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とりあえずスライム作っとけ

作者: うみつき

スライムを作ろうとしている君に一つ、質問をしよう。

「君は何故、スライムを作りたいんだ?」と。

今日は僕がとある少女にこの質問をした結果、どうなったかを話そう。



彼女は少し考えた後、「うーん」と考え始めた。そして数秒後、口を開いた。

「……何でだろ? ただ作りたかったからかなぁ……」

「そうか」

まあ、そういうものだろうな。俺だってゲームがしたいという理由だけでこの世界に来たわけだし。ただ俺は彼女と違って元の世界に戻る気はないけどね。

そんなことを考えているうちに、彼女の作業が終わったようだ。

「できた!」

彼女が嬉しそうな声を上げると同時に、目の前の地面の上には先程までなかったはずの水色をした物体があった。大きさは約30cmぐらいだろうか。ぷるぷると震えており、今にも動き出しそうだ。

「これが君の言う『スライム』かい?」

「うん! でもまだ完成じゃないよ。これを見ててね」

すると今度はそのスライムに向かって手をかざし始めた。一体何をするのかと思っていると、突然スライムの周りを囲むように光の輪のようなものが現れたのだ。

「これは……魔法なのか!?︎」

思わず驚きの声を上げてしまった。まさかこんなことができるとは……。だがこれで終わりではなかったようで、更に驚くことが起こった。なんとその光の中から無数の小さな光が飛び出してきたのだ。それらはまるで意思を持っているかのように飛び回りながらスライムを取り囲んでいった。

やがて全ての光が集まった時、そこには一匹のさらに大きなスライムが出来上がっていた。しかもよく見るとさっきまでのスライムとは違い、体の中心には赤い核のようなものがあるではないか。どうやら本当に完成したらしい。

「おおっ!!」

「ふふん♪すごいでしょう!!︎」

胸を張ってドヤ顔を決める彼女に苦笑しつつ、改めて出来上がったばかりのスライムを見た。……確かに凄い。今まで見たどのスライムよりも強い魔力を感じる。恐らく普通の人間なら触れることすらできないだろう。それにしてもあの一瞬でここまでのものを作るなんて……。やはり天才というのはいるものだな。

感心している俺の前で彼女は何かを思い出したような顔をしたと思うと、急にこちらへ駆け寄ってきた。

「ねえお兄さん、名前教えてくれる?」

「え?ああ、いいぞ。俺はレイラ・ニートだ」

「私はアメリアだよ!よろしくね、レイラ!」

…………あれ?いつの間に呼び捨てになったんだろう?……まあいいか。別に嫌ではないし。

こうして俺たち二人は出会った。

それからというもの、毎日のように二人で森へと出かけるようになった。

初めはお互いのことを色々と話し合ったりもしたが、次第に話す内容は魔法のことについてばかりになっていった。というのも、彼女はとにかく知識欲が強かったからだ。自分が知っていることは何でも知りたがった。逆に知らないことがあるとすぐに聞いてきたりした。そのため、今ではかなりの量のことをお互いに知っていたりする。例えば、彼女が一番好きな食べ物だとか。

……しかし最近は彼女と会う機会が減っていた。理由は単純明快。ここ最近、ずっと忙しかったからだ。

実はついこの間、ついに魔導具が完成したのだ。といってもかなり簡単なものだったのだが。それでも一応は成功したと言ってもいいはずだ。だから今はそれを使って新たな商品の開発をしているところなのだ。

ちなみにどんなものかというと、簡単に言えば携帯型の冷蔵庫みたいなものである。ただし中に入っているものは冷たくならないようになっているため、飲み物などを冷やすことはできないが。その代わり中に入れられるものの温度を一定に保つことができる優れ物だ。

そしてこの前ようやくそれに必要な素材が集まり、試作品第一号を作ることに成功したのである。今はそれを改良して量産するための準備をしていたのだ。そんなわけで今日は久しぶりに彼女に会う日だったのだが、約束の時間になっても彼女が来ない。いつも時間通りに来るはずなのに珍しいこともあるものだと不思議に思っていると、突然部屋のドアが開かれた。

