穴だらけ2
家に帰って、制服とYシャツのボタンを一つ一つ丁寧に外して、ハンガーに吊るす。これが日課。
そしてラフな格好に着替えて、僕はPCの画面を見つめた。
簡素なフォルムと、てろりとしたシルバーの外装は見ていて「ああパソコンだなあ」と思う。我ながら変な慣性だと思う。
パッと遅めに画面が明るくなると、乙女チックに飾られた壁紙のトップ画面が目に飛び込む。全体的にピンクのマスキングテープを無造作に並べてあって、右がわに大きく白いレースが縦に走る。お気に入りの壁紙だった。
といってもPCでやることは限られていて、ただのワープロと化している点は否めなかった。
デスクトップに3つほど並ぶ、文字を保存するようのフォルダを開く。
少し間を置いて、打ち出した自分の世界が広がる。
『タイトル』 スケッチブック
『本文』 真実でないことばかりがはびこったこの世界で、ゆういつ君だけが僕だけの「真実」だった。
というべたべたな恋愛ストーリーなわけなのだが、書いては消してを繰り返していて、結局この一文しか書けていなかった。タイトルだってころころ変わっている。
僕はそれを苦笑いして、恥ずかしげにキーボードを叩く。
『本文』 真実でないことばかりがはびこったこの世界で、ゆういつ君だけが僕だけの「真実」だっ た。
「僕のこと、愛してる?」
「うん、もちろん」
自分勝手に会話を広げるキャラクターたちは、純愛をしていた。
僕とは違う、純愛。純愛。
僕は自分で勝手に不機嫌になって、マウスを押しながら文字をなぞって、消した。
「……くそ」
僕は時間が進むのを遅く感じながら、また同じ言葉を吐き続けていた。
「おかえりなさい」
ぱたぱたとオレの前を走りながら、母親が家に迎える言葉を叫んだ。
「……ただいま」
そっと靴を脱いで、無造作に足でそろえる。うん、今日のはうまく並んだ。
「あー、もう! またそうやって!! 女の子なんだから、ちゃんと手でそろえなさい! 手! あなた には手が無いの!?」
「無いように見えるの?」
「また屁理屈……、まぁいいわ。手ぇ洗ってきなさいな」
「……はーい」
女の子なんだから、それがオレの一番嫌いな言葉。理解者は、もうあの人しかいなかった。
オレが、心は男なんだってこと。ブラジャーとか、生理とか、ナプキンとか、女性物のフリフリしたレースがついた下着とか。想像しただけで顔が赤くなって、どうしようもなくなって、吐きたくなる。
自分が情けなかった。
心は男なのに、体は女なんていう柔くて弱い構造。力なんてない。
「これじゃ、大事な人なんて守れないよ」
手についた泡を落としながら、鏡の自分に向かって諭す。ちゃんとした、女の子みたいな顔を歪めながら、鏡の自分は納得いかないような顔をしていた。
いつまで経っても、平行線。