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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第3章〜天空の巨獣〜
102/201

素直

『転生悪魔〜世界最強に至るまで〜』を読んでいただきいつもありがとうございます!


今回ですね、とうとう記念すべき 第100話 になります!

ホントに早いですね。私自身良くここまで書けたなって感心します!


それにしても第三章はいつまで続くんですかね(笑)

三章が始まった当初の予定ではもう終わる筈なんですけど、全然と言っていいほど終わる気配がないです、はい……


まぁとにかく、こうして読んでいただける事は嬉しく思います。


では、第100話どうぞ!

『ふははははっ! お任せあれ!』


 上空およそ五千メートル。雲の上を旋回していたエスタロッサは、ルミナスからの指示に従い体内魔力を一気に練り上げる。


 膨れ上がる魔力に反応して体内温度が上昇。緋い光が血管のように浮き上がると、エスタロッサの周囲も体内温度の上昇に伴ってみるみる内に気温が上がり、数秒後には灼熱地獄へと化す。


(見ていた限り"人喰い"には特殊能力(スキル)【再生】があると見てまず間違いありませんな。ならば、再生出来ないよう灰にしてしまうのがよろしいですな!! と言うより元よりそのつもりですがッ!!)


 体内魔力が十分に充填されると、全身が高温に熱せられたエスタロッサの口からはシューと音を立てて、湯気が立ち込める。


『ルミナス殿、準備はよろしいですかな。というか覚悟はよろしいですかな!!』


『いつでも良いぞ、エスタロッサ!』


『ふははははっ! ではいきますぞっ!!』




 ――〈塵炎滅却(イフリート)〉!!




 全てを灰塵と化す灼熱の炎が、遥か上空より放たれる。




 ♢♢♢♢♢


 時は遡る事"人喰い"が攻めてくる前日。


 近くの森林に身を隠していたエスタロッサは、王都にいるルミナスに自身の存在を知らせる為、緋い鱗を太陽に反射させた。

 正直かなり危険な行為ではあったが、エスタロッサから〈念話〉を飛ばしても魔法線が繋がらない為、苦肉の策であった。

 自分から〈念話〉が繋げられない以上、より魔法精度の高いルミナスからの繋げてもらう必要があったのだ――


 エスタロッサは魔法が得意では無い。その点、ルミナスは魔力の使用配分や精度はカレンよりも上だ。


 ――そして、危険を犯した甲斐もあり、エスタロッサの存在に気付いたルミナスは〈念話〉を飛ばし、見事魔法線を繋げてくれた。やはりルミナスは凄い人だとエスタロッサは改めて感心した。


 閑話休題


 今回討伐対象となった"人喰い"はその正体から能力に至るまで謎が多かった。それに、ルミナスはカレンがその時になって必ずしもいるとは限らないと想定していた。

 だから、念には念を重ねてエスタロッサに協力して貰うよう頼んでおいたのだ。


『エスタロッサ!』


『おぉ、ルミナス殿! やはりルミナス殿は魔法を使うのがお上手いですな! 我輩心より感心致しますぞ!』


『そんな事より、頼みがあるんだぞ!』


『ふむ、頼みですかな。我輩に出来る事なら何でも仰って下され! 我輩に出来る事なら!』


 大切な事なので念を押して二回言っておく。


『お願いと言うのは、エスタロッサも戦線に参加して欲しい、と言う事なんだぞ!』


『………ふむ、我輩一応"天災級(カタストロフ)"にカテゴライズされておりますゆえ、戦いに参加致しますと、"人喰い"以上の騒ぎになってしまうのですが?』


『それなら心配ない。エスタロッサにはとどめを刺してもらうつもりだからな』


『……と言いますと?』


『とりあえず"人喰い"との戦闘が始まっても私が合図するまでその森林に待機していて欲しいんだぞ。

 というのも、私達だけで倒せるのならそれに越した事はないのだけど、戦いというのは予想がつかないぞ。もしかしたら私達も消耗が激しくて魔力がほとんど残らないかもしれない。だから、エスタロッサはその時のために待機していて欲しいんだぞ!』


