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俺は喜多村 昂。よろず屋『喜多村八百万堂』という何でも屋をやっていて、ギリギリの生活をしているが何とか食っては行けている。
しかし、今月は一度も以来が来なくて、家賃や経費を除けば残された金額は一万五千円。次の依頼が来るまではこの金額で生きていくしかないのだ。
給料とかみたいに、決まった時期に決まった額が振り込まれるのならいいだろう。
だが、俺の場合は完全不定給なのだ。
そんな俺がこの一万五千円を前に抱く思いなど、ただただひたすらに恐怖だけだった。
そんな中で内職を探すために町を歩いていると、黒いフードをかぶり、水晶が嵌まった木の杖をついた婆ちゃんが現れた。
婆ちゃんは、俺の前で立ち止まると唐突に水晶わ覗いた。
「今日はもう内職は募集してないね。ただ、あんたは明日二つの選択肢があるね」
不気味な婆ちゃんはそれだけ言って俺の前を立ち去ろうとしていた。
俺は不気味さを感じながら婆ちゃんを呼び止めた。
「あんた、水晶割れてるぞ?」
「そこかよ! もっと聞くことあっただろうが!」
「いやだってさ、明らかに商売道具なのに割れてたんだぞ? 気になるだろ!」
「知るか!」
「まあいい。続けるぞ?」
「これは割れてないと見えないのさ。あんたの未来も二つ。それ以外は無いのさ」
「二つ? 俺には無限の未来があるはずだ!」
「いいや、この水晶は二つの未来しか用意されていないときに映る予言の水晶なのさ。あたしと話した時点でそうなってしまうのさ」
「何てはた迷惑な。そんで? 何が映ってたんだ?」
「一万円」
「は?」
「一万円寄越しな。未来を知るのにただ何てあるか。さっさと寄越しな」
「誰が払うか馬鹿馬鹿しい」
「未来を知ることで、その未来までの間は運というものが存在しなくなる。但し、そのうちのひとつを選ぶことは出来るのさ。どうする?」
「ちなみにどっちの方が儲かる?」
「そりゃあ金を寄越した方さ。このままだとあんたはスカンピンさね」
「一万円だ、未来を教えてくれ」
「ありがとさん、じゃあ心して聞きな」
「ああ」
俺は婆ちゃんの声に耳を傾ける。
「明日お前は、競馬をしてキョウヘイという馬に賭けて大負けする未来と、幼馴染みの危機を救って依頼料として八万もらう未来が見えるね」
「幼馴染み? あぁアイツか」
「その幼馴染みはダルがらみ四天王を名乗る組織の一人に狙われて連れ去られるだろうが、お前が幼馴染みにキスをすることで運命が変わって、幼馴染みは助かるだろうよ」
「ちなみにそこから外れた行動を取った場合は?」
「あんたは両方の不幸なところだけを手に入れるだろうよ、頑張りな」
「わかった。ありがとう」
「では、太極の円環に永劫の祝福を」
そういって婆ちゃんは後ろを振り替えると、来たときと同じように歩いて去っていった。
「つまりお前ははその占いを聞いて助けに来たと?」
「いや? お前とキスなんざしたくなかったし、競馬で外れ馬が分かってるなら他の奴賭けるだろ?」
「なるほどクズめ」
「誉めるな誉めるな」
「これを誉め言葉ととるのなら医者に行け」
「まあ、ともかくだ、俺がお前を全力で助けてやるから八万寄越せ」
「今の話を聞いてよく貰えると思ったな!?」
「背に腹は変えられなかった。お前とキスなんざ御免だが、そこ以外は完璧に助けてやる」
「ほうほう、占い師ってすごいな。的中じゃねえか。悪い結果のみを引き当てるって。また今度お前が金のあるときに飲みにに行こうぜ」
関根は手をヒラヒラと降って去っていく。
「「待て!」」