どうぞ、ご勝手にしか言えない令嬢、王太子に溺愛される
「お姉様、あなたの婚約者の公爵子息に誘われてしまいました。あ、誤解しないでくださいね。私と同じ歳の妹さんの誕生日のプレゼントを選んで欲しいんですって! 2歳上のお姉様より同じ年の私の方が好みが分かるだろうって! 浮気とか疑わないでくださいね。お姉様の婚約者になんて、全然興味ないので!」
「どうぞ、ご勝手に」
妹が顔をしかめる。
私に嫉妬して欲しかったんだと思う。
ただ、私はもうこの言葉しか言えない。
今までずっと私の物を欲しがる妹に、散々、譲ってきたし、婚約者くらい譲るわ。
「どうぞ、ご勝手に」
婚約者の公爵子息が驚いている。
「本当に俺と婚約破棄してもいいのか? 俺は公爵になるんだぞ!」
妹と浮気して、妹と結婚したいって言いだしたのはあなたでしょう?
簡単に別れてあげるって言うのに、私に未練がないから気に入らないって言うのはどうなの?
最初から政略結婚で、公爵って身分しか取り柄がないことは自分でも分かってるじゃない。
「公爵子息に婚約破棄されるような娘は伯爵家にはいらないな。荷物をまとめるから、出ていくんだ!」
「どうぞ、ご勝手に」
公爵子息に婚約破棄されたのは妹のせいなのに、私を追い出すなんて、道理が分からない両親ね。
昔から、妹が優先で、私の事なんて顧みなかった、あなた方と縁が切れるなら、せいせいするわ。
まとめて置かれた荷物を持って出て行く私を、みんなが唖然と見つめる。
「お姉様、私が公爵子息と婚約するんだからね! 後で返してなんて言われても返さないからね!」
「お前の妹と結婚するからな! 後から後悔して、俺と結婚したいって言っても遅いからな!」
「素直に出て行くなら、あなたなんて、もううちの子じゃないからな!」
いや、もうとっくに話は付いていて、私を追い出して、欲しいものを手に入れたのはあなたたちでしょう。
私が悔しがらないからって、手に入れたモノの価値が下がったような反応はなんなのよ。
「どうぞ、ご勝手に」
「「「後悔しても、もう遅い! からな!!」」」
……後悔してるのは、あなた方では?
◆◇◆
自由になった私は、しばらく旅行しようと、辻馬車のところに向かう。
けど、切符が買えない。
宿に泊まろうと思ったけど、やはり泊めて貰えなかった。
妹、婚約者、両親、離れられて、せいせいしたというのに、自由が奪われてる。
「やあ! エミリー、こんなところで何しているんだ?」
声をかけてきたのは、金髪碧眼の端正な顔をした美青年だった。
まるで王子様のような容姿だが、それもそのはずで、王太子だった。
「妹に婚約者を取られて、公爵子息に婚約破棄されて、両親からも追い出されたって?」
王太子は、まるで見てきたように私の状況を知っている。
というか、見てたわね、ずっと。
「じゃあ、もう、君を俺のモノにしていいんだよね?」
甘く私の耳元で囁く。
「……」
私は無言だった。
口を開いたら、「どうぞ、ご勝手に」と言ってしまうから。
私はもうこの言葉しか言えない。
王太子に飲まされた薬のせいで——。
友達だった王太子に、妹や婚約者、両親の事をずっと相談したり愚痴ったりしていた。
「俺にしときな」
と、いつも冗談で言われているんだと思っていたのに。
いつものように愚痴っていただけなのに、『どうぞ、ご勝手に』としか言えなくなる薬を飲まされるなんて!
強くなれる薬だって言ってたのに!
なれて、家族と縁切れたけど!
副作用が!!
「ずっと好きだったんだ、王に頼んで婚約破棄させるから、俺との結婚話を進めていい?」
「俺も年頃だから、結婚しろってうるさく言われて、逃げられないんだ。でも、エミリーじゃないと嫌だから、エミリーも俺でいいよな?」
「エミリーいい匂いがする。このまま、既成事実を作って、逃げられなくしていい?」
薬を飲まされた後で、『どうぞ、ご勝手に』と絶対に言ってはいけない、王太子の元から逃れた。
家に帰って、『どうぞ、ご勝手に』にしか言えないせいで、婚約者を妹に奪われて、家を追い出されたのはむしろ良かった。
考えていたけど、実行に移すのをためらっていた事だから、否応なしに実行できて良かった。
ただ、『どうぞ、ご勝手に』しか言えないから、切符も買えず宿にも泊まれないのが想定外!
