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落第ラプソディ!  作者: こよる
エピローグ 落第ラプソディ!
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エピローグ―01

エピローグ 落第ラプソディ!


 *俺 


 俺が『元村書店』でのバイトを終えて『あじすけ』に行くと、河西は既に小座敷の中で待っていた。

「自分で約束しといて時間に遅れるとは、いい度胸してるよね」

「仕方ないだろ。今日は色々あったんだから」

 色々。というかピンポイントで、店に自作小説を持ち込んできたニート少年だが。あいつがいたせいで片付けが手間取って、結果いつもより帰りが遅れてしまったのだ。詳しく事情は聞かなかったが、あれは一体何だったんだろう。

 注文は、豚玉のお好み焼きを二枚。この間は出来上がったものを持ってきてもらったが、今日は自分たちで焼くコースを選択した。時間があるからってのもあるし、そっちの方が何だかありがたみがあるような気がしたのだ。

「本屋のバイト、慣れたの?」

 お好み焼きの玉を鉄板に流しながら河西が話題を振ってくる。さすが本職の娘だけあって、圧倒的に手際がいい。

「まだ慣れたとは言えないけど、一通りは仕事できるようになったよ。今日もレジ打ち、ちゃんと出来てただろ?」

「あーれはねぇ、レジ打ちの先輩であるわたしに言わせれば三流ね。手際悪いし、愛想もなかったし」

「河西先輩に愛想がどうとかって言われたくないッス」

「いや、わたしだって、やろうと思えば営業スマイルくらい出来るよ。きみが知らないだけで」

 河西が俺のお好み焼きの玉を見て、「形が悪い」と勝手にヘラを伸ばしてくる。その仏頂面が笑顔に変貌するとは、にわかに信じがたい。

「じゃあやってよ、営業スマイル。そんなに言うなら」

「や、やだよ。営業中じゃないし」

 河西は何が恥ずかしいのか、珍しくも動揺している。その様子がちょっとかわいい、と思ってから、なに思ってんだ俺、と自分自身に突っ込みを入れた。

「営業中だと思ってやりゃいいじゃん。俺も見たいよ、河西が笑ってるとこ」

「さりげなく失礼なこと言うねキミは」

「お手本見せて下さいッス、先輩!」

「うるせーよ!」がしっ。

 掘りゴタツの中で蹴りを入れられた。これ以上深追いすると蹴りだけじゃ済まなくなりそうなので、諦めてお冷やへ逃げる。

 それから、言うべきことを言っておくことにした。

「あのさ、河西。今日のここ、俺が全部払うから」

「ん。……ん?」

「奢りってことだよ。バイト代出たから、それで払う」

「ほぉん」

 河西はいかんともし難い反応を寄越して、しばらくののちに「なんで?」と理由の説明を求めてきた。

「別に河西のためってんじゃないよ。どっちかと言うと自分のため。それで色々、蹴りとか区切りとか付けたいから」

「…………そか」

 分かっているのか分かっていないのか、河西は俺の考えには口を挿まず、ただ肯定する。そういう根っこのところで他人の価値観に干渉してこないところが、いかにも河西なんだよなぁと思った。

 そして、だから河西は不良で、孤独なんだとも。

 それはもちろん、俺にだって言えることだった。

 あの日、河西と体育館裏で出会った日に、河西が言っていた台詞が脳裏に蘇る。

 ――決まってるのよ。大昔から、不良は孤独な生き物だって。

 そう、つまり俺たちは二人とも孤独な生き物なのだ。それでも、人間は一人じゃ生きていけないからって、俺たちは友情も愛情も否定して協定なんてものを結んだ。

 そして俺たちは今、ここでお好み焼きを食べているわけだ。

 正しいとか間違ってるとか、そういうのは知らない。でも、俺たちが色々な場所で色々なものを共有してみた結果、芽生えたものがあるならば。

 それは肯定してもいいものなんじゃないだろうか。

 振り返って確認した答えに、俺はそれなりの自信を持っていた。

「なぁ、河西」

「なぁに?」

「俺たち、今まで単なる不良仲間としてやって来たわけだけどさ。このお好み焼きを境に、その、友達、とかってやつになってみても、いいんじゃない、っかなーと思って」

「語尾がキョドりすぎでしょ」

「……ごめん。シリアスな空気は苦手なんだよ」

「全くしょうがない奴ね、きみは」

 河西は呆れたようにふっと息を吐き、それからいかにも嫌々といった様子で真面目な顔を取り繕って「じゃあ、一応答えるから」と言った。

 そのときの河西の表情は営業スマイルとかじゃなくて、それより河西にふさわしい、なんとも勝ち気な笑みだった。

「今さらそんなこと言うなっ!」

 河西の勢いに押されるように、金色と銀色が同時にふわりと揺れた。

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