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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第1章〜最強への道〜
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異常な少年

 森の中、魔物の死体に囲まれて待つ事数分。カレンの脚をポコポコ叩いていた豚鬼(オーク)も疲れ果てたのか、今は大人しく身を寄せ合いすやすやと眠っている。


 その頃カレンは、転がっている魔物から肉を取り分け、木の枝に刺していた。


 何をしているかと問われれば、それは、ただ単純に腹が減ったので焼いて食べようと思っただけであり、他意はない。


 枝は全部で四本、肉は一つ三センチ角に切り、それぞれの枝に三つずつ刺した。


「よし、これだけあれば良いだろう。あとは火を起こしてと」


 カレンは周辺に落ちている枯葉と乾燥した木を集め、そこからは一心不乱に火をつける作業に没頭した。


 それから努力の甲斐あって火がつき、カレンは木に刺した肉を焼いていった。

 焼いている肉の中には初めて食べる魔物の肉もあり、楽しみである。


「さて、餓食獣(ムシラ)を食べるのは初めてだが、味が楽しみだな」


 いい具合に肉が焼けると、まずカレンは、今回が初となる餓食獣(ムシラ)の肉にかじりついた。


 餓食獣(ムシラ)の肉を食べたカレンは徐々にその顔を(しか)めていった。不味い、とにかく不味い。


 何が不味いって、まず硬い、さっきから口の中で噛みちぎろうとしているが、全然噛みちぎれない。次に、匂いだ、とにかく強烈なアンモニア臭がした。

 正直とても食えたもんじゃない。


「ちっ、ハズレだな、想像以上の不味さだ」


 それからカレンは文句を言いつつも、結局肉を全部平らげた。


「それにしても、見た目に反して川馬(ケルピー)は美味いな、肉も柔らかいし、独特な香りはするが臭くない」


 肉を食べ終わり立ち上がったカレンは、魔物大進行(スタンピード)から逃げて来た道を戻るように歩き出した。


 逃げる際に捨てた背負い袋を拾いに行く為である。


「一応ちゃんと持って帰らないとな、魔物に踏み潰されてないといいが……」


 歩くこと数分、カレンはボロボロの背負い袋を見つけた。今拾ったのはセラが背負っていた分だが、中身は魔物に踏み潰されており、薬草はダメだった。


 あとはカレンが背負っていた分だが、それは捨てる際に木の上に投げ込んだのでなんとか無事だった。


「一つは無事だったし良しとするか……ん?袋に穴が開いてるな、投げた時、木に引っかかって破けたのか、まぁ、あんな状況なら仕方ないか」


 そう言ってカレンは二つの背負い袋を待ち、元来た道を引き返して行くのだった。


 一方その頃、カレンを助けに向かった救助隊一行ーー八人ーーは、現在五体の魔物と交戦中だった。


「エリックそっちに行ったぞ!」


「任せてくれ!!」


「ぐあっ!」


「大丈夫かフィン!!」


「ユルトそっちのカバーに入れ!」


「でもオルドさん一人にして大丈夫ですか?」


「オレのことは心配するな、こっちはなんとかする!」


「わかりました、気をつけて」


 男たちの怒号が飛び交い合う中、徐々に魔物側が押され始め、一体、また一体と数を減らす。そして、最後の一体をユルトが止めを刺し、戦闘は終了する。


「まず負傷者の手当てを、ここからは慎重に前進だ!」


 負傷者の手当てをした救助隊は今回のリーダーであるニコラスが先頭立ち、一列に並んで森の中を進んでいた。


 すると救助隊のメンバーで、先ほど白蛇獣(レイジ)に突き飛ばされた青年、フィンがここまでの疑問を口にした。


「なぁ、魔物大進行(スタンピード)って聞いたけど、さっきの五体を見ただけで、魔物の大群がこっちに向かって来る気配がしないんだが?」


 その疑問に、他のメンバーも続いた。


「確かにそれはオレも思った、もしかして子供の見間違いじゃないのか?それか大げさに言っているとか」


「いや、いくら子供でも百匹の魔物を見間違えるわけがない、それと仮にだ、大げさに言ってたとしてとも、オレは妹のように可愛いセラちゃんを信じる」


「ははっ、そう言ってもらえると父親としては嬉しいものだ」


 少し気が緩んできたその時、先頭を歩いていたニコラスが急に立ち止まった。


「どうしたニコラス?」


「オルドさんこの匂い」


 ニコラスに促されオルドは鼻を鳴らし匂いを嗅いだ。


「……これは、血の匂いか!」


「間違いなく」


「とにかく行ってみよう」


「はい!……皆んな警戒しながら進むぞ!」


「「「「「「「おう!」」」」」」」


 それから進むこと数十分、救助隊のメンバーは全員その場の光景に息を呑んだ。


 見渡す限りの魔物の死体、地面には文字通りの血の海が広がり、胸焼けするような血の匂いが充満していた。

 そんな地獄のような光景を目の前に、救助隊の誰かが絞り出すような声で言った。


「な、なんだよこれ……」


「オレたちは、夢でも見てるのか?」


 救助隊のメンバーがあまりの現実離れした光景に動揺している中、オルドが本来の目的を思い出した。


「はっ…そうだ、カレンを探さないと!!」


「ああ、そうだった!」


 オルドは声を張り上げ、カレンの名前を叫んだ。


「カレンどこだー!返事をしろー!!」


「カレェェン!出てこーい!」


 皆んながカレンの名を呼び、捜索していると、何かに気づいたエリックがオルドを呼んだ。


