上
村上舞佳は、滴り落ちる水を感じながら、手のひらを強く握りしめた。
――駄目だ、こんな奴に声を荒げちゃいけない。
怒りに揺らめく瞳を隠すようにゆっくりと一度瞬きをして、静かに息を吸って、吐く。そして、唇に笑みを浮かべたまま、俯かせていた顔を上げた。
「で?いくら払えば私のこと愛してるって言ってくれるの?」
「そういうところが最低だっつってんだよ、とっとと失せろ」
せっかくにこやかに交渉を再開しようとしたのに、相手は取りつく島もない。舞佳は今度こそ露骨に顔をしかめた。
「ええー? じゃあ私、水のかけられ損じゃない?」
「俺にとっては時間の無駄だったよ。帰れ」
「無駄はよくないよね。なんだって有意義なものにしないと。ほら、今からでも遅くないよ」
「水の無駄遣いを避けるためにも今すぐここから去れ」
「じゃあかけなきゃいいんだよ、簡単な話だよね。ほらそのホース放してぶふっ」
ここでもう一度水をかけられて、今度こそ堪忍袋の緒が切れた。
「なんなの!? 信じらんない!! ホースと水資源を武器に使うなんて、美化委員の風上にも置けないんだけど! ねえ、日曜日にみんなの前で私のこと愛してるって言うだけでいいんだよ!? それだけでいくらでもあげるって言ってるのに!!」
「いい加減にしろよ! てめーの買収なんかに誰が応じるか!」
「はああ!? 三条、実家が今大変なの知らないの!? お父さんが投資に失敗してやばいじゃん!」
「なっ……!? だからと言っててめーの……村上の狸爺が巻き上げた金なんかいらねえんだよ! いいから帰れよ!」
もう一度ホースを向けられて咄嗟に顔をかばうが、ただの脅しだったようで水は襲ってこなかった。舞佳はもう一度「しんっじらんない」と吐き捨てて、肩口にへばりついた髪を絞りながら踵を返す。
――お金は道具なんだから、良いも悪いもないのにな。
これだから同じくらいの年の男の子って嫌なんだ、幼稚で。そんなことをぶつぶつと呟きながら歩き始めるその背に、今度は声がかけられる。
「――おい、村上」
気が変わったのかと振り返ると、三条は言葉を探すように視線を彷徨わせている。そして、決心したように舞佳を見据えた。
「愛花は……その、大丈夫なのか」
――愛花。
聞き飽きた妹の名にうんざりした姉は、目を細めて意地悪く笑ってみせた。
「え、知らない。ていうか、こっちの交渉拒んでおいてただで情報を要求するとか、図々しいよね」
「なっ……!?」
「あーあ、ざんねーん。さっき契約結んでおけばうっかり口滑らせたかもしれないのになー」
「っ、おい、村上!」
呼び止める声にちょっと振り向いて、ホースの射程圏外であることを確認し、舞佳は、妹と同じ顔でにっこりと微笑んだ。
「まあ、嘘だけどね!」
今度こそ振り返りもせずに、中庭のアーチをくぐって小走りで校内に入る。後ろで何か吠えていたような気がしたが、秀麗な白の柱の間を過ぎたあたりで何も聞こえなくなった。
それにしても時間の無駄だった。服も濡れてしまったし。肩口で揺れていたはずの髪を後ろに流しながら、舞佳はため息をついた。
古臭いが趣味のいい彫刻が手すりに施されている白い廊下で、歩きながら湿った手帳を開き、三条の名前の上に横線を引く。これで、今日までで身元が知れている学内の男の約半分に接触したことになる。
今日は水曜日。与えられた一週間の半分を使ってしまった。日曜日の一族裁判まであと数日しか残されていない。内心穏やかではないが、誰が見ているかわからない校内で焦ったさまを見せるのも癪だからと、舞佳はあえて唇を吊り上げたまま手帳を閉じた。三条になんて一切期待していなかったと堂々と示すように。
若き大富豪、村上舞佳――彼女にとって、水浸しの制服や張り付く髪の毛なんてものは、惨めさを醸し出す小道具にはならない。
『お姉ちゃん!』
自分と同じ顔で笑う妹が憎かったわけではない。別に嫌ってもいない。ただ時折、ひどく煩わしかった。
『お姉ちゃん、どうしよう! 三条くんと近衛くんと花山くんと桃園くんから土曜日遊びに行かないかって誘われちゃった……』
訂正する、大抵の場合煩わしかった。
優柔不断で、なにかにつけて舞佳に相談に来た。天然で鈍感で、努力家のくせに要領が悪く、舞佳と同じ可愛らしい顔を真っ赤にしては、人見知りのために俯かせていた。
だが、とにかく人に愛される子だった。
庇護欲を誘うのか、追いつめられてかみつく時のギャップがよかったのか、男女問わずやたらともてた。そんな村上愛花は、今。
「死にかけてまーす、なんてね」
