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ある勇者の甥と魔王子のおはなし  作者: 中崎実
とある長閑な夏やすみ
1/5

夏休みのはじまり

「また来たのかよ」


 縁側に腰掛けてのんびりしてるラディシャデル(めんどくさいのでラディと呼んでいる)に思わずそう言ったが、ラディは手にしたスイカから顔を上げてニヤっとしただけだった。

ブラックジーンズに無地のTシャツを着、その上に綿の半そでシャツを羽織った格好で、足元はサンダル。そんなシンプルな格好をしてスイカを齧っているのに、妙な威厳と風格が漂っている。

 さすが魔王子殿下と言うべきだろうが、しかし日本(こちら)でそんな威厳、あっても意味がないと思うんだが。自分の世界に戻ってから発揮してくれ。


「仕事はどうした、仕事は」

「夏季休暇だ」

「おまえんとこに夏があるのか?」

 たしかラディの国は、地球(こちら)で言うとスカンジナヴィア半島くらいの位置にあったはず。日本人の感覚では、夏があるとは言えない。

「こちらにくれば夏が味わえる、だから夏季休暇だ」

「休暇ってお題目で何をしに来たんだよ?」

「休みだよ、休み。あちらはちょうど朔だからな、こちらの一月があちらの一刻だ」


 というわけで2日ほど泊めてくれ。

 まったくもって好き勝手な事を言ってるが、頷いた姉の顔を見る限り、うちの家族は了承しているのだろう。


 だとすれば、俺が反対する理由もない。


「別に構わないけどな、お付きの新人氏はこっちのメシ、食えるのか」

 なんか怒りの形相になりはじめた新顔が一人。これで『無礼者が』とか言い始めたら……


 あ、言った。


 でかい声を出した瞬間に姉の物理ツッコミが入って沈黙したけど。

「お手数掛けてすみません。腹を下すようなら帰れば良いさ」

 奴は姉にそう謝罪した後、気楽に方針を固めていた。

「相変わらずだなあ……とりあえず晩飯はカレーでいいか?」

 あれなら人数が増えてもどうにかなるし、なにより、俺でもまともな物が作れる。

 いきなり俺の客が押し掛けてきてるこの状態で、俺が台所に立たないという選択肢はあり得ない。姉にしばかれたくないしな。

「あとハンバーグも希望する」

「作るの手伝えよ」


 働かざる者食うべからず。魔王子殿下も我が家では例外としない。


「もちろんだ、自分で作ればタマネギ抜きに出来るし」

 俺の母や姉が作れば、奴の分には野菜がたっぷり入る。世界が違えど、お袋や姉といった人種が隙を見て「体に良いもの」を食わせたがるのは変わらない。

 嫌なら自分で作るのが無難である。

「野菜も食えよ?」

「努力はする」

「よし、おまえの皿だけニンジン倍な」


 文句を言ったので、付け合わせのブロッコリーも倍にする事にした。


 なおその後、台所に入った魔王子殿下をダシに新顔氏が『殿下にこんなことをさせるとは!』だの『おまえらは高貴な方の前に出ると言う事を許されもしない身分で!』などと散々喚いていたが、そのたびに姉にドツキまわされていたのは見なかった事にした。

最強なのはもちろん姉。

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