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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第1章〜最強への道〜
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すれちがう心

 その日、深い森の奥で、()は目覚ざめた。


 この地に来て数百年、彼はこの場で眠り続けていた。


 何故彼がこんな所で数百年も眠り続けていたかと言うと、それは単純な話。最早この世界に彼の興味を惹くものが無くなったからだ。


  だが、今現在いる場所から、そう遠くない所で、彼の興味を引く魔力の波動を感じ取とった。


 彼はその方向に首を回し、視線を向ける。

 見つめる先には、赤黒い蛇のような光が鈍い輝きを放ち、蠢くように空へと昇っていく光景だった。


 その赤黒い魔力は、この人間の国においては、右に出るものは無いほど強力だ。


 しかし、数千年以上生きている彼からすれば、その赤黒い魔力は、取るに足らない程矮小なものである。


 彼が興味を引いたのはその大きさではなく、魔力の質だ。


 数千年以上生きてきた彼でさえ、一度も感じたことのない、言葉では言い表せない異質な魔力だった。


 その説明しようのない魔力に、彼は数百年ぶりに好奇心を抱いた。


 直接自分の目で見てみたいと。


 彼はその大きな体を起こし、自らの背に生える巨大な翼を広げて空へと飛び立つ。



 空を黒く巨大な影が進む。



 ただ好奇心の示す方へ。



 本物の怪物が。



 ♢♢♢♢


 現在、フルール村中央の小さな広場では、激しい剣戟(けんげき)が繰り広げられていた。


 一人はカレン(オレ)、もう一人は調査団の団長、メービス・オプナーだ。


 オプナーは剣を下段に構えると、そのまま鋭い踏み込みと共に、下から胴目掛けて斜めに斬り上げる。


 オレはそれを、上体を反らす事で回避、目の前を銀に輝く剣が、風を切り裂くように通り去ると、お返しとばかりに勢いよく上体を戻し、大上段の一撃を叩き込む。


「くっ……!」


 力任せの一撃を、オプナーは剣を斜めにする事で大上段の衝撃を受け流す。剣と剣が擦れ、赤い火花を散らす。攻撃を受け流すと、オプナーは流れるような動きで剣を斬り下ろした。


 斬り下ろしを刀で正面から受け止めると、ピタリと止まる。力を入れて押し切ろうとするが、動かない、ビクともしない。オプナーはまるで、巨大な岩でも押しているような感覚に襲われる。


(な、なんという膂力! それに、先程から私の攻撃を反射神経のみで対応している、まったくなんて奴だ!!)


 オレは脚に力を入れ、剣を押し返した。


「っ!!」


 押し返されたオプナーは後へ後退し、五メートル程の距離を開けて油断なく剣を構える。


 激しい剣戟の末、オプナーの呼吸は荒くなり、下に着込んだ衣服の色が変わるほど、汗を大量にかいていた。


 一方でオレは、涼しい顔で平然としており、肩で息をしていなければ、汗もかいていない。ぶっちゃけて言えば、余裕だ。


 それから何度か剣を交わしたが、まるで相手の動きが止まって見える。

 戦う前はどれほど強いのかと警戒したが、今ではあまりの弱さに手を抜いているほどだ。正直拍子抜けもいいとこだ。


 これ以上は時間の無駄だと思ったオレは、刀を鞘に戻した。


 刀を鞘に収めたオレに、オプナーは怪訝な表情になる。

 攻めきれずに諦めたのかと思ったのだろう、だが、次のオレの行動を見て、それは違うと判断する。


 オレは鞘に収めた刀を左手に持ち、右手はいつでも刀が抜ける位置へ置き、腰を落とす。

 抜刀術の構えである。


 その見慣れないその構えに周りからどよめきがあがるが、対峙しているオプナーには分かった。

 必殺の一撃が来る、次でケリをつけるつもりだと。


 オプナーは警戒レベルを最大限に引き上げ、剣を上段に構えた。


 身体に力が入った状態では、最高の一撃を放てないという、昔読んだ本の知識を頼りに、オレは息を吐き出し、身体の力を抜いていく。


「ふぅ〜……」


 剣を構えて一分が経過した頃、オプナーが気迫のこもった雄叫びを上げ、地面を力強く踏み込んだ。


 五メートルあった距離は一瞬で潰れる。


 オプナーはオレの前まで接近すると、上段に構えた剣を一気に振り下ろした。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 オレは左手の親指で剣の鍔を弾き、そして、剣がオレに届く前に――



 ガギンッ!!