『成る程、つまり我輩は後詰めと言う事ですかな?』


『まぁそんなところだぞ! それと、合図に関しては私から〈念話〉を飛ばす。そしたらエスタロッサは雲の上まで飛んで欲しんだぞ!』


『………ふむ、朧げではありますが何となく理解しましたぞ。つまり、ルミナス殿が我輩に合図を出せば、我輩は雲の上まで飛び、そこから魔法もしくは竜砲撃(ブレス)を放てば良いのですな!』


『うん、でも出来れば上空に上がった後も私の合図を待ってくれるとありがたいぞ!』


『ふむ……しかし、どの程度の威力に留めれば良いですかな?』


『そうだなぁ……()()()()()()()()()()かな!』


『ふはははははっ! つまり容赦無く灰にしてしまっても良いと言う事ですな!』


 かなり物騒な話で少し暴走気味ではあるが、エスタロッサはちゃんと理解している。

 跡形も無くなるくらい、と言う事はそれが出来るだけの高威力の技でとどめを刺して欲しいと言う事であり、それだけの大技を出しても良いように、ルミナスが安全を確保してくれると言う事だ。


(つまり、遠慮はするな、という事ですな……)


『ルミナス殿、本当によろしいのですな?』


『うん、私が何とかするぞ!』


『承知しましたぞ!』


 ♢♢♢♢♢




 という打ち合わせをしていたのだが、ここでルミナスは一つ重大なミスをしていた。


 それは――


「…………なんか、思ってたのと違うぞ」


 ――エスタロッサがまだ五歳の子供だという事を認識していなかった事だ。


 通常、(ドラゴン)でいう五歳は人間のそれとは違う。

 精神的年齢はもっと上で、幼竜の時点でかなり考え方は大人である。

 しかし、エスタロッサは例外であった。それは元人間であるカレンの元で育った事が大きく影響していた。

 簡単に言うなら、カレンがエスタロッサを人間のように育てだ事で、エスタロッサの精神は人間のそれとはほぼ変わらない物となっていたのだ。

 その為、人間の子供と同じく(ドラゴン)であるエスタロッサも純粋で素直な性格に育った。それは良い事だ。争いを好まず、平和的で、とにかく甘えたがりで人懐っこい。

 カレンからすればエスタロッサは可愛い子供で、見ていて微笑ましいものだ。


 だが、子供というのは物事をあまり深く考えない傾向がある。例えば、言った事をそのまま鵜呑みにしたりする事などが挙げられる。当然それはエスタロッサも例外ではない。


 つまり、何が言いたいかと言うと。


 エスタロッサはバカ正直過ぎたのだ。


 そして、エスタロッサがルミナスを心から信頼しているのも後を押していた。


 だから、本気で放った。


 それはもう本当に容赦の無いぐらい。後先も考えず、下手すれば着弾点から半径数十キロを更地に変えてしまうぐらいの威力でぶっ放した。

 ()()()()()()()素直にそのまま再現した。


 跡形も無くなるぐらいに……


 爛々と輝く緋い炎が"人喰い"以上の絶望感を乗せて地上へ降ってくる。


 確かにとどめを刺して欲しいとは言った。跡形も無く消し飛ばして欲しいとも言った。しかし、限度はあるだろう普通。

 いくら容赦なく()ると言っても、こちらの状況やらなんやらを考慮しないだろうか。

 もしかしたら魔力が底をつきかけているとか、もうボロボロで動けなくなっているとか、少しぐらい考えてくれても良いのではないだろうか。


 しかし、これをまだ子供のエスタロッサに考えろと言っても酷である。いくら(ドラゴン)と言えど、特殊な環境で育ったエスタロッサの精神年齢はまだ幼いのだから。

 だが、そんな事を知っているはずもないシェイバは、その場で呆然と立ち尽くす。

 予想外だ。斜め上過ぎる。出来れば過去に戻って遠慮という言葉を辞書で調べさせて赤線を引かせたいところだ。

 しかし、最早後の祭り。一度放った魔法はもう止める事はできない。

