生まれ変わり
ストーリーの関係上、急遽一部場面を変更致しました。
魔帝 サタン。現在より千年前に存在した、唯一の純血の悪魔。性格は歪んでおり、怒りや憎悪といった悪感情がその殆どを占めていた精神異常者。
彼女は闘争心の塊のような存在で、戦いを何よりも好んだ。その強さは他を圧倒し、当時よりこの世界を支配していた竜王達をも凌駕した。
当然人間達にとって、サタンは極大級の脅威である。一致団結し、魔帝を打ち倒そうと果敢にも立ち向かう者達は大勢いた。だが、結果は一方的な蹂躙に終わる。
戦って戦って、一体いくつ奪ったか分からない。いくつ灰に変えたか分からない。
向かって来る者、歯向かう者は容赦なく全て消し去った。
目的の為ならどこまでも冷酷に、冷徹になれた。
世界を我が物にという野望を抱き、たった一人で世界を相手どった。
大地を手に入れ。大空を手に入れ。大海を手に入れ。そして、全てをその手に握らんとした。
一個人の力では到底不可能な野望。だが、彼女にはそれが可能だった。それだけの力があった。
だが、彼女の野望は潰えた。
とある竜との戦いに敗れたのだ。
『そして瀕死の重傷を負った儂は、ムエルト大森海へと逃げた。じゃが受けた傷は深く、そのままではすぐに死んでしまうと思った。じゃから肉体を退化させ、少しでもエネルギーの消費を抑えて傷を癒すことだけに専念したのじゃ』
しかし、傷が完全に癒える前にサタンは力尽きた。
それが千年前の出来事である。
「案外簡単にサタンだった事を認めるんだな」
『もう隠す必要もあるまい』
「なるほど……話を戻すが、千年も前に死んだ筈のサタンの肉体がどうやってこの時代まで残っていた? 普通なら魔物に食い散らかされるか、微生物に分解されて森の苗床にでもなっていたんじゃないのか?」
『自分で言うのもあれじゃが、サタンの力は強大過ぎたのじゃ。死してなおその放たれる強烈な存在感に、魔物も寄り付かなかったのじゃろう。それにサタンには特殊能力【不滅の肉体】があったからのう』
特殊能力【不滅の肉体】――特殊能力【再生】の最終到達地点、その一つ。例え星が消滅してもなお、その強すぎる能力故に、肉体は文字通り不滅である。
「肉体が残っていたのは分かった。なら、女であった筈のサタンの肉体が、何故男に変わった?」
『それはおそらく根源が絡んでおる』
「根源が?」
『肉体と根源は密接に絡んでおる。それは根滅剣を扱うお前様ならよく知っておる筈じゃ。根源を斬られたものは例外なく消滅するからのう。
話を戻すが。死体となった肉体に強力な根源を持つお前様が宿った事で、肉体が一から作り直されたのじゃ。要は根源に肉体が引っ張られたというのかの。肉体を子供に退化させていたのも後を押しておるのやもしれん。子供の体は成長しきれていない未熟な肉体じゃ。どのように変化してもおかしくはない。
なんにせよ、お前様がサタンの肉体に宿った事で、元は女の肉体であったものが男に変わったのじゃ。そこにそれ以上もそれ以下もあるまいて』
「辻褄はあう、のか? まぁいいが」
『お前様よ、儂からも聞きたいことがある』
「なんだ?」
『お前様ももう知っておるじゃろうが。昔の儂は冷酷で冷徹じゃった。いくつ命を奪おうとなんの感情もわかなんだ。今思えば感情が欠如していたとも言える。じゃというのに、今の儂の心は沢山のもので溢れておる。感情もある。……儂は一体どうなっておるのじゃ?』
「どうなってるって言われてもなぁ……」
サタンは死んだ、それは事実だ。しかし、驚く事にその根源は完全に消滅することなく肉体に宿り続けた。
それはカレンがサタンの肉体に転生した後も同様で、肉体の奥で深い深い眠りについた。
そして、カレンがラギウスにこの世界での名を与えられた時、眠っていたサタンの精神体、つまり根源は擬似人格として眠りから目覚めた。
この時点でサタンとしての自我や記憶は一切が無かった。それはおそらく、死んだ事が原因であると考えられるが、正確なところは分からない。
カレンによって"紅姫"と名付けられた元サタンの根源は、カレンの中で完全に一から作り変えられる。この時、悪魔の精神だけだった紅姫の精神に、元人間であるカレンの精神が混じったと仮定するとならば、紅姫の感情が豊かなのに納得がいく。ついでに言えば、作り替えられた為に精神の有り様も変わったのかもしれない。
何が言いたいかというと、紅姫はサタンの記憶を引き継ぎ、全くの別物へと生まれ変わった、という事である。
生まれ変わりと言えば分かりやすいだろうか。
