。ベルゼバブは二本の巨大な氷槍に貫かれ。ココノエは頭と右前脚を残して氷漬け。イザヨイに至っては上半身と下半身が真っ二つだった。
「遅かったな、マグダウェル」
ただ一体、氷界竜 シリウスだけがその場に悠然と佇む。
「シリウス、貴方自分が何をしているか理解っているの!」
低い唸り声と共に吼える。
「私とて好きでやっているのではない。受けた恩は返さなければならないのだ。悪く思うな、マグダウェル」
「それはわたしの縄張りを侵した上に、この子達を痛めつけてまで返さなければならない恩なの?」
横目でシリウスを牽制しつつ、マグダウェルは自身の力を使って氷を溶かし、ついでに〈天輪〉を発動して怪我を負ったイザヨイ達を治療する。
大穴を開けられていたベルゼバブは「ありがとう、マグダウェル様!」と塞がった体をさすりながら元気よくお礼を述べ、全身骨折していたロロンはめり込んだ氷から脱出し、「すまない、礼を言う」と心苦しいような顔で頭を下げる。ベルゼバブは大して根源をやられていなかった為か、割と元気だ。だが、ロロンはかなり広範囲をやられている為、その顔は時折苦痛に歪む。
しかし、それ以上に重傷なのが、イザヨイとココノエであった。イザヨイは治癒魔法で半分に分断された体をくっ付けはしたが、根源が半分近くもやられていることもあり、最早息も絶え絶えだ。意識があるのかすら怪しい。
ココノエも同様に、最早口を開く体力もなく、荒く、それでいて浅い呼吸を繰り返していた。氷漬けにされていた間、常に根源へとダメージを与えられていたらしい。
体温も奪われ、非常に危険な状態だ。どちらも瀕死の重傷である。
「マグダウェル様、ココノエさんとイザヨイさんを助けて!」
ベルゼバブは縋るように助けを乞う。ベルゼバブから見れば死にそうに見えるのだろう。実際死にそうなのだが、それを言うと不安を煽るだけなので、あえて言わない。
マグダウェルは優しく落ち着かせるように告げる。
「大丈夫よ、ベルゼバブ。二人はちゃんと助けるから。だから心配しないで」
ベルゼバブも傷こそ塞がっているが、根源に多少なりともダメージを負っていた。苦しいはずである。だが、自分よりも他者を気遣える辺り、やはり健気で良い子だ。
一方、呼吸の浅いイザヨイとココノエはピクリとも動かない。時折目を動かし口を開けはするものの、声にならない呻き声だけが零れる。あまり悠長にしてはいられない様子だ。マグダウェルは冷気を薙ぎ払うように翼を広げ、自身の力を込めた熱風を放出する。熱風によって温められた外気温は程よい温度まで上昇し、冷えた体を温めた。
ついでに魔力を乗せた吐息をイザヨイとココノエに振りかけ、体が冷えないように熱を纏わせる。
「ひとまずこれで安心よ。ベルゼバブは二人のことお願いね」
「ありがとう、マグダウェル様!」
「いいのよ。さぁ、行ってあげなさい」とベルゼバブを二体の元へ行かせる。
すると、タイミングを見計らってロロンが隣りに立つと、ベルゼバブには聞こえないように静かに尋ねる。
「実際のところは?」
「少し危ないけど、命に別状はないわ。絶対安静厳守だけどね」
「解った。改めて礼を言う」
「気にしないで……それよりも、少し荒れるかもしれないから、貴方達は離れた方がいいわ。ベルゼバブにもそう伝えてちょうだい」
「その前に一つ聞きたい」
「何かしら?」
「氷界竜殿の狙いは主なのか?」
「……おそらくね」
「なるほど……それだけ聞ければ十分だ」
ロロンは踵を返し、先ほどのことを〈念話〉でベルゼバブに伝えると、自身は別の方角へと歩き出す。人間界のある方角だ。
「ロロン、何処へ行く気なの?」
「決まっている。主のところだ。伝えないわけにはいかないだろう」
