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第9章 三条貴子は頼りたい(4)

「潤を呼び出したのに、なんで三条さんも一緒なんだよ。」

「いや、たまたま一緒だったから・・・それで貴子さんがファミレス行ってみたいって言うから・・・。」


明日香に呼び出されたファミレスに貴子さんと二人で行ったところ、明日香は玲香と二人で待っていた。玲香、この間は明日香を苦手そうにしてたけど、知らない間に仲良くなってたんだ・・・。ホントに女子ってわからん。


「まあいいや、三条さんも関係してるし、二人一緒の方が話が早い。今日来てもらったのは・・・。」

「ところで、お店の方がいらっしゃいませんが注文はどうしたらいいんですの?」

「ああ、このタッチパネルを操作して注文するんですよ。」

「あら、便利ですわね。ここを押せばいいのかしら・・・」

「ゴホンッ!ウウンッ!・・・・・・・・それで、今日来てもらったのはだな・・・。」

「ドリンクバーって何ですの?」

「ああ、好きな飲み物が何杯でも飲めるシステムなんですよ。」

「あら、画期的ですわね。じゃあ、わたくし、ドリンクバーにいたしますわ。」

「じゃあ、ここを押してください。僕の分も合わせて二人分にして・・・。」

「・・・・よし、注文終わったな。じゃあ本題なんだが・・・。」

「ところで、誰が持ってきてくださるの?わたくしはダージリンティーがいいんですの。」

「あそこに取りに行くんですよ。」

「あ~!もう全然話が進まない!」

明日香がイライラし出したので、僕が注文をまとめて飲み物をドリンクバーに取りに行くと申し出た。ついでに明日香からコーラ、玲香からジンジャエールを頼まれた。しかし、ダージリンティーとかあるのかな?ティーバックとかかな?いや、あるな茶葉のダージリンが。すごいなこの店。せっかくだし、きっと貴子さんは味にうるさいだろうから、姉さまに教わった方法で丁寧に入れよう。まずはポットを温めて・・・と。でも、時間かかって貴子さんたち大丈夫かな?この間は結構マズい雰囲気になったけど・・・。あっ、声は聞こえないけど、席の様子は見えるな。えっと、明日香が何かをしゃべって、玲香がウンウンとうなずき、貴子さんが口元に手を与えて高笑い・・・。なんだ、3人でも仲良さそうにやってるじゃん。


しかし、席に戻った時、3人は急に黙ってしまった。あれ、僕に関する噂話でもしてたのかな。

「お待たせ~。コーラと、ジンジャエールと、ダージリンティーだよ。」

とりあえず、それぞれに飲み物を配り、貴子さんの隣の席に座った瞬間、貴子さんが急にこちらに向き直ってきた。

「潤さんに謝らなければならないことがあります。実は隠していたことが二つあります。」

「は、はい。何でしょうか?」

「一つは、わたくし、前に人の心を読めるとお伝えしたのですが、実はそうではないのです・・・。いえ、心は読めるのですが、正解率が3割くらいなのです。」

「え、ええ?それはさすがに知ってましたよ。それに、僕でも相手の考えていることは3割くらいはわかりますよ。」


「ですから、わたくしは、潤さんがわたくしに想いを寄せていただいていることをまったく気づいていませんでした。ごめんなさい。」

えええっ?どうしてこうなってるの?明日香と玲香、どんな話したの?二人をチラッとみると、二人とも小刻みに首を横に振っている。

「それから、もう一つ。わたくしには真剣に交際している方がいます。今は遠くにいるのですが、わたくしの心はその方のものですので、潤さんの想いに応えることはできないのです・・・。ごめんなさい・・・。」

ええええっ?なんで突然フラれてるの。向かいの席の二人に説明を求めようと視線を向けるが、やはり小刻みに首を横に振るだけである。これは自分で何とかしないといけないか・・・。

「ええっと・・・、話が見えないんだけど、どこから話した方がいいか。まず、貴子さんに交際相手がいることは、ちゃんと把握してましたよ。だけど、それでも・・・グフッ。」

途中まで話したところで、明日香にテーブルの下ですねを蹴られた。今日も鋭利なつま先のサンダルを履いているのでとても痛い。『ちょっと、それどういうことだよ』と明日香の目が言っているので、『これから順を追って説明するから』と目で答える。明日香は、視線で『悪い、続けて』と言ってから、テーブルの下で僕のすねを足の甲で4回トントンと叩いた。きっと、『ご・め・ん・ね』のサインだろう。『こ・ろ・す・ぞ』かもしれないが・・・。


「そもそもなんですが、僕と貴子さん、大学1年生の時から知り合いでしたよね。」

「そうでしたかしら・・・?」

貴子さんは首をかしげている。本気で認知されてなかったのか?

