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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第1章〜最強への道〜
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調査団がやってきた その2

 心臓の鼓動が嫌な音を立て、冷たい汗が頬を伝う。


 魔族の子供が村にいる、それも私達の家に今も一人で隠れている。


 それが今、調査団のオプナー団長に告げられた。


 カレンの存在が、居場所がバレた。


 それが同じ村人の、昔から弟のように思っていたフィンによって。


 すらすらと全てを吐いていくフィンに、私は悲しさと共にどうしようもない怒りが湧き上がった。


 信じられないものを見るように、私の顔はみるみると歪んでいく。どうして、と問いただしたくなる。


 隣を見れば、ユルト君は目が笑っていない笑顔でフィンをにらみつけていた。

 そして殴りたい気持ちを我慢するかのように拳を強く握り締め、ぷるぷると震わせていた。

 普段は温厚で、いつも笑顔を浮かべている彼にしては、かなり珍しかった。

 それほど、今のフィンの行動が許せないのだろう。


 こんな状況だけど、私はそんな彼を見て嬉しくなった。


 カレンをそこまで思ってくれている事に、感謝した。


 最早、カレンの存在を隠し通すことは出来ない。それでも私はあの子を守って見せる。

 そう約束した。


 たとえ種族が違い、血が繋がっていなくとも、カレンは私たちの家族なのだから。


 私は決意を胸に、今も私にしがみつくセラに顔を向け、ニッコリと微笑んで頭を撫でた。


「カレンの事は大丈夫だから心配しないで、きっとお父さんとお母さんがなんとかするから」


 絶対にこの子達を守ってみせる、何があっても。


 少し不安そうな表情のセラから、夫に視線を移すと、目があった。

 夫は頷くと、優しく微笑んだ。


 どうやら夫も覚悟が決まったらしい。


 話を聞き終わったオプナー団長が、私達の方に体を向け、歩いてくると、他の兵士達も私達を囲うようにやってくる。


 セラの震えが伝わってくるのが分かる、剣を所持している者達がこれだけ囲っているのだから無理もない、寧ろ泣き出さない事を褒めてあげたかった。


 私達を包囲した兵士達の中から、オプナー団長が一歩前に出て来る。


「お前達が、バレット夫妻で間違いないな?」


 夫が一歩前に出て、頷いた。


「はい、間違いありません。私はオルド・バレットと申します。そして、こちらは私の妻のシーマと娘のセラです」


「では単刀直入に聞かせてもらおう、魔族の子供を(かくま)っていると言うのは本当か?」


「事実です」


 迷う事なく答える。


 その瞬間、団員達が騒めき、雰囲気がまるで敵でも見るかのように変わる。


「うむ、ではその魔族は何処にいる? 」


「その前にお聞きしたい、あなた方はカレン(あの子)をどうするおつもりですか?」


「魔族は世界の敵だ、その先は言わずとも分かるだろう。で、魔族は何処にいるのだ?」


 その場に緊張が走り、静寂が包む。


 私と夫の目が合い、互いに頷きあう。


 今言えば私達の命は助かるかも知れない。でも、たとえそうであったとしてもーー


「「言えません」」


「なっ、何だと!!」


 団員達が困惑する。


 そんな中、夫が話し始めた。


「私は、私たちは家族を裏切るような事はしません、それが義息子(むすこ)ならなおさらです。」


 オプナー団長は呆気に取られた表情で私達を見つめる。


「家族、だと?! 貴様らは、魔族を家族だというのか?!」


 怒気を含んだオプナー団長に対し、私は冷静に、静かに答える。


「たとえ種族が違い、血が繋がってなくてもカレンは間違いなく私達の子です」


「分かっているのか、それはこの国、いや我々人間に対する反逆行為だぞ!  魔族が世界の敵だという事を忘れたのか?!」


 顔を真っ赤に怒鳴るオプナー団長にセラが恐る恐る答え、それに夫が続く。


「でも、カレンは何も悪い事してないよ」


「魔族が私達人間の敵だという事は忘れていません。ですが、それは全てでしょうか?」


「……何が言いたいのだ?」


「私達人間は決して"善"ではありません。中には悪に染まった者もいます。それは、全ての種族も同じです。

 あなた方は、魔族を"悪"と言いまずが、そもそも悪とは何ですか? 生まれれば悪ですか? 生きていれば悪ですか?  人間でなければ悪ですか?

 あなた方は魔族全てを"悪"と断定し、その一点のみを見ている。

 ちゃんと全体を観ようとしていない。人間に良い人がいれば悪い人がいるように、魔族にだって良い者、悪い者がいるはずです。

 魔族だからといって、彼等は我々人間と何にも変わりません。

 だからこそ、私達は自信を持って言えます。義息子は決して悪ではありません。ただ髪や瞳の色が違い、耳の形がちょっと違うだけです。カレン(あの子)は何処にでもいるような優しい子です。ですから、そんな子をただ魔族だから"悪"だと決めつけるあなた方に引き渡すつもりはありません!」


