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涙が枯れるまで

 今日はいい天気だカラッと晴れて気持ちがいい。

 美樹の両親に会うため、石田と並んで歩いている。石田は最近捕まえた犯人についてずっと喋っている。こんなに喋る奴だったっけ――あぁ。美樹の両親に会うから緊張しているのか。真琴はうんうんと聞くフリをして全く違うことを考えていた。

「こんにちは」

「真琴ちゃん、石田さんいらっしゃい。よく来てくれたわね」美樹の母は真琴に向かって両手を広げた。ハグは恒例となったらしい。お互いを慰め合うように……抱き合った。

「今日もお食事食べて行ってね」居間に入ると、これまたたくさんの食事が並んでいる。二人は順に美樹の仏壇に手を合わせた。

「いつもありがとうございます」

「たくさん食べて行ってね。さあさあ二人とも座って」

「やあ、二人ともよく来てくれたね。ゆっくりして行って」後から美樹の父も席についた。

 美樹の母はとても楽しそうだ。私たちが警察官を続けることにしたと話したらどんな顔をするだろう……やはりあの時のように反対されるのだろうか。

 美樹からの手紙と佑のおかげで、真琴はだいぶ食欲が戻っていた。美樹の母の手料理はどれも美味しい。

 四人で美樹の話をたくさんした。

 時間の流れが緩やかだ――美樹を大切に想う四人が集まり美樹のいない寂しさを埋めるように寄り添う。私たちは無力だ。無力だからこそ、助け合うべきなのかもしれない。心地よい時間に癒されていく。

 真琴は大切な話を切り出した。今日は私たちが警察官を美樹が大好きだった仕事を続けることにしたと報告しに来たのだ。

「あの、私たち警察官続けることにしました――」美樹の両親は優しい表情で聞いてくれている。少し寂しそうだけれど……

「美樹がいなくなって、もう続けられないなって。こんなにキツくて辛い上に親友まで失う仕事なんて。って思っていました。でも、美樹からの手紙には、警察官を続けてほしいって書いてありました。いつか私が天国に行って再会したら、色々話を聞くからって――美樹が見守ってくれているなら、私大丈夫かもしれないなって思うんです。美樹のために警察官を続ける。私にはそれだけで十分なのかもしれません。精一杯やりきって、それで――いつかまた――美樹に会って私頑張ったよ‼︎って伝えたいと思ってます。そして、結局それが私の為になるんだと思います」

 

「美樹はね、小さい頃から警察官になりたいって言っていてその夢を叶えたの――」美樹の母が話し始めた。

「どうしてそう思ったのかは何度も聞いたんだけど、自分の使命だからって。変わった子でしょ。本当に正義感が強くて、よく叱られたわ――」

「私もです」

「俺もよく叱られました」真琴も石田も同意だった。そして、みんな優しい顔をしている。

「警察官になってからは、天職だって生き生きしていたわ。心配で心配でこっちはハラハラしてたっていうのにね――でも、そんな美樹を見ているのも幸せだったわ――美樹の想いを大切にしてくれてありがとう――ただ、あなたたちが美樹の人生を背負う必要は無いのよ。それだけはわかってちょうだいね」

「はい――なんだかんだ言って、やっぱり俺……この仕事好きなんです。美樹さんはもしかしたらそれもわかった上で手紙を遺してくれたのかもしれないと考えてます」石田は自分自身にも言い聞かせるようにそう話した。私もそう思う。美樹は本当に私たちのことをよく見ていてくれたのだなと。自分がいなくなって真琴と石田がどうなるのかも全てわかっていたのだ。その上で、手紙を遺してくれていたたのだろう。私たちが生き甲斐を失わないために、路頭に迷わないようにと――


「君たちの決意を支持するよ。ここへ来るまで、大変だっただろう。真琴ちゃん、石田くんありがとう。身体に気をつけて――好きなことを思う存分楽しんで。そして、そんな君たちを私たちに応援させてほしい。いいかな?」

