第四章―03
*わたし
ふーちゃんと出会った公園で恥知らずに地面に寝そべって、夕焼けが青空を浸食していくのを眺めていた。部活が終わる時間帯なのか、ちらほらと制服姿の中高生が公園の前を通り過ぎていく。その際に例外なく、死体みたいになっているわたしに好奇の視線を送ってくるのが鬱陶しかった。自分の足で歩ける奴は、さっさとおウチに帰りなさいっての。
運動不足な引き籠もりニートは、たった数分の持久走で膝が笑って立てないのです。
この分だと、市民の平和を守る方々に署まで連行された挙げ句、色んな人に迷惑を掛けて終わりそうだった。
その前に、もしかしたらモトくんがわたしを追いかけてやって来るかも知れないけど。
出来ればそれは避けたい。というか、絶対に避けなければならない。だってほら、モトくんが行き倒れているわたしを見て、
「まったくもう、リュウコさんはどれだけ迷惑を掛ければ済むんですか! どうせ何も出来ないんだから、せめてウチで大人しくしてて下さい!」
なんて言ってきたら、わたしは本当にどうしようもなくなるから。今度こそモトくんといちゃいちゃする以外に能のない、スーパー引き籠もりが誕生してしまいそうだった。
だから、抵抗する気力が残っているうちは抵抗したい。たとえそれが悪足掻きに過ぎなくても。
地面に根が生えたように身体が重たい。無茶な全力疾走の余韻をまだ引き摺っているのだ。重力に根負けするように瞼を閉じると、喧噪が遠のいて、自分の心臓の鼓動がいやに大きく響いた。
時間の感覚を喪失して、少し微睡んでいたのかも知れない。
大丈夫ですか、という声で、わたしは目覚めた。
冴えない顔をした男の子が、倒れているわたしを覗き込んでいた。
「あの、大丈夫ですか? こんなところで倒れて、どこか具合でも?」
「いやいや」とわたしは半身を起こしながら手を振って、「身体の具合なら万全さ。強いて言えば、頭の具合がちょっとね」
「あぁ……なるほど」
この子はどうしてしみじみ納得していているんだろう。
「ところで、そちらはどなた? 市民の平和を守る人かな?」
「いえ、ただのニートですが。小説家志望の草野と申します」
「ふむふむ、草野くんか。ニートのくせに外を出歩いて、運動でもしてるの?」
「いや、夕飯の出前を頼まれまして。お好み焼きを食べたいって言うんですけど、やっぱりないですよね、ここらへん」
「ほぅ。お好み焼きか」
偶然ってのはあるもんだ。ふーちゃんもそうだけど、この街の人間はお好み焼きが大層お好みのようだ。
「そういうことなら、お姉さんがいいことを教えてあげましょう。駅前にね、『あじすけ』っていうお好み焼き屋さんがあるから、そこへ行きなさい。味は保証するから」
「……いや、そんな露骨に怪しい人に保証されても。ていうか、あなた一体誰なんですか」
「わたし? わたしはアレよ、お好み焼きの精霊、お好み焼き子さんよ」
「はぁ……。あの、アンパンマンに出てくるモブキャラ的なアレですか」
「うっせーよ! お好みパンチを喰らいたくなかったら、さっさと行け行け!」
「で、でもその前に、通報しないと」
などと言っていたので、お好みパンチを喰らわせてやった。単純に言えば殴った。
草野くんは「わひゃー」と情けない悲鳴を上げながら、逃げていった。わたしに話しかけてくるとはなかなか根性のある奴だが、甘いな。モトくんだったらここで「お好み焼きマン発見! 食べちゃいます!」と言って襲いかかってくるところだった。うん、妄想? そんなの入ってねーよー。
しかし、何だろう。困っている人を助けてあげたみたいで、落ち込んでいた気分が少し持ち直した。きっと、今のわたしの助言で救われる物語もどこかに転がっていることでしょう。
まぁ世界は広いし。この世は主役だらけだからね。
いつの間にか足の痛みが引いていた。立ち上がって思いっきり背伸びすると、服に付着した土の塊がぱらぱらと落ちた。
本日二人目の来客は、わたしが暇つぶしにブランコを漕いでいるときにやって来た。
「あれ? そこにいるのは、もしかしてリュウコさんですか?」
日が落ちて生まれた暗がりからにょきっと顔を出したのは、ふーちゃんだった。




