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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第4章〜魔法騎士学園〜
122/201

今日からよろしく

 学校に入ると、まずは校長室に向かった。

 扉をあければ、特徴的な長い耳と口髭を蓄えた壮年の男性が椅子に腰掛けており、ヴェイドの姿を確認するや否や、席から立ち上がる。


「ランチェスター侯から話はお聞きしております、ヴェイド・ロズウェル殿」


 校長の名前は"ヒューズ・ノット"。この学校に勤めて早七十年になるお爺ちゃんエルフである。


 挨拶が済むとそこからは早く、簡単な学校の説明や職員の数と生徒の数、授業のカリキュラムや、どういった施設があるかなどの説明を聞く。


「先に言っておきますが。一切の横槍は無用でお願いします。でなければ私はこの仕事をおりますので」


「はい。その話もお聞きしております。ただ……」


「ただ?」


「生徒が死なないようにだけお願いします」


「……善処します」


 その後、校長室を後にしたヴェイドは職員室に赴き、軽く挨拶をする。そして女性職員に案内され、これから自分が担当する教室へ向かう。


「ロズウェル先生は随分とお若いですね。これから案内する教室は中々手強いですので、頑張ってくださいね!」


 彼女の名は"サリア・ラム"といい、この学校の先生を始めたのが二十歳の時らしく、以来三年間、この学校に勤めているという。

 腰の下まで伸びた輝く翠金髪は、三つ編みでまとめられている。

 瞳は髪の色と同じく翠金色と言う珍しい色だ。

 身長は百五十センチ後半ぐらいで童顔。年齢の割には幼く見える。


「この学校、噂ではかなりヤンチャな生徒が多いみたいですね。あんな事やこんな事までやってるとか……」


「ご存じだったんですね……」


 彼女は眉を八の字にして困ったように笑うと、「ここが、ロズウェル先生の担当する教室です」そう言って扉を開いた。


 ヴェイドが教室へ踏み込む。するとどうだろう、張り詰めた空気が一気にビリビリと伝わり、後ろにいたサリアが涙目で「ぴぃっ!」と変な声を上げる。


「あ? なんだこの雰囲気?」


 入っていきなり険悪な空気に首を傾げるヴェイドは、ふと教室の隅に座る少年に視線が向く。


『ふむ。あれは竜人じゃの。校長室で聞いた魔導国からの留学生じゃ』


『なるほど。この張り詰めた空気は魔族である竜人がいるからか。アホらし』


 ヴェイドは面倒くさそうに頭をかくと、後ろで小刻みに震えるサリアに顔を向け「ここからは一人で大丈夫です。案内ありがとうございます」と礼を言う。


 サリアは無言でコクコクと頷くと、ギクシャクした動きで職員室へと戻っていった。


 サリアの姿が見えなくなるまで見送ると、ヴェイドは扉を閉め、生徒が座る席に体を向ける。


「まぁ、なんだ。取り敢えず自己紹介とかあるから、とっとと席に座れ」


 席を立っていたエミリアは、大人しく元いた位置に座る。


 現在教室の視線は全てヴェイドが集めている。

 それもそうだろう。どう見ても年齢的には自分たちと変わらない人物が教壇に立っているのだ、不思議に思はないわけがない。

 それでも、教室の空気は未だ張り詰めている。


「取り敢えず自己紹介、といきたいところだが。お前らそのピリピリした空気どうにかなんねぇのか?」


 視線はヴェイドに向いているのだが、全員の意識は竜人であるリュウガに向いている。正直とても自己紹介などできる雰囲気ではない。


「魔族がいるんだよ?! 自己紹介なんて出来る状況じゃないんだよ。空気も読めないのかい!」


 そう言ってリュウガに指差しながら憤るローザに、ヴェイドは大きな溜息をつく。


「はぁ〜……お前はアホか。そんなもんが理由になると思ってんのかボケ。敵意剥き出しにしやがって、お前の頭は筋肉で出来てんのか?」


「なっ……なにぃ!!」


 怒りに顔を真っ赤に染め、ローザは射殺すよにヴェイドを睨みつける。


「まぁ、昔から魔族は敵だのなんだのと教えられて来たお前らからすれば、その反応は当然なんだろうな。だが、そうやって作らなくてもいい敵を作るつもりか? そいつはお前らに何かしたのか?」


