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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第1章〜最強への道〜
13/201

来訪者達

 フルール村、それはアルフォード王国最南端の辺境に位置する村で、人口約百二十人程の小さな村。


 特産品と呼べるようなものはなく、何処にでもある普通の村だ。


 フルール村は他の街や村とかなり離れている。そのため、この村では物資の補給が困難だ。


 だが、この村には月に二回、商隊が物資を売りにやって来る。なので村人は、この時に一気に物資を買い漁り、溜め込むのだ。


 商隊が売っているものは様々で、例えば、食料に調味料、衣服に靴、畑を耕すための農具、英雄譚(えいゆうたん)などの物語を書き記した本、手紙などを書くための紙など幅広い品を揃えている。


 売っているのは、なにも物だけではない。例えば、郵便物を代行して街まで届けるというもの。


 この国には郵便物を届けてくれる郵便ギルドと言うものがある、そこには配達員がいて主に手紙など郵便物を届けるのが仕事だ。しかし、そんな配達員はこんな辺境の村までは回って来ない。街からかなり距離があるため、報酬が割りに合わないのと道中魔物が出現して危険なためだ。


 そこで、村へ護衛を引き連れてやって来る商人が、仲介役として郵便物を預かり、街の郵便ギルドへ届けるのだ。


 仲介料などが発生して少し割高になるが、他に届ける方法もないので、時々村人も郵便物などを送る際は、こう言った仲介制度を利用する。


 そんな、商隊が村に来ている今日、村は賑わい、物資がどんどん売れていく。


 その様子を見て満面の笑みを浮かべる男がいた。見た目は全体的に小さくて丸い、髪は癖毛で、口髭を生やし、穏やかそうな顔をしている。その男はこの"オットー商会"の主人で名を"ヨアヒム・オットー"と言う。


 ヨアヒムはその見た目通り、性格は穏やかで、人柄も良く、いつもニコニコしている。

 オットー商会の人達からは「見てて和む」「なんか、かわいい」「癒される」などその人柄から、商会ではマスコット的存在だ。


 今日、そんなヨアヒムの元に一人の青年が訪ねて来た。手紙を届けて欲しいとのことだ。

 ヨアヒムも仕事として来ているので、届けるのはやぶさかではない。


「ええ、構いませんよ。それで、どちらにお届けされますか?」


「この領地を治められている、男爵様に届けて欲しい」


 ヨアヒムは、この手紙は男爵様に宛てた手紙と言われ、少し神妙な表情になる。


 普通村人がその土地の領主、ましてや貴族に手紙を送ることなど例外を除けばまず無い。


 その例外とは、例えば、村人では対処ができない場合、領主に頼んで、兵を出してもらうため、もう一つは、なんらかの異変が起きた場合だ。


 ヨアヒムが何があったのかと疑問を思っていると、青年が答えた。


「実は少し前に小規模ながら魔物大進行(スタンピード)がありまして、その原因の調査を、男爵様に頼みたいのです」


魔物大進行(スタンピード)ですか?! その割りには村の皆様、明るいようですが?」


「早くに避難したお陰で、死者は出ませんでしたから」


 死者が出なかったと聞いて、ヨアヒムはホッとした。仕事で来ているとはいえ、この村には多少なりとも愛着があり、顔見知りも多いからだ。


「そういう事だったのですね、分かりました。それでは男爵様宛で郵便ギルドに届けさせてもらいます」


「はい、お願いします」


 青年はお金を払うと、安心したようにホッと息をつき、ヨアヒムには聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。