「2年間ずっと同じクラスじゃないですか。それで語学や必修科目をずっと一緒に受講していましたし。あと、貴子さんの交際相手って、同じクラスの小田丈博くんですよね?僕も、小田くんと貴子さんと一緒にお話ししたことが何度もあるはずなんですけど・・・。」

「あら・・・ごめんなさい・・・。わたくし丈博さんのお友達は、まとめて『丈博さんのご学友』と認知していましたので・・・。それで、丈博さんがいないと、丈博さんのご学友かどうかも区別がつかなかったので、てっきり初対面かと・・・。」

なるほど、僕は「彼氏の友人A」というモブキャラ扱いだったのか。いや、なるほどじゃないし、2年以上も同じクラスなんだから名前くらい認知して欲しいし。でも、彼氏の友人役が急に恋愛レースのライバルとなるなんて解釈違いもいいところだろう。ここははっきり誤解を解いておかないと。


「それから、僕、そんな友人の恋人に心を寄せるみたいなことしませんから・・・。誰がそんなこと言い出したんですか?」

「あの、そちらのマダトモさんが、『潤の好意に付け込んで、一方的に依存して利用しているんじゃないか』っておっしゃって、イマトモさんが『そうだそうだ』とおっしゃるものでてっきり・・・。」


マダトモが明日香で、イマトモが玲香かな・・・?なんでそんなことを・・・と二人に視線を投げかけると、二人は視線を逸らした。

「明日香、どういうことなの・・・?」

「いや、玲香がさ・・・三条さんは優しくしてくれる相手がいると、その人に依存して粘着して、身を滅ぼさせる船幽霊みたいな妖怪だって言うからさ・・・。」

「い、いえ、わたしそこまでは・・・。」

妖怪の名前が出てきたってことは、発信源は玲香だな。玲香は妖怪好きだから。

「それに、最近の潤、ずっと三条さんと一緒じゃんか・・・。潤の方もそういう気持ちが少しあるのかなって・・・・。」

「あのね。さっきも言ったけど、僕は貴子さんに恋愛感情を持っているとかじゃなくて、友達として接してるの。あと、貴子さんに依存されているなんて思ってないよ。ノートを貸してあげた時も、貴子さんは自分でお店を探してお礼をしようとしてくれたし、玲香の作品も買って読んでくれて、他の人にも布教してくれたりしてくれて。むしろ僕の方が借りを作ってるくらいだよ。」

「潤さんとは、お友達として対等でいたいと思っていますの。貸し借りなんて思わなくて結構ですわ。お友達としてできることをするのは当然ですから。」


明日香と玲香は早とちりに気づいたのか、しょぼーんとしている。しかし、明日香がはっと何かに気づいたかのように顔をあげた。

「そういえば、その彼氏の小田さん、キャンパスから姿を消しちゃったんだろ?玲香が言ってた。その後釜に潤が選ばれたってことじゃないのか?」


それを聞いて、貴子さんは、ホホホッと口元に手を当てて笑った。

「丈博さんは、今、サンフランシスコの大学に留学に行っているだけですのよ。」

「うん、来年の3月には戻ってくるはずだよ。」

「丈博さんが戻って来られたら丈博さんにエスコートいただくので、心配しなくとも潤さんとの時間は戻ってきますわよ。まあ、潤さんは頼りになる友達、ヨリトモではありますけど。」

貴子さんは、チラッと明日香と玲香の方を見た。明日香はすっかり意気消沈してしまっている。


「でも、その小田さん?留守中に三条さんと潤が仲良くしているのを聞いたらいい気持ちがしないんじゃないかしら?」

それまでずっと黙っていた玲香が急に口をはさんできた。でも、それはもっともだ。

「貴子さん、小田くんに説明してある?たしかに小田くんも不安になっちゃうかも。」

「そういえば、まだ説明しておりませんでしたわ。これからお電話して説明いたしましょう。向こうはちょうど朝の時間帯ですし。」

「あっ、ファミレスの席で通話すると迷惑になるから、チャットにしてね。」

貴子さんは、スマホでチャットを開き、『ご連絡が遅れていましたが、丈博さんが留学に行っている間、ご学友の荒井潤さんがわたくしのお世話をしてくれることになりました。だからご心配なさらないで。』と打ち込んだ。

