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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第1章〜最強への道〜
12/201

贈り物

 小規模魔物大進行(スタンピード)事件から今日で三日が過ぎた。

 今のところ魔物の大群が押し寄せる気配はなく、村は以前と同じように平穏な日々が続いている。


 ちなみに、豚鬼(オーク)を飼っていいか父さんと母さんに聞いてみたところ、即答でダメだと言われたので、泣く泣く断念した。いくら害がないとは言え、やはり魔物を飼うと言うのは抵抗があるらしい。


 最近変わったことといえば、オレがバレット夫妻に対する呼び方が、「おじさん、シーマさん」から「父さん、母さん」に変わったぐらいだろう。それ以外は特に変わりない。


 そんな平和な今日も、オレは朝から母さんの手伝いをしている。朝食の手伝いをしたり、井戸から水を汲んだり、洗濯物を洗って干したりしている。

 以前のオレでは、どれもやった事のない事ばかりで、手伝いをするのは新鮮だった。


 昼を過ぎ、オレは洗濯物を干し終え、手持ち無沙になったため他に何かやる事がないかを探す。だけど、午前中に殆ど終わらせてしまった為に、もうやる事がない。


「母さん、洗濯終わったよ、他に何かやる事ある?」


「ありがとう、カレン。こっちはセラがいるから大丈夫、カレンはお父さんの方を手伝ってあげて」


「分かった、何かあったらまた呼んで」


「ええ、分かったわ、その時はお願いね」


 オレはコクリと頷いて、父さんのいる鍛冶場に向い、この場を後にする。


 鍛冶場は小屋程の大きさで家の裏にあり、父さんはいつもそこで仕事をしている。


 小屋からは甲高い鉄を叩く音が聞こえ、煙突(えんとつ)からは、もうもうと煙が上がっている。


 小屋に近づくと徐々に熱気が伝わってくる。外で暑さを感じるのだ、中は更に暑いだろう事は容易に想像出来る。


 オレは扉の前までくると、ノックを三回して扉を開いた。


 扉を開けた瞬間、熱気が肌を叩き、一瞬で額から汗が滲む。まさにサウナ状態である。


 そんなサウナ状態の小屋の中で、汗を滝のように流し、オレの存在に気づく事なく一心不乱で鉄を叩く父さんの後ろ姿を発見する。オレに気づかないあたり、かなり仕事に集中しているようだ。


