第3話 情緒不安定
やっぱり心って体に引きずられますよね、というお話。
両親の重大な秘密といったな!
あれは嘘だ!
正解は、両親の隠し事を暴け、です!
さてさて何やら言い争いらしきものを私の目の前で見せ、私をこの部屋へ放置してルイさんやらメイド長らしき方やらに屋敷の防備?について指示しながら出て行ったお父様お母様。
…………え?
あれー?私一人ですよー?
ここに来てまさかの放置ですかー?
ぼっち?ぼっちなのねえ?
泣くよ?私泣いちゃうよ?私泣いたらすごいんだからね?
まじやばいよ?やばすぎてビビるレベルだよ?
ねえちょっと。マジで放置?
え、嘘でしょ、ねえ。
「ぅあ……」
ちょ、ま、誰かいないの?おーい?怒らないから出ておいでー?
「ひっく、ぐずっ……」
え、ちょ、まじで?え、まじでお姉さん寂しくて泣いちゃうよ?
「うわああああああああああああああん!」
ほら、泣いちゃったー!
早く誰か来ないと泣き止まないぞ!っていうか泣き止めないぞ!
誰かにぽふぽふしてもらないと涙止まらないんだからな!
「びえええええええええええええええええん!」
は、早く来ないとほんとのほんとに泣き止まないんだからね。
ずっとこのままうるさいんだからね!
それが嫌なら早く誰か来てよお!
「ひぐっ、ぐずっ……えぐっ……」
…誰も来ない…。
…。
………。
……………。
…………………。
ふんだ!もういいし!お父様とお母様なんて知らない!
こうなったら勝手にこの部屋の中身色々見ちゃうもんねーだ!
そうしたらもう私を一人で放置しようなんて思わないでしょ!
マリーちゃんの作戦勝ち出し!あっかんべーだ!
というわけで、レッツ探検ターイム!
バレたら確実にお父様かルイさんに怒られるというスリル満点な探検だよ!
私を一人にする方が悪いんだもんね!
なんか楽しくなってきた!よーし色々見ちゃうぞー!
手始めに、部屋の奥にデデン!と置かれてある重厚感たっぷりの(推定)執務机からだ!
ふふーん、上に乗ってる書類の山から机の中身までバッチリ見ちゃうもんね!
これは…奴隷の購入証明書?え、机の上の山の一番上にこれ?
えーと、マクベス商店商品オークション…商品No.02016、固有名リリアナ…購入者アルベール・ジョルジュ…?
アルベールって、確かお父様の名前だよね。なんでこんな不正の証拠みたいなのを堂々と…?
あ、もしかして奴隷って禁止されてない?見られても困らないのかな?
お姫様の名前は確かミネルヴァさま?だったから、この人じゃない。
次のものは…これも購入証明書だ。同じ商店で、お姫様とは違う名前。
その次も、そのまた次も、同じ商店でお姫様じゃない名前。
結局、机の上に置いてあった書類は全てお姫様じゃない奴隷の購入証明書だった。
まるで誰かが見るのを想定しているかのような置き方だ。
こうなってくると、ぼっちにされたことよりも隠していることを暴きたい気持ちの方が大きくなってしまう。
仕方ないなあ、恨みは今だけ忘れてあげるんだから!いい?今だけだよ!
ひとまず見せびらかすかのように置いてある奴隷購入証明書の山に魔力を通して執務机の前にある低めのテーブルの上に運ぶ。
続けて自分の体に魔力を巡らし、体を浮かせて執務机に備え付けてあるこれまた重厚感たっぷりの椅子の上に乗る。
結論は探検が終わってから出すべきだよね、やっぱり。
というわけで、まずは一番上の引き出しだ!
これまた魔力を通して開けちゃうよー。わーい手が必要ない!これぞ本当の手間いらず!
ん?一瞬ぶるっと…来てないね、よし。大丈夫、鳥肌とかたってないよ。私の渾身のネタが寒いはずがないもの!
さてさて中身は――ロケットペンダント?
あれ、なんか意外。それ以外に物は入ってないみたいだ。
中には一体何が………って、あれ?
これ……お若いけど、お父様と、お母様……それに、お父様にそっくりな男の子と、お母様にそっくりな男の子…?
すごく仲睦まじげな絵だし…お父様もお母様もそっくりだ。
え、何この絵。この二人の男の子は私のお兄様…ということなのだろうか。
私、お兄様いたの?初耳なんだけど。
どうやらこのロケットペンダント、両側に絵が嵌められるようで。
もう片方の絵は、お父様とお母様と私だった。
私は今よりも更に小さく、椅子に座ったお母様に抱かれているから、私が自我(?)に目覚める前なのだろう。
こちらの絵もお父様とお母様はとても仲睦まじげだ。筆致からして、同じ人が描いたのだろう。
うーん……何か引っかかる。というか全部引っかかる。
お父様の行動もお母様の行動も書類の山もこのペンダントも、全然噛み合ってない。
答えを出すにはピースが足りてないのかな。
取り敢えずこのペンダントは、取り出しておこう。また出すのは手間ではないけど面倒だし。
答えを出し終わった時に返せばいいよね。
この時の私の判断を、私は一生後悔し、そして感謝することになる。
――とか…とか多いです。
半分以上力量不足で半分弱わざと。