プロローグ
知ってる人はまたお前かと思ったでしょう。
はじめましての人ははじめまして。
私です。
別垢で書きかけの小説を投げてしまった私です。
今度こそ完走出来たらいいなと思います。
設定とか説明はちゃんとそのうち書き出すのでしばしお待ちを。
「えー、次は紗篠原ー。紗篠原駅です。お降りになる際には――」
電車の車内アナウンスが聞こえる。どうやらそろそろ目的地に着くようだ。
そもそもなぜこんな場所に来たのかだが、それは俺たちが引越しに来ているからだ。
両親の仕事先がこの紗篠原に転勤になることから、家族揃って引越しせざる負えない状況になってしまったためである。十数年近く過ごしてきた土地から離れるのには抵抗があったが、駄々こねてもどうしようもないのはわかっているため仕方ないと割り切った。
「……そろそろ、だな」
不意に父さんの口が開く。
「そうね。……下見に行った時は良い感じだったしこれからが楽しみね」
「まぁ、友達とはなれちゃうのは嫌だったけどねー」
母さんと結が父さんの言葉に対して、別々の反応をみせた。
結構急な話だったから妹の気持ちはわかる。自分も数少ないとはいえ友達はいたから。
だがそれと同時に、母さんと同じようにどこかしら期待している自分がいるような気がした。
「……そうだな」
プシューと電車の扉が開く。
俺はどちらとも取れる受け答えをしながら、家族と一緒に駅のホームへと降りた。
「あー疲れたー」
目の前で結がだらける。疲れたのはこっちのほうだと思うから、その言葉は撤回していただきたいものである。
あのあと、俺たちはすぐに新しく住むところに向かった。向かった先にあったのは結構綺麗な一軒家。今日からここに住むのかと思うと少し気分が高まった気がする。――その時はまだ荷物が来てなかったから、中の間取りを見て部屋割りを決めただけだったが――。
待ってる間何もしないわけにもいかないから、本来なら明日に回す予定だった近所の挨拶回りに行った。この近所の人たちにとって、自分たちはよそ者のだからなに言われるか心配で仕方なかったが、拒絶されたりせずに全員が受け入れてくれた。それどころか、ここの地域性と自分たちが合うのか、ついつい話し込んでしまうなんてこともあったりしたせいで一軒回るのにかなり時間がかかったような気がする。
挨拶回りを済ませると、今度はやっと届いた自分たちの荷物をそれぞれの場所に置いたりしていった。今、結がだらけてるのもそれをやっていたからだけれども……。
「でもお前、ほとんどお前のやつ運んでなかっただろうが……」
「えへ、バレちゃった系かー」
そう、こいつはほとんど荷物運びに参加していなかった。自分の部屋の荷物を置き終わった直後にいきなり部屋に入ってきて、気になり腕を引っ張られたと思ったら荷物運びをさせられていた。あまり重い荷物はなかったからまだいいものの、疲弊しきってる俺に対しての扱いがなかなか酷だと思うのは俺だけではないと思う。
「あ"ぁ"疲れた」
「ふふ、お疲れ様。……ありがと、ね?」
「そのお礼は素直に受け取っておく」
「ん、それがいいよ!……あー!」
「い、いきなりでかい声出してどうしたんだよ。」
「そういえば明日ここら辺一体見回るでしょ? その時に何かいい店とか見つけたらそこでおごってあげるねー」
「お、おう。……って良いのか?」
「いいの! ふっふーん」
おごってもらう約束をしてしまった。なぜかおごる側である結が上機嫌なのがイマイチ理解できないが、特に自分に害があるわけでもないしそれでもいいかと思ってしまった。
「ゆーいー! みなとー! ご飯できたわよー!」
「わかったー」「今行く」
下から母さんの声が聞こえる。どうやら俺たちを呼んでいるようだ。この時間帯だし、おそらく晩御飯ができたのだろう。せっかくだし結と一緒に降りることにした。
「「「「いただきます」」」」
感謝の言葉をいい、一斉に食事にがっつく。ただ黙々と食べるのもアレだから、雑談を交えながらだが。例えば明日の予定だとか、学校のことについてとか……。
そうそう、学校といえば。
急に転勤が決まって家族全員で引っ越してきたわけだけど、タイミングとしてはかなり良いタイミングだった。4月から新学期が始まるが、その始業式の日から学校に行けるようだ。ちょっと出遅れて、微妙にできつつあるグループにハブられるなんてことが起きなくてすみそうだ。父さんの会社も似たようなもので、ちょうど新人が会社に入ってくる時期と同じくらいに仕事を始めるらしい。偶然ってあるもんだなと思う。
その他にも、他愛ない会話をしながらその日の食事を過ごした。
「……そろそろ寝るか」
深夜0:00だ。そろそろ寝たほうがいいかもしれない。
明日は日曜日。結とここら近辺を出回ってみることになっているが、一体何があるのやら……。
「……きて。……おきて」
誰かに呼ばれてるような気がする。
……いや気がするだけだ。どうでもいい。寝よう。
「……起きてってばーもー」
ゴスッ
突然腹に衝撃が走った。せっかくいい気分で寝てたのになんなんだよもう。
急いで元凶を探す。……俺の腹にエルボーが刺さってるようだ。……エルボー?