肩越しにそう告げると、ロロンは足速に去って行く。
「ちょっと、待ちなさい。ロロン!」と引き止めようとするが、時すでに遅し。既にロロンは遥か彼方だった。
「ここにいれば凍った根源が溶けるのに……」
先に伝えておけばよかったとため息をつくが、最早後の祭りである。戻って来るのを待つしかない。いや、戻ってくれない方がマグダウェルとしては安心する。
戻って来ると言うことはつまり、カレンが来るという事を指す。それは、死に身を投じるという事を意味していた。
(おそらく戦うなと言っても、言うことは聞いてくれないのでしょうね……)
カレンはプライドが高い。加えて非常に短気だ。ここまでわかりやすく喧嘩を売られては最早素直に買う未来しか想像出来ない。成長の為の戦いと言えばそこまでだが、今回は相手が悪すぎる。
本音は大人しくしていて欲しいところだが、イザヨイ達がここまでやられている以上、カレンが大人しくする事などあり得ない。カレンは必ずやって来る。故に、マグダウェルに出来ることは既に限られていた。
恨みを含んだジト目をシリウスに向け、無駄だとは思いつつも交渉を試みる。
「一応聞いておこうかしら。貴方の目的は何?」
とは聞きつつも、大体の予想はついている。おそらくカレンの抹殺が狙いだろう。
すると、やはりと言うべきか、シリウスの言葉はマグダウェルが予想した通りのものだった。
「転生者を殺すことだ」
予想的中だ。出来れば外れて欲しいところではあったが。世の中そう都合良くいかないらしい。
「依頼したのは誰?」
「教えん。だが、お前なら聞かずともわかるだろう。噂ぐらいは聞いたことがある筈だ」
その言葉通りなら、やはり依頼したのは神。そして、タイミング的にも武神 アナスタシアである事はまず間違いない。
「彼女、しつこいから嫌いなのよねぇ……」
カレン抹殺の依頼をシリウスへと頼んだ神へと向かって恨みと怒りを含んだぼやきを零す。出来ることなら今すぐ"破晄の星"をぶっ放してやりたいところだったが、それをしては作らなくてもよい敵をわざわざ自分で作ってしまうだけだ。特に"破壊神"を敵に回すのは厄介極まりない。
マグダウェルは煮えくり変える怒りを抑え、ひたすらに我慢した。
「それでどうする。私は"不戦協定"を破る行為をしたわけだが、今ここで戦うか?」
他の竜王の縄張りの蹂躙は立派な協定違反だ。しかし、ここでシリウスと戦闘を繰り広げれば、ムエルト大森海と隣接している人間界は跡形もなくその姿を消すこととなる。それはつまり、カレンの生きる場所を奪うという事でもある。仮にマグダウェルとシリウスが戦い、人間界に何も被害が及ばなかったとしても、竜王同士の戦いにより何かしらの均衡が崩れるだろう。そうなったらあとはドミノ倒しだ。順番に異変が起こり、人間界にも多大な影響を及ぼす。
結局のところ、マグダウェルは戦うという選択を取れないのだ。
しかし、どの道カレンはここへやって来る。そうなったら間違いなくシリウスと戦うだろう。
ならば、マグダウェルのとるべき行動は一つ。
「シリウス、大人しく帰ってくれないかしら」
屈辱という名のお願いだ。
「………今なんと言った?」
「聞こえなかったのかしら。大人しく自分の縄張りに帰ってと言ったのよ」
「貴様、正気か。ここまでやられておいて何もしないというのか?」
「ええ、そうよ。それで、大人しく帰ってくれないのかしら、氷界竜 シリウス?」
苦々しい気持ちを抑え、出来るだけ平常心でお願いする。本来なら有無を言わさず戦闘開始したいところだが、今回は都合が悪い。
しかし、そんな心内を知ってか知らずか、マグダウェルを見るシリウスの目には蔑みと憐れみの色が見え隠れする。
返答は同然の如く「無理だな。今更引き返せまい」だった。