体中につながれた管や機械が立てる音だけが、真っ白な病室に満ちている。人工的な清潔さの中で穏やかに目を閉じている愛花は、自分と同じ顔のはずなのに、やけに神聖なものに見えた。飾られている花もパステルカラーで、まるで天国にいるかのようだ。本当に蘇生したいのか疑問に思いながら、舞佳は黙って愛花を見つめる。
妹が今すぐ目を覚ましてくれれば、それで大体の面倒事は解決するのに。舞佳は一度ため息をついて、ドアへ足を向けた。今日も学校だ。
一族の人間も、愛花を可愛がっていた。金の亡者との悪名高い亡き祖父だけは、小学生のころから一緒に生涯金計算にいそしんだ舞佳の方を贔屓したが、それ以外の人間で姉に軍配を上げるものはいない。つまり、この世で舞佳を愛花より愛している人間は、全くと言っていいほどいないのだ。寧ろ、愛花をあしらい拒絶する舞佳を憎む者の方がずっと多い。
だから、正直、舞佳には予想できていた。いつか愛花の身に危機が迫った時、舞佳を身代りにしようと考える者が出てくることを。
愛花が突然倒れたのは、四日前のことだった。
帰宅してから急に絨毯に倒れこんで動かなくなり、側にいた使用人たちがすぐに蘇生を試みたが、一向に状態は回復しなかった。すぐに病院に搬送され、検査を受けると、心臓に重大な疾患が見つかる。
ここからは、舞佳に言わせると、ありがちで陳腐な流れで話が進んだのだった。一刻も早く心臓を移植しなくてはと一族が会議を開き、いいクローンがいるじゃないかと舞佳に白羽の矢が立った。
舞佳は祖父から多大な遺産を受け継いでいるが、まだ若干十八歳。一族郎党に束になってかかってこられてはたまらない。あれよあれよと言う間に、本家の地下にある法廷で一族裁判にかけられた。
身に覚えのない大罪によって、文字通りさばかれそうになった時、一人の女が泣き崩れた。
「ひどいわ、愛花のために舞佳を犠牲にするなんて!」
「お母さん……!?」
ちなみに、愛花と舞佳の母は年の割にひどく夢見がちな女性である。具体的には、前髪が後退していた亡き夫のことをかなり美化して記憶しているほか、「投資って楽しいねお母さん!」という独特な感性を持った娘を「私にはあの子がわからないの!」と言って使用人に丸投げしていた女性である。
そんな母がしゃしゃり出てきた時点で、舞佳は自分の完全なる不利を予感していた。ビジネスプランと投資と資産に絡めて自己PRをすればまだ勝てる、と思っていた矢先のことだった。
「確かに舞佳はお金が大好きで反抗的でかわいげのない子だけれど、こんな子だってきっと誰かに愛されているはずよ! それなのに殺してしまうなんて、かわいそう……!」
いまいちよくわからない論理だったが、庇われている気がしなくもない。どこをとっかかりにして押そうかと頭を働かせていると、現実逃避をしがちな母は呪いの呪文のような言葉を吐き出したのだった。
「だから、この子が学校で誰か一人にでも、あのかわいらしい愛花よりも愛されていたら、こんな移植なんてやめましょう? でもこの年になって誰にも愛されていないなんてその方がかわいそうだから、そうだったら移植しちゃいましょう?」
――なにそれ。
あまりの急展開に頭が一瞬停止する。母の考えることはいつもわけがわからなかったが、今回は格が違う。娘について人道的なことを言っているように見せかけて、全く筋が通っていない。
が、周囲はそうは思わなかったようだ。母親がそう言うなら、だとか何とか、結局大筋でその提案が採用されてしまった。
つまり、一週間後の一族裁判に愛花より舞佳のことが好きな人間を連れて来ることができなければ、舞佳の心臓は愛花に移植される。舞佳は静かに唇を噛んだ。負ける気ではやらない。だが、それにしてもこれは、あまりにも。
優雅な曲線を描くドーム。きらきらと陽光を反射するそこに、迷うことなくジャージに包まれた足を踏み入れる。歩くたびに、甘ったるい花の香りが舞佳を包んだ。
目的の人物を見つけてぱっと顔を上げると、しっとりと湿った髪が首筋に落ちてくる。探し人だった彼はそれを目ざとく見つけて、いたずらっぽく微笑んでみせた。
「やあ、今日も災難だったね、舞ちゃん」
「ごきげんよう、優くん。今日は体調よさそうだね」
「おかげさまでね」
朗らかに言って、冷泉優一郎は差し込む日に目を細めた。常人にとってはなんでもないそれすら、彼の身を蝕んでいる。上品なクリーム色のブレザーからのぞく手首は細く、青白い顔はその中性的な美貌に退廃的な魅力を加えていた。華奢な体躯とも相まって、舞佳と同い年であるにも関わらず、冷泉の方がずっと幼く見える。
