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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第4章〜魔法騎士学園〜
124/201

時間がない

「よう、やっと起きたか。いい夢は見られたか?」


 エミリアが目を覚ますと、こちらを覗くように見下ろすヴェイドの姿が視界に入る。


 どうして自分が仰向けで横たわっているのか。理由は言わずとも知れている。


 模擬戦において、目の前のヴェイドに意識を奪われたからだ。

 エミリアは眉をつり上げると上体を起こし、お腹をさすりながら睨むような視線をヴェイドに向けた。

 痛みはないが、あの強烈な一撃は脳裏に焼き付いており、感覚がまだ残っているように錯覚する。


「最悪の気分ですわ」


「そりゃ随分と悪い夢でも見たようだな」


 エミリアは一瞬ムスッとした顔を作ると、横に視線を向ける。そこには、ベル、シャナ、ディートリヒ、テレーゼ、ヘンディ、ジュドーが寝かしつけられていた。


「ランチェスターさん起きたんだね。大丈夫?」


 エミリアが目を覚ました事に気づいたゼンが駆け寄ると、クロエたち他のメンバーも側にやって来る。


「ええ、心配ありませんわ。ありがとう」


「エミリア起きた」


「やっぱアンタも頑丈だね。目を覚ますのが早い」


「これでも鍛えてますから」


「エミリア起きたか。腹の調子はどうだ?」


「リチャード、それではまるでわたくしがお腹を下しているように聞こえますわよ」


 ヴェイドが一応治癒魔法をかけてくれていたようで、攻撃を食らった箇所に痛みはないが、リチャードや他のメンバーもまだ感覚というか、感触というものが残っているらしい。それを心配しての問いだったのだが、こうしてツッコミが来るということは問題ないということなのだろう。流石、普段鍛えているだけの事はある。


 その後、テレーゼ、ジュドー、シャナ、ディートリヒ、ヘンディ、ベルの順で目を覚まし、各々が気を失う前に一撃を受けた所をさする。

 リチャードたち同様、やはり違和感があるらしい。特に腹を蹴られたベルは渋面である。


「やっと全員起きたか。取り敢えず、さっきのお前らの動きを見て思った事をいう。まず、ベルからだが……」


 ベルの評価は赤点であった。百点満点で言うところの、マイナス七十点であるらしく、それを聞いたベルは「何故だ?!」と顔を真っ赤に抗議の声を上げた。

 (いわ)く、自分は上級魔法を使った。曰く、戦闘中、仲間のサポートをした。曰く、ヴェイドの目は節穴だ。と、声を荒げながら言い募る。


 しかし、ヴェイドは淡々と告げる。


 まず、あの場で使った魔法は確かに高威力の上級魔法であったが、仲間が近くにいる状態で使う魔法ではない。次にサポートと言うが、あれだけ味方が密集している状態で高威力の魔法を放てば、まず間違いなく味方の被害はただでは済まない。あの時ヴェイドが〈魔力障壁〉を展開していなければ、あの時点で全員が戦闘不能にされていた可能性があった。それは最早サポートではなく、ただの同士討ちである。


「お前は自分の放った魔法が、味方にどういう影響を及ぼすか、ちゃんと考えたらどうだ。少なくともさっきお前が使った魔法は、味方に甚大な被害をもたらしていたかも知れねぇぞ」