「いってえええええええええええええ!?!?!?」
うがあああああああいてえええええええええええええ!?
こんなことする奴はあいつしかいない……。
「てっめ……ぇ……やりや……がっ……たな……」
「あ、やった起きたー」
「起きた……じゃねぇ……よ……あとにやにやすん……な」
「えへへ」
やっぱりお前か結。にやにやしやがって……。あと褒めてない。
まぁ、結のおかげで起きれたのは起きれたから一応感謝はしておこう――心の中でだが――。
「ベッドから早く出てー。そして着替えるー。はいはいはいはいー」
「ちょ、わかったから脱がしにかかるな服に手をかけるなおいやめろ」
「ちぇーわかりましたよーっと。んじゃ、先に下で待ってるからあまり待たせないでねー」
ついあいつのペースに流されるところだった。危ない危ない。次からもっと気をつけなければ(じゃないといろいろ危ない気がする)。
とりあえずさっさと着替えてしまおう。あんまり待たせすぎるのも申し訳ない。
「ひぇー、いろいろあるんだねぇここらへんって」
「そうみたいだな。ゲーセンにカラオケ、服屋に本屋。公園だったり広場だったり……なんというか一箇所に集中しすぎじゃないか?」
「まぁまぁー。特にあって困るなんてところないしいいんじゃないー?」
「……確かにそうだな」
母さんから「出かけるならこれ持って行きなさい」って言われて渡された地図(父さん作)を移動しながら見てみる。
大雑把だけど、大体のことは把握できるようになってるから助かった。
地図を見てみると結構なんでもあるみたいで、すこし驚いた。なんというか、いい感じに田舎と都会が混ざってるみたいだった。
そんな感想を抱きながら結と雑談しつつそこらへんをプラプラしてたわけだけど……。
「な、なあ」
「ん、どうしたのー?」
「そろそろお昼だよな。というかもうお昼すぎたよな」
「うん、そだねー」
「ご飯食べに行かないか?」
「……うん。そろそろ食べたほうがいいかもしれないね。よし、いこー! あ、昨日言った通りあたしがおごるからねぇ」
「お、おう」
飯を食わないままずっとプラプラしていたら、時計の短針がちょうど1を指すあたりまで来ていた。
さっきからやけに腹がなるなと思ってたらこれである。「あっ」っとなって声かけたら予想以上にすんなり提案に乗ってくれたから助かった。
「いらっしゃいませー、【希沙羅】へようこそ。お二人様でしょうか?」
「「あ、はい」」
「わかりました。席を案内しますので――」
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「ではごゆっくりどうぞー」
「……んじゃ手洗い行ってくるねー」
「おう」
注文が終わった。どれにしようか迷ってたがどうやらここの名物なるものがあるらしく、せっかくだからそれを二人で注文しておいた。結は決めたらすぐに手洗いに行ったけど、俺はウェットティッシュで済ましてたから今は結を待っている。
「(待ってる時間ほど暇な時間はないよな……)」
実に暇である。愛しい()妹も今はいないし、かと言って脳内のお友達()と会話(脳内会話もとい妄想)をするのも嫌だ。おとなしく待つしかないか。
「ねぇねぇ君」
「……あ、えっとなんでしょうか」
そんなことを考えていたら、突然さっきの人とは違う店員さんに声をかけられた。見たところ若い。……同世代の人だろうか。
「君、見ない顔だねぇ……もしかして、最近引っ越してきた人?」
「は、はい。そうです」
「やっぱり。いやぁ、ここリピーター多いから見慣れてない人ってだいたい他からの仕事や旅行とかできたり、最近越してきた人とかだからなぁ。ま、ここら辺で道迷ったりしたら声かけな。オレ、ここの地理全部把握してるから助けてやるからよっ」
「そ、そうなんですか。助かります」
なぜかすごくフランクに話しかけられた。バイト中(?)なのにそんな態度で大丈夫なのかと少し心配したが、特に自分に何か怒られるようなことがある訳じゃないしいいか。それに、ちょっと緊張が解けた。少しだけ(名前の知らない彼女に)感謝しておこう。
「おーい、誰か空いてるやつ手伝ってくれー」