解っていたとは言え、その返答に心底がっかりする。
守るべきものがあると行動が制限されてしまうのは何かと不便だ。今も、何もできない自分が歯痒いと感じてしまう。
"守るべきものがあるからこそ強くなれる"。などと言う言葉をよく耳にするが、あんなのは嘘で妄言だ。現実は甘くない。何も持っていない者の方が強いに決まっている。
「………そう。なら、あとは好きにしなさい」
糸のように細い頼みの綱も切れ、現状打つ手無しとなったマグダウェルは、踵を返しシリウスに背を向ける。最早話す事は何も無かった。
「………!」
無防備に背中を見せるマグダウェルに驚き、本当に戦う意志がないことを悟る。拍子抜けもいいところだ。
「…………愚かな」
マグダウェルは歩を進め、イザヨイ達の元へ行くと、ココノエを背中に乗せ、イザヨイをベルゼバブに頼む。
ベルゼバブは素直に応じ、イザヨイを脚で掴んで――力を振り絞って――マグダウェルの居住地へと飛んで行く。あれだけ巨大なイザヨイの巨体を一体で運ぶのは中々骨が折れるだろう。正直、見ていて少し心配だが、安定して飛んではいる。任せても問題はないだろう。
そうしてベルゼバブを先に行かせ、マグダウェルはわざとらしく、思い出したようなふりをしてシリウスへと振り返る
「あ、そうそう。一つ言い忘れていたわ。もしカレンを殺したら、その時は――」
金色の眼に宿る警告と巧妙に隠された殺意の炎がシリウスを貫き、マグダウェルを中心に、灼熱の熱風が爆発するように押し寄せる。
「――覚悟しておいたほうがいいわよ」
優しく微笑みかけるような声音ではあったが、その言葉には遠回しに"殺す"という宣言にも聞こえた。
はっきり言わないのは、表面的には戦う意志がないことを示唆しており、あくまで警告しているだけだからだ。
しかし、シリウスを射抜くマグダウェルの眼の奥には確かな殺気が滲んで見えていた。
マグダウェルは今度こそその場を後に、冷たい風が吹く大空へと飛び立つ。
(これで少しは牽制にはなったはず。あとはカレン次第ね……)
暫く飛ぶと、標高二千メートルと周りの山に比べれば少し低めだが、横幅はどの山よりも大きく広大なカルデラが見えてくる。元は活火山だったのだが、それは数千年も前の話であり、今は完全に活動を停止し豊富な水と緑が生い茂った楽園が広がっていた。
ここは、炎劫竜 マグダウェルの縄張りの中心地にして居住地。その名も――"エリュティア"。
氷界竜 シリウスの力の影響を多少受けてはいるものの、豊富な水と緑は健在であった。
もし此処も氷に覆われていたらどうしようかと内心焦っていたが、それも杞憂に終わって心底安心する。
マグダウェルはエリュティアの中心付近に存在する台地の上までやって来ると、上空を旋回し、徐々に速度を緩めて高度を下げて行く。
そこには既にイザヨイを下ろしたベルゼバブが側に寄り添い、ずっと心配そうにしているのが見えた。
マグダウェルは二体の近くに静かに降り立ち、背中のココノエをイザヨイの近くにそっと下ろす。
「おかえりなさい、マグダウェル様」
「ただいま、ベルゼバブ。イザヨイの様子はどう?」
「時々苦しそうだけど、大丈夫そうだよ!」
見れば先程よりかなり呼吸が安定していた。ココノエも同様だ。
この分だと回復は思ったより早いかもしれない。勿論、絶対安静が条件だが。
「イザヨイは全治三ヶ月。ココノエは一ヶ月から二ヶ月の間ぐらいかしら……なんにせよ、無理はしないことね」
「そういえば、マグダウェル様。ロロンさんは何処?」
ベルゼバブの言葉を聞いてはっと思い出す。そういえばロロンがカレンを迎えに行ったのだった。
「ロロンはカレンを迎えに行ったわ」
「ご主人様を?」
「ええそうよ。あんな体で無茶するわ、ほんと……」
