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12 訓練

運動なんだよね?

女の子がする運動てことはジョギングかな、それともヨガかな?

「そんなにしゃちこほこばる必要はないですよ、私の訓練に付き合ってもらうだけですから。」

レイの顔は血の気を失い青ざめる。

いやいやいやシャーロットさん、それが問題なんですよ!

今の俺は記憶を無くして戦闘のやり方もわからないうえに自分のラグナロクすらないんだからね!

…とは口に出すことはできず、黙ってシャーロットの後をついて行く。

おにーちゃんと俺のことを呼び、慕う子にそんなカッコ悪いことは言えるわけがない。

やがて通路の向こうに前回きた試合場が見えてくる。

レイの頭に前回来た時のロレッタとギンの戦闘がよぎる。

まさかシャーロットもあの二人と同程度の強さを持っているのか?だとすると俺死ぬぞ!

「おにーちゃん?」

シャーロットが心配そうに覗き込む。

思わずレイの肩がビクッと震える。

「どうかしたか?」

平静を装いつつレイは答える。

「おにーちゃんの顔色が良くないように思えたけどまだ体調が良くないのかなって。」

「ハハハ、大丈夫だよ。元々ひどい怪我をしているわけじゃないし問題ないよ。」

「んー、でも心配だし今日は軽めでいくね。」

どこから持ってきたのか、シャーロットの両手には2本のロングソードが握られていた。

90cmはある長剣を片手で軽々持ちその1本をレイに渡す。

「訓練用の刃引きされた剣なので安心してね。」

たしかに剣の刃を見るとつぶされ丸くなっている。

とはいえこんな物で殴られればかなり痛いだろうな。

剣を受け取り両手で握る。

やはりズシリと重い。

「じゃあいくよ。」

えっ?言葉の意味が理解できずシャーロットの方向に顔を向ける。

目の前に黒い線が見え思わず剣でそれを防ぐ。

”ガギンッ”と火花が散り両手に衝撃が走る。

(斬ってきたのか!?)

突然襲ってきた衝撃に頭がパニックになる。

「何のまねだッ!」

思わず声を張り上げ叫ぶ。

「言ったじゃない、これは訓練だって。」

パニックに陥り叫ぶレイに対してシャーロットは涼しい顔で子供に諭すように語る。

「おにーちゃんの命は私たちが必ず守る。だけどそれだけじゃダメなの。」

再びシャーロットの一撃がレイに振り下ろされる。

それを後退しながら剣で受け止める。

大気を振るわせるような重い一撃だ、レイの両手は二撃防いだだけで痺れて感覚が無くなる。

「万が一のためにおにーちゃんには自分を守るための最低限の力を身につけてもらわないといけないの。

だから――」

刹那、シャーロットの姿が消える。

辺りを見渡し後ろを振り返ろうとした瞬間、脇腹に強い衝撃が走る。

「ぐはッ!」

余りの衝撃に肺の空気が全て抜けレイの体が吹き飛ぶ。

痛みの余り立ち上がることができない。

額から脂汗が吹き出る。

呼吸しようとしても肺に空気が入っていかない。

「さあ立ってください。」

シャーロットが剣を片手にツカツカと此方に歩いてくる。

「貴方はラグナロクの使い手、神々から授かった特別な力を持った能力者なのですよ。この程度の攻撃などラグナロクが無くても簡単に防げるはずです。」

 ラグナロク…”神々の運命”世界における終末の日をさす言葉。

魔族、獣に追い詰められた人間が最後に辿りついた神の力。

その武器に込められた能力によっては都市一つを滅ぼすことも可能だと聞く。

さらに能力者は武器を所持していなくとも一般人より優れた身体能力を発揮することができる。

ならば俺も少しはその力を使えるはずなんだ…。

レイは吹き飛ばされても離さなかった剣を再び両手で握り立ち上がる。

「ハハハ、俺の力を呼び覚ますってわけか。」

「そうだよ、おにーちゃん。」

決意を決めたレイの顔に満足したのかシャーロットは優しく微笑む。

痛みで吐きそうになりながら再び剣を構える。

脇腹はかなり痛いが骨に異常はなさそうだ。

これでも加減してくれているのだろう。

「いくよ。」

再びシャーロットの姿が消える。

目で追えぬほどの速度で移動しているに大気の振動が一切ない、これも彼女の技なのだろう。

ゾクッと背筋に震えるものを感じ飛び込むように前方に回避する。

自分の元いた位置を見るとシャーロットの一撃が空を切り大気揺らしていた。

恐ろしい一撃だ、恐怖の余り足が竦みそうになる。

だが防戦一方では埒があかない、攻める!

「うおおおおぉぉ!!」

雄たけびを上げながらシャーロットに一撃を見舞う。

だが、レイの一撃は容易く弾かれ逆に剣の柄で顔を殴られる。

「ぐっ!」

口が切れたのか口内に血の味が広がる。

ハンマーで殴られたような殴打に頭がふらつく。

しかし、目を逸らすわけにはいけない。

シャーロットの攻撃を感じねじ込むように剣を構えギリギリ攻撃を防ぐ。

重い一撃だがなんとか受けきる、だが続けざまに2、3と連撃が飛んでくる。

レイはその連撃をなんとか剣で防ぎきる。

見える!今まで捉えることすら難しかった斬撃を目で追うことができる。

殴られ吹っ飛ばされボロボロにされたにも関わらず体の底から力がどんどん湧いてくる。

「うおおおおおおぉぉ!」

一瞬の隙を見つけ斬撃を叩き込む。

大きな火花を散らせながらシャーロットの体が後退する。

すでに剣速はシャーロットにも負けないほどの速さになっている。

「ハァハァハァ…」

息が上がり滝のような汗が流れる。

対するシャーロットは汗1つかかず涼しい顔をしている。

「さすがおにーちゃん、だいぶ感が戻ってきたみたい。」

訓練の成果にシャーロットも満足そうだ。

「私も疲れたし今日はこれくらいにしておこうね。」

「ハァハァ、ああ…そうか。」

緊張が解かれドッと疲労が襲ってきて瞼が重い。

(ああ…これはダメだ。)

視界が暗闇に包まれ気が遠くなる。

「おにーちゃんッ!」

ドサッという物音と共にレイの意識は完全に途切れた。

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