「そ、それは……!」


「してねんだろ? だったらそいつは現段階で敵じゃねぇ。魔族を敵だのなんだの言う前に、一歩引いてそいつ自身を見てやれ。じゃねぇと後々後悔すんのはお前だぞ。少なくとも、オレは魔族と人間を変な風に分け隔てるつもりはない。寧ろ対等に見ているつもりだ。人間に良い奴、悪い奴がいるように。魔族にも良い奴、悪い奴がいる。そこら辺をもっと考えろ」


 リュウガは目を見開く。

 この国に来てから敵意の嵐に晒されてきた。国を出る前から覚悟はしていたが、正直な話、周りに味方がいないというのは精神的にかなり辛い。

 この国にいる間は心が安らぐ時間なんて一生ないと思っていた。


 リュウガはこの国で特に何か悪さをしたわけではない。だが、周りの視線は突き刺すように鋭く、中には殺気の篭った視線まで向ける者までおり、時折命の危機を感じる事もあった。

 そしてこの国に来て早一月が過ぎた頃、最早人間と友好を結ぶなど不可能だと感じ始めていた。この学校に留学生として入り、教室で静かに座っていただけでも雰囲気は最悪だ。


 しかし、こんな風に魔族を見る人間を初めて目の当たりにしたリュウガは、少なくない衝撃を受ける。

 魔族は敵という認識下の中で、目の前の男の価値観というのは異質である。だが、それはリュウガにとっては素直に嬉しいものである。

 さっき話しかけて来たエミリアもそうだが。存外、人間の中にも――ごく少数ではあるが――魔族を友好的に見る者もいるのかもしれない。そう僅かな希望を持つに至った。


「お前、名前は?」


「えっ、あ……リュウガ・ヴラド、です」


「リュウガ、お前もさっきから黙んまり決め込んでねぇで、ちょっとは反論したらどうだ? いいか、反論しねぇって事は、それはつまり自分の罪を認めるようなもんなんだぞ。違う時はハッキリ違うと言え。堂々としていろ。じゃねぇと自分の首を締めることになるぞ」


「は、はい……」


「ホントに分かってんのか、お前? まぁ、いい……」


 その後ヴェイドは出席をとり、一人一人の顔と名前を覚えると、ようやく自分の自己紹介を始める。


「随分前置きが長くなっちまったが。オレの名前は"ヴェイド・ロズウェル"だ。今日からお前らの担任になる。だが、オレもこうして教壇に立つのは初めてだ。そこら辺よろしくな。それと、オレのことは師匠(せんせい)と呼べ。質問は?」


