1-1異世界で就職するために勢いで家出しちゃった件
朝――。けたたましく、鳴り響く目覚ましを、上からバシッと叩きつけて止めた。しばらく、ベッドの上でまどろんだあと、横に転がり、布団ごと床に落下する。
あだいっ! くぅー……でも、おかげで目が覚めた。
ゆっくり起き上がると、大きなあくびをしながら、両手を上げる。伸びをしていると、柔らかな朝の光に誘われ、そっと窓を開いた。
「あぁー、今日も、風が気持ちいいー!」
爽やかな風が、そっと頬をなでて行く。
少しの間、風を楽しむと、部屋に視線を向けた。ちっぽけな屋根裏で、年季の入ったベッドと小さな机。数個のダンボール箱が置いてあるだけの、殺風景な部屋だ。
狭いとはいえ、立派な私の城だし。破格の家賃で、置いて貰っているので、文句を言ってはいけない。
私は、子供のころから、風が大好きだった。あと、たまに『風の歌』が聞こえた。でも、他の人に話しても、さっぱり信じてくれなかった。
学校の友達には『ロマンチスト』だの『ポエミー』だの、言われてたけど。本当に、聞こえるんだってば。たまにだけどね――。
中一の時、私はある『素敵な職業』を見つけた。それはもう、美しくて輝いていて、一目でとりこになった。それがきっかけで、進路調査書に『中学を卒業したら、異世界に行って就職する』と書きこんだ。
そう、それは『異世界』の、お仕事だったんだよね。そしたら、学校に呼び出され、三者面談をして、先生も親も猛反対。
『ちゃんと進学しなさい』『夢ばかり見てないで現実を見ろ』『子供一人で行けるわけ無いでしょ』と、予想通りのテンプレ意見の嵐だった。
私が『夢を見なきゃ何も始まらない』『夢を見るのが子供の特権』なんて反論したら、こっぴどく怒られ、渋々その場は『納得したフリ』をした。
普通なら、ここでポッキリ、心が折れちゃうところだけど。私は、一ミリも諦めちゃいなかった。むしろ闘志を燃やして『絶対に異世界に行って、就職するぞー!』と、益々やる気になっていた。
で、中学の卒業式の日。ほぼ着の身着のままで、時空航行船のチケットを片手に、勢いよく家を飛び出した。家を出る前に、親と大喧嘩をしたのは、言うまでもない……。
小さいころから『猪突猛進』とか『チャレンジャー』とか言われていたけど。思い立ったら、即行動するのが、私の長所だ。ただ、そのせいで、様々なアクシデントに、遭遇するんだけどね……。そんなわけで、ただいま絶賛『勘当中』です。
でも、後悔なんて、これっぽっちも、してないんだ。生活はギリギリで、かなり大変だけど、何とかなってるし。それに、世界一、素敵な風が吹く町〈グリュンノア〉に来れたんだから。本当に、それだけで、幸せ一杯なんだよね。
青い空に、青い海。一年中、吹き続ける柔らかな風。『こんなに素敵なものが揃っていて、他に何が必要だっていうの?』とか考えていると、突然、お腹が元気な音を鳴らした。
「あははっ……まぁ、ご飯は必要だよね。そう、ご飯は超大事」
パジャマを、サッと脱ぎ捨てると、手早く仕事の制服に着替える。
如月 風歌 、十五歳。
今日も風と共に、元気に生きています。
次回――
『早くも大ピンチの私の前に天使が現れた』
何か一瞬お花畑が見えた……