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第5章 松浦明日香はまだ友達でいたい(3)

姉さまに本当の妹になれるよう誓ったあの夜から、ガンガン押していくと決めて、やっとつかんだチャンス。初の夢の国ランドでのデート、絶対にいい雰囲気にして、あわよくば今日決着をつけてやる!あっ潤が来た!


「ごめ~ん。遅くなっちゃった。」

「おせ~よ!じゃあ行くぞ。」

本当は、会えて嬉しくて抱きつきたいくらいだけど、いざ目の前にするといつも厳しい言葉遣いになっちゃう。こんな自分の態度を直したいけど、いつもうまく行かない。いつか素直な気持ちを伝えられる関係になるといいな・・・。                  

                 


夢の国ランド楽しい・・・。朝早くから行ったのに入場を待つ列はもうだいぶ後ろの方だったけど、潤と一緒だと長い行列も全然苦にならない。ジェットコースターを待っている間、ひそかに怖がっている姿も、お城でガイドさんの盛り上げにうまく反応できなくて悪いからって恐縮して気配を消そうとしている姿も、時々あたしが疲れてないか心配してくれることも全部大好き。


でも、あっという間に暗くなって、もう花火の時間・・・。ああもう楽しい時間も終わりか・・・。


「なあ、覚えてるか?中学の修学旅行で来るはずだっただろ、夢の国ランド。」

「ああ・・・。先輩たちの蛮行のせいでドイツ村に変更になったよね・・・。」

「あのとき来たかったな・・・。」

思わずポロリと出そうになった『一緒に』という言葉をすんでのところで飲み込んだ。


「明日香、ありがとうね。」

「おっ、おう。殊勝じゃないか。まあ、あたしの売り子のおかげで作品は完売したわけだしな・・・。お礼としては妥当なところだろう。」

「その件もそうなんだけどさ・・・。ほら僕がフラれてから色々と連れ出そうとしてくれてるじゃん。あれ、元気づけようとして、あえて誘ってくれてたんでしょ。鈍くて気づかなかったけど、昨日姉さまに言われてさ。」


「ああ・・・うん、そうそう。そろそろ元気出せよ!」

姉さま、ナイスアシスト!これはチャンスタイム到来か!よし、ここは一気にたたみかけよう!二人の関係を意識させることができれば、鈍い潤もこの空気に気づくだろ。


「そういえばさ、あたしと潤って幼馴染みじゃん。」

「まあ、幼馴染みの定義が子どものころから親しくてその関係がずっと続いてるってことだったらそうだと思うよ。」

「定義とかめんどくさいこと言うなよ。それでさ、幼馴染みって、何で幼馴染みになると思う?」

「それは、子どもの頃から知り合いだからじゃないの?偶然近所に住んでたとか、小学校が同じだったとか・・・。」

「でも、そんなの相手たくさんいるじゃん。小学校の頃は40人近いクラスメートがいたわけだし。それでもみんな幼馴染みになるわけじゃないだろ。」

「そうだよね。あの頃の同級生で今も親しくしてるのは明日香だけだし。」

「うぐっ・・・。まあそれはいいとしてさ、幼馴染みって二種類あると思うんだ。もちろん本当に縁があって関係が続いてる幼馴染みもいるだろうけど、一方でずっと関係を維持しようと頑張った結果、関係がずっと続いて幼馴染みになる場合。ほら、人間関係を維持しようと努力しないと、環境が変わればすぐに疎遠になっちゃうじゃん。ほとんどの同級生がそうなったみたいに。だから、たまたま幼馴染みなんじゃなくて、頑張って関係を維持しようとしてきた積み重ねが幼馴染みという結果になってるんじゃないかなって・・・。」

「ああ・・・そっか、そうかも。確かに明日香がいつも僕に声をかけてきてくれてたから、今も僕は明日香と仲良くできるってことだよね。うん。ありがとう。明日香には感謝してるよ。」


無表情で何てこと言うんだよ!でも、予想通りの展開!これはいける!いける!


