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互いに迷子

 街を出て森に入る。ここを北西に抜けて、道なりにずっと進めば鍛冶の街に着くと聞いている。歩きながら、良かったんですかとルミリスは尋ねた。


「クライドさんにも行先があったのでは」

「いいえ、私は見ての通り根無し草ですから。それに置き去りにされた聖女なんて面白いじゃないですか。作曲のヒントになるかもしれません」

「はあ、そうですか……」

 心配して忠告したり、人の災難を面白がったり、つかみどころのない人だ。


「ところでどうやって方角を見失わずに森を抜けるんです?私はもうわからなくなってしまいましたよ」

 はははっと陽気に笑う。周囲を木々に囲まれて、どちらから来たのかも分からなくなりそうだ。街の人の話では、昔はそれほど大きな森ではなかったが、ここ数年でだんだんと広がっているらしい。迷わないように木の幹に紐をつけていると言っていた。


「赤い紐を辿っていけば北西に抜けられるはずです。それにコンパスが――無いんでした」

 コンパスはルーシーが持っている。忘れていた。

「だ、大丈夫です。ほら、紐のついた気を見つけましたよ」

 少し先にも赤い紐が続いているのが見えた。点々とあるそれを頼りに進む。進むほど、木々の間が詰まって鬱蒼としてきた。あまり人の手が入っていないのかもしれない。不思議なことに、鳥の鳴き声が全く聞こえなくなった。日中なのに葉で光が遮られて薄暗い。


「なんだか不気味ですね」

「街に戻ります?」

 からかうような口調で言われ、ルミリスは首を振る。クライドはルミリスが途中で諦めると思っているようだった。

 だいぶ歩いたが、まだ森の端が見えない。一旦休憩しようかと考えていると、しおしおの切り株があった。何気なくそれを見て、違和感を覚える。確か教会で読んだ書物に旅で役立つ豆知識があった。


「思い出しました。この年輪です。とがっている方が北だと読んだことがあります」

「へぇ。それは知りませんでした。けどルミリスさん。おかしくありませんか」

 クライドが指した先には木に巻かれた紐がある。しかし年輪を信じるなら、その方向は南だ。おかしい。方向を見失っている?近くの紐の傍に寄って気づいた。

「あれ……これ、紐じゃない」

 風も無いのに浮いている紐の端をつまむと、ぱきりと折れた。



 実はこの時、勇者パーティは未だに森を抜けていなかった。同じ北西の森のエリアを彷徨っていたのだ。

「ねえいつになったら出られるわけ?」

 エメラがそう言うと、ルーシーは苛立った口調で返す。

「分からないわ。私に聞かないで」


 手に持ったコンパスは正しく北西を指しているはずだ。まっすぐ突っ切れば1時間程度で抜けられるはずだった。カタリナはまあまあとエメラを宥めて言う。

「街の人が昔より森が広がったと言っていた。想定より時間がかかっているのだろう。休み休み行けばいい」

「本当にそうか?ずっと同じところをぐるぐるしてるだけだったりして」

「私がコンパスを壊したって言いたいの?」

「そういうわけじゃ……」

 ルーシーに睨まれて、エイベルは肩をすくめた。ぴりぴりした空気の中、きゅるるとお腹の音が鳴る。カタリナだ。


「す、すまない」

 エメラはそれをちらりと振り返って見ると、エイベルに目を向けて言う。

「私もお腹すいちゃった。誰かさんが急かすせいで、朝ご飯ろくに食べられなかったし」

「誰かさんって俺かよ」

「別にぃ。そうは言ってないけど、悪気があるならこの状況なんとかしなよ」


 エイベルは顔をしかめてそっぽ向いてしまった。エメラは機嫌がいいときは男友達のように相性がいいのだが、こういう場合はとことん場の空気を悪くする人間だった。今度は矛先をルーシーに向ける。

「なんか道に迷わないようにする魔法とかないわけ?」

「知らないわよそんな魔法」

「ふーん。すごい魔導士って自分で魔法つくっちゃうらしいけど、ルーシーはできないんだ」


 ぐっとコンパスを持つ手に力が入った。怒鳴りそうになったが、わたわたしているカタリナが目に入って、ため息をつくだけに留める。

「本当に迷っているかどうか、木に傷をつけながら進めば証明できるわ」

 ルーシーは小型ナイフで近くの木にバツ印をつけた。

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