ちょっとした土産
おかげさまで30万PVを突破いたしました。
これも日頃から応援しくださる皆様のおかげでございます!
次の50万PVを目標に頑張りたいと思いますが、それ以上に面白い作品が書けたらいいなと思います。
ということで第108話どうぞ!
❇︎いつもより少し長くなってしまいました。
「ひと月ぶりですね、シェイバ」
「レングリット、もう起きて大丈夫なのか?」
コリンの町に着いたレングリットは、近くの岩山にてエスタロッサとギレンに隠れてもらい、現在冒険者ギルド・コリン支部でシェイバと合流を果たしていた。
「ええ、時間は掛かりましたが、もう完全に治りました。ところでここにいるのは貴方だけですか? 兄たちは? その他四人は?」
「ユルト殿とエリック殿は村々を駆け回ってる。クラリス殿たちは他の冒険者たちと王都周辺の探索だぞ」
「そうですか。では、ここでの冒険者の仕事は一通り落ち着きを取り戻した、そう判断しても?」
「うん。取り敢えず周辺を荒らし回っていた魔物は退治したからな。ここ一週間被害が出たという報告も無いし、もう心配ないと思うぞ!」
「なら、もうここにいる必要はありませんね。行きましょうか」
そう言ってギルドを出ようと扉に手をかけたレングリットに、シェイバは「行くって、どこへ?」と首を傾げる。
レングリットは内心でため息をつく。
いや、行きましょう、だけでは分からないだろうし、言い方が悪かったのもあるだろう。それに"人喰い"との死闘に続き、人材激減による魔物の被害多発。人手不足故に冒険者であるシェイバは馬車馬のようにこき使われた。そのブラック過ぎる仕事量に町や村を奔走していたようだし、それが三ヶ月も続けば本来受けていたクエストは忘却の彼方だろう。忘れていても仕方はない。
しかし、冒険者パーティ"天使と悪魔"は数日後には最高ランクである黒ランクに昇格するのである。
冒険者の頂点に立つものが、忙しすぎてクエスト忘れてましたでは冒険者全体の面子が丸潰れである。
レングリットは仕方ないと思いながらも、そこに呆れたような視線が入り混じった複雑な表情をシェイバへ向ける。
「シェイバ、忘れているかもしれませんが、私たちは調査クエストの途中です。しかも、予定していた期間をひと月もオーバーしてしまっています。クエスト自体にいつまでとは期限はありませんでしたが、この国に"人喰い"のような化け物がいたんです。今こうしている間にも、アレと同じような魔物がどこかに潜んでいる、もしくは生まれているかもしれません。誰かが被害に遭う前に、殺されてしまう前に、倒しておかなければなりません。そう言った意味で、早急に調査を再開したいのです。ですから、早く行きますよ」
今言ったことは殆どが事実だが、半分はお人好しのシェイバを納得させる為に言ったものである。
あと半分、レングリット個人の意見をそこに付け加えるなら、式典に出たくないから早く離れよう、である。
「あ〜……忘れてたぞ。そうだな、そういう事なら早く再開した方が良いぞ! でも、あの、その、レングリット、実はまだ王都でやらなきゃいけない事が残ってて……」
申し訳ないという気持ちと、言いにくいという気持ちが入り混じってしまい、言葉がどんどん小さくなってゆく。
何が言いたいかは分かっている。今回の"人喰い"討伐の功績を称える式典の事だ。
今日、ガルフォードから聞いたばかりなので間違いないだろう。
レングリットは言い淀むシェイバに、自分が回復次第王都で式典が行われる事を知っていると、シェイバに伝える。
すると、シェイバは「え、知ってたのか?! というかいつ誰から聞いたんだ!」と半ば慌てたように迫る。
「今日ランチェスター辺境伯にお聞きしました。シェイバ、貴方私を出席させる為にわざと教えませんでしたね? 私が貴族と関わるのを避けている事を知っていて……」
