散歩中に見つけた未開花の桜の木
1年前に投稿した「三日月のもとで、帽子被りの少女に出逢う。そして5年後……。」の後日談になります。
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「今日も暖かくて散歩日和だね」
「そうだな」
一緒に歩いているのは少し前に入籍した妻。妻は元々天使であったが、身分剥奪の後、地上に下ろされ、今は普通の戸籍ある女性として過ごしている。
しかし、妻は元天使であるため、食事をとる必要もなく、自然の力を使って物を自由に動かしたり物を温めたりすることも出来る。そのため、妻が家に来てから逆に光熱費や水道代が大幅に下がると生活費に貢献をしてくれているのだ。それに何よりも妻が常に傍にいてくれる――これが何よりも素敵なことで幸せなことだった。
「さっきの風少し強いけど、心地良いね」
天使の時は天使の輪っかがあるから絶対に被っていたのに、今は輪っかがなくなったため、帽子を被っていない方が多い。昔から先程の風に対して慌てていただろうが、今は風すら楽しんでいるようで嬉しかった。
「あの道、通ったことないから行っても良い?」
「たまには良いんじゃないか」
妻は、俺の手を取ってニコニコ笑顔で馴染みのない道を通っていく。そんな純真なところも、咄嗟の行動も天使の頃から変わらない、俺にとって可愛らしくて好きなところだ。妻につられて俺も自然と笑顔になりながら、妻について行った。
進んでいくと、誰もいない寂れた小さな公園が見つかった。2人の砂を踏む音が静かに響く。
「ここはまだ桜が咲いてないんだな。だからこそ尚寂しく感じるっていうか……」
「確かにここにいると寂しく感じだね。もう少し賑やかになれば良いのに……あっ!」
あまりにも大きな声で叫ぶものだから、一瞬耳を塞ぎたくなったが、すぐにその気持ちは消えて、妻の声に――歌声に聞き惚れてしまった。
♪ラララ〜ラララ〜
妻の歌声に反応して桜の花は一気に開花し、また小鳥や猫も妻の歌声を聞きにやって来たのだ。すると、先程まで寂れた公園があっという間に華やかになっていく。それは、まるで映画のワンシーンを観ているかのような美しい変化だった。
元天使である妻に、こんな能力も備わっていたなんて驚きも強いが、その歌声はこれまで聞いたものと違い、美しく心地良さを感じる。この歌声を聞けば、誰もが元天使だと信じて疑わないのではないかと思う。これが本当の天使の歌声なのかと実感した。
「賑やかな公園になったかな?」
「間違いなく、美しい公園だよ」
妻はその返答に安心したのか、無邪気に笑う。
妻はもう天使でなくても、俺にとっては永遠の天使。
あぁ、また妻の歌声を聞きたいな。




