○○様はおしおきする
あいかわらずだらだらした夏休みです。
「お付きの人の審査も兼ねてるのか」
食事をとりながら事情を聞いた親父が、頷いてからそう言った。
「付き人ではなく、近衛です」
いつもの事で親父に対してはこいつも腰が低いが、それが気にくわないのだろう。近衛だと紹介された新顔氏は目を剥いて顔を真っ赤にしていた。
「なるほどなあ、たしかにこれじゃ審査が必要だ。君、ここで抜剣はダメだぞ」
腰に手を伸ばしかけた新顔近衛は当然、親父の言う事なんか聞く気はない。
めんどくさいので、そいつの手にあった武器は俺が弾き飛ばした。
「昭登、食事中なんだから静かにやれ」
飛んでいった剣(起動してなかったから刃のないライトセーバー状態だ)を横目に言ったのは叔父の秀治。
魔王子殿下が遊びに来たと連絡を受けてやって来た叔父にも、殿下は一つ頭を下げた。
「申し訳ありません、躾がなっておりませんで」
「それをはっきりさせるために来たんだろう、うちは構わないさ」
親父も叔父も平然としていたし、飛んできた剣を簡単に捕った姉は、剣を奪い返そうと襲いかかって来た近衛をその場に転がしていた。
「ねえラディ君、この子ぜんぜんダメだと思う」
もう一度、憤怒で顔を赤く染めた近衛氏はしかし、姉の踵を食らって股間を抑えてうずくまった。
「すっごく弱いんだけど?さっきからずっと思ってたけどさ、こんなの君の護衛にしちゃダメじゃん。役立たないでしょ」
「ミソノさん、お手柔らかにお願いします。手加減してくださるくらいでちょうど良いはずです」
ラディは思いっきり笑いをこらえていた。
「か弱き乙女にむかって、なんたる言い草」
「か弱い……」
「乙女……」
俺とラディがほぼ同時にツッコんだ。
「なあアキト、日本語では乙女って怪力無双の意味なのか」
「接頭語によって意味は変わるけど、『か弱い』が付くとその真逆だな」
「間違って覚えてたわけじゃないんだな、安心したぞ」
「ラディ、あんた野菜3倍盛りね」
「姉さん、子供相手じゃないんだからさあ」
姉はラディに対して物理ツッコミはしない。とことん『お仕置き』したがるが。
「ラディはあたしの弟分なんだから、子供向けのお仕置きで十分でしょ」
姉が言う横でお袋がけらけら笑いながら、温野菜を山盛りにしたボウルをラディの目の前に置いた。
「ラディ君、しっかり食べてってね。夏だからお野菜いっぱいあるから」
「……野菜を食べる習慣は無いのですが」
日照時間が短くて青物なんか育たないからなあ、ラディの国。そりゃ野菜をモリモリ食べる生活なんかしてないだろう。
ちなみにラディは異種族と言っても人類の亜種の一つだから、俺が食べられる物なら問題なく食べられるし、消化できなくて死ぬなんて事は無い。あんまり食べないから好きじゃないだけ、だそうだ。
「はいはい、食物繊維は体に良いからねー」
相変わらずマイペースなお袋だった。
そしてもちろん、食べ終わるまでラディが席を立てないのも毎度のことだった。
魔王子殿下をものともしない姉上様もですが、この母上様も何気に最強ルート爆走中ではないかと。