病弱な少年は、わずかに姿勢を正して舞佳へと顔を向ける。
「女の子に水をかけるなんて、マナーがなってないな。今日も妹さんのことで?」
「んー、まあね。私はただの風邪だと思うんだけど、しつこいから教えたくなくなっちゃうんだよね」
「そう……意地悪しすぎて、きみがひどい目に遭わなければいいけど」
冷泉が視線を落とすと、長いまつげが影を作る。芸術品のような姿に目を引かれはするが、彼が存外強かなことを知っている舞佳は、それにうっとりとため息をついたりはしない。
音楽室や美術室がある芸術棟の裏、学園の敷地内にある温室は、もはやほとんど彼の城だった。ベッドにもなる豪奢な椅子、日除けのパラソルと猫足のテーブル。後ろに控えている壮年の男は、執事の高遠という。二人に温かい紅茶を出して、今はお茶菓子を準備している。
没落貴族の冷泉の名は、もはやほとんど価値を持たない。彼は、舞佳が無能と評する良家の子息たちとは異なり、その病弱な体一つでこの豪奢な学園の一角を私物化しているのだ。それは偏に彼の知謀と才覚によって成し遂げられたのだった。
カップを手で包むようにして痩せた膝に乗せ、冷泉は苦笑まじりに呟く。
「いつもおれなんかに会いに来てくれる舞ちゃんのために、何かできることがあればいいんだけどな」
「え、そんなの気にしないで!私は楽しいから来てるわけだし、私たちの間に貸し借りはなし、だよね?そうじゃないと――」
「健全な友情を保てない。その通りだ」
穏やかに、しかし厳かに放たれた言葉に、舞佳は目を細めた。友情にお金をはさんではいけない、貸し借りを作ってはいけない。それをストイックなまでに守ってくれる「友達」は、冷泉しかいなかった。
そんな希少価値の高い舞佳の友達は、灰がかった青い瞳を揺らして優しく微笑んだ。
「でも、もし本当に困ったら、おれに相談してくれ」
「うん、ありがと」
今本当に困っていることを、冷泉に相談することはできない。申し出は嬉しいが、貸し借りはなしというルールだ。命がかかっているとなったらなおさら。舞佳はにっこりと笑った。
冷泉と親しいのは、嫌われ者とはぐれ者が仲良くなっているだけなのだろうか。舞佳はふと思う。こんなに優しい冷泉は、どうして自分と仲良くしてくれているのだろう。
一瞬、ほんの一瞬、冷泉が自分をどう思っているのか知りたくなって、舞佳は口を開く。
「ねえ、優くんは愛花のこと知ってるよね。私と愛花、どっちが好き?」
「おれ?」
ふわふわの黒髪を揺らして小さく首を傾げると、少年はすぐに答えた。
「おれは舞ちゃんの方が好きだよ」
「ほんと?」
「ああ。舞ちゃんの方が、ずっとずっとかわいいよ」
最後の言葉は消え入るようだったが、すぐに顔を俯かせた時に黒髪からのぞいた耳が、ほんのり赤く色づいている。舞佳は少し照れくさくなって、視線をそらしながら自身の色素が薄い髪を手櫛ですいた。
「わ、私も優くんのこと、好きだな。多分今のところ、世界で一番」
「え」
「な、なんてね! ほら、私ってあんまり他人から好かれるタイプじゃないからさ! 優くんしか友達がいなかったり、するから……」
なんとなく恥ずかしくてごまかすように笑うと、顔を上げた冷泉も頬を染めたまま微笑んだ。
「おれにも舞ちゃんしかいない。他の子たちは……おれには合わないと思うし」
「そうだね、ちょっと幼稚だもんね! 優くんとは全然違うよ!」
拳を握って勢いよく答えると、冷泉は思わずといったようにくすくすと笑い声を漏らした。
彼は時折、満たされたような顔で舞佳を見つめる。それが嬉しくて、毎日昼休みと放課後は冷泉に会いに来るのだ。冷泉に他の友達ができなければいいのにと考えて、そうはいかない現実に、舞佳は胸が小さく痛むのを感じた。
高遠が用意したクッキーをつまみながら三十分ほど談笑して、名残惜しく思いながらも舞佳は午後の授業へと戻った。一族裁判までは、交渉のせいで放課後に会いに来ることができない。学業を疎かにしないこともルールにあるため、休み時間と放課後に活動するしかないのだ。だが、唯一の友達に会うこともできずに罵倒され続けるのはいささか疲れてしまう。正直無理をおして来ていたが、後悔はない。
舞佳が立ち去った後、冷泉は柔らかな背もたれに背中を預ける。長く息を吐いて、ゆっくりと目を閉じた。体がだるい。冷泉は、自分にもはや時間が残されていないことをよくわかっていた。
――今まさに、フレキシブルな友情が求められている!