 何か気になる事もあるだろうと思っての質問時間だったのだが。まさかの全員が手をあげ、つい苦笑いが浮かぶ。


「全員かよ……じゃあ、テレーゼ」


師匠(せんせい)は何を担当されているんですか?」


「オレが担当しているのは魔物学と魔法学、それと実技全般だ」


 魔物学とは、そのまま魔物についての授業である。

 魔物の生態や生息地域、種類などを学ぶ授業だ。

 魔法学は魔法についての授業で、術式や魔法の効果、範囲、使われる用途などを学ぶ。

 そして実技とはそのまま実戦形式の授業であり、ヴェイドの仕事はここが主となってくる。


「分かりました。ありがとうございます」


 テレーゼの質問が終わると、次は手をピンッと伸ばしたエミリアを当てる。


師匠(せんせい)は随分お若く見受けられますが。おいくつですの?」


「それ答えなきゃダメか?」


「勿論ですわ」


 無言で全員が息ぴったりに頷く。


「……オレはお前らの一つ上の世代になる。あと半年もしない内に成人だ」


「えっ?! じゃあ師匠(せんせい)はまだ十七歳ってことかしら!」


 あからさまに驚くシャナに「そうだよ。ロズウェルさんはまだ十七歳だ。なんか文句あんのか?」と若干、だから嫌だったんだ、という顔をする。


「じゃあ次は、リュウガ」


 リュウガはを当てると、全員の視線がそちらに向く。

 はじめにヴェイドがああ言ったが、やはりまだ受け入れられないようだ。その視線は――エミリアを除いて――険しい。


師匠(せんせい)は俺たちと歳が変わらないのに教壇(そこ)に立つって事は、やっぱりそれなりに実力があるという事ですか?」


「何が悲しくて、自分の実力云々を言わなきゃいけねんだ。……まぁ、()()()()はある」


「そこそこって、どれくらいですか?」


「クロエ、そこはあんまり気にするところじゃねぇぞ。そこそこはそこそこだ」


「いいえ、それでは困りますわ!」


 声のする方に視線を向ければ、エミリアが険しい表情でこちらを睨んでいた。

 なんでも稽古をつけてもらうには、それ相応の実力の持ち主ではないと話にならないとの事だ。

 それを言ってはこの学校の教師は誰一人としてエミリアには敵わないのだが。それは言わないでおく。

 おそらく本人が気に食わないのは実力云々よりも、ヴェイドの歳が自分と近いところだろう。

 一つ上なだけというのに教師という立場を利用して偉そうにしている男。少なくともエミリアにはそう見えているようで、ヴェイドからすればはた迷惑以外の何者でもない。

 自分に自信があるのはいい。プライドが高いのも悪いとは言わない。だが色々と面倒だ。

 ヴェイドは心底そう思った。


 自分と歳が近くて、弱いかもしれないような男に教わるのは、彼女としても癪なのだ。


 確かに普段からガルフォードに鍛えられて来たエミリアからすれば、そこそこの実力を持つ人物から得るものなどないのかもしれない。

 しかし、エミリアの考える"そこそこ"とヴェイドの考える"そこそこ"は大きな違いがある。


 エミリアの考える"そこそこ"はあくまで人間という種族の範囲内でのこと。一方でヴェイドの考える"そこそこ"は人間から"七災の怪物"までの全てを総合した範囲内での"そこそこ"だ。

 つまり、"そこそこ"と言いつつ、結構強いですよ、と言っているのである。


 だが、そんなヴェイドの意図が当然伝わるわけもなく。エミリアたちからは不満の声が上がる。


「なんだようるせぇな。そこそこつっても、少なくともお前よりは強ぇよ。心配すんな」


「随分と自信ありげですわね!」


「そのセリフ、バットで打ち返してやるよ。こんな狭い世界でぬくぬくと育って来たお嬢ちゃんには、間違っても負ける気がしねぇな」


「言ってくれますわね! では、演習場で決闘といきましょう!」


 などと、自信満々のドヤ顔で言い放つエミリア。どうしたらここまで傲慢になれるのか不思議に思ったが。ふと思い出してみれば、あのガルフォードが本気を出してもギリギリ勝てるぐらいと言っていたのでそれが原因だろう。つまり、責任はこの子のパパである。


『ガルフォードに文句言ってやる!』


『噂には聞いておったが、とんだじゃじゃ馬娘じゃのう』


 あとでガルフォードに文句の手紙を送ることを決め、今もドヤ顔で見下ろすエミリアに、ヴェイドは小さくため息をこぼす。そして、一言「却下」と言い放つ。


 当然受けて立つ、という言葉を予想していたエミリアは、期待を裏切られ「どうしてですのッ?!」と叫ぶ。それに対して、ヴェイドの返答は。


「いや、今から魔物学だぞ? ほら、教科書持ってんだろ。開けボケ」


 当たり前のように淡々とした答える。


「納得いきませんわ!」


「納得いかないって言われてもなぁ……オレも仕事でやってんだ。文句言うなよ、面倒くせぇ」


「わたくしはこれでも騎士を目指しているのですわ! だというのに、貴方のような……!」


 そこからエミリアは止まらなかった。やれ若造の分際で、やれ偉そうに、やれ話にならないなど、要約すればこんな訳の分からない事を次から次に、そのよく回る舌で、ああだこうだと言い募る。


