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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第4章〜魔法騎士学園〜
120/201

時間を返せ

 王都から戻ってきてすぐ。"青い蜜蜂亭"のレストランで食事をしようと思い、メニュー表を眺めていた時。突然、尋常でない様子のエリックが乗り込んで来た。


 エリックはレングリットを見つけるや否や、「話がある」と真剣な表情で言う。


 ここまで来るのにかなり急いで来たのだろう。エリックの着ている服は汗によって色が変わっており、エリック自身も汗が次々に溢れ出ていた。


 これはただ事ではない。そう思ったレングリットは、手に持っていたメニュー表を置き、宿泊している部屋へエリックを案内する。


 部屋にはルミナスがソファーで剣の手入れをしている最中で、戻って来たレングリットと、どう見ても普通ではないエリックの様子に驚いた。


 レングリットは部屋に入ってすぐに、ドアをロックして、窓を閉め切り。部屋を囲うように〈魔力障壁〉を張る。

 そして仮面を取り外し、ルミナスの隣にどっかりと座ると、エリックにも席を勧めた。


 突然のことで何がなんだか分からないルミナスであったが。二人の様子から、真面目な話がある事だけは分かった。

 すぐさま、手入れしていた剣を鞘へ戻し。大人しくカレンと共にエリックの話に耳を傾ける。


 カレンが部屋へエリックを連れて来て、尚且つ、ルミナスに席をはずせと言わないのは、そういうことだろう。


 部屋の中全体に緊張が走る。


 エリックの表情は真剣そのもの。"人喰い"討伐の時でさえ、ここまで堅い表情ではなかった。つまり、今から話すことは、それ以上に重大な話なのだということ。


 二人ともそう思って、真剣に耳を傾けていた。


 だが――


「でな、そん時のエルザがもう可愛くて!」


 ――聞いてみればただの惚気話だった。しかも、話が長い。正直、時間を返せと大声で言ってしまいたい。


 真剣な面もちでエリックが口を開いたかと思ったら、そこから二時間強、怒涛(どとう)の惚気話。


 最初の十分ぐらいはちゃんと聞いていたのだが、最後の三十分ぐらいになると、最早話が右から左へ抜けていった。


 タリスマンについてから、お見合い相手のエルザに出会い、デートしてプロポーズするまで、全部聞かされた。


 聞いてもいないのに、自分の妻であるエルザがどれだけ可愛いかだとか、自分がどれだけ彼女を愛しているかだとか、とにかくエルザを可愛い、可愛いと連発しまくる始末だ。それをずっと聞かされる身としては、正直堪ったものではない。


 確かに、義兄であるエリックが結婚した事はおめでたい事ではある。カレン自身、素直に祝福したいとも思う。だが、ここまで色ボケて幸せ自慢してくると、流石にウザい。


「義兄さん、周りに幸せ振りまくと、死亡フラグが立つぞ」


 こうして"奥さん愛してるアピール"や"俺、帰ったら結婚するだ"などの話をすると、大概の人は死ぬ確率がバカみたいに上がる。これをいわゆる死亡フラグというのだが。カレンはそれを心配して忠告する。

 しかし、どうやら勘違いされたらしく、エリックから生温かい眼差しを向けられ「なんだ、嫉妬か?」と返される。

 途端、溜まった鬱憤がぷつりと切れ、額に青筋がビキビキっと浮かび上がる。


「……っ!!」


 カレンは近くに立てかけてあったルミナスの剣を手に取り、鞘から引っこ抜く。


「うわぁ! カレン、ストップ! 顔がマスクメロンみたいになってるんだぞ! 落ち着いて!」


 血走った目でエリックに襲い掛かろうとするカレンを、ルミナスが必死に押さえつけ、なんとか深呼吸させて落ち着かせた。


「それで、エリック殿。今日はそれを話すために来たのか?」


「おう、そうだぜ」


「そ、そうか……」


 清々しいまでにはっきり言うエリックに、最早何も言えない。ただ言えるのは、相当エルザの事が好きらしい。


「というか、結婚してたんだな。ユルト兄さんは知ってんのか?」


「おう、知ってるぜ! 今日みたいに全部話した!」


「あ、そう……」


 あの惚気話をずっと聞かされていたのかと思うと、最早ご愁傷様としかいえない。きっと、ユルトは笑顔を貼り付けたまま話を聞いていたに違いない。そして、カレンたちと同じく、最後の方は話が耳を素通りしていただろう。