「いや、その、だって……ねぇ」
「ねぇ、じゃないですよ。はぁ……とにかく、式典は欠席します。調査クエストに行きますよ」
「流石に国王陛下直々にお呼びがかかっているのに欠席はまずいんじゃ……!」
「それなら心配ありません。ランチェスター辺境伯と交渉しましたので、後はなんとかしてくれます。上手く誤魔化してくれますよ」
「でも、いくら辺境伯様が誤魔化してくれるといっても、欠席することには変わりないし、冒険者としての私たちの印象悪くならないか?」
「それも含めて、なんとかしてくれます。高い報酬払ったんですから、それぐらいしてもらわないと」
「そうか……なら、行くぞ」
ようやくシェイバが了承すると、今度こそギルドを出る。
すると、シェイバはここを出立する前に、世話になった人たちや関係者に挨拶に行きたいと言う。
早くクエスト再開をしたいところだが、挨拶するぐらいの時間ならば問題ないだろうと思い、レングリットは「構いませんよ」と頷いて了解の意思を示す。
「すまない、すぐに戻る。門の前で待っていて欲しいぞ」
「分かりました。では、またあとで」
シェイバが走り去っていくと、レングリットはひとり門まで歩き、外壁に背中を預ける。
この町の外壁は王都や城塞都市のように立派なものではないが、それでも大概の魔物の進行は塞げるだけの大きさと重厚感がある。
『地上からならばともかく、空から攻められでもすれば、全く意味をなさんのじゃから皮肉なものじゃのう』
『町全体を〈魔力障壁〉で囲めるように術式組んじまえば話は別なんだがな』
『じゃが、それは不可能じゃ。町全体を囲むとなると、それ相応の魔力が必要じゃ。しかも発動したあとそれを維持する魔力も必要となってくる。仮に、たとえ町の住人の魔力をかき集めたとしても、せいぜい十秒維持できれば万々歳じゃろうて』
『言うは簡単、やるは難し、か……』
その後、シェイバを待つこと十分が経過した頃、唐突に何か気配を感じとる。
気配を感じる方角は、ちょうどエスタロッサとギレンが待機している岩山の方だ。
「………」
それは、妙に身に覚えのある気配で、自然と表情が険しくなる。
『お前様、これは……!』
「ああ、どうやらお客さんのようだ……」
カレンは空中に手を伸ばし、〈魔導庫〉から根滅剣 紅姫を引っ張り出す。
すると、そこへタイミング良くシェイバが挨拶を終えて走ってくる。
「すまない、少し遅くな――」
シェイバは言葉を言い切る前に、カレンと同じく肌が泡立つような気配を感じとる。それは、"災禍級"である"人喰い"以上のものだった。
シェイバはカレンに近寄ると、小声で話しかける。
「カレン、この気配は一体……?」
「お前も感じ取ったか。取り敢えずオレが様子を見てくる、お前はここで待ってろ」
「何言ってるんだ、私も行くに決まってるだろ!」
「ダメだ、ここにいろ!」
「いいや、絶対ついて行くぞ! カレンを一人で行かせるのは心配なんだぞ!」
「………」
カレンは渋る。「大丈夫」「心配ない」と言ったところでルミナスは納得しないだろう。なまじ三ヶ月寝込んだというのが更にタチが悪く、説得力に欠ける。
カレンにルミナスを納得させるだけの言葉が見つからない。というより、最早カレンがどうこう言ったところでルミナスは引き下がらないだろう。
「ちっ、勝手にしろ! どうなっても知らないからな!」
「うん、背中は任せろ!」
シェイバがサムズアップを決めると、カレンは岩山へ向かって駆け出す。その後をシェイバが追いかける。
途中、目指す岩山にエスタロッサとギレンが待機している事をに伝えると、シェイバは「おかしい……」と呟く。
「何がだ?」