「まるで潤が新しい召使になったみたいな文章だな・・・。」

そう言っていると、すぐに小田くんから返信があった。


『ああ、荒井くんなら大丈夫だと思うよ。あまり迷惑かけないようにね。』


「やっぱり、潤さんの誠実な人柄は丈博さんにも評価されているんですのね。」

「やっぱりそうだよな。まさか潤が彼氏のいる女の人にちょっかいかけるなんてことないもんな!」

しれっとそう言う明日香に対してジト目でにらんでやる。まだ蹴られた足も痛いんだぞ!目を逸らす明日香。と、その時、小田くんから追加でメッセージがあった。


『荒井くんの話覚えてる?前に一緒にご飯を食べたとき、彼女の自慢をずっとしてきたじゃん。才能があって、見た目もかわいくて、話も面白くて、こんな素敵な彼女と付き合えるなんて幸せだって、2時間くらいずっと話してたじゃん。荒井君は彼女のこと好きすぎるんだから、貴子も荒井くんの彼女さんに誤解を与えないようにしなきゃだめだよ。』


そのメッセージを見た瞬間、玲香はゆでだこのように真っ赤になり、明日香は硬直した。

「ああ、思い出しましたわ。あの彼女のことが大好き過ぎるご学友、あの方が潤さんだったのですね。早く言ってくださればよかったのに・・・。思い出しますわ。彼女はゴールドマリーのような可憐な美しさで心を癒してくれるとか、あんな才能ある素敵な人が自分を選んでくれたなんて人生に二度とないくらいの幸運だとか・・・。」

「貴子さん、やめてください・・・。僕の心が持ちませんので・・・。」

「あら、そうですの?照れることはありませんわ。愛を素直に伝えることは素敵なことですわよ。あっ、わたくし、あのお話が好きですわ。彼女さんの横顔が大好きで、いつも横に座ることにしていたお話。サークルの皆さんで海に行かれた時に、彼女さんが海に入らなかったので、ずっと堤防で横に座って海を見るフリをしながら、ずっと横顔を見てたって。横顔がきれいで日が暮れるまでずっと見惚れてたって・・・。」

「貴子さん・・・もう勘弁してください。僕のライフはゼロになりました・・・。」

「ライフってなんですの?そうだわ?丈博さんがおっしゃるように、彼女さんにご挨拶しなければいけませんわね。近々ご紹介いただけますかしら?」

「はあ・・・この話は追い追い・・・。」

「それにしても、潤さんにそこまでおっしゃっていただけるなんてどんなに素敵な方なのかしら・・・。お会いするのが楽しみだわ。」

ちらっと向かいの席を見ると、玲香は赤面して完全に魂が抜けているようであり、明日香は『自分かんけ~ね~し』みたいな顔でスマホをいじっている。もはや二人とも完全に戦力外だ。事態を収拾できるのは自分しかいない!伝家の宝刀、話を逸らそう!


「そういえば・・・なんですけど・・・ちょっと貴子さんに聞いてみたかったのですが・・・。」

「あら、なんでしょう?」

「小田くんが留学に行く前までは、貴子さんはそういった服装とかしゃべり方ではなかったですよね?もちろん、今の姿もよいと思いますけど、急にイメージが変わったというか、なにかきっかけがあったんですか?」

「ああ!わたくし、もともとこちらが本来の姿ですの。だけど、丈博さんが、あえて一般の方と同じ姿をして、世間に溶け込むのも素敵だよ、美しさを隠すのもたしなみだよ、とおっしゃったので・・・世を忍ぶ仮の姿をしていましたの。でも、今は丈博さんがいないから羽を伸ばして本来の姿に戻しただけですわ。」

わ~。小田くん、すごいな~。つまり貴子さんをうまく普通に見えるようにコントロールしてたってことでしょ。そんなの小田くんしかできないじゃん。小田くんが帰ってきたら、ぜひそのあたりぜひご指南いただきたいな。


「ところで、潤さん。お耳を拝借。」

そういうと貴子さんはこっそりと耳打ちをしてきた。

「突然のお話に少し立腹してイジワルを言ってしまいましたけど、潤さんの今の想い人は、実はこちらにいらっしゃる方なんでしょ。だったら改めてご挨拶する必要はないですわね?」

驚いて貴子さんの方を見ると、貴子さんはニッコリと微笑んでこう言った。

「わたくし、人の心が読めますので、お見通しですわよ。」


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