「そうそう、今度親父やユルトたちにエルザを紹介しに村に帰るけど、カレンもどうだ?」


「いや、やめておく」


「なんで? アヴァロンの連中とっくに引っ込んだぞ。帰っても問題ねぇじゃねぇか」


「あのな、こう見えてもオレはやる事が山積みなんだよ」


 そう言って、カレンは今日王都でガルフォードからお願いされた仕事について、二人に話す。


「学校の先生か……面白そうだぞ!」


「二ヶ月後かぁ、村に帰る時期とドンピシャだわ。確かに無理だな」


「オレはオレで時間を作って帰る。だから、そこらへんの心配はしなくていい。あと、村に帰ったら()()()()()一切話さないでくれ」


「なんで? オルドさんたち、お前が生きてる事もう知ってるぞ。ユルトから手紙が来た」


「はぁ……それがダメなんだよ」


 念を押して、あれだけカレンが生存している事を言うなと釘を打ったにもかかわらず。ユルトが村に帰って三ヶ月後、手紙で「ごめん、言っちゃった(笑)」という内容の手紙が送られてきた。当然、顔中に青筋が浮かんで、その時一緒に手紙を読んでいたルミナスが、隣でドン引きしていたぐらいだ。


 この手紙に対し、カレンはすぐさまユルトをドルトンに呼び出した。

 本人はいつもの如く綺麗な笑顔で登場して、ごめんね、と心のこもっていない謝罪を述べる。

 カレンは無言でユルトの襟を掴み、ギルドの個室へ引きずって行くと、そこから小一時間にわたって説教をしたのだが。やはりユルトの態度は変わらない。それどころか「大丈夫、心配しないで。そこら辺はちゃんと考えてるから」となにか自身ありげに返されてしまい、最早何もいえなかった。


 魔族であるカレンの存在がバレるのはマズい。それがあの村なら尚更だ。


「フィンの奴がまた何かやらかすかもしれねぇ。そうなったら今度こそあの村は終わりだ。次はアヴァロンが動くかもな」


「あぁ、そう言やあの調査隊が来たのって、フィンが手紙を送ったのが原因だっけ?」


 当時、突如として発生した魔物大進行(スタンピード)が村へ向かって来るという事件が発生した。それは当時十歳だった頃のカレンが全滅させたのだが。その魔物大進行(スタンピード)を国に報告するか否かでもめた。しかし、結局は報告しないという方向になった。

 これは、仮に国に報告した場合。自然とカレンの存在に行き着いてしまい、処分されてしまう可能性があったからだ。


 だが、その判断に納得のいかなかったフィンがみんなには内緒で手紙を送り、調査隊を呼び寄せてしまった。


「あの時は、メービスがいたから良かったものの……本当なら村人全員晒し首になっていてもおかしくなかったぞ」


「フィンはそれを分かってやってたのかなぁ……いや、アイツがそんな事考えていたわけないか。多分、自分の事で精一杯だったろうし」


 実際、当時のフィンはカレンを排除する事だけしか頭になく、自分の首がはねられるとは微塵も考えてなかっただろう。


「魔族と関わっている時点で、村人全員同罪なんだけどな」


「とにかく、百歩譲って父さんたちはもういいとして、他の連中にオレの事がバレないようにしてくれよ。じゃないと、今度こそオレはキレるからな!」


 ほんの威圧を乗せた視線をエリックに向けながら言う。


「分かった分かった。言わねぇから、そう睨むなよ!」


「ならいいが。ついでに兄さんにもこう伝えてくれ、今度喋ったらぶっ飛ばす! てな」


 そう言い放った時の顔が完全に堅気じゃないカレンに、エリックとルミナスは、引きつった笑みを浮かべる。

 もし破ったら本当にやりかねない。そう肌で感じた。


 その後話が一区切りつくと、またエリックの嫁自慢が始まり、聞きたくもない初夜の話まで聞かされた。

 カレンはげんなりしながら話を聞き、その日の食事を抜きにされる。

 隣に座って、一緒に話を聞いていたルミナスはそのままソファーで寝落ちした。


 翌朝。嫁自慢を濁流のように語ったエリックは「そんじゃ、家でエルザが待ってるから!」と、清々しくやり切った表情で早々に帰っていき、残されたカレンは、魂が抜けたようにソファーにもたれかかった。


