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校長先生の秘書  作者: しーもあ
第1部 サーブレシーブとハンバーガー
8/17

サーブレシーブとハンバーガー⑦

 三週間後、新雪学園高校男子バレーボール部は大会決勝に進出した。勝てば全国という大一番だ。私は美衣さんの車に乗せてもらい、奈緒と三人で市内の総合体育館に応援に行った。

 しばらくぶりに見る佐々木さんは練習試合で見たときとはまるで別人だった。きものが落ちたというか、以前はぶるぶる怯えながらのプレーだったが、虫かごの扉を開けたトンボのようにのびのびとプレーしていた。あのあと、佐々木さんにどのような心境の変化があったのか私は知らないが、よい方向へ向かったことだけはたしかなようだ。

 サーブレシーブも以前は小学生が賞状をもらうようなぎこちなさがあったが、いまは社長夫人がお中元を受け取るようにごく自然に返せている。自信は攻撃面にも出ていて、リーチ一発でツモったかのような強烈な速攻と、ようじょを驚かす夏の変質者のような圧倒的なブロック――は、たとえとして適切ではない。

 もともとこれだけできる選手なのだから、キャプテンになったり、西川先生が期待をかけ、口うるさくいっていたのも当然といえば当然なのかもしれない。やはりスポーツはメンタルなんだなと感じる。

 チーム全体の雰囲気も以前とはまるで違った。あの件でおたがい気まずくなってうまくいかない可能性もあったと思うが、どうやらそこもうまくいったようだ。佐々木さんが積極的に声を出すことで得点後にはみな自然と声が出ているし、覇気も伝わってくる。全体に躍動感があり、勢いもある。ここまで勝ち上がってきたチームというのがよくわかった。

 

 だが相手は新雪以上の実力がある全国常連校で、試合はフルセットまでもつれた。

 最終セットでも佐々木さんが獅子奮迅の活躍を見せる。はじめ見たときは細長い米菓のようだと思っていたその顔も、いまでは鋼鉄の靴べらくらいには見える。

 だが最後の最後で競り負けてしまい、全国出場とはならなかった。

 それでも会場からは負けた新雪学園のチームにも拍手が送られた。

 残念だが、いい試合だった。

 三年生たちはロッカールームで泣いていたようだが、会場の外に出るころにはみな清々しい顔をして上を向いていた。青空に映えるいい顔だった。

 

 私は美衣さんのあとについて部員のもとを訪れた。

 美衣さんが西川先生にねぎらいの言葉をかける。

 私のもとには高木さんが歩み寄ってきた。

「古口さんその節は本当にありがとうございました。結果は残念でしたけど、でも満足しています」

 高木さんに手を握られた。

 うしろで奈緒が「ああっ」とかなんとかいっている。

 そのあと佐々木さんが近づいてきて、私の両肩をガシッとつかんだ。

 力強くて身動きが取れない。

 わっ、わっ抱きしめられてしまうー。

「君のおかげでここまでこれた。ホントありがとう」

 佐々木さんはそういって頭を下げたが、背が高い上に、距離が近すぎるので、ガゴンと頭同士がぶつかった。いや、そうなるのわかるだろ。

「ってー」

「あ、ごめん」

 その光景を見ていた奈緒と美衣さん、高木さんが笑った。

 それにつられて私も笑った。

 佐々木さんも笑った。

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