「そんな事はない! 皆んなならあれぐらい、きっと避けていたさっ!」


『此奴、自分の都合のいいように解釈するようじゃの。しかも無意識というのが更にタチが悪い』


『ったく、面倒な人選しやがる……』


 怒るベルを横目に、ヴェイドは何か言いたそうな顔をしているテレーゼに目を向ける。


「テレーゼ、お前から何か言ってやれ」


「………」


「そういう顔してるぞ」


 テレーゼは少し逡巡するとベルに目を向け、口を開く。


「ベル。アナタは本当に私たちが避けられたと、そう思ってるの?」


「当たり前さ! オイラはみんなを信じてる!」


 テレーゼは溜息が出た。「信じてる」聞こえはいいが、それは戦闘中にいきなり魔法をぶっ放されたテレーゼ達にとっては、実にありがた迷惑な言葉だ。

 それはエミリアたちも同じようで、その表情は少し渋い。つまり、彼女たちが思っている事は、テレーゼと同じなのだろう。


「私が最初に師匠(せんせい)に攻撃をしかけた時。ベルが魔法を放ったよね? ハッキリ言うけど。私あの時、魔法が着弾するまで全く気づかなかったわ。上から降ってきた魔法にしたってそう……言ってる意味分かる?」


「……!!」


 つまり、実際は誰もあの魔法を避けられなかったという事であり、ベルが限度というものを知らないだけだった。

 テレーゼに言っている事を理解し、目を見開いたベルは、そんなバカなと他のメンバーにも視線を向ける。

 だが、やはりみんなテレーゼと同じ意見のようで。ベルを見る目は「あれはサポートではない」と言っているようであった。

 ベルは言葉に詰まる。


 何故だ、何故だ。自分が上手く立ち回れるようにサポートをしてやったのに! あんなのも避けられないのか! この無能共! とベルは内心憤る。


「ベル。貴方今、わたくしたちに対して、無能とか思ってないですわよね?」


「な、何を……?!」


「あら、何を驚きますの? 顔に書いてますわよ。わたくし、これでも貴族ですもの。人の心を読むのは得意ですわ」


「………!」


 エミリアは大貴族の娘として、よく貴族の主催するパーティーなどに出席する。

 そこは、表面上では華やかなものの、中身は黒々とした、ある意味で戦場である。そんな中で生き残るためには、当然の如く、相手の意図を読む必要がある。

 何が目的か、何を考えているのか、何を求めているのか。目の奥に潜む真意を見抜く能力が必須である。当然、エミリアもそういったことに長けており、先ほどベルが浮かべていた表情から何を考えているかを探り当てるのは、貴族を相手にするより百倍簡単である。


「ベル、味方を信じるのは良いことだが、限度がある。独り善がりが過ぎて仲間を危険に晒すような信用や信頼なら捨てろ。無い方がましだ。どういう魔法がどのタイミングで最適か、そこをよく考えろ。それがお前の課題だ」


 ベルは項垂れながら消え入るような声で「はい……」と呟くと、その後は何も言わなくなった。サポートのつもりで発動した魔法が、全然サポートになっておらず、それがショックだったのと、どうして、という納得のいかない気持ちがベルの中で鬩ぎ合っているのだ。


 これもベルが成長する上での試練だ。あとはベル自身に考えされるのが重要である。それでも分からないというのであれば、また教えてやれば良い。今日のところはそっとしておくことにした。


「さて、テンポよく行くぞ。ローザ、力の強さを生かしての破壊力のある攻撃は評価しておくが。お前は意識が常に別のところに行ってたぞ。そんなに気になるならデートにでも誘ったらどうだ?」


「違うわっ! 誤解招くような事言うんじゃないよ!」


 全員の視線が激しくツッコミを入れるローザから、流れるようにリユウガへと向く。

 教室にいた時もそうだが。ローザが一番敵意剥き出しだった事から、まず間違いなく別のところに向いていたという意識はリュウガに向いていたのだろう。でなければデートなどというワードは出てこないはずである。


「ジュドー。お前は矢を放つタイミングは悪くなかった。ただ、タイミングを図り過ぎて迷いがある。慎重になるのもいいが、なり過ぎるのも問題だぞ。あと、もっと肩の力を抜け。力んでちゃ標的が定まらねぇぞ。