 あれだけ集中してるのに、声をかけて仕事を邪魔しては悪いと思い、オレは父さんの近くまで歩き、側にあった椅子に腰かけて、作業が終わるまで待つ事にした。


 邪魔しちゃ悪いし、取り敢えず終わるまで待つか。


 それから三十分後、作業がひと段落しところで、オレは父さんに声をかけた。


「父さん、手伝いに来たよ」


「ん? ああ、カレンか、いつからいたんだ?」


「三十分ほど前からいた、邪魔しちゃ悪いと思ってずっと横で見てたんだ」


「そうか、でも、手伝いに来てくれるのは嬉しいんだが、もう今日の分は終っちまったからやる事ないぞ?」


「そうか、やる事ないのか……」


 やる事の無くなったオレは、昨日から考えていた事を、父さんに頼んでみる事にした。


「父さん、頼みたい事があるんだけど、いいかな?」


「オレに出来る事なら構わんぞ」


 大量の汗をタオルで拭き取りながら、ニカッと笑いながらそう答える。


 どうやら頼みごとを聞いてくれるようなので、オレはポケット入っていた()()を父さんに見せた。


「実はこれを使って、こんなの作りたいんだけど、オレ一人じゃうまく作れないから、手伝って欲しんだ」


「それぐらいなら別に構わないが、そんなの作ってどうするんだ?」


「それは、内緒で」


 顔をそらすオレに、父さんは苦笑いを浮かべるも、頼みごとを快く引き受けてくれた。


「まぁ、なんだ、早速作ってみるか!」


「じゃあよろしく、父さん」


 早速オレ達は作業に取り掛かった、最初は父さんに聞いて、手伝ってもらいながら作っていたが、これがなかなか難しい。慣れない手つきで少しずつ形にしてゆく。

 最後の方では、一人で作れるようになり、残りは仕上げの磨きのみとなった。完璧とはいかないが、それでも良くできている。


「あとは仕上げで磨くだけだな、どうする、手伝うか?」


「いや、あとはオレ一人でやるよ。父さん、手伝ってくれてありがとう」


「気にするな、息子の頼みを聞くのも、親の務めだ」


 そう言って父さんは照れるように笑い、親指をグッと立てサムズアップした。


 作業を終えたオレ達は、夕方、家に戻った。埃をかぶった服をはたき、汚れた顔と手を洗うとオレはそのまま自分の部屋に入り、鍛治場で作ったそれを磨き始めた。


 見た目が変にならないよう、丁寧に仕上げていく。


 磨き始めて一時間半、外はすっかり暗くなっていたが、ようやく仕上げが完了した。初めて作ったにしてはなかなかの出来栄えだ。


「よしっ!できた」


 オレが満足げに頷いていると、コンコンと扉をノックする音が鳴る。おそらくセラが呼びに来たのだろう。

 オレは、持っていたそれを急いで服の中へ隠した。


 するとタイミングよく扉が開き、セラが部屋に入ってくる。


「カレン、そろそろ夕飯だよ」


「分かった、行くよ」


 オレは立ち上がり、セラと一緒にリビングへ向かった。

 リビングには父さんが既に席に着き、テーブルには料理が並べられていた。

 今日の夕食は、野菜スープとパンに焼き魚、それとホットミルクだ。


 どんな調味料を使っているかは不明だが、食欲をそそる、いい香りがする。今日も母さんの料理は美味そうだ。


「さあ、冷めないうちに食べましょ」


 オレは、母さんに(うなが)され、席に着いた、続いて母さんとセラも席に着く。


 この国、というよりエルフ、ドワーフ、妖精、獣人は食事をする前に必ず神に祈りを捧げる。これはどこの国に行っても同じらしい。

 食事を始める前に、三人が神への祈りを捧げるため、手を合わせようとした時、オレが「ちょっと待って」と言って三人に、今日父さんと作った()()を渡す。


「コレ、今日父さんに手伝ってもらいながら作ったんだ、みんなにあげるよ」


「コレって、首飾り? それと、これは鱗と牙だよね?魔物の素材で作ったの?」


「ああ、白蛇獣(レイジ)って言う魔物の素材で作ったんだ」


「すごいじゃないカレン、母さん嬉しいわ」


 褒められたオレは、照れて顔が少し熱くなった。

 こう面と向かって褒められると、何というか恥ずかしいものだ。


 セラも喜んでくれたようで、早速首に掛けていた。サイズは丁度良い感じだ。


「でもカレン、急にこんなの作ってどうしたの?」


 セラに、そう聞かれたオレは、恥ずかしがるように視線を外し、顔を赤くしながらゴニョゴニョと答える。


「……せっかく、ちゃんと家族になったから…プ、プレゼントだ、他意はない……」


 そう答えたオレに、母さんとセラは顔を見合わせて、恥ずかしがるオレに、微笑んだ。


「ありがとうカレン、あなたからの贈り物、きっと大事にするわ」


「あたしも大事にするよー!」


「そ、そうか、喜んでくれて、良かった」


 ちなみに、終始無言だった父さんは、首飾りを貰ってすぐに目元を手で押さえ、ぷるぷると震え「ええ子や……」と呟き、完全に泣いていた。


 ようやく泣き止んだ父さんは、オレの肩を掴み、泣きはらしたその顔で、まっすぐオレを見つめ「ありがとうカレン、父さん、嬉しいぞ!お礼に剣を打ってやる!」といろんな意味で迫力のある顔を近づけて、そう言った。なので、オレはそういう事ならば、と遠慮なく剣を一本頼んだ。


 それからはみんなで歓談を交えながら夕食を食べ、食器を片付けると、オレは少し足早に一人、部屋へ戻って行った。


 正直、あのままリビングにいれば、首飾りの事でまた恥ずかしい思いをしそうだったので、逃げてきたという方が正しい。母さんとセラは終始ニマニマしながらずっとオレを見てたし。


 部屋に戻ったオレは、ベットで仰向けになり、首飾りを貰った三人の顔を思い出す。


 三人とも喜んでくれたな……


 そのことに自然と口元が緩む。実際あそこまで喜んでくれるとは思わなかった。特に父さん。まさか泣くとは……


 こんな、平和な日がずっと続くといいな……前の世界に比べれば、この世界は悪くない。寧ろずっと良い。


 ベットで仰向けになりながら、窓から空を見上げてそんなことを思う。


 夜の空には、以前の世界では見る事のできなかった満天の星空が目の前を、まるで宝石の様に埋め尽くしていた。


 オレは、星空を眺めながらウトウトとしだし、そのまま眠りについて一日を終える。


 これからも続くであろう、幸せな日々を願いながら。

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