第四章―01
第四章 地球が回った日
*俺
父親に説教されて、反抗期な俺は家を飛び出していた。
金髪野郎の全力疾走がよほど珍しいのか、通りの人々は俺を凝視し、気圧されたように道を開けてくれる。そうやって他人を威嚇することは出来ても、自分自身がどこへ向かって走っているのか定かでないあたり、俺という人間を象徴しているみたいだった。
元々運動が得意な身ではないので、全力疾走なんてすぐに息切れしてしまう。行き先も知らずに走り続けて、ちょうど赤信号に当たったので、そこで膝に手を突いて呼吸を整える。周囲にいる人たちは怪訝そうに眉をひそめて、横目での俺の観察に終始していた。何故か、誰もが俺のことを怖がっているんじゃなくて、呆れているだけのように思えた。
青信号になって、再び走り出す気にはなれず、つんのめるようにしてよろよろと足を前に進める。そこでようやく周囲の風景を確認する余裕が出来たのだが、ここは駅前の商店街だった。十年前の事故で人が亡くなったという、あの交差点だ。
前傾姿勢で、倒れそうになる体重を、足を前に踏み出すことで支えて歩く。家を飛び出したはいいが、行く当てが何もないことに今さら気付いた。
「八嶋くん?」
下を向いて歩いていたせいで、掛けられた声にしばらく気付かなかった。もう一度名前を呼ばれて顔を上げると、箒を持った河西が俺を覗き込んでいた。
「どしたの、こんなとこで。汗びっしょりじゃん」
視線を持ち上げてから、河西の顔が思わず近くにあったことに動揺する。河西はその動揺は気にも留めず、不思議そうに目を丸くして俺を見つめていた。こいつでも目を丸くすることがあるんだな、とどうでもいいことを思う。
「いや……というか、河西は? なんでこんなとこにいるんだよ」
「わたしがウチの前にいちゃ悪いのかよ」河西は手にした箒の柄で背後にある店を指して、「ウチ、お好み焼き屋さんだって言ったでしょ。ここ、『あじすけ』ってとこよ」
「あ、そうなのか」
「そうなの。で、今は表の掃除中」
箒をくるんと一回転させて、清掃作業していたことをアピールしてくる。ところで、どう見ても不良の銀髪少女が表で箒を持っていたら、ヤクザの事務所か何かと勘違いされて客が減るんではないだろうか。
「えっと。じゃあ、また」
特に話題もなかったので、適当に手を挙げて別れの挨拶とする。ところが、河西に背中を向けたところで、
「あ、ちょっと待て」
ぐっ、とワイシャツの袖を掴まれた。
「何だよ」
「きみさ、今ちょっと小腹が空いていたりしない?」
「え、いや空いてないけど」
「あっそう。でもいいや。どうせきみ、今から暇なんでしょ?」
河西は何かいいことを思いついたように含み笑いを頬に浮かべ、それから持っていた箒の穂先を俺の喉元に突きつけた。
「ちょっとウチに寄って行きなさい。お姉さんがお好み焼きを奢ったげるから」