「これ程の気配を発している奴がエスタロッサ達の待機している岩山にいるのなら、なぜ何も聴こえてこない。戦闘になって何かしらの音が聴こえてくるはずだ。ましてやエスタロッサの攻撃はどれも目立つのに……」
「簡単な話だ。待ってんだよ、オレたちを……」
「私たちを、なぜ?」
「それを確かめに行くんだ」
二人は岩山に着くと、周囲を警戒しながな奥へと慎重に駆け抜ける。
前へ進めば進むほど、叩きつけるような気配は強くなり、カレンは普段見せないような鋭い目つきに変わってゆく。
その表情から、この先にいるものが只者でない事をシェイバは悟り、緊張が走る。
暫く迷路のような道を迷う事なく進むと、左右を切り立った崖に挟まれた川に出る。
すると、カレンは崖の上部に視線を向け顎をしゃくる。
「あそこだ」
カレンの視線を追ってみると、崖の側面に穴があった。そこにエスタロッサたちはいるのだろう。しかし――
「カレン……」
「ああ、どうやらお待ちかねのようだな」
――ずっと感じている気配は穴から漏れ出していた。
「行くぞ、油断するな」
「うん、分かってる」
二人は気配を限界まで消して極限まで神経を尖らせると、崖を跳び登る。そして、穴までやってくると、いつでも抜き放てるように剣の柄に手を添えた。
カレンとルミナスは、互いに視線を合わせると、突入するぞ、という了解の意思を示すように頷き合う。
そして、二人は掛け合わせるように中へ突入する。
「父上! ルミナス殿!」
「エスタロッサ、良かった無事で」
「ギレンも無事そうだな……というか、お前が無事なのは当たり前か」
エスタロッサとギレンが無事な事に安堵の息をつくと、視線は横へ動き、エスタロッサたちから少し離れた岩に腰掛ける人物に向けられる。
「やっぱテメェか――」
黒蒼色の髪と禍々しい紫紺の瞳に尖った耳。そして、抑えているであろうにも関わらず、身震いするような魔力。
「――ダンテ!」
その名前にルミナスは兜の下で目を見開き、次の瞬間には拳を強く握り、怒りが沸々と湧いてくる。
(この男がダンテ・スタインフェルド……カレンをあんなにした奴!)
あからさまな敵意がシェイバから叩きつけられる。しかし、ダンテはどこ吹く風と涼しい顔をして受け流す。
「ようレングリット、三ヶ月ぶりだな。そっちの奴は、シェイバで間違いないか?」
「だったらなんだ!」
「何そんな怒ってんだ? お前と会うのは初めてのはずだぜ?」
ダンテの呆れ顔にルミナスの怒りゲージがレッドゾーンに突入する。
「お前はっ――!!」
「おい、話し進まないだろうが、ちょっと落ち着け」
「でもっ!」
「いいから、落ち着け」
ルミナスは何度か何かを言いかけるが、最終的には渋々といった感じで引き退り、納得いかないオーラを出す。
未だ剥き出しの敵意をダンテに叩きつけ、いつでも斬り込めるように臨戦態勢に入っているシェイバを尻目に、カレンは剣の柄に手を添えたまま、ダンテの方へと歩く。
そして、三メートル程の距離を開けて立ち止まり、口を開く。
「それで、何しに来た。この前の続きか?」
後ろで、シェイバが剣を握るのを感じる。
「それもいいが、今日はお前と話をしに来た。戦う意思はねぇよ」
「話し、だと?」
カレンは鋭い視線を向ける。
確かに今のダンテからは以前のような剥き出しの闘志は感じられない。どちらかというと穏やかで、どこか優しく感じる程だ。
「………」
『どうするお前様?』
『どうするもこうするもな……話したいって言ってんだ、話すしかないだろ』
『信用出来るのか?』
『オレは最初からお前やエスタロッサ達以外、誰も信用しちゃいない』
『………そうか』
『まぁ、ダンテに嘘つくなんて事が出来るとは思えないからな、それが一番の要因だ』
『確かに……』
紅姫と話終わると、柄に添えていた手を下げ、こちらも戦闘の意思がない事を示す。後ろではシェイバが「カレン、何してるんだ!」と怒鳴るように声を張る。