 どうにかする他ないのだ。


 頭をフル回転させて、残り少ない魔力で出来る事を必死で考える。がしかし……


「ダメだ、魔力が足りない……」


 やはりというべきか、命綱の魔力が絶望的に足りない。


 その呟きを拾ってしまったユルトは、流石に不安を募らせる。


「ねぇシェイバちゃん、なんか凄いのが来たけど、アレ大丈夫だよね? ボク達ちゃんと助かるよね?」


「ていうか魔力量えげつなくないか? この距離でも熱いんだけど」


「あれって"人喰い"だけじゃなくてアタシ達も灰にならないかしら?」


「大丈夫だろ、〈魔力障壁〉張ってんだから!」


「いえマインさん、あの魔力量に対して、今シェイバさんが展開している〈魔力障壁〉だと……一瞬で砕けます!」


「だそうだぜ、アレン」


「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 今回ばかりはアレンに同情する。


 シェイバ自身、頭を抱えて叫びたいところだ。それは他の五人も同じだろう。


 だが、絶叫をあげたところで状況が好転するわけでもない。

 自分達の力でこの状況を打破しなくてはならないのだ。


(あーもうッ! エスタロッサのバカァッ!!)


 展開していた〈魔力障壁〉をギリギリまで範囲を縮め、その分強度を増す。しかし体長百メートルの魔物を囲むだけでも魔力の消費は激しく、〈魔力障壁〉は強度を増したと言っても未だ薄く脆い。ここにエスタロッサの放った魔法が"人喰い"に着弾した途端、耐える暇もなく全てが吹き飛ぶだろう。


 王都もこの場にいる人達も、そしてルミナス自身も、全てが灰となる。


 そんなのはごめんだ。


「根性ぉぉぉッ!!」


 こうなったら限界を超えろとでも言わんばかりに魔力を爆発させる。

 体中から白金の魔力が溢れ出し、幻想的な光景を生み出す。


 危機的状況にも関わらず、思わず「ほわぁ……!」と感嘆の声が漏れるロリちゃんを尻目に、ずっと傍観していたエリックはユルトをその場におろし、シェイバの展開している〈魔力障壁〉に自分の魔力を流し込む。


「大した助けになんねぇと思うけど、無いよりはマシだろ!」


「いや、助かるセドリック殿!」


 シェイバは感謝の念を込めて頭を下げる。


「ははっ、気にするな。それと名前だけど、エリックで良いぜ! 本名の方はもうユルト以外呼んでねぇからな!」


「分かった。ではエリック殿、後先考えず全開(フルパワー)で頼むぞ!」


「了解!」


 エリックが加わった事で、多少なりとも障壁の強度が増す。しかし、それも微々たるものでしかなく、エスタロッサの魔法を防ぐには程遠い。


「みんなも手を貸して欲しいぞ!!」


 シェイバの叫びにも似た呼びかけに、惚けていたロリちゃんが正気に戻り「私も手伝います!」と言ってエリックと同じく障壁に魔力を送り込む。それに続き、クラリス、マイン、アレンも残り少ない魔力を障壁に注ぎ込む。


「アタシ、魔力は殆ど使い切ってるからそう長くは持たないわよ!」


「右に同じく!」


「はっ! ンなもん気合いだ気合い!!」


「気合でどうにかなるなら苦労しないよ!」


「あ、あれ! もしかして辺境伯様と大団長様じゃ?」


 此方へ向かってくる気配に気付いたロリちゃんが後ろを振り向くと、どうにもガルフォードとメービスに似ている二人が走って来ていた。


 他の六人もそんなバカなと思いながらロリちゃんにつられて肩越しに後ろを振り向く。するとどうだろう、確かにガルフォードとメービスがこちらへ走ってくる姿が目に入る。


「お二人共こっちに来て良かったのかしら?」


 クラリスの心配も当然だが、城壁の方は怪我人を全て後方へ送り、部隊の再編成も完了。メービス直属の部下を指揮官に置き、指揮系統の構築の後、二人は指揮官に後の事を任せ、城壁を飛び出して此方へ向かっていた。