「もちろんです‼︎」

「いつでも遊びに来てちょうだい。待ってるわ」

 美樹の母を抱きしめながら、また来ることを約束し、真琴と石田は高坂家を後にした――

「高坂のご両親喜んでくれてたな」石田は緊張が解けて

いつもの調子に戻ったようだ。

「ああ」真琴は夜空を見上げた。美樹もきっと喜んでいるだろう。

残された私たちはこうやって支え合い生きていくのだ――

 佑がいなくなったら……私はどうしたらいいのだろうか……最近の真琴の頭の中は、ずっとこのことを考えていた。佑は今日も一日中一緒にいて、これから家に帰って二人でたくさんお喋りする。眠くなったら、佑が歌をうたってくれる――佑の歌声を聞きながら眠りにつく――そんな日々が無くなったら……真琴は不安でたまらないのだ。佑のことは誰にも話していない。だから、美樹のように、思い出話をしたり、心に空いた穴を埋め合える人はいないのだ。

 

「おい。聞いてるのか?」石田が心配そうに真琴を覗き込んでいる。

「あっ。ごめん。聞いてなかった――えーっと……何?」

「いや……何でもない」石田はそっぽを向いてしまった。いくら石田とはいえ申し訳ないことをしてしまった。

 

僕は耳を疑った……石田が真琴に伝えようとした言葉――「この前の結婚の話。真剣に考えてみないか?」

 幸い真琴は聞いていなかったようだ。それとも、聞こえないフリをしたのか――僕にはわからない。早く家に帰って真琴と話したい。僕だけを見てほしい。気持ちだけが焦ってしまう……


「それじゃあまた」駅の改札を出て家に帰る。石田に挨拶をすると「送っていくよ」と言われた。

「必要ないよ。自分の身は自分で守れる」

「――ああ。まあ、そうだな。じゃあ、またな。気をつけて帰れよ」

「それじゃあ」随分と過保護になったなと思いながら真琴は歩きだした。


「真琴――」

 やっと家に帰ってきた。ここからは僕と真琴二人だけの時間だ。

「美樹のママの手料理おいしかったなあ」真琴はどことなく元気がない。

「明日も早いからお風呂入ってくるね」

「うん。わかった。いってらっしゃい」どうしたのだろうか……やっぱり石田の「結婚」の話を聞いていて、結婚しようかと考えているのだろうか……

 真琴が上がってきた。いつもより長いなと思っていたが、目が赤くなっている――お風呂で泣いていたのだろう。どうしたんだろう……

「真琴?こっちに来て休もうよ。疲れたでしょ?」

「――うん」

 ベッドに入り、真琴はもう目を閉じている。

 すり抜けることはもちろんわかっていて、真琴にキスをした。額にも、頬にも何度も――

「佑――どうしたの?冷んやりして眠れないよ」僕が触れると冷たく感じるらしい。

「真琴が元気ないから」

「話したら泣いちゃうよ」

「泣いていいんだよ。何でも聞かせて」

 真琴はまた目を閉じてしまった。

「――佑がいなくなった後のことを考えてた。寂しいなって。美樹もいなくなって、私ほんとに一人ぼっちになっちゃうな」

 一筋の涙が溢れた。ああ。僕は自分のことしか考えていかなった。僕が真琴と一緒にいたい、独り占めしたいではダメなんだ。僕は真琴と一緒にいられない。それでも、真琴は一人で生きていかなくてはいけないのだ。

 僕の気持ちを優先してどうする――真琴も僕を大切に想ってくれていると知って舞い上がっていたのだ。僕がいなくなっても真琴が大丈夫なようにしていかなくては。でも、どうしたら……

「大丈夫だなんて強気なこと言ったけど、大丈夫じゃないかも……ごめん――でも、なんとかするから大丈夫。残された時間、こんな気持ちのまま無駄にしたくないのに……佑と笑って過ごしたいのに……」

僕に何ができるのだろうか……

「佑、歌ってよ」真琴は僕をジッと見つめて、また目を閉じた。


 真琴の閉じた目から、どんどん涙が溢れてくる。

 真琴、ごめんね……

 

 

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