 それをそのすぐ近くで聞いているクロエたちも、流石にドン引きしているのが視界の隅に入る。


 長く続くエミリアの文句に煩わしさを感じて来たヴェイドは、ギャーギャーうるさいエミリアを尻目に、チョークを手に取る。そして、グググッと親指に力を入れ、チョークを弾いた。


「ぷぎゃっ!!」


 勢いよく真っ直ぐ放たれたチョークは、寸分違わずエミリアの額のど真ん中に直撃。文字通り粉々に砕け散る。


「〜〜〜っ!! な、何をしますのっ!」


「こんなもんも避けられねぇようじゃ、お前の実力なんざたかが知れてるな」


「な、なんですって!! わたくしは――ぷぎゃっ!!」


 今度は黄色いチョークが放たれ、これも見事に額へ吸い込まれように直撃する。

 親指で弾かれだだけのチョークは、凄まじいの一言に尽きる速さで飛ぶ。


 ヴェイドがチョークを弾く際、魔力の反応は見られない。

 つまり、素の腕力のみで弾いているのだ。

 それに、正確なまでの命中精度。並大抵の実力では出来ないであろう芸当だ。

 その光景を側から見ていたクロエやゼンたちは、ヴェイドの底知れない実力に呆然とする。


 その後、チョークを三本ほど食らったエミリアの額は大きなタンコブが出来上がる。

 何度か避けようとしたが、動きを先読みされて全て直撃を受けていた。


 額を摩りながら涙目でヴェイドを睨むエミリアは、これ以上チョークを額で受け止めまいと流石に大人しくなり。今は席に座って魔物学の教科書を開いている。


『ガルフォードなら避けられたかもな』


『まぁ、経験の差じゃろう』


 エミリアが大人しくなったあと、他に質問がないか聞いてみたが、何故か手は上がらなかった。おそらく聞きたかった質問は聞けたらしい。


「よし、そんじゃ早速、魔物学を始めるか………なんじゃこりゃ!」


 早速授業を始めようと手に持った魔物学の教科書を開いてみたのだが。その内容は冒険者として実際に魔物たちと対峙して来たヴェイドから見ればあまりに淡白な内容だった。


「表面上の特徴とかしか書いてねぇじゃねぇか! やめだやめ、こんな教科書使えるか!」


 そう言ってヴェイドは手に持った教科書を燃やす。


 突然の行為にエミリアたちはギョッとし、テレーゼが声を上げる。


「ちょ、教科書燃やしていいんですかぁ?! 魔物学の授業するんですよねぇ!」


「こんな薄っぺらい教科書使えるか。これなら冒険者の持ってる手帳のほうがよっぽど役に立つ。取り敢えずもう使わねぇからそれ仕舞え。もしくは捨てろ」


「捨てろって……授業する気あるのかい?」


「ある。いいか、オレも嫌々こうして教壇に立って入るが、仕事は仕事だ。最後まで責任は取る。だからお前らにはオレの知る限りの知識や技術は惜しみなくくれてやる」


 嫌々と言う言葉には苦笑いを浮かべたくなるが、やる気があるのは確かなようで、ヴェイドの言葉には確かな真摯な気持ちが見受けられた。


 結局、使い物にならないとの事で、エミリアたちは教科書をしまい、仕切り直して改めて授業を再開する。


「さて、お前ら魔物学を受けるのは初めてだな。まぁ、教えるオレも初めてだが。まず聞こう。お前らにとって魔物とはなんだ?」