「まさか一晩中聞かされるとは……時間返してくれ」


『いやぁ、長い惚気じゃったのうお前様。にしてもあれだけ、愛だのなんだのと……あの兄君殿は死んだりせんかのう。死亡フラグ立ちまくりなんじゃが』


『ああいうのに限って死なないと思うぞ。心配するだけ無駄だ。それにしても、腹が減った。下のレストランが開くのはあとどれくらいだ?』


『あと三時間じゃ、お前様』


「長ぇ……」


 昨日から食事抜きの三時間待ちはかなりキツい。さっきから、カレンのお腹は音を鳴らし、食べ物を欲していた。


 取り敢えずカレンは、水を飲んで胃袋を誤魔化す作戦に出る。だが、これが悪手だった。余計に腹が減ってきたのだ。


「クソッ、〈魔導庫〉にいつでも食える食料でも入れとくんだった!」


 カレンは非常時の時の為に、〈魔導庫〉に大量の食料を保管している。しかし、それはどれも調理しなければ食べられないようなものばかりで、軽くつまめるようなものがない。

 生肉に魚、野菜などが主な食材となっている。


「今度買い出しにでも行って、こういう時の為にパンとか果物とかも入れとくか……」


『いやお前様、こういう場面はなかなか無いと思うぞ。ところで、今日の予定はどうするのじゃ?』


『考えてねぇな……』


 昨日は王都へ行って仕事の話をして、帰ってご飯を食べたら次の日の予定をルミナスと相談するつもりだった。

 だが、エリックの突然の訪問によりそれもなくなり、今日の予定は全く決まっていない。


 単純にギルドへ行って依頼を見てから決めるというのでも良いのだが、ここ最近は王都方面の依頼しか出回っておらず、ここからかなり距離がある。〈天翔〉を使えば、三十分もあれば行き来は簡単だが、そこまでして行くような依頼内容でもない。

 それに、最近は王都の冒険者も増加傾向にあるとガルフォードから聞いている。それをわざわざこのドルトンから赴いて、彼らの依頼を横取りするような真似をするのもいかがなものかと思う。


 よって、カレンの頭の中に、冒険者として仕事をするという選択肢は無くなった。


 なら、何をするか、となる。


 ギレンと模擬戦、それもありだ。散々聞かされた惚気話の鬱憤を晴らすという意味でも、さらなる強さを手に入れるためという意味でも、良いかもしれない。取り敢えず、それはルミナスが起きたら相談しようと思う。


 あと他に考えられるのは、エスタロッサと周辺の散策。この辺にはまだ人の踏み入れていない領域が多い。そう考えれば時間は潰せるし、何かしらの発見があるかもしれない。これも後で相談したのち決める。


 そう考えていた時、カレンの脳裏に別のプランが閃く。


「あ、そうだ。新しい魔法を創るか」


『これまた、突然じゃのう』


「前から思ってたんだよ。オレは使える魔法が少ない」


 カレンが使える魔法の数は少ない。その数はおそらく二十もないだろう。

 もともと魔法自体があまり上手くないカレンといえど、ここまで魔法が少ないというのは不安要素でしかない。


 いくら人間の世ではそれなりに強いと言っても、魔物たちの世界を合わせれば、カレンの強さは中の上が良い所だ。


 確かに、カレンには〈轟天金螺旋砲(アルムマヘル)〉や〈破鏖紅烈堕(オフルマズド)〉といった強力な魔法があるが。多少の魔法と魔剣だけでは限度がある。


 強さを求めるには、更なる力が必要だ。


「そうと決まれば、今日から早速創ってみるか!」


「カレン、さっきから何ぶつぶつ言ってるんだ?」


 いつのまにか起きていたルミナスに独り言を聞かれて、少し恥ずかしく思うが、努めて無視をする。 

 一体いつから起きていたんだ、と問いただしたくなるが。それをすれば余計に恥ずかしくなるのでやめておく。


 その三時間後、カレンはレングリットに扮し、一階のレストランで昨日の分を取り戻すかのように食事を取ると、早速ギルドへと赴いて、魔法制作に乗り出すのだった。




 ♢♢♢♢♢


「という事で、魔法創ってみました」


 あれから一週間、ギルドの地下に篭り、ただひたすらに魔法の制作に明け暮れたレングリットは、早くも二つの魔法を創り出した。


 魔法というのは本来、多くの人が集まって長い時間をかけて創り出すもので、一つ創り出すのに数十年、早くても数年はかかるというのが世の中の常識である。


 しかし、人間など遠く及ばない叡智を宿す(ドラゴン)から魔法を教わったレングリットは、魔法を創り出すのにそこまで時間を必要としない。その圧倒的な魔力量と発想さえあれば、あとはどうとでもなる。


