感謝のSS、レイクランド卿がパパをする日
救国の英雄レイクランド(パパ)は愛娘との関係に悩んでいた。
「ティファーヌ、パパはお仕事でそばにいられないことが多いけど、いつもティファーヌのことを愛してるよ」
愛娘ティファーヌが別の男を「パパ」と呼んで懐いてしまった。
今も他人を見るような目で自分を見て、目を逸らされた。むすっとした顔でお人形の服を脱がせている。
「パパ……ティファーヌより、おしごと、だいすき」
「ぐふっ」
寂しそうに呟く愛娘の声がパパ心を抉る。
「そんなことありませんわよ、ティファーヌちゃん」
「いえ、ありますね」
愛娘と親しいランヴェール公爵夫人は優しく、その夫であるランヴェール公爵は無責任だ。
「公爵閣下は黙っていてくださいますかな!」
カッと大声で言うと、ティファーヌは可愛い両手で耳を抑えた。
いけない、愛娘に「うるさい」と思われている!
レイクランドは大いに焦り、口をつぐんだ。それを見て面白がるような目をしているランヴェール公爵がなんとも腹立たしいが、娘の手前、無視することにする。
大切なのは、娘だ!
「ティファーヌちゃん、わたくしたちの国が大変なことになりそうだったので、パパは守ってくれましたのよ。ほら。この皇子様も、レイクランド卿が守ってくださったから背が伸びたのよ」
「私が守らせました。聖女ディリートの功績です。背が伸びたのはどう考えてもディリートのおかげです」
悪魔のようなランヴェール公爵と違い、夫人は天使のようにレイクランドを擁護してくれる。
レイクランドは耳を赤くして頷いた。
あの白髪の人形、エミュール殿下だったのか、と思いながら。
「パパのおかげで、せがのびた?」
まっすぐな愛娘の目が眩しい。
う、嘘がつけない。
レイクランドはグッと唇を結び、首を横に振った。
「ティファーヌ。それはランヴェール公爵夫人の功績だよ。殿下はもともと毒殺未遂に遭い、肉体の成長が止まっていた方なんだ。ご本人はそれでも健康に気を配り、もう少し成長して二次性徴を迎えようと努力しておられた……」
「にじ?」
アッ。愛娘にはまだ早い話だった。
レイクランドは猛烈に焦り、「子供が作れるようになりたかったんだよ!」と言ってしまった。
愛娘の純粋すぎる目が「よくわかんない」と謎でいっぱいになっている。
「せがのびたら、にじがくるの?」
「そうねティファーヌちゃん。背が伸びるのは、成長しているということ。とっても良いことなのですわ」
「殿下の頭に虹がかかるのですよ」
優しいランヴェール公爵夫人に比べて、夫である公爵は適当なことばかり言っている。あいつめ。
「ふーん。にじ、きれい!」
ティファーヌは無邪気に笑い、画用紙に虹を描き始めた。
これが見事な虹模様である。
うちの娘は天才か――レイクランドは目を潤ませた。
「でんか」
「よく似てる! ティファーヌは天才だ!」
親馬鹿心を爆発させて、レイクランドは愛娘が描いた虹の絵を大絶賛した。
「パパ、それあげる」
「くれるのか、ありがとうティファーヌ」
愛娘はパパに人形をくれた。
レイクランドは笑顔を作り、大きな手で人形を撫でた。
さきほどまで服を着ていたのに、なぜか脱がされたエミュール殿下人形である。
なぜ服を脱がせたんだティファーヌ?
パパが服を着せてあげてもいいかな、ティファーヌ?
不器用な手付きで人形殿下に服を着せながら、レイクランドは殿下の話を続けた。
「……こほん。健康に気を配っておられたのに毒を盛られ続け、ご成長どころかお命が危ぶまれていたのだ。そこへ、ランヴェール公爵夫人が颯爽と現れ、毒を見抜かれて殿下から遠ざけた。それにより殿下は健康を取り戻し……」
「…………すぅ……」
ランヴェール公爵夫人から、くいくいと袖が引かれる。
「レ、レイクランド卿」
ハッ。
促されて気付けば、いつの間にか愛娘が寝ている……。
パパのお話、難しかったかな。ごめんね。
愛娘を抱き上げると、娘の小さな指がレイクランドのクラヴァットを摘まむ。
――ああ、なんて可愛いんだろう。
若干、クラヴァットを引っ張られて首が締まるが。
「……ティファーヌ。パパは、ティファーヌが大好きだよ」
レイクランドは溢れる父性を幸せな吐息に乗せ、ティファーヌの頬にキスをした。
この子は自分の宝だ。
これから子供と離れていた期間を取り戻そう。
たくさんたくさん、大切にして、愛情を注いで、幸せにしよう。
パパは、そう思ったのだった。
SSを読んでくださり、ありがとうございます!
こちらの作品は企画が現在も進行中です。
詳細は情報解禁後になりますが、順調に進行しております。
各キャラのファンの方が皆さんにっこりできる企画なので、どうぞ楽しみにしてください…!
また、11月5日には別作品『桜の嫁入り』が一二三書房文庫から発売予定です。
(https://hifumi.co.jp/lineup/9784824205322/)
もしよければ、そちらの作品も楽しんでくださると、とても嬉しいです。
読者の皆さまが楽しんでくださるおかげで、作者は活力をいただいています。
本当にありがとうございます。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!