「あ、オレいきまーっす! っと、呼ばれたしそろそろ行くわー。いきなりタメ口で話しかけてゴメンな。縁があったらまたどこかで会おうぜっ」
そう言うや否や颯爽と彼女は去っていった。嵐のような人だった……。
「お兄ちゃーん、そんなにぼーっとしてどうしたのー?」
「……いや、なんでもない」
「ん、そか」
結が帰ってきた。考え事をしていたからだろうか、ボーッとしているように見えたようだ。いけない、しっかりしなければ。
「お待たせしました。『紗篠原丼』です」
「「!?」」
「では失礼しました」
店員さんがやってきて、注文したものを渡してきた。
それを見て俺たちは驚く。
目の前に広がる丼は少し厚めの肉で埋まっていた。肉、肉、肉、肉、肉。米なんて見えやしない。なんだこの肉のバーゲンセールは。
「は、はは……。ねぇ、お兄ちゃん」
「な、なんだよ」
「これ絶対太るよね」
「……」
「なんかいってよーもー!」
すまない、言葉にしづらいから何とも言えないんだすまない。とりあえず、早く食べてこの肉の壁を乗り越えなければ。
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なんとか食べ終えることができた。ここまで腹がふくれたのは久しぶりのような気がする。すこし量が多い気がするが、普通に完食することができた。名物なだけあって味はとても美味しかったが、肉の量が全体の3/5あるのはキツイと思う……。一応サイズは並にしたはずだから、一番量の多いものを選んだらと思うと怖い。
そう思いながら店を出ていった。背中越しに「またのお越しを」と店員さんに言われた。ここはすこし変わった雰囲気の店だったが、悪くない。リピーターが多いのも納得だ。これからもきっとお世話になるだろう。
【希沙羅】に行ったあと、俺たちはまだ見回ってない場所をある程度巡った。気にいった店も見つけたし、少し変わった印象的な店も見つけることができた。
……あとは帰るだけだ。
「……ん?」
気づいたら、意識しないうちに狭い通路見つめている自分がいた。
どこにでもあるような、建物と建物の間にある薄暗い闇で覆われた隙間。通路。
そのはずなのに、なぜか目線を離せずにいた。
でもどうしてだろう。
なぜかホッと安堵していたり、妙に悲しい気持ちになったり、ひどく懐かしく感じたりするのは。
「お兄ちゃーん、そんなボーッとしてると置いてくよー?」
「あぁ、悪い。いま行――ッ」
まぁ、気のせいだろう。そう思い妹のもとへ駆け寄ろうとする。が、体が動かなかった。
否、動こうとしなかった。気持ちが止めている。
――立ち止まらなければ。
――この気持ちの正体を確かめなければ。
――すぐに行かねば。
最後はよくわからないが、すっと心の中に入った。
「……やっぱり、先に帰っててくれ。もう少し探索してから帰ることにする」
「えぇー。……わかった。先帰ってるから、早く帰ってきてよー」
「おう。わかった」
少し悲しげな様子で帰っていった。ごめんな。
でも、こうしないといけない。そんな根拠のない1つの確信がそうさせた。
言ってしまったからにはもうあとは引けない。
俺は目にとまった路地に入っていくことにした。
「(妙に薄暗いな)」
そんな印象は自身の恐怖心を煽るのに十分だった。
奥に進んでも先は見えないし、そろそろ引き返そうか。そう思ったとき、
「――やめて」
女性の声がする。
不思議な気持ちだ。初めて聞く声のはずなのに、聞きなれているような自分がいる。
それにしても……だ。その声の主は「やめて」とはっきり言った。
声は少し先の方から聞こえた。もう少し進むことにしよう。
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「何をやめろって?」
「私に迫ること。汚いから消え失せて、早く」
「せっかくのチャンスを無駄にするほどアホじゃない。だからやめるわけにはいかないんだよなぁ~」
「はっきり言ってうざいの」
先に進んだら、何やら言い争っている男女がいた。
妙に食付き気味の男性。それを嫌そうに見ている女性。
暗がりにいるから、それくらいしか特徴はわからなかった。
こんな場所に来て何してるんだ……?