 だが、それを知る由もない"神威"の四人は唖然とする。


 シェイバは〈神罰の炎(ウリエル)〉や〈電磁加速砲(レールガン)〉を創る際に一度経験している為、さほど驚きはしない。が、やはりこうも短期間で魔法を創り出す手腕には、多少目を見張る。


「それで、どんな魔法を創ったんだ?」


「一つは〈万物掌握〉という魔法です。これは後で実践してみましょう。もう一つは〈魔力障壁〉に改良を加えた〈断絶の黄金壁〉です。取り敢えず、一度お見せしましょう」


 そう言って、レングリットは遠く離れた位置にある、地面に刺さった剣に手を向ける。


 すると、剣はカタカタと小刻みに揺れだし、地面から抜けたかと思うと、レングリットの手元までやって来る。


 遠く離れた物体を引き寄せる。これには"神威"の四人だけでなく、シェイバも驚いた。


「す、すごいです!」


「これが〈万物掌握〉ってやつ?」


「ええそうです。術式はこんな感じですね」


 レングリットは手に持った剣で、地面に術式を描く。


「随分シンプルね。でもコレ……」


「魔力の消費がハンパじゃねぇぞ」


「そうでもないですよ。思ったより少ないです」


 〈万物掌握〉――体内魔力を大気中に漂う魔素に繋げることにより、それを自由自在に操るという魔法。

 これにより、物体や液体までならなんでも掴むことができ、引き寄せることも、引き離すこともできる。


 例えば、この魔法で人間を掴んで、〈天翔〉で空を飛ぶと、掴んだ人間も一緒に空を飛ぶことが出来る。正確には、荷物運びのように連れて行かれるだけなのだが。


 魔力値消費に関してはそれ程酷くはない。体内魔力を放出する為に、消費は激しく思われるが。大気中の魔素に固定する事で、それ程減りはしない。が、それは魔力量が桁違いのレングリットだからという話であり、実際にそれ以外の人間が使うとなると、やはり消費は激しく感じるかもしれない。