「この辺が妥当だろうな。というか昔、まだお前に名付けする前に言われた事なんだが。オレの根源の一部から生まれたって言われたんだが、あれ嘘か?」
『そうじゃろうな。おそらく擬似人格として動いておったから、そういう認識だったのじゃろう』
「擬似人格にマニュアルでもあんのか……? そういえば、サタンの記憶があるって事はお前……もしかしてジャバウォックの事始めから知ってたな」
『…………は、はい』
「じゃあ能力も知ってたな? どういう戦闘スタイルなのかも」
『流石にそこまでは知らなんだ。本当じゃ、嘘ではない! 儂はジャバウォックの存在自体は知っておったが、実際に会ったのはあの時が初めてじゃ! 信じてくれお前様!』
「分かった分かった。信じてやるからそんな必死になるな。なんかオレが悪いみたいだろうが」
『お、怒っておらんのか?』
「怒るわけはいだろ。もう昔の話だ」
『そ、そうか…………ところでお前様よ。話は変わるが。お前様は何故儂がサタンであると思ったのじゃ?』
「ホントに急だな。まぁ良いが……可能性としては高いだろう。手記にはサタンが女だったって書いてあるし、オレの肉体の特徴と記されてる特徴が完全に一致してる。
それに、オレがお前のことをラギウスに話したあと、あのラギウスがオレと同じ事をしていないとは考えにくい。つまり、ラギウスは自身の中にある擬似人格に名をつけたものの、お前のように自我が生まれなかった。もしくは何も変わらなかったという方が正しいか。もし成功してたらオレに話さぐらいはするだろう。
つまりだ、要はもともとこの肉体にはオレが入る前から根源が存在していたと考えるのが一番しっくりくる。そんでこの手記だ。ほぼ確定だろう。お前女だし」
『な、なるほど……』
「それに、何故オレが魔力を二種も持っているのかも解けた。要は黄金色のがオレ本来の物で、紅色がお前の魔力というわけだ。と言っても、紅色の魔力も完全にオレが掌握しちまってるから、元お前の、と言う方が適切かもしれないがな」
『それは良いのじゃが。お前様よ、二つの魔力が反発せん理由はなんじゃ? サタンの頃の記憶を引っ張ってきてもまるで謎じゃぞ?』
「そこだ。オレもそれが分からん。オレの魔力が関係してんのか、はたまた根源が関係してんのか……このどっちかの筈だ?」
『ふむ、その線が濃厚じゃのう』
「と言うわけでだ。今後継続して少しづつ調べていくか」
謎だった肉体の事も多少分かり、胸の引っ掛かりが少し取れた。だが、調べることはアレもコレもと多い。ギレンに情報収集させてはいるが、圧倒的人員不足である。
時間がないカレンにとっては歯痒い現実である。
「気は進まないが、兄さん達にも頼むか……」
『なんの話じゃ?』
「個人的なもんだ。気にするな」
村に帰ったら二人と話をしようと決めたカレンは、軽くため息をつくと、自身の胸にそっと手を当て、目を細める。
最近頻度が多くなっている。あの心が冷たくなるような感覚。意識はしっかりしているし、ちゃんと記憶もある。
毎回前触れもなく、急激に自身の思う世の中への認識が変わる。
原因は大体分かっている。そして、今の自分の状態も。今後どうなるかという事も。
だからこそ、余計に恐ろしい。
カレンは視線を上に向け、今も真上で眩しく輝く太陽に向かって、悪態をつくようにぼやく。
「世の中楽じゃないな。ったく、めんどくせぇ……』
『お前様、さっきから何を言っておるのじゃ?』
「独り言だ。気にするな」
街道を歩いていたカレンは、話も大体区切りが付いたと判断し、ドルトンまで一気にとばす。
そして、数百キロ離れたドルトンに、僅か十分程度で辿り着く。普通なら数日かけての道のりなのだが、人種の枠組みを逸脱し始めている、というか最早しているカレンには常識など通用しない。
ドルトンに着いたカレンは城門をくぐり、そのまま"青い蜜蜂亭"の拠点としている部屋に向かった。
部屋の前までやって来ると、ドアをノックする。ここで二人と待ち合わせをしている。
ドアの鍵が開く音がすると、カレンは部屋へと入いり、鍵を閉める。
窓は閉め切っており、外から見られないようにしてある為、部屋の中にいたシェイバは兜を外していた。
カレンも中の紅姫に言って幻術魔法を解く。
「カレン、久しぶりだぞ」
「まだ一週間程しか経ってないんだが……で、エリックは何してんだ?」
視線を横のソファーに向けてみれば、そこにはぐったりと横になっているエリックの姿があった。
心なしか、少しげっそりしているようにも見える。
「この一週間、中々こたえているらしいぞ」
「何してたんだ?」
「何って……いつも通りクエスト受けてただけだぞ?」
