表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

第8章 三条貴子は頼りたい(3)

最近、潤はあのお嬢様とずっと一緒だ。キャンパスでもずっと一緒だから声を掛けられないし、通話しようとしてもすぐに出ないことが多い。LINEの返信も遅くなった気がする・・・。


「どうしたの?玲香。ぼんやりして。もう読み終わったわよ。」

「あっ、はい。すみません。考え事しちゃって。それで、いかがでしょうか。舞佳先輩。最新作の感想は。」

「う~ん、やっと物語が動き出したって感じかしら。花蓮ちゃんが、礼嗣くんと距離を取っているうちに、幼馴染みの明日美が現れて礼嗣と距離を縮めることで、花蓮ちゃんの立場も安泰じゃなくなってきて・・・次の展開が楽しみだわね。」


今日は、文芸サークルの先輩である舞佳さんに、わたしの作品、『うっかり寝坊して留年しちゃったけど、その結果、君に会えたからそれでよしとしよう!』の最新作を読んでもらっている。舞佳さんは、編集者を目指しているようで、いつも的確なアドバイスをくれる。この点、どれだけ力を入れて描いた話でも、心理描写に苦悩した話でも、「すご~い」「おもしろ~い」と褒めることしかしない潤とは大違いだ。

「この明日美なんだけど、キャラは立ってるんだけど、ギャルにすると、花蓮ちゃんとキャラ被りするんじゃないかしら。だから、あえて花蓮ちゃんと逆のキャラにするといいわよ。」

「ありがとうございます。実在のモデルがいるので、それに引っ張られ過ぎたみたいですね。」

「ああ、でもこの礼嗣、本当に潤くんみたいだよね。ぼんやりしてて反応鈍くて、何考えてるかわかんないとことか・・・。あっ、ごめん。別れたばっかだったね。」

「いえ、いいんです。わたしから踏ん切りをつけるために別れたんで・・・。」

「そうなんだ・・・。でもえらいよね。別れても作品のために割り切って同人誌サークルは続けてるんでしょ。私なんか、別れた彼氏なんか顔も見たくないのに・・・。」

「・・・・・・。」

「なにか気になってることあるの?」

「・・・・・・。」

「ああ、いいのよ。無理に言わなくても・・・。」

どうしようか・・・?こんなこと言うのは自分でもおかしいってわかってるけど、ずっとモヤモヤを抱えて辛い。先輩に話せば楽になるのかな・・・。


「いえ、その・・・こんなこと言うのは筋違いってわかってるんですけど・・・なんというか、わたしと別れた後、潤が急に他の女の子と仲良くするようになって・・・なんかモヤるというか・・・。」

「もう恋人としては踏ん切りをつけたんでしょ?」

「まあ、そうなんですが・・・。でも、そのいちゃついてる姿見せられると、心がざわつくというか・・・。」

「ああ、わかるわよ。別れた彼氏が新しい彼女作ったりすると、ザワることあるわよね。特に別れた直後にすぐに新しい相手を見つけたりすると、自分は何だったんだって、理屈じゃなく腹がたつことは自然だと思うわよ。それにしても意外だな、あいつ。別れてすぐに新しい彼女作るなんて・・・てっきり、玲香のことを忘れられずに未練がましく無理に友達ムーブ続けてるんだと思ってたけど・・・。」

いえ、友達続けたいと言ったのはわたしなんですが・・・とは、舞佳先輩であっても言えない。でも、わたしと恋人関係を解消した後も、全然未練を見せずに、しれっとした顔で友達関係を続けながら他の女の子とも仲良くしてる潤を見ると、なんかすごく・・・すごく・・・・何とも言えないモヤモヤを感じる。


「どんな相手なの?自分に似てるタイプだとイヤだよね~。」

「なんかわたしとは真逆のギャルみたいな子で・・・幼馴染みらしいんですが・・・。いえ、どんな子と付き合ったって、わたしは別にいいんです。でも、この間、同人誌の販売会に連れて来て、そろいのコスプレで写真撮影に応じたりして、公私混同がはなはだしいというか・・・。」

「ああ、そっか~。別れた彼女の前で新しい彼女といちゃつくのはルール違反だよね・・・。」

「いえ、その人は彼女ってわけじゃないみたいなんですけど、明らかに潤のことを狙ってて・・・潤もまんざらじゃない様子みたいで・・・・。」

「へえ~!あいつ意外とモテるんだね。しかもギャルに?あんなオタクっぽいやつが何で好かれるんだろ・・・。世の中わからんね。」

ほんとにそう。見た目も地味で、おもしろいこと一つ言えない潤のいいところがわかる人なんて、わたしくらいしかいないと思ってた。しかも・・・。


「しかも、実はもう一人別の子がいるんです。同じ学部の同じクラスの子らしいんですが、最近急に仲良くなったみたいで、いつも一緒にいるんです。」

「ひょえ~。真面目だけが取り柄みたいなやつだったのに、別れたショックでタガが外れちゃったのかな。でも、それだったら別れて正解じゃん。やめといてよかったよ、そんな浮気性なやつ。」