「まぁ、単純な術式ですし、イメージも簡単です。一度試してみて下さい」


 レングリットに促され、それぞれが試しにやってみる。


 ちなみに、魔素を知らなかった"神威"の四人は、あらかじめレングリットから魔素についての説明を受けている。


 新たな魔法とあって、最初は苦戦していたが。十分もすれば全員が難なく使えるようになっていた。

 特に上手く使いこなしていたのが、意外なことにマインだった。


「スッゲェ! マジで遠くのもん掴めんぞ!」


 マインはもともと頭で考えるより、感覚でするタイプらしく、この魔法は彼女にあっていたようだ。

 魔力の消費に関しても、マインは魔力値が十万近くある為に、問題はなさそうだ。


「こんな簡単な魔法、なんでもっと早くに気づかなかったんだろう?」


「アタシたちの中の魔法って、防御、攻撃、治療のイメージが強いから、単純な事に目が向かなかったのよきっと」


「そうですね。足元に転がっている物ほど気づきませんから。それにしても、この魔法は本当に便利です。クエストなんかでの薬草採取の際、大いに役に立ちます!」


「何故か希少な薬草って危険なところに自生してるものね。これなら危険を犯さず、安全に採取出来るわ」


 クラリスのいう通り、希少な薬草ほど危険なところに自生する。

 例えば、断崖絶壁の崖の側面、底無し沼、魔物の巣などなど。誰もが絶対に嫌がる場所にしかし自生しない。正直、ここまでいけば、ただの嫌がらせのように思えてくる。


「あれ大変なんだよなぁ……」


「危険ですから、それなりに報酬は高いんですけど。それでも進んで受けたいとはおもいませんね」


「時々名指しでくるけどね」


「最近、王都方面の依頼で希少薬草採取の依頼が山程あっただろ? あれ受けまくって、この魔法試そうぜ!」


「良いんじゃない。お金もがっぽり入るし、一石二鳥だよ!」


「私も賛成です」


「アタシも異論はないわ。という事で、決定ね」


 クラリスたちが次の仕事について話し合っている中、シェイバがレングリットに、どうしてこの魔法を創ろうと思ったのか聞いていた。


 すると「遠くの物を取るのって面倒じゃないですか」と言う。

 まさか、それだけのために創ったのか、と兜の下で苦笑いを浮かべざるを得ない。


 確かにこの魔法はすごいのだが、創るきっかけを聞いてしまえば、なんと下らない事かとげんなりした。


「では、次の魔法をお見せしますが。この魔法に関しては、私しか使えません」


「どうしてだ?」


 シェイバが首を傾げる。


「まぁ、一度見てもらいましょう。その方が早いです」


 レングリットは術式を組み上げると、自身の周囲に魔力を展開する。


 黄金色の魔力が体内から溢れ出し、自身を守るように、文字通り黄金の壁を作り上げた。


「綺麗ねぇ……でも、見た感じ金色の〈魔力障壁〉にしか見えないけど」


「確かに、そう見えますね」


「なぁ、何が違うんだ?」


「俺が知るわけないじゃん!」


「レングリット、これは〈魔力障壁〉とどう違うんだ?」


 シェイバの問いかけに、レングリットは一度魔法を解くと、この〈断絶の黄金壁〉について説明をする。


 レングリットが言うには、この魔法は〈魔力障壁〉の上位互換らしく、攻撃を受け止める、というよりかは、弾く力に特化していると言う。


「弾くって事は、はね返すって事か?」


「いいえ。反射ではなく、あくまで弾くです。と言っても、難しくて分からないと思いますので。単純に弾く力を持った強力な〈魔力障壁〉、と考えていただければいいと思います。もっと分かりやすく言うなら、水を弾く油をイメージしてもらえれば早いかと」


「術式はどんなのなんだよ?」


「こんな感じですね」


 レングリットは地面にサラサラっと術式を描いていく。が、描いていくにつれて、シェイバを含んだ五人の顔は見る見るうちに強張っていく。


「コレは……複雑すぎるぞ……」


 レングリットが描いた術式はかなり複雑だった。実戦で使うにはかなり難がある。


「こんなの短期間で組み上げるなんて無理よ。発動する前に攻撃されちゃうわ」


「だな。これなら〈魔力障壁〉使った方が早ぇ」


「ですが、この術式を見る限り、魔力の消費は半分ぐらいに抑えられますね。これは革新的です」


「でも発動するまでに時間がかかるんじゃ、意味ないんじゃ……?」


「確かに、そこはネックですね」


「というかレングリット。〈魔力障壁〉って体内魔力を外へ放出して、盾をイメージする事で発動する魔法だったはずだぞ。術式は必要ないんじゃ……?」


 それにはクラリスたちも同意する。


「私も最近まではそう思っていたのですが、どうやら〈魔力障壁〉には術式があって、私たちはそれを知らず知らずの内に使っていたみたいなんですよ」


「その術式って?」


「さっき貴方が言った盾です」


「「「「「はい?」」」」」


 何が言いたいかというと。


 〈魔力障壁〉を発動するさい。全員が盾をイメージして魔法を発動する。つまり、そのイメージした盾こそが〈魔力障壁〉の術式の役割を果たしている。


 他にも〈身体強化〉も同じである。

 体内で魔力を高速に動かすイメージというが、殆どの人は流れるイメージを水に例える。いうなれば川の流れをイメージしているのだ。

 その川の流れが術式となり〈身体強化〉という形になっている。


「なるほど。私たちが普段思い描いていた、盾のイメージ自体が術式だったと。それは盲点だぞ」


「確かに。この魔法を教わる時って、皆さん盾をイメージしろって言いますもんね」


 それにはレングリットも同意する。


 昔、ラギウスからこの魔法を教わった際にも、盾をイメージしろと言われた記憶がある。中には、盾ではなく城壁をイメージする者もいるらしいのだが、役割としては盾と変わらないために、術式が成立するそうだ。


 なんとも不思議な話ではあるが、そうなのだから仕方ないとのこと。


「それはそうと、話を戻しますが。この魔法は元から私にしか使えないように創ってあります。なので、術式云々は気にしなくていいですよ」


 術式はかなり複雑で、発動するには時間がかかるが。特殊能力(スキル)【紅姫】による思考加速のあるレングリットなら、そのような事を気にする必要はなく。発動時間は〈魔力障壁〉とさほど変わらない。 


 その後、〈断絶の黄金壁〉は結局レングリット専用の魔法という形で収まり、以後――レングリット以外は――誰も使うものがいなかった。

 もう一つの魔法、〈万物掌握〉は誰でも使えることから、"神威"を筆頭に王国中に広まっていく。

 この魔法は汎用性も高いという事もあり。以後、多くの冒険者や魔導士に使われていく事になるのだった。

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