「そういえば小学生の頃、森林公園で今みたいに並んで座って、一緒に星を見たことがあったじゃん。覚えてるか?」

「覚えてるよ。夜遅くなって、二人で親にがっちり怒られたよね。」

「あのとき、暗くて心細かったんだけどさ、潤がずっと一緒にいてくれて嬉しかったんだよ。あの時どうして一緒にいてくれたんだ・・・?」

「えっ、ああ・・・あれはたしか・・・そろそろ夕ご飯だから帰ろうとしたら、明日香が僕の服の裾を掴んで離さないから、帰るに帰れなかったような覚えが・・・。」


ドゲシッ! 


潤のアホ!アホ過ぎて思わずチョップ入れちゃったじゃないか!今日は封印してたのに。


「なんてこと言うんだよ。せっかくいい流れだったのに!あたしの思い出を返せ!!」

「ご、ごめん・・・。いやそういうつもりじゃなくて。いや、明日香と一緒にいたくなかったわけじゃなくて、自分の意思で一緒にいたのは事実なんだよ・・・。ごめん。余計なこと言って・・・。」

「そうだよ。あたしの思い出を奪った責任はとってもらわないと・・・。」

「そうだね・・・ごめん。僕にできることがあれば・・・。」


あれ?もしかしてこれ、じゃあこれから新しい思い出を作るのに協力してくれって言って、潤はおそらく断れないから、そのまま既成事実を作っていけば、なし崩し的に付き合えるんじゃね?チャンスタイム到来!チャンスタイム到来!よし・・・・!


「・・・・・・・・・。」

「明日香、ごめん。」

「・・・・・・・・。」

「急にどうしたの?」

「・・・・・・・・。」

「うん、怒るのも当然だよね・・。」


心配して潤が顔を覗き込んでくるけど、言葉が出ない。いいじゃないか、多少の罪悪感に付け込んだって・・・。付き合った後に好きになってもらえばいいんだし・・・。だって10年も振り向かせるために頑張ってきたんだよ。『じゃあ、責任もってあたしと思い出を作り直すのに付き合ってよ。』この一言だけ言えれば、10年来の片思いが実るんだぞ。何をためらっているんだ、明日香!でも・・・でも、それじゃ同人誌を一緒に作ることを盾に打算で付き合ってた元カノとの関係と変わらないじゃないか・・・。姉さまに普通に人を愛する幸せを教えてあげて欲しいって、頭を下げて頼まれたじゃないか・・・。


「グゥッ・・・グ・・・気にすんなよ・・・。あんなの子どものころの話だろ!」

「あ・・・うん。明日香がそう言ってくれるなら・・・。明日香は昔からの友達だし、大事にしたいんだ・・・。だから、許してもらえてうれしいよ。」


ああ・・・千載一遇のチャンスを捨ててしまった。この後、もし潤が他の女と付き合ったりしたら、この瞬間を一生後悔するんだろうな。でも、決めた!絶対にこれを後悔しない思い出にしてやる。この判断が間違ってないことを証明してやる!


その瞬間、ちょうど花火が打ち上がり始めた。その音に紛れて聞こえないように、こっそりつぶやいた。


「いいよ、まだ・・・うん、まだ友達だからな!」


この瞬間はまだ友達。今はまだ・・・。だけど必ず・・・・。次この花火を見る時はきっと・・・。

花火が次々打ちあがり、隣の潤はのんきにそれを見つめている。あたしは潤の目の中に映る花火に夢中だ。

「花火きれいだね。」

「そういえばさ・・・隣に夢の国シーがあるじゃん。そっちからも花火見えるみたいだよ。今度はそっちに行こうぜ!」

「えっ?そっちこそ好きな人と行った方がいいんじゃないの?」


ドゲシッ!!


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