舞佳は黙々と壮麗な校舎の中を歩いていた。鞄の中身はとりあえず全部駄目になったため、帰ったら全部買い直すと決めている。舞佳にとって、そんなことは問題ではない。
『君さ、最近おかしな言動をしているよね。愛花はいなくなる、君はいきなり僕たちに取引を持ちかける――』
桃園グループの御曹司は思ったほど馬鹿ではなかったということか。
舞佳は、少々あからさますぎる自らの言動を思考の端へ追いやって、眉間にぎゅっとしわを寄せた。勢いよく角を曲がると、スカートが軽やかに翻る。通学後すぐに頭からかけられた水はすでに乾いていた。煩わしくはあったが、雑巾を絞った水ではないあたりお坊ちゃまお嬢ちゃまによる嫌がらせらしいなと舞佳は一笑に付していた。
最近はほとんど毎日何かしらの攻撃を受けている。なにやら、愛花が学校に来なくなったのは舞佳のせいだという噂がまことしやかに流れているらしいのだ。
舞佳は、まずいことになったと思った。なんせあながち間違いではないのだ。手術が失敗しない限りという前置きはつくものの、舞佳の心臓によって愛花が戻ってくるとばれたら、完全に勝ち目がなくなる。一族のルールに一族裁判の秘匿があって感謝したくらいだ。なにしろ、学内のいわゆる権力者たちは、心優しい愛花を許嫁にしようと競い合っているのだから。
その筆頭が先ほどの優男、もとい桃園壮馬だ。
「一体どういうことなのかはわからないけど、僕たちが一番釣れそうな愛花の話題を出してこないあたり、君の状況が愛花の状況と関連が深いということは察しがついてるよ。君、使えるものはなんでも使うタイプだろ? らしくないね」
銀縁の眼鏡のブリッジを中指で押し上げて、桃園は真っ直ぐに舞佳を見据える。眉目秀麗だとは思うが、舞佳としては、彼の顔立ちから漂う気取った感じが好きになれない。
「桃園くんさあ、なんかいちいち鼻につく物言いするよね。私あの子のことあんまり好きじゃないから話に出したくないんだけどなー」
広く凝ったつくりの踊り場で、二人はにっこりと微笑みあう。が、お互いの目は全く笑っていない。ステンドグラス越しの光がきらきらと床を照らす。
「ほら、らしくない。普段の君は目的のためなら感情なんてかなぐり捨てるのに」
「うわ、失礼! 私だって人の子なんだよ? 好き嫌いだってあるし得手不得手もあるよ!ちなみに桃園くんは正直苦手かな、顔とか性格とか」
「はは、君に言われると腹立たしいな。僕だって君のこと苦手だし嫌いだなあ、未来のお義姉さま」
「うっわ、もうその発想が気持ち悪いよね!桃園くんに頼もうと考えた私が馬鹿だったな。もう行くね」
「ちょっと待って」
交渉の余地が残されているのなら、立ち去るわけにはいかない。舞佳はしぶしぶ足を止める。
「村上一族の前で君のことを愛してるって言えばいいとして、僕にとってどんなメリットがあるのか教えてくれないかな」
「わお、意外! 前向きに検討してくれるの?とりあえず私が管理してる資産は大体好きにしていいかな」
「ああ残念、僕はそんなものに興味はないんだ。賢い君なら気づいてるはずだろ? 僕が何を欲しがっているか」
気づいている。欲しいのは愛花だ。
だからこそ、桃園は危険だった。一族裁判の法廷で移植の件について知られたら、反旗を翻されかねない。声をかけてはみたものの、手は結ばない方がいいだろう。
舞佳は顎に指を当てて考え込むふりをする。すでに結論は見えているが、極端な切り方をすると妨害されかねない。どうにかして煙に巻きたいところだ。
「んー、どうだろうね? 桃園くんが望むことを私ができるとは限らないと思うな。で、何が欲しいの?」
「君の妹が欲しい」
「うわきもっ……じゃない、えーと、どういう感じに手伝えばいいの? 私、許嫁の決定権とかないからね」
「知ってるよ。一族の中でも嫌われてる君にそんな権限はない。ただ愛花を誘導するだけでいい。愛花の中で君の存在はかなり大きいからね、君が言えばだいぶ素直に聞くんじゃないかな」
なるほど、相変わらずやり方がせこい。
舞佳はふんふんと頷きながら少々呆れていた。格式だけでなくプライドも高い桃園グループの御曹司の癖に、なかなかの小悪党っぷりではないか。
「んー、そうかなあ?わかんないよ、あの子案外頑固だし……」
「そう。君が僕に協力する気がないのなら、僕も気兼ねなく君を敵に回そうかな」
「は?」
「言っただろ、君の状況と愛花の状況が関連してるって」
「え、ああ……桃園くんの頭の中でのお話ね」