「いつも通りねぇ……」
という事はつまり、"災害級"や"厄災級"のクエストばかり受けていたというわけだ。
強さで言えば、既に人外の領域を超えているルミナスとカレンはともかくとして。普通の人間の、ましてや常識的な強さしかないエリックにとってはかなり負担が大きかった筈である。
冒険者という仕事柄、死に直面する事は多いが、それにしてもこの一週間は尋常ではない経験だっただろう。顔色からして死にかけた回数は通常のそれとは段違いの筈だ。
結婚してまだ半年近くしか経ってないのだ。毎日死に物狂いで生きようとする姿が目に浮かぶ。
「まぁ、頑張ってくれてるようで安心した。これなら一年任せられそうだ」
「い、一年……だと?」
エリックは油のさしていない機械のように顔をこちらに向ける。その顔は、冗談だろ? と言いたげである。
「そりゃそうだろ。オレはガキどもの面倒みなくちゃならないんだ。最低でもそれぐらいは当然だろ」
「一年こんな生活出来るか! マジで死んじまうわ!」
「そんな事言われてもな……オレも仕事なんだから仕方ないだろ。気張ってくれ」
「気張れるかっ! 毎日毎日、"災害級"だの"厄災級"だのと戦ってたら、こっちの身が持たねっつうの。というかまだ結婚して半年だぞ。俺はもっとエルザとデートしたり、あんな事やこんな事やそんな事までやりてんだって! クソっ! なんで俺がこんな役回りしなくちゃなんねんだ。完全に貧乏くじじゃねぇかっ!」
「とまぁ、昨日からこんな感じだぞ」
「なるほど」
半ば発狂しているようではあるが、一年なんとかなりそうと鬼畜な判断を下したカレンは、今も叫んで訴えるエリックを無視して、二人に支度をするよう促す。
ユルトから帰って来いという内容の手紙の中にもう一つ、ついでにルミナス達も連れて来いという内容も書かれていたのだ。出来れば"神威"の四人も連れてきて欲しいとのこと。
ユルトの真意は分からないが、別段困ることではない為、了解の手紙を返しておいた。
それともう一つ、手紙には今回の成人の儀には沢山ゲストを呼んであるという節が書かれていた。その中にはエリックの妻であるエルザや、なんとガルフォード名前まであった。
あんな辺境の村に大貴族のランチェスター侯爵を呼びつけるユルトの精神の図太さには呆れるが、それを心良く了承したガルフォードにも呆れる。
あと数人は来てからのお楽しみ的なニュアンスで書かれていた。という事を二人に伝えると、エリックは大喜びで「やっほう! 帰りますぅ!」と言ってすぐに身支度を整える。
「それで、あの四人組はまだドルトンにいるのか?」
「うん。いるぞ」
「そうか、なら呼びに行くか。クエスト押し付けられて入れ違いにでもなったら面倒だ」
「じゃあ私達は城門前で待ってるぞ」
「分かった」
カレンはエリックからレングリットの装備を受け取ると、それを手際良く身に纏い、その場を後にした。
メインストリートを真っ直ぐに進み、冒険者ギルドへ向かうのだが。その道中、いつもより視線が多く集まっている事に気づく。
「なんだ?」
レングリットで街を歩いている時も自然と視線が集まるが。今回に関しては普段より多い。
その光景に疑問を抱きつつも、レングリットはギルドに到着。扉を開けて中に入る。すると、ここでも一気に視線が集まる。
「だからなんでだよ……」
冒険者とギルド職員が見る目は、なんというのだろうか。こう、見極めるという感じである。
流石におかしいと感じたレングリットは目を閉じて耳に神経を尖らせる。そして、今も聴こえる声に耳を傾けた。
「おっ、今日は本物っぽいな」
「一週間ぶりか?」
「やっぱ雰囲気違うわ」
「入ってきた瞬間ビリビリって来た」
「じゃあ本物だな」
だいたいの内容を聴き取ったレングリットは、冒険者とギルド職員が何を言っているのか理解した途端、盛大にため息をつく。
「バレとるやん……」
つまりそういう事だ。この一週間代理でエリックにレングリットをやってもらっていたのだが。他の冒険者やギルド職員達からはバレバレであったようだ。
おそらく街の人達の視線も、何か感じるものがあったのかもしれない。
何の為に代理を頼んでいるのか分からくなってしまう話だが。これをエリックに話すと「じゃあ俺がレングリットする意味ねぇじゃん!」というのは明白である。
という事で、このことは言わない事にして、このままエリックにはレングリットを続役してもらう。
本人は嫌がっていたが、そこは我慢という事で話を終わらせる。
周囲の視線の理由が分かったところで、レングリットは辺りを見渡して"神威"の四人を探す。