「軽口たたけるのはいつまでかな?」
男性が女性の体を押さえつけ始める。……これはもしかして、
「――離してッ!」
必死の女の人が抵抗しているようだ。体を揺さぶっているが力に負けて振り払えていない。
まだだ、まだいっちゃダメだ。
今、携帯でこの一部始終を警察に垂れ流しているところだ。
もう少し、相手(男の人)が何かボロを出してくれれば警察も事情を察してここを割り出して駆けつけてくれるだろう。
とりあえず今はもう少し様子見をしておこう。……万が一のために殴りつけれる準備もしておくことにする。
「やだね、俺とお前の仲だろ?」
「仲もなにも今さっき初めて会ったばっかりでしょ!?」
「まぁまぁ、そんな細かいこと気にするなって」
「気にするわよ、こっちはいろいろ危ないんだから。早く離してくれないと警察に通報するわよ?」
「この状況でできるものならやってみろよ。まともに体動かせないくせに」
「ッチ」
「まぁ、いい。さっさとおとなしく俺に食われろよ。な? じゃいたたきまーす」
男性が女性の服を脱がし始める。カンは当たったようだ。
――今だッ。
全力で駆け出して相手をぶん殴る。
殴られて吹っ飛んだ相手がひるんでる隙に、すぐさま名前も知らない女性の腕を引いて外に出るためにきた道へと駆け出した。
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外に出た。近くの交番の人が来てくれたみたいで、女性の状態を見て急いで保護してくれた。
男性が近くまで迫ってきていたが、それも別の交番の人が取り押さえてくれた。なんとかなったみたいだ。
張り詰めた体の緊張が解けてその場に軽く崩れ落ちるように座り込む。
「(はぁ、よかった)」
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一通り今回の件で質問されたので受け答えしたあと、普通に帰ることにした。
助けた茶髪の女性……女の子と一瞬だけすれ違う。
「――やっと逢えた」
「……えっ?」
何か言われた気がしてすぐさま後ろを振り向く。
しかしそこには誰もいなかった。
「……気のせいか」
そう思うようにして、とりあえず帰宅しに歩き出した。
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しまった。道に迷ってしまった。
地図はあいつに預けたままだから見ることはできないし、携帯も家に置きっぱなし。
やばい、完全に詰んでしまった。
「どうしよう……」
公衆電話で連絡して向かいに来てもらうのもなんだか申し訳ないし恥ずかしい。
本当にどうしたものか……。
「なにかお困りでしょうか?」
耳に聞こえた男性の声に思わず顔を上げる。
上げた顔の先には、ベージュのエプロンをつけている白髪の若い男性がいた。
顔の表情を見てみると、とても優しそうな顔をしている。せっかく声をかけてもらえたのだし、近くの目印となる場所の行き方を教えてもらおう。
「あの、少し道に迷ってしまって」
「なるほど、どこに向かっていたのですか?」
「ええと――」
話してみると、とても丁寧に行き方を教えてくれた。
見た目だけじゃなく、本当に優しい人のようだ。
おかけでバッチリと行き方を把握することができた。
「道を教えてくださりありがとうございました」
「いえいえ、お礼は結構ですよ。代わりと言ってはなんですが、【希沙羅】というお店に気が向いたらいらっしゃってください。そこで店長を務めているのでサービスしますよ」
これはすごい人に出会ったのではないだろうか。あの店の店長だったとは。
なんとなく納得してしまった。
「【希沙羅】ってあの【希沙羅】ですか!? さっき食事をしに行きましたけどすごく美味しかったです。また近いうちに伺いますね」
「あら、既に一度いらっしゃってましたか。ふふ、気に入ってくれたようで何よりです」
相手がすごいニコニコしている。本当に嬉しそうだ。
「あ、これも何かの縁ですしせっかくですのでこれ渡しておきますね」
なにか紙のようなものを手渡しされた。
これは……クーポンだろうか。
「では、そろそろ店の方に向かわせてもらいますね。あそこのでお待ちしておりますのでまたいらっしゃってくださいね?」
ゆっくりとゆっくりと店の方向に歩き出していった。
とても親切な人だったなと思う。
今度こそ、家に帰ろう。
「――ッあぁ!?」
頭痛や目眩のようなものが、なんの拍子もなしに走った。
視界が歪む。それと同時に、痛みが頭の中で暴れる。
だが、それは一瞬で治まった。
疲れているのだろう、早く帰って寝てしまおう。
帰宅したあとは特になにもなかった。
時間もいい時間になったので部屋に戻る。
それにしても今日一日は濃い一日だったなと、布団に潜りながら振り返って改めてそう思った。
妹に振り回されたり、女の子を助けたり。
本当に濃い一日だった。
明日から学校だ。
そろそろ寝ることにしよう。
ふと目が覚めた。
寝起きなのにやけに目が冴えているのに少し戸惑っているが。
……?
「っ!?」
気づくまでに時間がかかったが、目の前には異質な光景が広がっていた。
闇で包まれていたのだ。
失明デモしたのかと思って慌てて自分の手を見る。……よかった。目は見えているみたいだ。
だが、急に何があったというのだろうか。
わからない、怖い、なんで。
そんな風に取り乱しながら、俺はパニックになりかけていた。
考えなきゃ、そう思って無理やり冷静になろうとしながら考えていると突然、
「ようこそ」
謎の声が脳みそに響いた。
ありがとうございました。
今の所はプロローグとエピローグを含めて24話~30話程度を予定しております。
誤字脱字などありましたら遠慮なくどうぞ。