思わず茶々を入れ、珍しく後悔する。桃園は眼鏡の奥の目を細め、朗らかに微笑んだ。
「まあ、そういうことにしておいてあげるよ。ちなみに、僕の頭の中では、君を追いつめた方が愛花のためになりそうだってことになってるんだ」
「その心は?」
「愛花に早く会いたいから、思いついたことはなんだって試してみようって感じかな。君の行動がすごく目についたから、これはやってみて損はないと思った」
「気持ち悪―い!」
両手で腕をこする舞佳を無視して、桃園は一度眼鏡を上げる。少し顔を俯かせると、さらさらの髪が顔を撫でた。それもまた舞佳の鳥肌を誘発する。
「ささやかな嫌がらせもかねて、僕はこれから君を困らせることにするよ。まあ、別に難しく策を弄する訳じゃない」
御曹司は、どこか芝居がかった動きで右手に持っていたものを顔の横に持ってきて、堂々と言い放つ。
「ただ、風紀委員会の権限で、学生同士の金銭のやり取りを固く禁止するってだけさ」
「……えー、よくわかんないんだけど」
相変わらず、嫌なところで頭が回る。
舞佳は舌打ちを堪え、唇の端を引き上げる。一方の桃園は、滅多に見ることができない舞佳の動揺を引き出せたことがよっぽど嬉しいらしい。風紀委員会のファイルをこちらに見せながら、意地悪く笑ってみせた。
「簡単に言うと、生徒の買収を禁止するってことだよ。勿論職員もだけど。奨学生も持ち上がり組も関係なく、関与した事実が発覚した時点で退学処分だから。せいぜい気を付けることだね、お義姉さま」
「あはは、うっざーい」
今度は隠すことなく笑顔で言って、桃園の自己主張の激しい顔を殴ってしまう前に階段を駆け下りる。敵前逃亡は好きではないが、暴力沙汰を避けるためには致し方ない。とりあえず奴の眼鏡は割れてしまえ。口からあふれてしまいそうになる罵詈雑言をしまいこみながら、舞佳は必死で頭を働かせていた。
今回の件で、お金を持っていることくらいしか取り柄がない舞佳にとってセールスポイントが完全に潰えた形になった。愛され系の妹より好かれる方法が正直思いつかない。学校内での評判だって元々地に落ちているようなものなのだ。どうしよう。舞佳は強く拳を握る。
『もし本当に困ったら、おれに相談してくれ』
ふと、中性的な声がよみがえる。
甘ったるい花の香り、暖かな日差し。
――優くんなら、きっと助けてくれる。
舞佳は温室へ足を向けようと振り向いて、ふと立ち止まった。これは完全に、彼との友情を壊してしまうようなルール違反だ。
が、一瞬で歩みを再開させる。背に腹は代えられない。
命がかかっていると知ったら、きっと彼だってわかってくれるはずだ。それに、もし機会があったら、今度は舞佳が冷泉の命を救えばいいのだ。それなら一発でチャラだ。
――そう、時代は柔軟性を求めている。今こそ柔軟な友情を!
舞佳は言い訳じみたことを頭の中で熱く演説しながら、温室へ続く渡り廊下へと飛び込んだ。
冷泉は、舞佳の訪問に相変わらず悪い顔色をささやかな喜色に染めてゆっくりと微笑んだ。これはいける。舞佳はあいさつもそこそこに本題を切りだした。
「あのさ、今週の日曜日って、忙しい?」
「……日曜日? ……日曜日は無理だ」
「えっ」
途端に顔を曇らせた冷泉に、なにかまずいことを言ったかと口を噤む。少年はしばらく黙って俯いていたが、覚悟を決めたように顔を上げた。
「おれは……もってあと二日の命だと言われている。今日は木曜日だったよね。金銭的にも体力的にももうこれ以上の延長はないから、日曜にきみに会うことはできないと思う」
淡々と言われた言葉をうまく飲み込むことができず、舞佳は冷泉の瞳を見つめ返す。どこまでも深く穏やかな色をしたそれが揺らぐことはない。
掠れた声で、舞佳はぽつりと溢す。
「……そっ、か……あと二日……」
「ごめん……折角来てくれたのに……」
「いや、気にしないで! ただちょっと……優くんとぱーっと遊べたらなって思っただけだから」
申し訳なさまで感じさせるような様子に、舞佳は慌てて顔の前で手を振って見せる。本当のことなど言えるわけがなかった。冷泉には、舞佳より時間がない。
自分の問題は自分で何とかしなくては。舞佳は、状況がむしろ悪化したことにいら立つよりも、冷泉との友情が壊れないことに少し安心していた。
「本当に、きみと一緒に遊べたらいいんだけど。いつも気を遣わせてしまって、おれは友達として最低だな……」
「え、そんなことないよ! いっつもすごい助かってるし、優くんと話すの楽しいよ!」
「舞ちゃん……」