「オレもダンテには聞きたい事があるんだ。ちょうどいい機会だ、話を聞くとするさ」
「でもカレン――」
シェイバは兜の下で、ダンテをキッと睨みながら指を刺す。
「――こいつはカレンをあんなにした奴だぞ! そんな簡単にこいつの言う事を信じていいのか?!」
「信じるつもりはない。仮にダンテの話したいってのが嘘だったなら此処で殺せばいい」
「………!」
「言うじゃねぇか、お前にオレが殺れんのかよ!」
「オレ一人じゃ厳しいが、ギレンも加わればお前程度簡単に殺せるぞ」
「ギレン? 後ろの黒い奴か?」
「ああ……ギレンはオレより強いからな、今のお前じゃ勝つのは不可能だ」
「へぇ……ギレンそんなに強ぇのか」
ダンテは面白いおもちゃを見つけたような視線をギレンに向ける。
その瞳の奥からは闘志が滲み出ていた。
「どうだ、俺と殺り合わねぇか?」
「ご冗談を……しかし、我が君が貴方様と戦えとご命令になったのなら――」
ギレンは一拍置いて口を開く。
「――貴様を跡形も無く斬り刻んでやろう!!」
途端、地獄から響いてくるような低い声と共に、濁流のような殺気が洞窟内に溢れかえる。
「……!!」
以前カレンと対峙した時のそれとは比べ物にならない圧倒的な重圧に、流石の戦闘狂であるダンテも表情を引きつらせる。
主人を傷つけられた怒りは殺気となって膨れ上がり、ギレンは自分の意思とは裏腹に、体は勝手に臨戦態勢へと移行する。
時折「シュロロロロロッ!」と本気になった時に発する威嚇音まであげる始末だ。
それを肩越しに見ていたカレンは、冷たい汗が額から流れるのを感じながら呆れたようにため息をつく。
ここまで怒ってくれるのは嬉しい気持ちもあるが、同時にどこまで忠誠心が厚いんだとげんなりする。
視線を動かせばエスタロッサとシェイバはかなりキツそうな様子になっている。先程から呼吸が荒い。
その昔、世界最強の一角と戦ったことのあるカレンはまだギレンの重圧に耐える事ができるが、二人はそろそろ白目をむいて倒れそうな勢いだ。
「ギレン、それぐらいにしとけ。エスタロッサとルミナスがぶっ倒れちまうぞ!」
カレンに注意され、我に返ったギレンは「申し訳ありません!」と勢いよく頭を下げる。
その瞬間、洞窟内を満たしていた重圧は嘘のように消え去り、荒い呼吸音だけが響く。
そんな中、ダンテだけは高笑いを上げる。
「はっははははは!! いいねぇ、最高じゃねぇか!」
「はぁ……で、話ってのはなんなんだ?」
「立って話すのもなんだ、取り敢えず座れよ」
「………」
ダンテに戦う意思がないとはいえ、カレンは最低限の警戒はしつつ、地べたに座る。すぐ近くにはいつでも手に取れるように根滅剣を置いておく。
肩越しに後ろを振り返ってみれば、呼吸を整えたシェイバとエスタロッサに、ギレンが何度も謝っているのがチラッと目に入り、その光景に少しおかしいと思ってしまう。
これで少し緊張が解れ、堅かった表情が少し和らいぐ。
カレンはダンテへと視線を戻し、顎をしゃくって話をするよう促す。
「お前は"アヴァロン神聖国"を知ってるか?」
「国民が全て人間で構成されていて、確か人間至上主義を掲げている国だな……その上、七大国に次ぐ国土と軍事力を有していて、王国を含めた近隣国の中でも特に神への信仰心が強い国。噂にはエルフや獣人なんかも魔族と同一視するかなりヤバい奴もいるとか……」
「ああ。あの国は魔族を根底から根絶やしを掲げる馬鹿な連中で構成されてる頭の痛い国だ」
ダンテは続けて話す。
「でだ、そのアヴァロン神聖国が最近、正確には三ヶ月前から急に動きだしたらしい。各国でアヴァロンのレリエル教団が目撃されてるって話だ」
「レリエル教団……確か魔族を専門とする戦闘集団だったな」