「すまない遅れた!」


「微力ながら加勢する!」


 二人は全員が〈魔力障壁〉に魔力を流し込んでいる事から、大体の状況を把握し、すぐさま自分達も魔力を流し込む。


「あの、城壁の方はいいのですか?」


 ロリちゃんの問いにガルフォードが答える。


「問題ないよ。あっちには優秀な指揮官がいるからね!」


 と言うが、ガルフォードとメービスがここに来るのはあまりに愚策である。

 そもそも、今回の作戦で前線における大将はガルフォードだ。

 そのガルフォードが自陣から飛び出して自ら身を危険に晒すのはハッキリ言って大将失格だ。それは、大将を補佐するメービスにも同じ事が言えた。

 いくら指揮官を別に据えて来たからと言っても、それにガルフォードとメービスの代わりが務まるかと言えば答えは当然No(ノー)だ。大将と言う点で変わりはいない。


 それはガルフォードやメービス自身がよく理解しているのだが、今回ばかりはじっとしていられなかった。

 心の何処かで、戦線に加わらなければと、本能がけたましい警戒音を鳴らしたのだ。


「愚かとは思ったが、我々の判断は間違っていなかったようだ。見た限り絶対絶命とみた……」


「ははっ、ホント助かります……」


 乾いたエリックの笑い声に、全員が同じ気持ちだと、苦笑いを浮かべる。


 その直後、余裕の無いシェイバの叫びが全員の耳を打つ。


「みんな来るぞっ!!!」


 つられるように視線を上に向ければ、緋い炎が圧倒的熱量もって死神の如く迫る。

 周囲の温度は急激に上がり、空気は乾燥する。

 焼けるような暑さが肌を焦がし、汗が滝のように吹き出す。


 そして、不気味なほど静かになった刹那――



 緋い炎が着弾する。



「オギャァァァァァァァァァッッッ!!!!!!」


 ――灼熱の炎が障壁の中で暴れ回り"人喰い"を焼く。


 そしてほぼ同時に、"人喰い"を囲っていた〈魔力障壁〉へ着弾した際の余波がぶつかる。


「くっ、これはキツい!!」


「っ!!」


「まだ十秒経ってないけど、こんなの無理よぉぉぉぉ!!」


「皆さんしっかりしてください。って、もう障壁に穴が開いてます!!」


「アレン、気合入れろっ!!」


「うわぁぁぁぁ! 結婚したかったぁぁぁぁぁ!!」


「ギブギブギブっ!」


「まずい……もう、限界……!」


 嵐のように暴れ回る炎の勢いは止まる事を知らず、〈魔力障壁〉へ何度もドンッ! ドンッ! と衝撃を伝える。

 その度にバキバキと嫌な音を立て、凄まじい勢いで亀裂が走る。


 魔力はもう無い。

 全員既に限界を超えている。

 これ以上は、無理だ……


 もうダメだ、全員が死を覚悟する。


 その心情に呼応する様に、無情にも障壁が砕け散り、途端に焼けるような熱風が駆け抜ける。


(……っ! カレン!)


 ルミナスはギュッと目を閉じる。


 その直後――


「エスタロッサ、やり過ぎだ!」


 ――聴き覚えのある声がした途端、砕けた〈魔力障壁〉は時間を巻き戻すかのように一瞬の内に元に戻り、未だ放たれ続けるエスタロッサの攻撃をいともたやすく耐え抜く。


 突然の事に状況につかめない"神威"の四人とガルフォードは目を瞬き、ユルト、エリック、メービスは目を見開く。そして、ルミナスは目の前の現れた人物の登場にどうしようもなく安堵した。


「カ、カレン……」


 髪の色と目の色は異なるが、間違いなくルミナス知っているカレンであった。


「悪い、遅刻した」

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