「ごめんなさい!遅くなりました!」入ってきたのはもちろん彼女の方であった。息切れしながら謝る彼女を落ち着かせつつ、何があったのかを聞くことにした。

「それで一体何があったんだ?」

「それが……」

そう言って彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべると、ゆっくりと事情を話し始めた。

「昨日の夜からちょっと体調が悪くて……」

「大丈夫なのか!?︎熱とかはあるのか!?︎」

「ううん、そういうんじゃなくて……」

「じゃあどういうのだ!?︎」

「……気持ち悪い」

「……はい?」

思わず聞き返してしまった。

「朝起きた時からなんか気分悪くて……」

「そうか……。とりあえずベッドに戻ろう」

「ううん、それよりも何か食べたい」

「食欲あるのか?︎」

「うん。でも今は食べるより飲みたい」

「……分かった」俺は台所へ向かうとコップを取り出し水を注いだ。

「ほら、水持ってきたぞ。ゆっくり飲めよ」

だが次の瞬間、信じられないことが起こった。

「んくっ……ごくっ……げぇっ!!︎」

「えっ……!?︎ちょっ……おい!」なんと突然彼女が吐き始めてしまったのである。それも尋常じゃない量のものを。慌てて背中をさすってやったが一向に止まる気配はない。結局その後30分以上もの間嘔吐が続いた。

「けほっ……もう出ない」

「……良かった」

「心配かけてごめんね。私、本当のこと、言うよ。」

「ああ。聞かせてくれ。お前に何が起きたのかを」

「……最近、新しい魔法を習得しようとして、いつもの森にいってたの。そしたら...」

「……ダークネススライムに遭遇したと?」

「うん。最初は普通に戦おうと思ったんだけど、途中で体が変になってきて……。気がついた時にはダークネススライムに取り込まれちゃったみたいで……。何とか出ようとしても全然ダメで……。どんどん意識が無くなっていっちゃって……。最後に見た光景はレイラの姿だったの……」

「俺?」

「多分、助けに来てくれたんだよね?ありがとう、レイラ」

「いや、助けてはいないが……。それは置いといて、あのスライムについて何か知ってることは無いか?」

「……あれは、私のオリジナルなの。まだ誰も成功させたことがない。もちろん、私自身も。今までずっと研究してきたけど、やっぱり完成には至れなかった。……だからきっと、私が最後の一人になるはずだった。……でもまさか、あんなことになるなんて……」

「……そうだったのか。……他には?何かないか?何でもいいんだが……」

「……一つだけ、思い当たる節がある」

「なんだ?何でも言ってくれ」

「前に話したと思うんだけど、魔導具を作る時に使う素材集めを手伝ってもらった人がいるでしょ?」

「ああ。確か、魔導具屋の娘さんだろ?」

「そう。その人が最近、体調を崩してるみたいなの。風邪らしいんだけど、ずっと治らないらしくて……。もしかしたらそれが原因かもしれない……」

魔導具の材料に使われるある薬草の中には解毒作用のあるものもある。ただ、その薬草を大量に摂取してしまうと逆に毒を食らってしまう。そして今回の場合はそれが原因で間違いないだろう。

「……よし、決めた」

「どうするの?」

「明日、彼女に会ってくる。少し用事ができたんでな」

「分かった。私はその間何をすれば良いかな?」

「そうだな。取り敢えずはいつも通り森にはいかず、ゆっくり休んでくれ。あとは任せろ」

「うん、よろしくお願いします。それともう一つ、お願いしたいことがあるの」

「何だ?」

「もし私がまた体調を崩すことがあれば、その時は看病してほしいの。今度は迷惑をかけないから」

「分かった。約束しよう」

「ありがと。それじゃあ今日はもう寝るね。お休みなさい」

「ああ。ゆっくり休むんだぞ」

そう言って俺は部屋を出た。俺はその後自分の部屋のベットで明日の支度をし、寝た。彼女があんなことになるとは知らずに。呑気に。

朝になり俺は彼女に再度挨拶をしてから魔道具屋の娘に会いに行こうと思い彼女が寝ている部屋へと向かった。

部屋の扉をノックしたが、いくら待っても返事はなく、不思議に思った俺は中へと入った。するとそこには苦しそうにしている彼女がいた。

「おい!大丈夫か!?︎」急いで駆け寄るが反応がない。

「しっかりしろ!」肩を叩きながら大声で呼びかけるがやはり全くと言っていいほど反応がなかった。まさか昨日が彼女と会える最後の日だなんて思っていなかった。

その後は俺は魔道具屋の娘に会いに行く気なんてちっとも起きず、ずっとアメリアの隣で項垂れていた。こんなにも世界が暗く感じたのは初めてだった。

その後のことは覚えていない。ひたすらアメリアが死んでしまった元凶のスライムをさがし、ひたすらスライムを狩っていた。もうこの時には人じゃなくなっていた。



っていう結末になったんだ。最悪な結末だろ?君もこんな経験はしたくないだろう。だからここではもうスライムを作らないこと。いいね。もし作るんだったら。現実世界で作りなさい。ここはまだ不安定な仮想魔法実現機によって作られたパラレルワールドなのだから。

ところで、黒いスライムを見なかったか?

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