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第7章 三条貴子は頼りたい(2)

今日は、貴子さんにチェーン店のカフェに入ったことがないので行ってみたいと言われ、一緒に入ったらさっそく明日香に見つかってしまった。まあ、大学の正門前のお店だし、予想はできたんだけど・・・。


「あの、こちらは松浦明日香さん。中学高校の同級生です。」

「おいっ、ずいぶん他人行儀な紹介だな。潤の幼馴染みの明日香です~。」

「まあっ!わたくし、幼馴染みがいらっしゃる方を初めて見ましたわ。」

「あたしも、そんなしゃべり方してる人初めて見ましたわ~。」

「明日香、失礼だよ。こちらは三条貴子さん。クラスが同じで必修の授業が一緒なんだ。」

「はじめまして。明日香さん。ご挨拶が遅れておりましたが、幼馴染みの潤さんとはいつも仲良くさせていただいております。」

「こちらこそ、うちの潤がお世話になって・・・。オホホホ!」

なんで急にナワバリで出会った猫みたいな小競り合いが始まるんだ・・・?

女子ってこんな感じだっけ?

それと・・・さっきから柱の陰から覗いている人影があるような・・・・。


「あっ!玲香も来てたんだ。こっち来てよ。貴子さん、友達の渡邉玲香さんです。文芸サークルで同期なんです。」

「あらあら!三条貴子です。よろしくお願いいたします。」

玲香は、僕に声をかけられてしぶしぶ挙動不審に歩いてきたところを、貴子が急に立ち上がって一礼されると、Uターンして奥のテーブル席に逃げ出した。貴子さんは情報量が多すぎる人だから繊細な玲香の脳では処理しきれなかったのか・・・。


「あっ、そうだ。渡邉さんがソファ席確保してくれたんだった。よければ合流してあっちでゆっくりしゃべろうぜ。」

明日香からの誘いに異議はなく、僕と貴子さんも席を移ることになった。なぜか玲香が一瞬明日香を睨みつけたような気がしたが、見なかったことにしよう。四人掛けの席に僕と貴子さん、玲香と明日香が、それぞれ隣り合って座ることになった。


玲香は緊張してるみたいだし、明日香はちょっとピリついてるな。話しやすいようにまずはアイスブレイクだな。

「こう座ると面接みたいで緊張しますね。」

「あら、そうですわね。ところで、どちらが潤さんとお付き合いされている方ですの?」

えっ?面接官こっちって設定なの?てっきり面接受ける側なんだと思ってた。しかも貴子さん、現実の面接では、その質問はコンプラの観点からアウトですよ!

「いや・・・あたしは・・・付き合っているというか、まだ・・・友達で。」

明日香、いつもと違い歯切れが悪いな。印象悪いぞ。減点。意外に面接苦手なタイプなのだろうか。

「なるほど、まだ友達。マダトモさんですね。じゃあ、そちらの方かしら?」


「えっ!いや・・・わたしは・・・今は・・・友達で・・・。」

玲香も面接苦手なタイプか。これは予想通りだな。就活する前にみっちり練習しないとな。

「なるほど、今は友達。イマトモさんですね。おかしいですわね。お二方のどちらかが潤さんの想い人のような雰囲気を感じたのですが・・・。まあいいですわ。わたくしは潤さんを頼りにしているお友達、ヨリトモということでお友達同士仲良くしましょうね。」


「貴子さんだっけ?今日は、潤とここで何してたんだ?」

出た!明日香の逆質問。しかし面接の序盤で出すには早すぎるのでは?

「そうそう、潤さんからお薦めのマンガを紹介してもらってましたの。同人誌・・・?らしいんですけど、『うっかり寝坊して留年しちゃったけど、その結果、君に会えたからそれでよしとしよう!』というタイトルの。」


玲香があっと驚いた後、キッと睨みつけてきたので、下を向くしかなかった。玲香は繊細だから、自作が知り合いに読まれるのを嫌がるのだ。いや、貴子さんはさっきまで知らない人だったからノーカンにしてもらえないかな・・・。

「第1話から順に読ませていただいたんですけど、普通の学校とはこういう場所なんだと大変勉強になりましたわ。」

「だってよ、渡邉先生!よかったな。異世界人に日本の学校という文化を伝える教材として使用されてるぞ。」

明日香が面白がってニヤニヤしながら玲香を肘でつついている。いつの間に仲良くなったんだろう。


「いや、面白いからぜひ貴子さんにも布教したいと思って・・・でも、貴子さんもすっかりファンになってくれたみたいで、最新話まで一気に読んでくれたんだ。」

「ええ・・・途中までは登場人物のお二方が会話するだけで、いったい何の話を見せられているんだろうと退屈してしまいましたけど、最新話でやっと礼嗣さんと一緒にいると勉強ができないことに気づいた花蓮さんが、二度目の留年の危機を回避するために自ら距離を置くという流れになって・・・関係の進展が見えて安心しましたわ。」