 ――一閃(いっせん)


 甲高い音を立ててオプナーの剣が真ん中辺りで切断される。


「っ!!」


 剣を斬られたオプナーは、驚愕と共に戦意を喪失しその場で立ち尽くす。


 オレは刀を鞘へ収めると、オプナーの横を抜け父さん達の元へ向かう。


 すると、後ろからオプナーが声を掛けてきた。


「待て……何故、私を斬らなかった?」


 オレは背を向けたまま答える。


「……興味ねぇよ」


「ははっ、そうか……貴様にとって私は、その程度の存在だったか……」


 オレは父さん達の所へ向かう前に、一度深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。


 すると、目尻から顳顬(こめかみ)に浮かび上がっていた模様は消え、目もいつも通りの白眼と黄金の瞳に戻った。


 オレが再び父さん達のもとへと歩き出すと、目の前にいた兵士達は自然と道を開けた。

 さっきの剣戟と自分達の団長が赤子同然にあしらわれた事実に、最早挑もうとする奴はいないだろう。いたら拍手してやる。


 オレは父さん達の元へ着くと、縛っていたロープを刀で切った。


 父さん達は立ち上がり、二人が今回の事情を説明をしようとする。


「あ、ありがとう……でもね、カレンこれは……」


「オレの為にした事、そう言いたいんだろう?」


「!!」


「抵抗した形跡がないし、そんな事だろうと予想はしてたよ………やっぱり言った通りだな、オレがいると迷惑になる」


「そ、そんなは事ない! お前がいて迷惑なんて……」


「じゃあ、この状況はどう説明するんだ?」


「っ……!」


 言葉に詰まる父さんにオレは更に言い募る。


「オレがいるからこんな事になったんじゃねぇのかよ、オレがいるから、父さんと母さんが自分の命を差し出すなんて馬鹿な真似したんじゃねぇのかよ?」


 母さんが、反論しようとするが、オレは止まらなかった。


「ち、ちが……」


「何が違うんだ?  そもそもオレがいなければこんな事にはならなかっただろ」


「………!!」


 そうだ、オレがこの村にいなければ、オレがこの村に来なければ、二人がこうして命を差し出す必要はなく、セラが泣く事もなかった。


 そう、全てはオレの所為だ。


 自分自身への怒りで、また模様が浮かび上がり、目が徐々に染まっていく。


 オレは視線を下に向け、血の涙を流す。


「カレン?!」


「………く」


「えっ?」


「もういい、オレはこの村を出て行く」


「な、何言っているんだ、出て行く必要なんてない!!」


「そうだよカレン!  カレンは何も悪いことなんてしてないじゃない!!」


 父さんとセラがオレを引き止めようとするが、オレは無言で首を横に振る。


 オレはオプナーに視線を向け、この村を出て行くことを話す。


「団長さん、オレはこの村を出て行く。だからこの人達は全員無罪って事で頼む」


 オプナーはしばらく考えたあと、渋々了承してくれた。


「分かった、良いだろう。ただし、条件がある……」


 オレは顎をしゃくって先を促す。


「二度とこの国に入ることを禁ずる、これが条件だ」


「いいだろう、その条件をのもう」


 オレに迷いはなかった。


 話が終わり、後ろを振り返ると父さんとセラが悲痛な表情でオレを見つめていた。どうして、と言う表情だ。


 オレは困ったような笑みを浮かべる。


「そんな顔しないでくれよ、これで誰も死なずに済んだんだ。

 それと刀、ありがとう、大事にするよ」


「……カレン、俺は……」


「それとセラも、今までありがとう……泣くなよ」


「うぅ……ひっぐ……うぅ……」


 父さんは強く拳を握りしめて、今にも泣きそうな顔になっていた。


 セラは涙を流し、泣いていた。


 その隣を見れば母さんも、ぼろぼろと滝のように涙をこぼしていた。


「……の」


「………」


「私達がカレンの為にと思ってした事が、あなたを追い詰めたの……」


「それは……」


 オレが答えかけた瞬間――





「グルァァァァァァァァァァァ!!!」





 ――芯まで凍る雄叫びが、一帯を包む。


「?!」


「っ!!」


「!!」


「こ、今度は一体何だ?!」


 突然の雄叫びに、村人や兵士達が混乱する中、オレはその姿を目撃した。





 巨大な翼を広げ、徐々に迫るーー





「……な、何だありゃ?!」







 ーー怪物の姿を。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろいです。 [気になる点] 何故カレン含めた誰もがカレンが10歳だと決め付けつけているのですか? この世界の文字が読めることの説明や話す言葉がわかることへの説明などはないのですか? …
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