「オルドさん、こっちに来てください!」


「みつかったか?」


「いいえ違います。ですが、これを見てください。」


 そう言ってエリックに手渡されたのは、折れた剣の刃部分だった。


「これは!!オレがカレンに渡した護身用の短剣だ!!」


 すると周りを捜索していた他の皆んなも集まって来た。


 オルドの持つ折れた剣を見て、フィンが悲痛な表情になった。


「ま、まさか、カレンの奴、もう…」


「その事なんだが」


 声がする方向を見ると、リーダーのニコラスが膝をつき、魔物の死体を見つめていた。


「カレンは生きていると思います。さっきあっちで真新しい足跡を見つけました」


「じゃあ、その足跡を辿れば……」


 急いで向かおうとするオルドに、ニコラスは立ち上がって手を前に出し、オルドに少し落ち着くように言った。


「少し待って下さいオルドさん。それよりもこの死体を見て下さい」


 早くカレンを探しに行きたいオルドだが、わざわざ死体を見て欲しいと言われたので、何かあるんじゃないかと思い、ニコラスが指差す死体を覗き込んだ。しかし、死体には特に変わった様子はない、強いて言うなら剣の切り傷があるくらいだ。


「剣の斬り傷があるだけじゃないか、それ以外は別に普通だぞ?」


「カレンが応戦するために斬ったんだろ?」


「ああ、剣で斬り殺された、ただの魔物の死体じゃないか?」


 続いてフィン、エリックが魔物の遺体を見るが別に変わった様子はない。

 だが、次にニコラスが発した言葉にその場に戦慄が走る。


「死体自体は普通だ、でも……この場にある全ての魔物の死体が同じように剣で斬り殺されたものだったらどうだ?」


「「「「「「なっ!!」」」」」」


「わぁ、カレンすごいね!」


 みんなが驚く中、ユルトだけ何故か感心していた。


 話を戻そう。

 この場の死体には剣で斬られた傷を持つものしかない。首を飛ばされたもの、体を両断されたもの、、腕を斬り落とされたもの、その全てが同じ武器、つまり、たった一人に殺されたことを意味していた。


「う、嘘だろ……」


 フィンの消えゆくようなその言葉が全員の気持ちを代弁した。


「魔族とはいえ、十歳の子供がこれだけの数の魔物を全滅させるなんて…しかも全て一撃でだ。ここまでくれば異常だぞ!!」


「「「「「「「…………」」」」」」」」


 否定できないその言葉にその場は静まり返った。何よりこの場の状況がそれを物語っていた。


 そこでフィンが全員の顔を見て不安そうに口を開く。


「なあ、この事はちゃんと、国に報告するよな?」


 フィンの提案したそれは、別におかしな事ではなくごく普通のことだった。

 魔物大進行(スタンピード)が起きた時点で国に報告し、調査団に来てもらうことで原因を調査してもらうのが一般的常識だ。

 原因が分からないままにして、そのまま放置すると、また同じように第二、第三の魔物大進行(スタンピード)が起こる場合がある。だから、寧ろ報告しない方がおかしいのである。


 だが、今回はどう考えても普通ではない。それは、この状況を作ったであろうカレンの存在だ。

 普段なら調査だけで済んだものを、カレンが魔物を全滅させた事により、その全滅させた者の正体も調べられる事になる。となると……


「これを国に報告すれば、調査団が来て森を調査する。するとこの死体の山を見て、全てが剣で斬られた事を知られる。

 すると、その日セラちゃんと薬草摘みに行っていたカレンの存在が自然とバレてしまう。そうなれば、ボク達は魔族であるカレンを国に引き渡さなくてはならなくなる。

 ……そんなのごめんだね。ボクは国への報告は反対だよ」


 そう、ユルトの言う通り調査団がこの死体の山を見れば、全滅の原因を探るだろう、そうなればカレンの存在はバレ、調査団に引き渡さなければならなくなる。


 それでもフィン絞り出すように言った。


「それでも、報告すべきだろ……アイツは化け物だ、国に任せるべきだ!」


 自分達の手には負えない。という先程までの心配していた様子とは打って変わって、今は化け物を処理してしまえという態度に、顔を真っ赤にしたオルドがフィンの胸ぐらを掴み怒鳴り散らした。


「そんなことが出来るか!!

 もし仮に、カレンを国に引き渡せば、魔族の子供というそれだけの事でゴミのように処分されるのは確実だ!それを、お前は分かって言っているのか!!」


 そう、魔族は人間の敵だ、故に引き渡せば確実に殺される。それが例え子供であろうと関係はない。

 国はカレンを魔族のスパイと判断し、拷問した上で殺すだろう。それも、酷い殺し方で……


 それが分かっているオルドは、フィンの先の問いが、カレンを殺してしまえ、と言っているようで我慢ならなかったのだ。


 鬼の形相のオルドにビビりつつも、怒りを諫めようとエリックが割って入る。


「お、落ち着いて下さい、オルドさん!」


「これが落ち着けるか!こいつは、フィンは遠回しにカレンを殺せと言っているんだぞ!!」


「じゃあ、どうしろってんですか!こんな光景を作り出した奴がオレたちの手におえると思いますか?!」


「カレンは結果的にオレ達の村を救ったんだぞ!それをお前は……恩を仇で返すというのか!!」


 収まることのない二人の言い合いにニコラスや他のメンバーが止めに入るが、二人の言い争いは止まることはなかった。それどころか激化していった。


 そして、そんな終わることのない言い争いを、すぐ近くで聞いている者がいたのだった。

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