舞佳が冷泉の冷たい手を握って力説すると、冷泉は泣きそうな顔で見上げてくる。いつだって優しくて、苦境も困難もさらりと躱してしまう彼が、こんなに弱っている。舞佳は何かできることはないかと必死に考えて、そうだと明るい声を上げた。
「優くん、何か私にできることってないかな」
「え」
「何でもいいよ! ほら、えっと……食べたいものとか、欲しいものとか……」
「舞ちゃん、そんなこと言ったらルール違反になっちゃうよ。気持ちはすごく嬉しいけど」
困ったように笑って、冷泉は舞佳の手を弱弱しく握り返した。
「おれは、明日もきみに会えたら、それだけでいいんだから」
この少年が、この優しい友達が、もうすぐ死んでしまうのか。淡く頬を染めた冷泉に、舞佳は目がしらが熱くなるのを感じていた。眠っている妹を見ても感じなかった焦燥が心を占めていく。
「明日だって明後日だって来るよ。ぜったい、会いに来る」
宣誓のように言うと、冷泉は花が咲くように顔を綻ばせた。
結局授業時間には冷泉に教室に帰されて、舞佳はおとなしく授業を受けていた。新品の教科書の白が眩しい。しかし、先生の話なんて耳に入ってはいなかった。
舞佳の財産では自身の命を買うことはできない。だが、冷泉のものならば、もしかしたら。
ふと考えて、舞佳は苦笑した。まだ生きているのに死んだ気になってはいけない。いつチャンスが巡ってくるかもわからないのだ。お金は自分にとって唯一の切り札なのだから、まだ捨ててはならない。
だがそれでも、一つの思いは拭えなかった。
――もし全部失敗したとして、財産がみんな村上のものになってしまうくらいなら、私は――
舞佳は、頬杖をついて考える。
いくらあれば、冷泉の命は買えるのだろう。
それは、金曜日の放課後のこと。舞佳にとって実質のラストチャンスだったその日、結局収穫はなかった。いつもの嫌がらせで外靴を駄目にされたため、内履きのまま温室へ向かうと、甘ったるい花の香りに包まれて冷泉が倒れていた。
「――優くん?」
横たわる彼は、その彫像のような顔を苦悶にゆがめ、白磁の肌に玉のような汗を浮かべて、胸元を強く握りしめている。呼吸は弱く浅く、まるで打ち上げられた魚のようで、今にも止まってしまいそうだ。
舞佳が駆け寄って抱き起そうとするのを高遠がとどめた。少女はすぐさま執事に食って掛かる。
「何すんの!? どいてよ!」
「舞佳さま、これは奥様のご命令なのですよ」
「は……?」
理解できないというように目を見開く舞佳に、高遠は小さく首を振った。
「冷泉家にはもはや、優一郎坊ちゃんの治療に注げるだけの資産がないのでございます。こうなってしまったからには、最後の跡取りたる坊ちゃんと共に冷泉を終わらせるのだと、奥様もおっしゃっておりまして……」
一瞬で理解した舞佳は、眉を吊り上げた。大切な友人を、そんなことで失ってたまるか。
「お金がないから見捨てるの? これだから、格式ばかりの古臭いお貴族様って嫌い! 何とかしてよ!」
「お言葉ながら、舞佳さま……もはやどこにも残っていないのですよ、何とかするだけのお金が」
目を伏せて首を横に振る高遠は、主を本当にこのまま見捨てようとしているようだ。舞佳は違和感に眉根を寄せる。
「……高遠さんさあ、なんかおかしくない? いくら今日明日の命だからって、まだ生きてるのに救急車も呼ばないなんて変だよね?」
「……ほう、舞佳さまは大変賢くていらっしゃる。個人的に坊ちゃまに恨みがあるものですからね、ぜひともこのまま死んでいただきたいと思っております」
いつもの調子で静かに言うと、高遠は舞佳の肩を掴む手に力を込めた。主といいこの娘といい、変に賢しくて時々恐ろしく感じるのだ。少女は思案するように一度目を伏せて、ふと執事を見上げる。
「それってもしかしてお金で解決できる恨み?」
高遠は息をのむ。確かに高遠の恨みは借金についてだ。それも、膨大な額の。
「……僭越ながら、額によりましては」
「ああそう、じゃあ言うだけ払うから、優くんのこと見逃してくれない?」
「……は? 正気ですか?」
「非常時に無駄な会話したくないの。はい、これ」
鞄から取り出したプラチナカードを、ひらひらと執事の目の前でかざす。高遠は教員でも生徒でもないから、何の気兼ねもない。訝しむようにそれを見ていた執事は、おそるおそるそれを受けとり、代わりに舞佳の肩から手を放した。
「それあげるから。私もう一枚別のを持ってるの、黒いやつ」
「そ、そんな……」
「いまさらいい人ぶらないでよ。最悪、きったない大人。でも生徒じゃなくてよかったー、馬鹿ルールの盲点!」