レリエル教団――夜の天使を冠するこの教団は、アヴァロン神聖国に存在する四大教団の一つで、カレンが述べたように魔族を専門とする戦闘集団。特に魔族を嫌悪している者や敵対心の強い者で構成されている。
魔族根絶やしを心情に掲げ、目的を達成する為ならどんな手も厭わないというイカレた集団である。
「しかもそれが動き出したのが三ヶ月前……オレとお前がぶつかった時と同じ時期だな……まさか」
「そう、どうやらオレらの喧嘩で起こった天変地異、アレが原因らしいぜ」
「というと?」
「そうだな、ちぃと話は変わるが、お前はデモナス魔導国がどういう役割を果たしているか知っているか?」
ダンテの質問に、カレンは「どういう事だ」と軽く首を傾げる。
「デモナスは人間たちに唯一認められた魔族の国だ。建国した際、魔導国は国の外、つまり魔導国に属していない魔族領土の魔族たちも保護対象にした。これのせいで各国は魔族に手出しが出来なくなっちまったわけだ」
「それは良い話なのではないのですかな? 無用な争いが無くなりますゆえ」
エスタロッサが不思議がるように言う。
「まぁそうだな。デモナスもそれを根っこに魔族領土の魔族を保護対象にしたらしいからな。他の国も戦争にならないならと喜んだんだが、他の国とは別に一国だけ、それに納得のいかない国があった、それが――」
「アヴァロン神聖国か」
「ああ」
「つまり何が言いたいんだ? 私にはさっぱりなんだが……」
「つまりこういう事です。今回我が君とダンテ様、両者のぶつかり合いで起こった天変地異を魔族がやったと断定づける事で、手が出せなかった魔族に攻撃を仕掛けるおつもりなのでしょう。正確には魔族単体では無く、デモナス魔導国と魔族領土へ、という事になりそうですが」
「なるほど……」とシェイバが顔をダンテに向けると、ギレンの説明が合っていたのだろう、無言で頷く。
「昔からアヴァロンはデモナスと魔族領土を攻撃したがってたからな、今回のは奴らにとって言いがかりをつける良い攻撃材料だろうぜ」
「そんな! どうしてそこまでするんだ?!」
シェイバがそう叫ぶと、カレンが鷹揚のない声で告げる。
「魔族は世界の敵だからだ」
「………!」
「アイツらが魔族に攻撃仕掛ける理由なんざ、それだけで十分なんだろうよ」
「そ、そんな……!」
シェイバは愕然とする。
確かに幼い頃から両親に魔族は敵だと教えられてきた。しかし、カレンと過ごす内にその認識も薄れてきており、最近では魔族も他の種族と同じような感覚で捉えていた。
「で、でも、だからといってそれだけで魔族を攻撃するつもりなのか?! 罪もない人たちを殺すつもりだっていうのか!」
「まぁ殺るだろうな。特に今動いてやがるレリエル教団は魔族なら例え産まれたばかりの子供でも殺すだろうぜ。なんの躊躇もなくな」
ダンテは何でもないように答える。
シェイバは改めて魔族のこの世界での立ち位置に絶句する。
「……!」
「……最近人間の街で暮らしてたから麻痺してたみたいだな。そういえば思い出した。魔族の立ち位置なんてそんなもんだったな。ありがとよ、最悪の気分だ」
「くくくっ、改めて聞くとかわいそうになってくるぜ!」
「そんな事微塵も思ってないくせしやがって……というかお前、こんな情報どっから仕入れて来たんだ?」
「魔導国に昔の喧嘩仲間がいてな、そいつから貰った情報だ。そいつは魔導国でもかなり上の方だからな、信憑性のある情報だと思うぜ!」
そう言うと、ダンテはその他にも、色々な情報を持っていた。
活発化していた帝国は魔導国が横から入った事により、動きを止めたこと。しかし、その行動のせいか、天変地異を起こしたのは魔族であると更に強くいわれ始めたこと。
魔導国だけでなく近隣にあるアルヴヘイムにまでアヴァロンから変な言いがかりをつけられていることなど、まだ他に事細かな情報をくれた。