 次はヘンディ。大上段からの一撃は良いが、隙が大き過ぎる。もっと小さく鋭く剣を振え。じゃねぇと格好の的だぞ」


「「はい……」」


「シャナ、鞭をあそこまで上手く扱う事に関しては評価するが、攻撃パターンが単調すぎる。もっと技のレパートリーを増やさねぇと、すぐに相手に攻撃を見切られるぞ。あと、その場に止まるのもいただけねぇな。脚を動かせ。ヘンディにも言ったが、格好の的だぞ。

 続いて、ディートリヒ。お前の魔法の発動タイミングは絶妙だったな。特にあそこで〈魔力障壁〉を発動してオレの行手を阻んだのは高評価だ。だが、お前もシャナと同じでその場に止まるのは良くなき。常に脚を動かせ。それと、あの時〈魔力障壁〉をただの壁ではなく、オレを取り囲むようにしていれば尚良かったぞ。それと、もっと戦いに参加しろ。積極性が足りないな」


 続けて話す。


「テレーゼはディートリヒと同じで、タイミングを見計らうのが上手い。大鎌も流れるように使えているし、悪くはない。ただ、筋力不足から体が武器に流されてる。これは他の奴も同じ事だが……それと、最初にも言ったと思うが、テレーゼは気配がダダ漏れだ。もっと抑えろ。

 次はゼン。小さい体を活かせての高速の連撃は評価するが、お前は優しすぎる。そういうのは戦いの最中では致命的だ。もっと非情になれ。甘さは命取りになるぞ。あとスタミナ不足だ。当面は体力作りが課題と言ったところだな。

 クロエ、一度気配を絶ってからオレに攻撃をしかけたのは高評価だ。だが、お前もシャナと同様攻撃が単調だ。攻撃のリズムを変えろ。それと、これは全員にも言えるんだが、武器にばかり頼るな。特にお前とテレーゼは獣人なんだ。身体能力の高さを活かして蹴りなんかも取り入れろ。そうすりゃ自然と攻撃のレパートリーが増える」


 ここまで話を聞いて、エミリアたちはポカーンと口を開いて唖然とする。

 あの戦いの最中、ヴェイドは全員の長所と短所を見抜いていた。しかもこの人数を相手にだ。最早言葉が出ない。


「さて、最後にお前ら三人だな」


 ヴェイドが見つめる先には、リュウガ、エミリア、リチャードの三名。

 この三人はヴェイドの中でも評価は高い。但し、この中ではと言う意味であり、決して言うことなし、というわけではない。


「最初はリュウガからにするか。リュウガは剣の扱いが上手い。滑らかで、それでいて鋭い。あと、オレに剣を斬り払った時、躊躇しなかったのも良かった。だが、お前はアレだな。なんというか武器が合っていない。実際剣を使ってみて、どう感じる?」


「……少し、使いにくいです。両刃の剣より、片刃の剣の方が、扱いやすいかと思います」


「なら、今度片刃の剣をいくつか集めておく。その時自分に合う武器を選べ」


「はい、ありがとうございます」


 魔族の自分に対して他のクラスメイトと同じように接するヴェイドに不思議な感覚を覚えつつ、リュウガは素直に頷く。

 仕事だから割り切っているのかと思ったが、それも違うような気がした。


「次はエミリアだな。お前は侯爵様に鍛えられているだけあって、基礎は出来てる。スタミナも筋力も、剣の扱いも問題ない。そこに魔法が加われば尚良いな。〈身体強化〉や〈魔力硬化〉なんかが合わされば、攻撃の幅も広がる。あと、エミリアの戦い方を見ていて思ったが。お前は剣より長剣のほうがあっている気がする。ものは試しに使ってみるか?」


