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ある勇者の甥と魔王子のおはなし  作者: 中崎実
とある長閑な夏やすみ
4/5

○○の乙女と黄金の蹴り

この話はかなり短いですが、次で終わります。

 叔父さんと暑苦しく友情を確かめ合った後、怪我人が骨折だけで他に異常がない事を確認したガイさんは、問答無用で怪我人に雑巾がけを命令していた。


 誰も止めてやらないのが素晴らしい。さすがに、痛み止めは姉が分けてやったようだが。


『痛い痛いと大の男が喚かない。とっとと雑巾がけ40往復。ちゃんと手をついて!』

『這いつくばれと言うのか!』

『うっさいわね、尻を蹴るわよ』


 言葉より先に足が出ているのはどうかと思うが、姉が異世界語で話し終わるより先に、怪我人は潰れた蛙のように床とキスしていた。


『だいたい、あんたが唾なんか吐くから余計な掃除の手間が増えたの。怪我だってあんたの腕が悪いからよ』

『女如きに剣術の何が分かる』

『小僧が生意気言うんじゃありません。判ったらさっさとおやり』

『ぁんだと、このクソアマぁ!』

『誰にモノ言ってんの、あんた』


 ラディ、そこで笑うな。たしかに、もう一回つぶれたカエル状態になってるそいつの学習能力の無さは、笑いを誘うけど。


「相手が何者なのか、確認しようともしないのだからなあ。これは失格で良いね」

 最後の一言は、ガイさんに言ったものだった。

「私からも別途、報告します」

「救国の乙女をクソアマ呼ばわり。これはどうしようもないよ」


 にこやかに言いながら俺の貸したスマホの録画を止めるあたり、なかなか良い根性をしている魔王子殿下だった。


 ちなみに恥ずかしい二つ名で判る通り、姉はかつて、ラディの兄貴に手を貸してあちらで暴れまわった事がある。本人いわく廚二病のなせるわざだったそうだが、大学一年の夏休みの冒険だった事を考えると、あれは若さゆえの誤りじゃなくて姉の本性のはずだ。


「駄犬の(しつけ)代は後で請求するからね、ラディ君」

「勿論です。公式に請求していただければ、私に損害を与えた(とが)で犬を親元に返すのも楽になります」

「じゃあ私からは剣術評価でも書いてやるかね?」

 と、これは叔父さん。


 ガイさんのオフに合わせてあちらに行く事もある武術マニアは、あちらじゃ『剣聖』などと呼ばれており、つまりそれなりに評価されている。

 剣聖様(おじさん)の顔くらい覚えておけよ、と思うが、新顔近衛氏は『平民』の個体識別などする必要がないと思っていたのだろう。まったくバカな奴もいたものである。


「ありがとうございます、お手数掛けて申し訳ありません」


 ラディが頭を下げたが、叔父さんもラディの事は俺とセット程度に認識しているので、この程度の手間なら問題は無いはずだ。

 なんだかんだいって、うちの家族にとってラディは身内だ。俺が頭を下げればやってもらえるような事なら、政治的に問題が無ければまずたいていはやってくれる。

 ちなみにお袋は『産んだ覚えは無いけど、息子が増量してるわね~』とほけほけしていた。


「剣聖にダメ出し食らって、無事でいられるのかね」

 これでも叔父さん、かなりの有名人である。

 別に心配する義理は無いが、行く末は気にならないでもない。

「ダメ出しなんかしないよ。才能がないとはっきり書く」


 あ、新顔氏のキャリア終わったな。


「剣聖の手になる評価書をいただけるなど、まずめったにある事じゃないからね。中身がなんと書いてあっても、彼は名誉とすべきなんだよ」

 俺の呟きに、ガイさんはとても良い(うさんくさい)笑顔でそう言い切った。

 哀れ新顔氏。

 成仏しろよと願いながら、雑巾がけが終わるのを見守った。

それでいいのか母上。

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