結局、王太子のところに泊まるしかなくなった。
「エミリー、抱いていい?」
「……」
無言を貫けば王太子は何もして来ないし、安全ではある。
「……そうだよね。君にとっては俺はただの友達だから、急にこんなことされたら、迷惑だし、怖いよね。ごめん……」
王太子が落ち込んで、反省している。
ずっと友達で嫌いじゃなかったから、なんだか可哀想になる。
いえ、むしろ、大好きだったけど、王太子と結婚して王妃になるなんて、私には無理だと思ったから、友達でいたかった。
妹や婚約者の事なんて、相談したり愚痴ったりする程、悩んでなかったし……。
王太子に会いたいから、言ってただけで……って、私ってウザッ!
こんなに重く好きなんだもの、王太子が勘違いしても仕方ないわ。
王妃になるのが嫌だから、逃げ回るのも、『どうぞ、ご勝手に』しか話せないんじゃ、逃げられる範囲もたかがしれてるし。
「本当に君のことが好きだから、今抱いて、俺のモノにしたいんだ。ダメ?」
王太子に真剣に、でも、甘えるように言われて、意地を張り続けるのも無理かと思った。
「どうぞ、ご勝手に」
「って、もう薬切れてるか」
私と王太子が同時に言った。
「え? 薬が切れることあるの……?」
私が疑問を口にする間に、王太子の顔がみるみる明るくなっていく。
そして、満面の笑みで私に飛びつく……。
「エミリー! 自分の意思で、俺に抱かれたいって……!!」
「ちがっ! タイミングが……!!」
けれど、王太子は止まってくれない。
「王に紹介して、君との結婚のお触れを出すよ!」
王太子が満面の笑みで言う。
「どうぞ、ご勝手に」
私はもうこの言葉しか言えない。
いや、違う。
「王太子が私の事、大好きなの知ってるから、私の嫌がる事をしないって信用してます。だから、王太子なら、私の事を勝手にしてもいいんです」
王太子は真っ赤になって喜んで、私に、本当に勝手な事をしてくる。
王太子の息が首筋にかかってくすぐったい。
触られて、こんなに熱くなる場所が私の身体にあったんだ。
「もっと、していい?」
「どうぞ、ご勝手に」
王太子に委ねて、私は最高に幸せになる。
◆◇◆
私が王太子の婚約者になって次期王妃候補になったら、妹や婚約者、両親が会いに来る。
存在を忘れていたのに——。
「お姉様、私なら、王太子様がお姉様にプレゼントを買う時には、一緒に行って選んで差し上げられますわ」
「公爵を継いだら、君と王太子の為に国に尽くすから、俺を宰相候補に推薦してくれ!」
「王太子の婚約者になったなら、婚約破棄された事はなかった事にするから、帰ってきなさい」
話しを聞くのも面倒で、「どうぞ、ご勝手に」と言いそうになる。
「エミリー、彼らの事は、俺に任せてくれないか? 彼らが勝手な事をしてくれたから、エミリーが俺の元に来てくれたけど、君を傷つけ続けた事は許せないから」
王太子が、妹たちに鋭い視線を送っている。
あ、王太子の気を引きたくて愚痴ってたこと、恥ずかしくて黙ったままだった……!
——まあ、いいか。
「どうぞ、ご勝手に」
王太子がニヤっと笑う。
王太子は四人の身分を剥奪して平民に落とした。
「いやあぁぁ! 寝室が一つしか無い!!」
「執事がいない! 何も出来ない君たちしか使用人がいないのか!?」
「もう引退する年なの働けない!」
「「「エミリー、勝手に捨てるな!!」」」
四人仲良く一つの家で暮らしているらしい。
重すぎず、軽すぎない、私の望んだ処分。
王太子に任せたら、私を満足させてくれる。
「どうぞ、ご勝手に」
これは、私が王太子を愛して信じているって証明する言葉になった——。