 魔物という言葉や存在は知っているし、それが自分たち人間にとっての脅威であることも知っている。

 しかし、いざこういう質問をされると言葉に詰まる。


 一体どういった意図でこの質問を投げかけたのか、エミリアたちは考える。


 そして、暫く悩んだあと、エミリアを筆頭に全員が順番に答えてゆく。


 (いわ)く、人間の敵。

 曰く、危険な生物。

 曰く、知性のない動物。などなど、彼ら彼女らの魔物に対するイメージは、マイナスのものばかりであった。

 それも納得は出来るし、間違ってはいない。だが、この考えは危険でもある。


「え、なんで?」


「魔物って人間襲うじゃん」


「確かにジュドーの言う通り、魔物は人間を襲う。では、何故魔物は人間を襲う?」


「え? そりゃ、食うため……だよな?」


「おう」


「半分正解で、半分ハズレだ。確かに魔物は人間を獲物と見定めて襲う面もあるが、これはごく稀だ。よっぽどの飢餓状態じゃなけりゃ食うために襲う事はない」


「じゃあ、どうして襲うんですか? まさか、自分の身を守る為とでも?」


「正解だ、クロエ」


「えっ! マジ?!」


 ベルの驚きに、周りも同調する。


 彼ら彼女らは知識として魔物を知っている。その中で、魔物が人を襲うのは、自分たちの腹を満たすためと教えられて来た。

 実際、魔物に殺された冒険者などは、魔物に食い散らかされて原型をとどめていない例が多いと聞く。だから、魔物はそういうものなのだと思い込んでいるのだ。


「間違ってはねんだがなぁ。さっきクロエが言った通り、殆どの魔物は自身の身を守るために人間を襲う。お前らだって自分の身に危険を感じたら、どうにかしようとするだろ? あれと同じだ。魔物だって生きんのに必死なんだよ。

 あと、縄張りに侵入した敵を排除しようとしていたりもするな」


 世の中、魔物には知性がないと思われる事が多いが。それは大きな間違いである。


 魔物はこちらが危険ではないと教えれば―― 腹を空かせていれば話は別だが――むやみやたらに襲いかかってくることはない。


 肉食の魔物でも、そうやって教えてやれば、猫のようになつく種だっている。

 必ずしも全ての魔物が危険というわけではないのだ。


「だが、中には人間に危害を加えたり、味をしめたやつなんかもいてな。そういう奴はギルドのクエストボードなんかに討伐依頼として載せられる。

 つまり、何が言いたいかというと。魔物は好き好んで人間を襲っているわけじゃない。さっきも言ったが、魔物(アイツら)魔物(アイツら)で必死こいて生きてるだけだ。()らなきゃ()られる世界。魔物だって生き残るのに色々考えてんだよ」


 ヴェイドの話す内容に、なるほど、と納得の色が浮かぶ。


 そもそも魔物も生物だ。当然そういった事を考えるぐらいの知性はあるだろう。

 それに、()るか()られるかの世界。魔物たちの行動も当然のように思える。


「かといって、殺意を撒き散らしながら襲いかかってくる魔物に同情して殺されちまったら話にならねぇ。相手は殺すつもりで襲ってきてるんだ。だから迷いなく殺せ。結果大事なのは自分たちの命だ」