「いえ、それも相手の子の方からグイグイと潤との距離を詰めてきてるみたいで、潤は断り切れないみたいで。」

「つまり、あいつは、玲香と別れてから急にモテだして、色んな人に言い寄られてるってこと?ちょっと信じがたい話だな。ハーレム物の主人公みたいじゃん。それで、その子はどんな子なの?」

「なんというか、キャラの強い子なんですけど・・・。『なんとかですわ~』みたいなご令嬢みたいな口調で、ご令嬢みたいなファッションをしてて・・・。」

あの子を的確に表現するのは難しい・・・。直接会ったわたしですら実在を疑うような存在だ。舞佳先輩もつくり話だって疑ってないだろうか・・・。


しかし、その点は杞憂だったようで、舞佳先輩はすぐに思い当たったようだ。

「もしかして、三条貴子?あいつと同じ学部で、ご令嬢みたいな子って・・・。あの子は学部内でも有名人よ。」

「やっぱり富豪一族のご令嬢か何かなんですか?」

「実は、彼女がどこのご令嬢なのか、はたまた本当にご令嬢なのかは誰も知らないのよ。彼女が有名なのは、あのキャラもあるけど・・・他に類を見ない地雷女だからなのよ。」

「地雷女・・・・。」

「彼女は、一人では何もできないほど生活能力が低いらしくて、それでよく他の人に頼るらしいのよ。頼るだけならいいの。でも、ひとたび彼女に優しくしたら最後、あらゆることで彼女に依存され、粘着され、いつの間にか生活のすべてを彼女に捧げなければならなくなり、社会からも孤立し、単位を落として留年するという伝説があるのよ。」

「最後、急に具体的な例が出ましたけど、つまりしつこく束縛されて、依存されるということですね。」

「そう。噂によると、入学式当日、隣に座った男の子が軽い気持ちで彼女に話しかけたらしいのよ。そしたら、その後、授業の選択からサークルまでずっと付きまとわれて、付き人みたいに始終お世話をさせられて、大学生活に必要な雑用も全部やらされて、大学生活のすべてを彼女に捧げることになってしまったらしいの。ううん、大学だけじゃない。大学以外でもずっと付きまとわれて、会えない時もツールアプリを駆使して24時間、常にどこにいて、何をしているのか彼女に監視されていたとか・・・。」

「ええ!妖怪へび女みたいですね!」

「それで、その男子は、過ちに気づいて何度も彼女と距離を取ろうとしたんだけど、彼女の手練手管に絡めとられてしまい・・・。とうとう耐えかねてキャンパスから姿を消したそうよ。」

「いや、本当に怪談じゃないですか。」

「他にも、親切にも授業のノートを貸したら、ずっと彼女のためにノートを取らなければならなくなった女子が、泣く泣くその授業を放棄したという話も聞くわね。だからそれ以来、彼女には決してノートを貸してはいけないという言い伝えがあるとか・・・。」

「船幽霊みたいな逸話ですね・・・。」

「妖怪好きなの?なるほど、あいつは面倒見がいいから、どこかでうっかりと彼女に親切にしてしまったかもしれないわね・・・。」

「どうしよう・・・。潤に教えた方がいいでしょうか。」

「でも、聞いている限りだと、大学でもずっと一緒なんでしょ・・・。あきらめなさい。彼はもう助からないわ・・・。」

「そんな・・・。」

「まあ、別れた後なんだしいいじゃない。それにもしかしたら本当にご令嬢で、あいつはそのまま逆玉に乗れて案外幸せかもよ・・・。玲香も新しい相手を見つければ、すぐに気にならなくなるわよ。よく言うでしょ。女にとって元カレのファイルは上書き保存だって。」


舞佳先輩に相談したらモヤモヤが晴れるかと思ったけど、かえてモヤモヤが増した気がする。何だろうこの気持ち。いまさら嫉妬とかじゃないけど、友達として潤が心配という気持ちとも違うような・・・。この気持ちの名前はわからないけど、ただ自分にとって嫌な感情であることはわかる・・・勇気を出して行動できるくらいの・・・。


                    ★


「松浦さん、お話があります。少しよろしいですか?」

「わっ!!びっくりした!なんで急に木の陰から飛び出してくるんだよ!」

「すみません。ちょうど隠れて待ち伏せるのによい場所がこの木くらいしかなくて。」

「別に隠れて待ち伏せる必要ないだろ・・・。でも、渡邉さんから話しかけてくるなんて珍しいじゃん。というか初めてだよね。」

「ええ・・・普段は避けていたんですが、今回はとても大切なお話があったので勇気を出しました・・・。」

「避けられてたんだ、あたし・・・。しかも勇気を出さないと話しかけられないくらい。ショック!!まあいいや。大切な話ってなに?」

「潤と三条さんのことなんですが、実は・・・・。」


渡邉さんから聞いた話はショックだった。あたしも潤を小さなころから知ってるからよくわかる。潤が頼ってきた相手を決して見捨てない優しい奴だということも、潤自身は無自覚・無防備に思わせぶりな態度を示して期待させるから、優しくしたヤツに惚れられて、依存され、つきまとわれやすいことも。これまで何度そんなやつを成敗してきたことか!!しかし、今回の組み合わせは最悪だ。あたしの目の届かないところでまた変な女に引っかかってる・・・。


「よっし、話はわかった。じゃあ、3人で話そうぜ。潤を呼び出すからさ!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