妙齢の娘が友達同士に見せるような無邪気な笑みを浮かべて、少女は高遠と桃園をなじる。それを気に留めることもできず、高遠は震える手でカードを見つめた。
舞佳は膝をついて、優一郎の顔を覗き込んだ。
「優くん、ごめんね。私にとって優くんは、友だちよりも大事だったみたい」
冷たくなっていく頬に手をすべらせ、舞佳は携帯電話を取り出す。電話の先は、祖父からもらった病院の、少々いかがわしい医院長だ。そこには、祖父の遺産というだけのことはあって、金と知的好奇心のためならなんだってする人間が集まっている。
「もしもし、舞佳だけど。今すぐヘリ出してよ、学園の温室で男の子が苦しんでるから」
『ああ、舞佳さま。その方はもしかして冷泉の坊ちゃんではありませんか? でしたら私どもにできることは……』
「お金のことを言ってるの? それは私が払うから問題ないよね」
『あ、そうでしたか。しかし彼の病気は特異でしてね……現代の医療で治せるかどうか』
「別に現代の医療でどうにかしろなんて言ってないよ。どんな手を使ってもいいから治して。どうせこのままじゃ死んじゃうんだから、ちょっとでも可能性があるならなんだってやってよ」
『そういうことでしたら、承知いたしました』
電話を切ってから、先日咲いたばかりの薔薇に囲まれて苦悶する、中性的な美少年を見下ろした。ゆるくうねる黒髪が汗で首筋に張り付いている。彼はこのまま死んでしまうかもしれない。
胸のあたりが締め付けられるような感じがして、黙って見ていられなくなった舞佳は、冷泉の小さな体を抱き起こし、白い額に一度口づけた。彼がどうか助かりますようにと、冷たい手のひらをそっと包む。たとえ一族裁判に一人で挑むことになろうとも構わない。お金を投げ打ったせいで友情が壊れたとしても、きっと舞佳は二度と彼には会えないのだから。
だからこそ尚更、すべてを賭して彼を生かそうと、舞佳は思った。
「ああ! 舞佳! かわいそうな子!」
いちいちむせび泣くように声を張り上げる母に、舞佳は履いていた靴を投げつけてやりたくなった。あの女の人生の、悲劇的な一要素になんてなりたくはないのだ。
円形の法廷の真ん中で黙り込む舞佳に、気味の悪いものでも見るような大人たちの視線が集まる。舞佳には、不思議と恐怖感などなかった。ただ、目に涙をためて、じっと見返していた。まるで、肝心な時に黙り込んでしまう愛花のように。
舞佳は内心、気まずそうな大人たちに笑いが止まらなかった。そんな風に思うならやるなよ、意気地なしどもめ。
こんな出来レースに余興以外の意味などないのだ。ならば思い切り後味の悪い終わりにしてやる。楽しませてたまるか。ここまでくれば、舞佳が実質一文無しになっていることも、いい当てつけのように思える。加えて、少なくともこの後一生、愛花を見るたびに舞佳を思い出すくらいのことはしてもらわないと。
未練があるとしたら、ただ一つ。舞佳は目を伏せる。青白い顔、浅い呼吸。先のない舞佳にとってはどちらだっていいけれど、できることなら彼には助かってほしい。なんたって、全財産を彼につぎ込んだのだから。
――優くん、私、先に行くね。
押さえつけられた右腕に突き立てられた注射器が空になるころには、少女は、妹と同じように穏やかな顔で眠っていた。
強烈な毒気で一族を惑わせた双子の姉の心臓は、その日の午後に、心優しく誰からも愛される妹へと与えられた。大人たちの心に禍根を残したまま、愛花の回復という大きな喜びがもたらされたのだ。
だが、禍根が残っていたのは、彼らばかりではなかった。
瞼を透かして照らしてくる光に、閉じていられずに目を開く。真っ白な視界に飛び込んできたのは、白い天井と枕元の大きすぎる花束だった。むせ返るような香りに思わず眉をひそめる。
ぎこちなく目の前に持ってきた手は、いくらか細くなってはいるが、見覚えのあるものだ。体を起こすと、目の前がくらくらと揺らいだ。随分長い間眠っていたようだ。
ベッドの背もたれに体を預けて辺りを見回すと、床が見えないほど様々な花で満たされている。鉢植えなんて縁起の悪いものまであるが、上に乗っている花は艶やかで、瑞々しい生命力を感じさせる。
――どうしてこんなところに。
額に手を当てて考えると、遠くぼやけた記憶に、衆人環視の中の裁判を見つけ、一気にすべてを思い出した。咄嗟に胸に手を当ててみると、覚えのある拍動が感じられる。
「……え、心臓、あるじゃん……」