 その後、話を切り替えて魔物の種類や生態、その魔物の持つ能力や器官、行動パターン、急所や弱点など。教科書には載っていない細々とした内容を話し、更に補足も加える。

 生徒たちも気になるところがあれば、ヴェイドに質問を投げかけてはノートにメモを取り。問題児の集まりとは思えないほど大人しく授業を受ける。


 そして、授業の終了を知らせるチャイムが鳴る。


「ん? もう終わりか。まだ教えることが山程あるんだが。それは次回にするか。取り敢えず次は実技だから、動きやすい格好で第七演習場に来い」


 そう言ってヴェイドか教室から出て行くと、エミリアたちは先程の魔物学の授業について話し合う。


「ヴェイド師匠(せんせい)、色々知ってるんだね」


「うん。魔物学の授業。すごく分かりやすかった」


「悔しいですけど、クロエに同感ですわ。ベルはどうでしたの?」


「オイラも同じ感想かな。前の先生とは教える視点が違うね! よりリアルっていうか!」


「あれだけ詳しいって事は、師匠(せんせい)は冒険者かしら?」


「僕もそう思いますけど、邪推はやめたほうがいいですよ、シャナ」


「分かってるわよ。というか、あんたと同じ意見だなんて最悪。吐き気がするわ!」


「ハァ、ハァ、ハァ、辛辣……!」


「いやぁ、あのチョークは見事だったなぁ! ぷぎゃっ、だってよ! ぷっぷー!」


「エミリアのデコ、まだたんこぶできてやんの! はははっ! だっせぇ!」


「ヘンディ、ジュドー、後で覚えてらっしゃい!」


「まぁ、落ち着けよエミリア。相手するだけ無駄だって」


(ホント頼むからビリビリした空気出すのやめろ! ヘンディ、ジュドー、お前らも大人しくしとけ!)


「アンタたち、そうやって集まってないで、さっさと演習場行くよ。遅れちまうじゃないのさ」


「そうですわね。早く行って目に物見して差し上げないと」


「エミリア、あれだけチョーク食らってたのにまだ諦めてないの?!」


「当然ですわ、テレーゼ! 次は実技。わたくしの力を見せつけて差し上げますの! この額の恨み。絶対に許しませんわ!」


 両手の拳を握り、瞳の奥にはメラメラと闘志の炎が燃え盛る。よっぽどチョークのことを根に持っているらしい。


「どうでも良いけど早く行こうぜ」


「あらリュウガ、貴方もう着替えてますのね。ローザと同じく真面目ですこと」


「アタイと魔族(コイツ)を一緒にするなっ!!」


「まぁまぁローザ、わたくしたちはこれから共に勉学に励む者同士。言うなれば仲間ですのよ。そういう言い方はおよしなさいな」


「……ちっ!」


 ローザのあからさまな舌打ちに、よっぽど魔族が嫌いなんだなぁと思いつつ、各々動きやすい格好に着替えてゆく。


 その間もローザはリュウガを睨み続け、二人の間に火花が散るのを幻視する。ここまで敵意を剥き出しにされると、流石のリュウガもあまり気分は良くないらしい。

 半ば一触即発の雰囲気を出し「なんだコラァ!」「やんのかコラァ!」という幻聴が聞こえてくるようだ。


 両者睨み合う中、着替え終わったゼンが慌てて間に入り、なんとか二人を鎮めてホッと一息つく。


 ただでさえ殺気立った二人の間に割り込んだのだ。重圧(プレッシャー)は相当な物だっただろう。


「すごかったね、あの二人」


「うん。こう、戦意っていうの? 漲ってた」


「喧嘩するほど仲がいいって事じゃない?」


「……ガードナーさんにはそう見えるの?」


「うん」


「そ、そうなんだ……」


(ガードナーさんって天然なのかな?)


 ゼンがクロエの発言に引き攣り気味の笑みを浮かべている間に、全員の着替えが終わる。


「さぁ皆さん! 行きますわよ!」


「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」


 エミリアの号令の下、彼らは意気揚々と演習場に向かう。


 この後、自分たちがどういう目に会うのかも知らずに。

 ご愛読ありがとうございます。


 ここからこの第四章が本格的に始まります。

 キャラを一気に増やしましたので、もしかしたら出番の少ないキャラも多いかと思いますが、そこら辺はなんとかいたします。

 そして、ネタバレを含め先に申し上げるなら、この第四章の主役はカレンではありません。そこら辺はご了承下さい。


 ついでに言いますと、めちゃくちゃ長くなります。何話で終わらせるとかの予定が立っていません。


 とにもかくにも、『転生悪魔〜世界最強に至るまで〜』をどうぞよろしくお願いします!

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