入学式の朝
「いってらっしゃい」
母の声を背に、私はドアを開ける。
マンションの外へ出ると、私は親父のおさがりであるトレンチコートの襟を立てた。
四月といえども北国はまだ寒い。
歩道は乾いていたが、道路脇には黒ずんだ雪が残っている。
しばらく歩いていると、洗い立てのペンギンのような真新しい制服を着た、いかにも新入生といった高校生たちがちらほら見え始める。
私の同級生になる連中だ。
寒いのにみな制服姿か――。
殊勝だな。
『新雪学園高等学校』と書かれた校門をくぐると、奈緒がいた。
「おはよう、真路」
「おっ。待っててくれたのか」
「そんなわけないじゃない。たまたま、真路の顔が見えたからあいさつしてあげようと思ったの。そのコートなんか探偵っぽいね。買ったの?」
「いや、親父の着てたやつ。ハードボイルドぽいだろ?」
「うーん、よくわかんない。でも似合ってるよ」
「サンキュー」
「また三年間一緒だね」
「だな。よろしくな」
「うん。うれ……」
奈緒がうつむいて何かを続けたが、あちこちでできている人の輪の歓声にかき消された。
「ん? 何かいったか」
「さあ、行くよ」
私の問いかけを無視するように彼女は顔を上げ、スカートの裾をひるがえすと、『入学式』と書かれた立て看板のある玄関に向かった。
私は一度振り返り、くすんだ鉛色の空を仰ぎ見てから彼女のあとを追った。
それが私の高校生活のはじまりだった――