 決意を固めた夫の表情を見て、私も同意するように頷く。

 オプナー団長は怒りが引いたのか、顔色も元に戻り、静かに話す。


「本気か、国家反逆罪だぞ?」


「二言はありません。子を守るのが親の務めです」


「……愚かな」


「子を見捨てることが"賢い"と言うのなら、私達は愚かと言われようとも結構です」


 決然とした態度の私達に、オプナー団長は目を閉じて、少し考え込むと、私達に視線を順番に向ける。そして、最後はセラで止まる。


「その娘はどうするのだ、親の勝手な都合で死なせるつもりか?」


 私は冷静に答える。


「いいえ、娘も義息子も死なせるつもりはありません」


「では、どうするのだ? 全てを救えるほど、世の中甘くはないぞ!」


 夫が私を方を見る、私が微笑み、頷くと夫も微笑んだ表情で頷きオプナー団長を、まっすぐと見つめ二人して頭を下げる。


「……これは私達が勝手にしたこと、ですから、私と妻の命で、娘と義息子の命を助けて頂きたい」


「……」


「「「「「「「「………!!」」」」」」」」


「……!!」


 頭を下げ、自ら命を捧げると言った私達に、村の皆んなや調査団の人達が息を呑む。

 セラは隣で驚愕に目を見開いていた。


 命を差し出すという言葉に、ユルト君が慌てて夫の前に立ち声を荒げる。


「待って下さいオルドさん、残されるセラとカレンはどうするですか!」


「……セラとカレンはお前に任せる、頼んだぞ」


「そう言う事を言ってるんじゃありません! この子達の気持ちは無視するんですか?!」


 それに対して私は優しく答えた。


「ユルト君、確かに私達はこの子達の気持ちを考えずに勝手に決めたわ、でも、それでも、私達はこの子達に生きていて欲しいの、だって私達はこの子達の………お母さんとお父さんだから」


 ユルト君は、泣きそうな表情を隠す様に顔を伏せた。


「……っ!!」


 夫と私の覚悟に、村の人達の中からすすり泣く声が聞こえた。


 種族が違い、血も繋がらない家族のために、迷いなく命を捧げるその姿は、何より気高く見えたのだろう。


 それは、兵士達も同じだった。


「団長、この者達の願い、聞き入れては頂けませんでしょうか?!」


 そう言って頭を下げたのは、この調査団の副団長、カーティス・ブラウンである。


 どうやら、調査団には話のわかる人もいるようだ。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。


 オプナー団長は腕を組むと、頭を上げるように告げる。


「副長、頭を上げよ」


「はっ!」


 オプナー団長は、最初とは打って変わって、敬意を含だ表情で真っ直ぐに私達を見つめた。


「本来なら貴方達家族だけでなく、魔族と関わった村人全員が処罰の対象となるが……今回は貴方達の覚悟に免じて例外とし、その願いは聞き入れ、村人は全員無罪とする」


 周りが安堵のため息をつき、騒めき立つ中、私達は頭を下げて礼を言った。


「聞き入れて下さり、ありがとうございます」


「礼は不要、私は――」


 オプナー団長が何かを言おうとした瞬間、横からフィンが慌てて割って入った。


「ま、待って下さい、話が違います! 私は手紙で魔族(カレン)をどうにかして欲しいと頼んだ筈です、なのに、見逃すと言うのですか?!」


 雰囲気を台無しにするようなフィンに対して、周りの人達は皆んな「コイツ、マジか?!」「空気読めよ」みたいな、クズを見る様な目で見る。


 そんなフィンに対してオプナー団長は鋭い視線を向けて黙らせる。そして、兵士達へ指示を出す。


「……っ!!」


「その二人を捕縛せよ、ヨオズ率いる調査隊が戻り次第、帰還する!」


「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」


 オプナー団長は捕縛される私達に近寄ると小さな声で語りかけた。


「オルド殿、シーマ殿、これが今生の別れとなる。しっかりと別れを済ませておくように。それともう一つ、村人と貴方達の娘の命は保障するが、魔族の子供の命は保証できない。一応魔族の子供に関してはこの場で見極めさせて頂き、それ次第という事になる。

 そのカレンという子供が貴方達の言う通りの子なら何の問題もないだろう」


 私達が頭を下げるとオプナー団長は、その場から静かに立ち去っていった。


 捕縛された私達はその場に座り、セラに視線を向けた。


 するとセラは私に抱きつき、その青い瞳から涙を流した。


「……ふっ……お父さん、お母さん……うっ……うぅ……」


 我慢するようにすすり泣くセラに、私は謝ることしか出来なかった。


「ごめんねセラ、こんなお母さんとお父さんを許して」


 目元が熱くなると、自然と涙が頬を流れた。


 すると夫が微笑みながらセラに話しかける。


「セラ、父さんと母さんはお前達を愛してる。だから生きてくれ、生きていればきっと良いことがある」


 そう言って夫は優しく笑った。私の胸に顔を埋めていたセラは夫に抱きついて、今度こそ大声で泣き始めた。


「うあぁぁぁぁん!! お父さん、お母さん!!」


 静かな村の中央で、一人の少女の鳴き声だけが悲しく響き渡る。



 ♢♢♢♢


 その様子を少し離れたところから見ていた、オプナー団長は、気持ちを切り替え兵士に指示を出す。


「一応村周辺の調査に当たれ、それと――」



 ドゴンッ!!



「何だ?!」


 突然の大きな音に全員が振り返ると、そこには、屋根が吹き飛んだ、バレット家の家があった。


 そしてーー




 ドンッ!




「うわっ!」


「何事だ!!」


「わ、わかりません!」」


「一体何が?!」


 何かがまるで流星の如く降ってきた。


 衝撃波によって土煙が舞い上がる中、それはゆっくりと立ち上がる。


 瞳に紅い光を宿して。

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