仏国の少年
この作品に出てくる地名、団体は全てフィクションです。実在の人物、団体等には何も関係ありません。
西暦二千年代初頭、邪神や死神を崇拝する異教徒は世界各地でテロ行為をし、前代未聞のテロ組織として世界に注目されていた。
そんなテロ組織は無謀とも思える全世界に全面戦争を挑んだ。
組織自体は全国各地に支部が存在してはいるものの、戦争自体はすぐに終わると、誰もが確信していた。はずだった。
だが、それはテロ組織に占拠された地域奪還戦にて起きた。それはアメリカ軍が捕虜として捉えた異教徒の兵士が突然光り輝き、尋問していた軍の兵士を武器無しで八つ裂きにしたのだった。
それは、単なる始まりに過ぎず異教徒の兵士達のほとんどが様々な異能を身につけた。そこから徐々に均衡が崩れていった。
この異常事態に様々な国が集い連合軍が組まれたが、すぐに連合軍は壊滅状態に陥り世界は異教徒の覇権で脅かされる事になる。
だが、それから数年後今度は異教徒達だけではなくキリスト教信者の中にも異能を身につける者が現れた。そしてキリスト教だけでなく仏教をはじめ、様々な宗教の信者達が異能を身につけ、異教徒達に反旗を翻す。
そしてそれから一世紀経ち世界はイスラム教のイスラム国。キリスト教のキリスト国。仏教の仏国の大まかに三つに分かれ、世界はそれぞれの国が世界の覇権を争い冷戦状態になったのだった。
物語はアジアを代表とする仏国に住む高校生、加藤大樹に訪れる異変から始まる。
「ふぁぁ…おはよう母さん」
朝6時、眠け眼で居間にやって来た大樹は母に挨拶をした。
「おはよう大樹。あなた明日でもう16歳、いい加減仏教に入らないと駄目よ?」
仏国をはじめとする三国はその国に住む限りは、その国の宗教に入らないとならず、もし他の宗教に入るならその国に住まうか、若しくは流浪の旅をする人生となる。だが、大抵はその国に合わせるか、仮に違う宗教に入ろうとも改宗を余儀なくされるのだが。
「どうせ、仏教しか選べないんだろ?」
やや反抗期の彼はふてくされていた。
「いいぜ、今日にでも仏教になってやるよ。そんじゃ行ってきまーす」
そしてその日の放課後、仏教徒が集う集会所に行き宗教に入る事に。
「こんちわー。すみません仏教徒になりたいんですけど…」
「ん?君は大樹君じゃないか!おお!そうかそうか!とうとう仏教徒になるんだな!それじゃ、この紙に記入して契約してくれ」
ほとんどの家庭が産まれた時点で宗教に入るのだが、大樹はこの歳になるまで入っておらず、この地域では有名だった。
そして記入を終えた、帰り道に彼の運命が動く。
「きゃぁぁぁ!」
彼が通り過ぎた路地裏で女性の悲鳴が聞こえた。彼がその路地裏を覗くと、そこにはクリーム色の髪をした少女が男性に襲われていた。
「え?レイプ…?」
女性が襲われる場面に遭遇してしまい、後ずさりしてしまったその時、コンクリート壁に通学バックが擦れて音を立ててしまい、彼の存在がバレてしまった。
「おい…見てたのか…?」
男の質問を受けたが、何も喉から声を出すことが出来なかった。
徐々に近寄ってくる男。大樹は生まれて初めて、見ず知らずの他人に反抗した。
「か…彼女を…」
「あ〜?彼女を?」
「彼女…襲うな!」
彼は必死で身体の震えを抑えた。そして必死で強がった。だが、この一言で男の態度が一変する。
「そうか…お前もキリスト国かぁっ!このスパイめ!」
男は異能を発動させ、右腕を怪物の様な凶悪な爪を持つ腕に変化させ襲い掛かってきた。
この時代、国とは違う異教徒が観光で訪れる場合とスパイとして、国の支援組織を壊滅させたりして国に被害を加える場合の二局化しており、異教徒を見る度にスパイとして排除する熱狂的な信者が存在していた。
そう、彼はキリスト教徒の彼女をスパイとして排除しようとしていた。
「ま、まて!俺は仏教徒だ!」
大樹が慌てて言うが、そんな言葉は既に男には通用しない。男が右腕を振り上げ大樹を襲う。
避けようとした大樹だったが避けきれずに左腕と通学バックを切り裂かれる。
男が更に追撃をしようと腕を振り上げたとき、大樹は死を覚悟した。
「彼は関係ない!君!早く逃げてっ!」
少女の身体からレーザーの様な物が出て男の右腕を肘から貫通させ男の右腕を跳ね飛ばした。
「ぐぁぁ!おのれ!貴様ぁ!」
「ざ、ざまぁみろ!これでお前は無能だ!」
逃げ腰になりながらも、男を大樹は罵倒した。
だが、その一言が更に男に刺激を与える。
「ちっ…まぁいい…まずはこの異能を持たないガキからだ…」
少女の方を向いていた男が振り返り右腕をまた振り上げた。その右腕は異能により、再生され今度は腕自体が鋭い刃を形成した。どうやら、彼の能力は腕を怪物の様に変化させるだけではなく再生能力を持ち、自由自在に形状を変化させる事が出来る様だった。
「あれはダブルアビリティ!」
ダブルアビリティとは異なる2つの異能を持つ者の俗称である。
「マジかよ…」
大樹は振り下ろされた刃を一か八かで真剣白刃取りの要領で捉える。だが、奇跡的に成功したもののノーミスという訳にはいかず両手から血が滴り落ちる。
痛みでどんどん腕の力が抜け落ちていき刃が彼を襲う。今度こそ死を覚悟した時、大樹の身体に異変が起きた。
「俺は…まだ死ねない…死にたくないっ!」
「なっ!これは…」
男が辺りを見渡す。
「これは消えた…?」
その場に居た2人は驚き辺りを見渡した。少女が辺りを見渡していると、男が突如苦しみ始める。男を見たら、男の様子に異変が起きた。
男の身体が膨れ上がり裂けたのだった。胸から突き出し飛び出てきたのはなんと少年だった。
「これは…一体…」
一体自分の身に何が起きたのか訳もわからず、ただ血みどろの身体を確かめる。
「君…大丈夫?」
少女の質問に対して、大樹は大丈夫と唱えたが大丈夫では無かった。
異能に目覚めたのは今でも数人に起きる事で、目覚めたら軍に転属されるのが一般的だが、同じ宗教の信者を殺す事は、国が定めた法律により大罪となり実刑が待ち受ける。それも、異能者だ。極刑は免れないだろう。
「俺…どうしたら…」
「大丈夫…私も誤って同じ様に国に追われる身だから」
彼女が手を差し伸べる。大樹はその手を取らざるを得ないが、その手を取る事は国から逃げ流浪の人生となるという意味を持っていた。
ふぃ…フィクションなんだからねっ!何も関係ないんだからっ!
現在の世界にも同名のイスラム国がありますが、この作品はあくまでフィクションであり、平行世界なので一切関係ありません。そして、一応作品内では一世紀後なので現在のイスラム国とは内部統制も当然違いますし、指導者も違います。
もしかしたら、異能者が革命を中で起こしてるかもしれませんね。まぁ、ここから先はストーリーでどうぞ