すると、バーカウンターの所に一際目立つオカマを見つけ、バーまで足を動かす。
「あらおかえり。今日はあなた一人?」
「その様子だと気付いている様ですね」
「当然じゃない。女の勘を舐めない方が良いわよ!」
「実はですね。皆さんにお話がありまして」
「ちょっと、なんで無視するのよっ!」
ハートが飛んできそうなウインクをするオカマをよそに、レングリットはユルトからの手紙の事を話す。
「という事なのですが。皆さん時間はありますか?」
「クエストも終わらせたし、時間はあるわよ。でも、どうして成人の儀にアタシ達を呼ぶのかしら?」
「まぁ細けぇ事は良いじゃねぇか! 招待されてんだし行こうぜ!」
「俺もマインちゃんに賛成。そろそろ休みが欲しいよ!」
「そうですね。たまにはのどかな村でゆっくりするのも悪くないです」
「では決まりという事で良いですか?」
「「「異議なし!」」」
「だそうだわ」
「そうですか。では、急ではありますが、ご注意今から向かいましょう。成人の儀は今日の夕方からなので、今から行かないと間に合いません」
「分かったわ。じゃあアタシはギルドに暫く留守にするって伝えてくるから、少し待っててくれるかしら」
クラリスは受付まで行くと、サッと報告して流れる様に戻ってくる。
おそらく受付嬢に依頼書を押し付けられない為、隙を与えないようにしているのだろう。その動きはどこか手慣れていた。
「終わったわ」
「では一度城門前にいるシェイバ達と合流しましょう」
レングリットはクラリス達を引き連れ、城門にいるシェイバ達と合流。
時間もない為、軽い説明だけして急いで村に向かう。
「せめて昨日出発しとけば、もうちょっと余裕があったのに……」
アレンがぼやく。
「悪いな。オレの仕事に合わせた結果だ」
ある程度進むと、一行は平原のど真ん中で休憩を挟む事となった。
一応見張りとして、ルミナスが周囲の警戒にあたっている。
「意外です。料理するんですね」
「ルミナスは料理が原始的なんだよ。出来ないと言ってもいい。だからオレが覚えるしかなかったんだ」
そう言って手際良く具材を切り分け、鍋に入れていく。鍋に具材が入ると、それを火にかけコトコトと煮込む。
キノコと野菜をたっぷり入れたビーフシチューだ。
「ところで、どこにある村に向かってるんですか?」
「王国最南端の村。フルール村だ」
「最南端ですか……まだここから距離はありますか?」
「いや、もうかなり来てるぜ。このペースで行けば、あと二時間もあれば着くだろ」
「かなりハイペースで来たもんね……」
ロリちゃんの問いに、良い香りに釣られてやってきたエリックが答え、呆れた様にアレンが呟く。
「見張りしなくて良いのか?」
「今はシェイバが見てるから大丈夫だ。俺よりよっぽど安心だろ」
二十分後、料理が出来上がるとみんなで火を囲って食事を取る。料理は出来立てが一番美味い。
「う、美味い!」
「うんめぇー! テメェ魔族のくせして飯は上手ぇじゃねぇか!」
「そりゃどうも」
「あら本当に美味しいわ。後で教えてくれるかしら?」
「ああ、レシピ書いといてやる」
「ロリちゃん先輩も一緒に作ったんだろ?」
「私はカレンさんの指示通りに動いただけなので……」
「カレン、お前こんな特技あったのか」
「特技っていうか、生きる上で必要だったからな」
全員で食事を取っているので、今は見張りがいない。その為、現在はカレンが〈魔力感知〉を展開し、周りを警戒していた。
「〈魔力感知〉使うんだったら見張りいらないんじゃ……?」
「〈魔力感知〉も絶対ではありませんので、見張りは要りますよ」
その後食事が終わると、そこから更に三十分の休憩を取ると、一行は村へ向けてまた走り出す。
カレン達が村に着くのは、それから約二時間後の事だった。
ご愛読ありがとうございます。
次回はエミリアたちに戻ります。カレンの帰省イベントは当分先になるかと思いますので、そこら辺ご了承下さい!
本編を書き終わってなんですが、何か重要な事を書き忘れているような気も……
アレ忘れてるんじゃ? とか、この設定は? とかあったら感想で言ってください。すぐに書き足します。もしくはお答えします。多分説明は下手でしょうが……
もう自分じゃどんな設定があったとか分かんないです(笑)
さて、ここまで書きましたが。第四章、まだ三分の一も終わっていません。最近ではもう半分に分けちゃおうか悩んでます。
個人的に早く書きたい大闘技大会までまだ長いですし……
まぁ、ここは忍耐という事で! 少しづつ頑張りしょう!
これからも応援よろしくお願いします!