「なるほど……それで、結局お前の目的はなんなんだ? オレたちにそれを話してお前に何のメリットがある?」
「単純な話だ。多分このままいけば最初にアルヴヘイムで火の種が上がる。戦争の火だ……どうだ面白そうだろう? お前も一緒に行かねぇか!」
「つまり、戦争が起こるから一緒に行って、戦いに介入しようぜ、ということか?」
「そういう事だ!」
「おい、カレンをそんな事に巻き込むな!」
「おいおい、人聞き悪いこと言うな。決めるのはこいつだぜ。俺はただ提案しただけだ」
カレンは逡巡する。
初めて聞いた時から妖精国家には興味を惹かれていた。いつか行ってみたいと思っていたのだが、戦争で焼け落ちでもされてはせっかく楽しみにしていたのにそれでは困るの一言に尽きる。
「………戦争になんぞ興味はないが、アルヴヘイムには興味がある。介入するつもりは毛頭ないが、行ってやっても良いぞ」
「お! 話が分かるじゃねぇか。なら決まりだ!」
「ちょ、カレン!」
「まぁまぁ落ち着かれよルミナス殿、父上にも何か考えがあってのこと……たぶん」
「若様の言う通りでございます。もしかすると、アルヴヘイムにお二人で行かれた際、ダンテ様が戦争に介入しようとすれば、我が君が止めに入る為かもしれません。何にせよ、先程若様が言われた通り、何かしらのお考えがあっての事かと……」
今の説明で、何か納得がいったのかルミナスは「なるほど……」と呟く。
(悪いなエスタロッサ、ギレン、オレにそんな考えは微塵もない……)
カレンが内心で謝っていると、ダンテが口を開く。
「まぁ、戦争たってまだ起こるかどうか分からねぇし、起こったとしてもまだ先の話だ。取り敢えず覚えておいてくれ」
ダンテはそれだけ言うと、立ち上がって洞窟の入り口まで歩いていくと「まっ、アヴァロンには気をつけるんだな!」と背中越しに手を振る。
そして、洞窟から飛び出そうとするダンテをカレンは呼び止める。
「……ダンテ、お前これからどうするつもりだ」
「……さあな」それだけ言ってダンテは姿を消した。
『紅姫』
『なんじゃお前様?』
『ずっと気になってた事があるんだが?』
『奇遇じゃのう儂もじゃ』
『……アイツ意外と頭いいな』
『そこぉぉぉ?! なぜアヴァロンがアルヴヘイムに攻撃仕掛けようとしとるとか、なぜダンテの奴が情報を儂らに話したとか、そっちの話じゃないんかい!』
『ああ、それも気になってたが、こっちの方が気になってな……』
『そこはどうでも良いじゃろ! いや、どうでも良くないけど!』
カレンが〈念話〉で紅姫と討論していると、後ろからシェイバが近寄り、カレンに話しかける。
「カレン、本当にアルヴヘイムで戦争が起こったらダンテと行くのか?」
「ああ……」
「そうか……」
「………」
「………」
重い沈黙が洞窟内を支配する。
すると、その妙な緊張感に耐えかねたエスタロッサが場を和ませようと話を切り出す。
「と、ところで父上、調査クエストの再開いつ行うので?」
「ああ、今から行く。ルミナス行くぞ」
「え、ああ、うん……分かった、行こう」
その後、カレンたちは途中だった調査クエストを再開。
ダンテの情報が確かなら王国にもアヴァロンの手が伸びている可能性が高い。その為、それを考慮して普段よりも更に慎重に行動する事となり、かなり時間がかかってしまうこととなる。
よって、調査クエストを完遂するのは今より四ヶ月後となった。
第四章、どういう内容にするかもう決まっているんですけど、書きたい事多過ぎて第三章がなかなか終わりません。
予定ではこの話を含めて五話で終わらせようと思ってるんですが、この調子だと少し不安です。私自身ちゃんと終われるのか分からないです……
とまぁこんな感じですか、これからもどうぞ応援よろしくお願いします!!