念のために上質な患者服の襟元を開いてみると、ガーゼと包帯で胸元が覆われている。手術は行われたようだ。だが、心臓がなくなった感じはない。代替物でも入っているのだろうか。
考えて、舞佳ははっとする。もしや手術は失敗したのか。そうだったらざまあみろ、という感じだが。 少女が病室で一人にやにやと笑っていると、申し訳程度のノックの音と共に扉が開いた。舞佳の意識がないことを知っていたからだろうか。
「まだ入っていいっていってないんですけ……ど……」
「やあ、やっと目が覚めたんだね。おはよう」
「え、あ、どうも……誰?」
豪奢な花束に隠れるようにして入ってきたのは、まるで彫刻のような美貌の男だった。緩くうねる黒髪に、健康的なつやを持った白磁の肌、冬の空のような青い瞳。神秘的な雰囲気とは裏腹に、口元にはいたずらっぽい微笑みが浮かんでいる。舞佳はぽかんと口を開けた。こんな知り合いはいない。
「ひどいな、おれのことを忘れるなんて。舞ちゃんの愛情なんてその程度のものだったの?」
「……えっ?」
「おれだよ、冷泉優一郎。この間はどうもありがとう、頼んでもいないのに助けてくれて」
「えっ!? 優くん!?」
「そうだよ」
朗らかに微笑んだ冷泉優一郎は、上品に小首をかしげて見せる。確かにそのしぐさは、舞佳が慣れ親しんだ大切な友達のものだ。目がしらが熱くなるのを感じて、ぎゅっと眉を寄せる。
サイドテーブルにぎりぎり花束を収めて、青年は少し困ったような顔で舞佳の手をとった。温かなそれに、彼女の心臓は小さく跳ねる。
「あの時から二年くらい経ってしまってごめんね、本当に遅くなった。本当はもっと早くきみに小言を言ってやろうと思っていたんだけど」
「い、生きてるんでしょ……?」
「見た通りね。なかなかハードな治療生活だったよ、あの医者を絞め殺してやりたいと何度思ったことか」
冷泉は微笑んだまま、冷やかな眼差しで遠くを見つめる。
刺々しい冷気を感じて、舞佳はゆっくりと冷泉から視線を逸らした。何をしてもいいから助けろと指図をしたのが自分だと知られたら、どうなるだろうか。舞佳の背中を冷たい汗がつたう。
訪れた沈黙を破るようにして、冷泉が口を開いた。
「……目覚めたばかりなのにこんなことを言うのもおかしな話だけど、舞ちゃん、おれは舞ちゃんが大好きだよ、愛してる。だから――」
一瞬、冷泉の手に力が籠められる。舞佳の指先が小さく震えた。
「結婚を前提に、お付き合いしてくれませんか」
驚いて冷泉を見上げると、ほのかに頬を染めた美貌の青年が、熱っぽい目で舞佳を見つめていた。
「……私でいいの?」
するりと口をついて出た言葉に、舞佳は、顔に熱が集まっていくのを感じていた。
あの日自分が望んだものは、これだったのか。誰かの中で一番だと宣言されること、一番に扱われるということ。それが、他の誰でもない冷泉から与えられると思うと、それだけで心臓が締め付けられるような感じがする。
冷泉は、舞佳の手を強く握りしめた。
「きみがいいんだよ、おれはもう二年も待った。おかげで思い知らされたよ、きみじゃないといけないって」
切なげに眉を寄せて、冷泉は舞佳の顔を覗き込むようにして視線を更に合わせてくる。もはや友人と呼ぶには近すぎる距離だった。
「ねえ舞ちゃん、あの時きみがおれのために全部を手放したみたいに、おれもきみのためならなんだってするんだよ」
「……なんだって、してくれるの?」
「そう、なんだってする」
「――私もそうだよ」
頬を淡く染めて微笑む青年の首に、痩せた少女は抱きついた。
「私も、優くんのためならなんだってするよ。だって、愛してるから」
強く強く腕を絡めて、舞佳は微笑んだ。満たされている感覚に、うっとりと目を閉じる。
――でもこれは、投資が成功したってことなのかな。
あの時全財産をつぎ込んでおいてよかった。おそらくあの時の決断が功を奏し、自分はこうして生きているのだから。冷泉がいつから自分を好いていたのかはわからないが、二年前の行動が彼の心に鮮烈に焼き付いていることは確かだろう。
そうだとしたらやっぱり、愛はお金で買えちゃうのかもね、なんてことを無邪気に考えて、舞佳は小さく笑った。
むせ返るような花の香りに囲まれて、まるで絵画のように、若い二人が抱き合っている。
随分と身になじむ心臓が、少女の胸で高らかに喜びを歌っていた。
こういうヒロインが勝つのもありだと思います。お金って怖いですね。
ちなみに、村上舞佳と愛花です。
Heartは心臓とも感情や愛情とも訳せるので、からませたくてからませてみたらこんな感じになりました。