「なんだよ~。まだ最新話読んでないのにネタバレすんなよ~。」

「ネタバレってなんですの?」

貴子さんと明日香は打ち解けてきたみたいだけど、さっきから一言も発しない玲香が怖い。怖くてそっちを向けない。玲香は作品を批判されるとナーバスになるし、特に貴子さんの意見は忌憚がなさ過ぎる!なんとかして玲香の気持ちをなだめないと後が怖い・・・。


「あの・・・貴子さん、ご紹介が遅れて大変申し訳ないんですが・・・。あのマンガの作者はそこにいる渡邉玲香さんでして・・・だからその忌憚のないご意見については少しお控えいただけると・・・。」

「えっ!そうでしたの?驚きましたわ!わたくし芸術家の先生と同席しているんですのね。ぜひお話をお聞かせください。あのような素敵なキャラクターはいったいどうやって思いつかれたのですか・・・?」

「いや・・・まあ、ある日急に思いついたというか・・・。」

「まあ、才能がおありになるのね。」

あっ、一瞬、まんざらでもないという表情が出た。よしよし!貴子さん、ちゃんとわかってる!

「そうなんだよ、玲香はすごく才能があって、しかも努力家で絵の練習も欠かさないんだ。」

「まあまあ!努力する天才なんてすばらしいですわね!」

「一般のファンにも人気だよね。ねっ!明日香もこないだ手伝いに来てくれたけど、用意した本があっと言う間に売れて、増刷してネット通販でも売ってるんだ。」

「あ~そうだったな。すぐに売り切れてて、人気あるんだなって驚いたよ。」

よ~し、よし。三方向から褒めて、玲香の目に光が戻ってきたぞ!もう少しだ!もう一押しだ!

「さっき貴子さんも買ってくれたんだよ。そうだ!せっかくだし本にサインとかしてあげると喜ぶんじゃないかな!僕、ちょうどサインペンも持ってるし。ほら!」

「いいえ!結構ですわ。わたくし、本に汚れがつくのは許せませんの!」

ちょっと~!貴子さん。玲香、完全にサインする気でペンを手に取りかけてたじゃん。それで断られてまたシュンってなってるじゃんか・・・。しかも作者である玲香のサインを汚れみたいに・・・人の心は読めても、気持ちはわからないんかい!

「そ、そうなんだ。コレクター派なんだね。あっ、せっかく作者の先生がいるんだから、何か聞きたいこととかない?ほら、さっきキャラクターについて聞いてたじゃない・・・。」

「そうですわね・・・。あっ、今気づいたんですが、もしかして礼嗣さんのモデルは潤さんですか?礼嗣さんと、お友達の関係をお話のモチーフにされたのですか?」

「あの話は高校の頃に思いついた話で・・・。まあ潤のちょうどよいモブ的な雰囲気はキャラ造形に取り込んでますけど。」

「あ~、そうかも。あたしもずっと潤みたいだって思ってた。こないだコスプレしたときも、メガネと髪形だけでそっくりになったもんな。」

「たしかに顔立ちもどことなく潤さんに似てますわね。実在の人間をキャラクター化できるなんて、すごいですわね。」

ほっ・・・玲香もまんざらじゃない表情になっているし、なんとかうまく着地しそうだ・・・。汎用性のあるモブ顔に生まれてよかった。


「あっ!わたくし気づきましたわ。そうすると、花蓮さんのモデルは、この明日香さんですね!さっきから潤さんと話している時の雰囲気がそっくりだと思いましたの。身近にいるお二方をモデルにされたのですね。それで、最終的には花蓮さんと礼嗣さんはどうなりますの?今は距離を置いているけど、やっぱり最後には結ばれる関係にあるのかしら?」

「え~。そうなんだ。エヘヘ~。やっぱり結ばれるのかな~。あたしもそう思うんだよ。」


スンッ。ああ・・・玲香がまた心を閉ざしてしまった・・・。花蓮は玲香にとって思い入れの強いキャラだし、明日香がコスプレしてたのにも怒ってたくらいだから、これはダメだ・・・。


そんな僕の気持ちに気づかず独自の解釈を語り続ける貴子さんを見ながら、今後はこの三人を一緒にするのは絶対にやめよう、混ぜるな危険!と固く自分を戒めた。


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