第四章―12
午後も店番は続く。
昼食は店主さんの好意で奢ってもらった。店の奥で某チェーン店の牛丼を食べて戻ってきたら、バイトさんに「あんた、ただの疫病神だな」と白い目で見られてしまったが。「その金ピカ頭に言われたくありません」と言い返しておいた。
午後は順調に客足が伸びるものの、やはりカウンターの冊子は見向きもされない。僕はブックカバーを付け続け、バイトさんはレジを打ち続けて午後三時になった。
そして、あの人がやって来た。
「やっぱやめましょうよ、ケンカ売るようなもんですよ」
「行くのー! わたしだって働けるってとこを見せてやるんだー!」
「また怒られますよ! 親父、ただでさえ心労が溜まってるんだから!」
「なんでわたしが稼いだお金を渡したら怒られるんだよ! お前の親父はどーなってるんだ!」
「どーなってるのはアンタの頭だ!」
賑やかなカップルが入ってきたなぁと思って見やったら、お好み焼き子さんだった。その隣にぼんやりした冴えない顔つきの男の子を引き連れている。昨日、焼き子さんが恋人と同棲しているようなことを言っていたが、その恋人さんだろうか。いや、その前に嘘じゃなかったのか、あれ。
見れば、バイトさんも度肝を抜かれたような顔をして二人を眺めていた。しかしバイトさんが注目しているのは焼き子さんではなくて恋人さんの方らしかった。
「……元村。その人、ひょっとして?」
バイトさんが恋人さんに声を掛ける。元村と呼ばれた恋人さんはそこでバイトさんの存在に気付いたらしく、
「あぁ、リョータ。この人、リュウコさんって言って僕が同棲してる恋人。ちょっと親父に用が、」
「きゃー! モトくんが恋人って言ったー! うれぴー!」
「おのれは場をわきまえやがれ!」
「場だとー! なら部屋に戻ってから存分にいちゃいちゃするぞ!」
「してあげますから! ちょっと黙ってて!」
「きゃー! モトくんがデレたー! うれぴー!」
「だから場をわきまえろってー!」
さすが焼き子さん、傍若無人っぷりが銀河系を突き抜けていやがる。そしてそれについてくる恋人さんも相当のツワモノとみた。その勢いに気圧されたか、バイトさんはすっかり目を白黒させていた。
どうやらバイトさんと恋人さんは知り合いだったらしく、何やらカウンターを挟んで話し始める。そこで手持ち無沙汰になった焼き子さんに、僕はまんまと発見されてしまった。
「おぅお? なんと、そこにいるのは野生のニートじゃないか!」
「ついにポケモン扱いですか……。何しに来たんです、焼き子さん」
「んー。話すと長いんだけど、ここってわたしの恋人くんの実家でねぇ。前に親父さんに『きみは金も稼げないじゃないか!』ってバカにされたから、『あじすけ』で稼いだバイト代を突きつけてやりに来たのよ」
「そうなんですか」そりゃ確かにケンカ売ってるわ。
「で、ニートくんは何してるのん?」
「焼き子さんの忠告に従って、やっつけてる最中です。そこに百円の冊子があるでしょ」
「あーこれか。ふむ、そういうことなら優しいお姉さんは協力するに吝かでないのです」
「買ってくれるんですか?」
「お好み焼き子さんの貴重なバイト代を貢いでね。モトくんの分と合わせて二冊、買ったげる」
「ありがとうございまーす!」
そういうわけで、焼き子さんと恋人さんが買ってくれて残りは二冊となった。
余談だが、焼き子さんはその後、本当に恋人さんを連れて店主さんにケンカを売りに行ったらしい。バイト代は受け取ってもらった、というか叩きつけてきたらしく、帰り際に焼き子さんは、
「よっしゃー! バイト代の残りで打ち上げやるぞー!」
と恋人さんにヘッドロックをかましながら騒いでいた。
この人もこの人で、一応、何かしらの物語があったんだろうと思う。
多分だけど。




