異能開花 (前編)
それは作戦開始二時間前だった。レジスタンスの作戦メンバーが作戦会議室に集められた。無論、大樹も例外ではない。
モニターに映し出された作戦の舞台となる場所の地図を指示棒で泰三は作戦の内容を話し出す。
「いいか、今回の目的は基地の視察にやって来た最高幹部の殺害だ。だが、流石に守りが厚い。その為AチームとBチームに分かれて行動する」
「つまり陽動という訳だね?父さん」
「ああ。その通りだ。Aチームは正面の入口を遠距離からセシアが狙撃しつつ俺達が注意を引きつける。Bチームは地下からこの施設に侵入し電源設備の破壊。これによって起きる混乱に乗じて乗り込み目標の始末が今回の作戦だ」
よくありがちな作戦だが、これしか方法はこのレジスタンスには無い。
そして作戦の時間になり各自が持ち場についた。
「よぉし…お前ら準備はいいか…作戦開始!」
「てか…Bチーム俺ら2人しかいねぇじゃねーか!」
Bチームに指定されず、少しはほっとしたがメンバーが大樹と中年男性の2人だけだった。
大樹は死亡率が低いこちらに選ばれただけマシと思う事にした。
「それじゃよろしく頼む大樹君」
「ええ…よろしくお願いします…」
「なんだぁ?こんなオッサンより女の子の方が良かったか?」
ニタニタと笑いながら話すその顔を見て大樹は少しイラッとしたが我慢した。
『異能発動…いっけえぇぇぇ!』
その時、無線機から聞こえるセシアの声の後に大きな揺れが起こった。作戦が始まった合図である。無線機からはその後に続いてレジスタンスメンバーの様々な声が入り本格的な陽動が始まった。この声が聞こえなくなる前にこちらは電源設備を破壊しなければならない。
「それじゃあまり無駄話せずにやりますか…」
「誰が無駄話を始めようとしてたんだよ…」
そして今いる、地下の下水道をある程度歩いたところで同行してた男性の足が止まった。
「なにしてんすか?」
「第一の目標はこの上の辺りだ。それじゃやるか!異能発動!」
すると男性から発射されたレーザーがけたたましい轟音と共に天上を射抜く。
「何やってんすか!これじゃバレるでしょ!」
「何言ってんだ。これが一番早いだろ?それに…ぐふっ!」
「それに…早く役目が終わるよな」
男性を背後から鋭利な刃物が貫く。それは見事に心臓を貫通しており男性は苦しむ間もなく息絶えた。
「そ、そんなまさか!」
「お前が加藤大樹か?」
刃物を抜き取り大樹に尋ねた。
「だとしたらなんだ!」
「我々、仏国軍はお前の能力を必要としている。来てもらおうか」
「お前の言う事を誰が聞くかよ!悪いがもう先客がいる!」
大樹には瞬間移動がある。この存在が彼に勇気を与えてくれた。いざという時にはすぐにでも逃げれる。この力が無かったら、言う事を大樹は聞いていただろうと思った。
「…5人…」
「はぁ?」
「5人と言ってる。死んだ人数だ。もし貴様が我々の提案を飲んだらお前達レジスタンスの事は見逃してやろう」
「悪いがお前の言う事は聞けないと言ってる。それに…今お前の言う事を聞いたら死んだ奴らの命が無駄になっちまう!」
その大樹の言葉を聞いて仏国軍の兵士は刃を構える。
「……交渉決裂だな」