1-2 双子の馬車 旅の始まり
村の真ん中にある広場には強い陽が降り注いで、固く乾いた土は白く埃っぽい。いつになく騒がしいのは、普段は特に何事もない小さな村に1年ぶりに巡回馬車が来たからだ。ほぼ村中の者が集まってがやがやと話し込んでいる。
中心にある馬車はつやつやした黒い車体が美しい。側面には金で風の模様が描かれ、昇降の金属製のステップは銀色に磨きこまれていた。それは長く翼のように優雅に後方に伸びて、車体の後ろで交差している。
前に繋がれた馬はつるりとした白い陶器製で、鞍の部分にも金の模様が描かれ、背のあたりには小さな翼が飾りのように突き出ている。
農耕や荷運びで見慣れた馬車とは全く違う。どこも良く手入れされて、ピカピカと輝いていた。
村の子供たちが集まって車体を撫でているのを台座に腰かけた馭者が誇らしげな顔で見下ろしている。馭者はまだ若い二人の男で、全く同じ顔をしているから双子なのだろうが、髪の色は正反対だった。片方は火の魔力を使う者特有の燃えるような赤い髪に赤い瞳、もう片方は水の魔力の特徴を持つ晴れた空のような青い髪と青い瞳だった。
イリスに押し出されて村人たちの前へ出てゆくと、いつも感じるどこか腫物を扱うような丁寧でよそよそしい空気が流れる。村長が近づいてきて何やら言いながらこれから向かう町の紹介状を渡してきた。村長の奥さんからはバスケットと袋を渡される。どちらも受け取って馬車に乗り込んだ。
手を振る村人の中、イリスが俺の名を叫びながら手を振っている。俺はあいまいに手を振り返した。
赤髪の馭者がピーッと警笛を鳴らし
「それでは出発します」と青髪の馭者が声をかける。馭者台に並んで座った二人は揃って手綱を握った。
ステップは車輪を覆っていた部分から交差した後ろまで翼を広げるように伸びて行く。同時に車止めがカタンと外れる音がした。
赤髪の馭者の右手甲に赤く輝く炎の紋章が、青髪の馭者の左手甲には青く輝く水の紋章が浮かび上がる。二人の周囲から渦巻く風が沸き起こり、車体がわずかに浮かぶ。陶器の馬の脚が蹴りあがったように見え、車輪が回り始める。わぁわぁと歓声を上げる村人の中を馬車はカラカラと音を鳴らして進み始めた。
二人の馭者が火と水の魔力を合わせて強い風を生み出し、自在に操っているのだろう。生まれた風は車体を包み、大きな車輪は風車のように回りスピードを速めて行く。
雪道を走る橇のようにわずかに地面から浮いて走り始めた馬車は風に乗って速度を上げる。
窓の外を見慣れた村の景色が過ぎてゆく。車輪の回るカラカラという音と、車体を包みこむ風のゴウゴウという音、時々地面に当たるガタンゴツンという音。
見慣れた景色は風と共に過ぎて、すぐに大きな湖のある村は見えなくなった。