「ロロンさん、大丈夫かなぁ」
「心配ないわ。ロロンが強いのは貴方も知っているでしょ。だからほら、貴方ももう休みなさい。二人は私が見てあげるから」
実際はロロンもかなり手酷くやられているのだが、それは言わない。言ったらまたベルゼバブが心配してしまい、休めるものも休めなくなるからだ。
ベルゼバブは「うん、わかった」と言うと、緊張の糸が切れたのか、あっという間に深い眠りについた。
(さて、ロロンのあの体だとカレンの元まで辿り着くのにおよそ四日というところかしら。もしかしたらもうちょっと早いかも知れないけど。なんにせよあの子はここに呼んだほうが良いわね)
マグダウェルは大きく息を吸い、突然大気を震わす大咆哮をする。
「グラァァァァァァァァッ!!」
水面が波立ち、木々は揺れ、肌をビリビリと激しく叩く。その咆哮は数万キロ離れた遥か彼方まで届き、きっとここまで連れて来てくれるはずだ。
そこまで考えて、マグダウェルは「しまった」と零し、後ろで眠るベルゼバブの様子を伺う。
「すぴー……すぴー……」
「寝つきが良くて助かったわ……」
変わりなくベルゼバブが眠っていて一安心する。自分からゆっくり休みなさいと言っておきながら起こしてしまっては忍びない。だが、その代わりと言ってはなんだが、大きな目玉が開き、マグダウェルの姿を映す。
「あら、起きたのねイザヨイ」
「炎劫竜 マグダウェル……という事は、ここはエリュティアですか?」
頭を持ち上げ、あたりを見渡す。
「あまり動かないほうが良いわよ。折角塞いだ傷がまた開いちゃうわ」
その時、イザヨイは自身の両断されていた体がひっついていることに気づき、確認のためそちらを見る。綺麗につながってるが、根源がやられているからか、今も襲う鈍痛は頭がおかしくなりそうなほどに辛い。
しかし、それは生きている証拠だ。今はこの痛みを受け入れる他ない。
「炎劫竜 マグダウェル。感謝する」
「どういたしまして」
感謝の礼だけ言うと、イザヨイは目を閉じ、もう一度眠りにつく。正直痛みで眠れたものではないが、休まなければ治るものも治らない。無理矢理にでも休む。
すると、イザヨイが眠ったタイミングで地鳴りが響き、遠くで巨大な氷山が雲を貫くのを目撃する。言わずもがな、シリウスの作り出した氷山だ。
「まったく、本当に好き勝手やってくれるわね!」
我が物顔で縄張りを好き勝手されて、マグダウェルの機嫌は急降下する。自分の庭に趣味の悪い山を建てられては腹立たしくもなる。当然だ。
シリウスはマグダウェルが戦いを好まないと思っているのかもしれないが、寧ろその逆である。普段のマグダウェルは確かに温厚な性格ではあるが、それは表面上そうしているだけであり、本来の性格は非常に攻撃的で苛烈だ。だが、近年その攻撃的な面を潜めて大人しく振る舞っていた為か、どうやら誤解を生んでしまっているらしい。今回シリウスと戦う意思を見せなかったのは、先々のことを考えた上での判断であり、決して戦いを好まなかったわけでも、戦うのが嫌であったわけでもない。
全てはカレンのためなのだ。
「種は植えた……シリウス、貴方にカレンを殺す事は出来ないわよ。何故なら、貴方がカレンを殺せば、私が貴方を殺すから……」
カレンと戦い、とどめを刺そうとするたびにシリウスはマグダウェルの影を見るだろう。そうなるように仕向けたのだ。正直五分五分と言ったところだが、少しだけカレンの安全は確保された。もっとも、重傷は避けられないだろうが、そこはカレン次第である。
「さて、カレンが来るまでここで待ちましょうか。その頃にはあの子も来るでしょ」
この二日後、予定よりも二日ほど早く、マグダウェルはカレンと八年ぶりの再会を果たすのであった。