「これで村から()()()が居なくなれば……」


「何か言いましたか?」


「い、いいえ、なんでも! では、あとはよろしくお願いします」


 そう言って青年はすぐに去って行った。


 暗い笑みを浮かべて。



 ♢♢♢♢


 バレット家の家の裏。そこには小さな小屋が建っていて、そこは父さんの仕事場である鍛治場になっている。


 今日オレは、以前頼んでいた剣が完成したと聞きこの場にやってきた。


「父さん、剣を取りに来たよ」


「おう、ちょっと待ってろ!」


 そう言って父さんは奥に行き、一本の剣を手に持って戻ってきた。

 そして、それをオレに渡した。


「初めて作るもんだから、苦労したぞ」


「ありがとう、父さん……抜いていい?」


 オレは我慢出来ず、この場で抜いていいか父さんに聞いた。


「ああ、いいぞ!」


 父さんの許可が下りたので、オレは剣を(さや)から抜いた。


「……」


 この剣は、父さん(いわ)くこの国では聞いたことも見たこともないらしい。


 刃渡りは八十センチで、剣の刃は片側だけにあり、切断力を増すために反りがある。

 刃元には(つば)があり、(つか)には白い布が巻かれている。


「どうだカレン?」


「うん、ちゃんと"刀"だ」


 そう、今回オレが父さんに打ってもらったのは刀だ。

 ダメ元で頼んでみたが、なかなかどうして、父さんは見事にオレの要望通りのものを作り上げた。


「……綺麗だ」


「ははっ、照れるな!」


「すごいよ、父さん、まさか本当に刀を作れるとは思わなかった」


「息子の頼みだ、なんだってやってやるさ。それにしても、いつこんなもの知ったんだ?」


 父さんは疑問を顔に浮かべて聞いてきた。

 オレは刀を鞘にしまうと、父さんの質問に答える。もちろん、ちゃんと誤魔化してだが。


「この前、セラの持ってる本に出てきたんだ」


「そういうことか!  それにしても物語に出てくる剣に憧れるとは、やっぱりカレンも子供だな、ワハハハハ!」


 父さんは豪快に笑いながらオレの背中をばじばし叩いた。


 オレ自身刀に憧れを抱いていたので、その事に否定できず苦笑いを浮かべた。刀は日本人のロマンだ。


「さて、そろそろ昼食の時間だし家に戻るか!」


 そろそろ昼食ができる時間なので、オレと父さんは鍛冶場の片付けをした。

 片付けを終え家に戻ろうとしたとき、扉が勢いよく開いた。


 ドンッ!!


 何事かと扉の方に顔を向ければ、ユルト(兄さん)が息を切らして立っていた。


「どうしたんだユルト?」


「ハァ、ハァ、大変です!村に調査団が近づいています!!」


「なにっ! 何故調査団が?  まさか、この前商隊が来ているときに誰かが領主にでも手紙を送ったのか?!」


「分かりません、とにかく今はカレンを隠さないと!」


「そうだな、カレン、見つからないように何処かに隠れるんだ!」


「分かった」


 オレは、急ぎ家の屋根裏に隠れる事になった。そこは物置きになっており、荷物がたくさん収納されていて非常に狭く、子供一人がやっとの広さだ。



 村のみんなが迎える準備を進める中、一人屋根裏に隠れているオレのところに母さんがやって来た。


「どうしたの母さん?」


「ううん、ただ様子を見にきただけ……怖くない?」


「このあいだ魔物の大群を相手したばかりだし、今更だよ」


「そう……カレン、何があっても出てきちゃダメよ、分かった?」


 オレが調査団に見つかれば、魔族という事で確実に処分される、だからそんな事にならないよう、母さんはここから出るなと言っているのだろう。


 オレも、殺されたくはないので、ここで大人しくするつもりだ。いくらオレが魔族で、魔物百匹を殺し尽くせる存在だったとしても、今回の調査団の中には、オレより強い奴がいるかも知れない、警戒はするべきだ。


「分かった、ここで大人しくしてるよ」


「よし、母さん達がカレンを守ってあげるから、あとは任せてね」


 オレは眉を八の字にし苦笑いする。


「大袈裟だよ」


 母さんはニッコリと笑うと、この場を後にした。


 母さんが去った後、オレは天井を見上げ、独り言を呟く。


「……どうにも、胸騒ぎがするな……」


 オレは先程から、どうも嫌な予感がしてならなかった。


 何事もなく、帰ってくれればいいんだが、無理だよなぁ……。


 それから程なくして、調査団が村に到着するのだった。

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