 エミリアはヴェイドの観察眼に瞠目しつつも、先程の提案を逡巡する。

 実際、今で剣を使ってきたが。どうにも違和感はあった。それはきっと気のせいだと思う事にしていたのだが、ここへ来てヴェイドから別の武器の方が合っていると指摘された。

 他人から見てもそう感じると言う事は、やはりエミリアの気のせいではなく、武器が合っていないという事なのだろう。

 ならば、ヴェイドの言う通り、ものは試しに変えてみるのも良いかもしれない。これも経験だ。


「分かりましたわ。試しに変えてみます」


「了解だ。よし、最後はリチャードだな」


 ヴェイドは最後の一人、明るい茶髪の男、リチャードは視線を向ける。

 正直、ヴェイドはこのリチャードにはかなり驚かされた。

 それほど魔力を込めてはないとはいえ、〈魔力障壁〉を腕力だけで砕いた荒技と、大剣を指で摘んで振る怪力。

 見た目に反して、異常なまでの力。ヴェイドの記憶が正しければ、それはおそらく……。


「リチャード。お前、ヘラクレス症候群か?」


 ヴェイドの問いに、リチャードは無言で頷いた。


 ヘラクレス症候群―― 遺伝子の異常で発症する、一種の病気。筋肉が異常なまでに発達し、 その筋肉密度は常人の六倍から八倍。見た目では普通の人間と変わらないものの、その筋肉密度故に、通常では信じられない怪力を秘めている。また筋肉の密度が多いことから、エネルギーの消費も激しく、恐ろしく燃費の悪い体である。その為、食べる量もそれに比例して多い。


「やっぱりそうか。大剣を指で摘んでたのを見て、そうじゃねぇかとは思ったんだ。アレは久々に度肝抜かれたぞ! 良い攻撃だった」


「あの、それで俺の評価は……?」


(ヤベェ聞きたくねぇ! すげぇ不安なんだけど!)


「ああ、そうだったな。リチャードはその怪力を生かした戦法が良い。息の合わせ方も良かった。あとは鍛え方次第でお前は化ける。つまり、高評価だ」


 リチャードは息を飲んだ。まさかここまで評価してくれるとは思っても見なかったのだ。しかも、ヴェイドの様子を見る限りでは――クラスで一番強い――エミリアよりも評価が高いと思われた。

 素直に嬉しい気持ちになる。


「高評価、ありがとうございます。でも俺、エミリアよりも弱いですよ?」


(裏がありそうで怖ぇんどけど!!)


「この際強さは関係ねぇんだよ。それともなにか、否定して欲しいのか?」


「いや、そういうわけじゃ……」


「だったら素直に受け取っとけ。じゃねぇと他の連中に対して嫌味になっちまうぞ」


「は、はい。分かりました」


「よし、これでお前らの実力や大体の問題点も見れたし。オレの実力も分かっただろ。なんか文句はあるか?」


 全員、そろって首を横に振る。


「なら今この瞬間、お前らは正式にオレの弟子になった。最初にも言ったが、ちゃんと師匠(せんせい)と呼べよ。そんじゃ、早速鍛錬を開始す――」


 一通り全員の評価が終わり、これから鍛錬を開始しようとすると、「あの〜……」とゼンが恐る恐る手をあげ、全員の視線が集まる。


「どうしたのゼン君」


 隣にいたクロエが可愛らしく首を傾げる。


「最初にアインドラ君を評価した時に、マイナス七十点と言っていたように聞こえたんですけど。ちなみに、ボクたちの点数は……?」


 ゼンの質問に、はっ! そういえば! と全員が一斉にヴェイドに振り返る。


「なんだ、知りたいのか?」


「「「「「「「うんうん!!」」」」」」」


 見事なリンクで一斉に頷く。


 やはり自分の点数は気になるようで、エミリアたちはキラキラした目をしている。但し、リチャードとリュウガだけは浮かない顔をしている。


 ヴェイドはめんどくさそうに頭を掻く。


「じゃあ順番に……ベル、マイナス七十点。ローザ、マイナス六十四点。ジュドー、マイナス六十二点。ヘンディ、マイナス六十点。シャナ、マイナス五十九点。ディートリヒ、マイナス五十一点。テレーゼ、マイナス四十七点。ゼン、マイナス四十三点。クロエ、マイナス四十点。リュウガ、マイナス、三十二点。エミリア、マイナス二十八点。リチャード、マイナス二十一点。と、こんな感じだ。ちなみに百点満点中だぞ」


 キラキラしていた目は一気に暗転し、その場に凍えるような沈黙が漂う。


「「「「「「「……………」」」」」」」


「いや、ベルがマイナスの時点で気付けよ」


「リュウガに同感」


(やっぱり裏があった……!)


 薄々気付いていたリュウガとリチャードは特に驚くこともなかったが、他のメンバーはそうではないらしく。固まっている様子から、かなりショックらしい。

 そして、そこにリュウガが追い討ちをかけるような質問をヴェイドに聞く。


師匠(せんせい)、ちなみに及第点は何点?」


「六十点だ」


 高い。ただでさえ今の点数はマイナスだというのに、六十点など八千メートル級の山並みに高い。最早山頂が高すぎて眩暈がする上に、登る前から絶望的である。

 一番点数の高いリチャードでさえ、及第点まで八十点近くある。ベルに至っては百三十点だ。

 最早地上からのスタートではなく、海底からのスタートである。


「まぁ、頑張って登ってくるんだな。ほら、時間がねぇんだ! とっとと動け!」


「なっ……!」


「「「「「「「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」


 この日、学園都市"アルゴ"に、絶望混じりの若い男女の絶叫がこだましたという。




 ♢♢♢♢♢


 あれから何分経った? このカス共、手加減したっつうのにまだ起きやがらねぇ。

 これだから劣等種の人間は困る。


 そもそも、なんでオレはこんなことしてんだ? こんな人間(ごみ)共鍛えたところで、なんの意味もないだろ。

 蟻が(ドラゴン)になれるとでも思ってんのか。


 何にも知らねぇくせに、世界へ無駄に足掻く姿は見ていて滑稽だ。抵抗なんてやめちまえば楽になるものを。


 例え人間が滅んだところで、世界の歯車にはなんの影響はないんだ。時間は進み続ける。


 道端から石ころが消えるようなもんだ。


 暗く、黒く、冷たい。


 冷め切ったその瞳に、最早暖かさは微塵も感じられない。

 生徒たちを見る瞳も、人間という命を見るものではない。その辺の雑草や石ころを見るそれだ。


 命をなんとも思っていない。


 そこには殺気も、敵意も、感情もない。ただただ、冷たい。


 瞳の奥にあるのは、暗い深海のような闇。それだけだ。


 そして――


「………っ!!!」


(クソッ! ()()()()!)


 ――唐突に、暗く濁っていたカレンの意識が晴れる。


(これで()()()()っ?!)


 この()()は一体、いつからだろうか。

 いや、分かっている。()()()からだ。初めて紅色の魔力を解放したあの時から、この()()は始まっている。


『お前様、どうかしたのかの?』


 紅姫とは最近になってリンクを切っている。この年になると、色々知られたくない、あんな事やこんな事があるからだ。

 その為、紅姫とリンクを切ったカレンの感情や考えていることは、彼女には伝わらない。つまり、異常なども一切感じ取ることはできない。


『いや、なんでもない。ちょっと考え事してただけだ』


 紅姫を上手く誤魔化し、内心カレンは安堵の息を吐く。

 そして暫くすると、ようやく生徒たちが目を覚まし始める。

 手加減はしていたが、少し強くし過ぎたかもしれない。ルミナスやギレンに慣れているから加減が難しい。


「今度は気をつけねぇとな……」


 カレンは先程の事を思い出す。

 意識が落ちるわけでも、別人に切り替わるわけでもなく、唐突に心が冷たくなる感覚。  


 なんの違和感もなく、寧ろしっくりしていたとさえ思う。


 そしてこの異常は、以前にも増してペースや頻度が増えている。


 カレンは自分の胸に手を当てながら顔を顰めた。


「時間がないかもな……」


 その呟くような言葉は誰にも聴かれることなく、静かに虚空へと消えていった。



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